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乙女ゲームのラスボスですが、勇者と結婚することになりました。  作者: 一番星キラリ@9/2やられる前に発売:商業ノベル&漫画化進行中


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逸材の可能性

 シリルの天幕に入った私は、拍子抜けすることになる。

 なぜなら。

 そこにいると思ったシリルはいない。


 あ、そうか。

 大浴場は女の入浴が終わったら、男向けに解放される。

 聖女たちの入浴も終わっただろうから、今頃、多くの兵士が汗を流しているはずだ。


 なるほど。

 きっとシリルも今、大浴場で……。


 そこでしてはならない想像をしてしまう。

 服を脱いだシリルの姿を。


 シリルはセレストブルーの軍服を着ていることが多い。

 首元まできっちり肌は隠され、露出とは無縁。

 ただ、一度。

 自身の私への想いを伝えるため、シャツのボタンをはずし、鼓動を感じさせてくれたことがある。あの時、わずかな時間だが、シリルの胸元を見た。肌が綺麗だった。沢山の傷跡があるのではと思ったが、それはない。魔法使いのレウェリンとエルフのミルトンがいるのだ。怪我を負っていたとしても、それは治癒されたのだろう。


 軍服を着ていると分かりにくい。だがシリルは勇者であり、騎士。体は相当鍛えている。それが分かりにくいのは、彼が細マッチョであり、着やせするタイプだからだ。


 これは……前世で言うところの「脱いだらすごい」という逸材の可能性が高い。


 脱いだら……。


 想像してしまい、めまいがして、円卓のテーブルに手をつく。

 なんてことだろう。

 間違いなく、脱いだシリルはすごいはず。

 もしその姿を目の当たりにしたら、多分私は理性を保てない気がする……。


 いや、別にシリルと入浴を共にするなんて……ない。ないだろう?


 ダメだ。

 いろいろ余計な妄想をしてしまう。


 円卓のテーブルの椅子に腰を下ろし、シリルの脱いだらすごいを忘れるため、肉親であるキルの上半身裸を想像してみることにした。叔父なのだ、キルは。これは気分が萎えるだろう。


 飄々としているキルは、かつては最前線に出て、剣を振るっていたというが。私が知る限り、キルは戦場に出ることはなく、会議室の住人だった。かつての筋肉はもはや衰え……。


 そんなことはないな。意外とは肩はしっかりしていた。それに着ているセットアップはシュッとして体にフィットし、足も長かった。


 お腹は……中年太りしていてもおかしくないのに。

 なぜだ? 魔術で腹をへこませているのか?


 え、もしかして叔父上もまた、脱いだらすごい、なのか……!


 これは衝撃だった。

 おかげでシリルの脱いだらすごいは吹き飛んだ。

 叔父が脱いだらすごいんなんてゾッとする。

 年相応でいてください、叔父上――そう思うことで、クールダウンできた。


「失礼します」


 声にビクッと体が反応する。

 シリルの従者であるテトが、天幕の中に入って来た。

 そのトレンチには、ティーカップが二つ、そしてティーポット。


「もしやナイトティーか」

「その通りでございます。シリル様が奥様もいるので、ナイトティーを用意するようにとおっしゃられました」

「……!」


 テトが寝室にナイトティーを運ぶので、私もその後を追った。


 寝室にはベッドの他に、三人掛けのソファとローテーブルも用意されている。

 戦から戻り、ちょっと横になりたい時、このソファは丁度よさそうだった。


「では失礼します」


 テトが出て行き、私はソファに腰を下ろす。

 ティーポットを持ち上げ、その香りを確かめるが……。


 うん……。


 柑橘系……レモンの香りか。でもそこに少し癖があるような?

 草っぽい香りを感じる。


 これは……うーん。

 なんの紅茶であるか当てようと、私は思考を巡らせる。

 ナイトティーで、ブレンドして出すハーブティーとなると……。


「レモンバームと……パッションフラワーか?」

「正解だ、オデット」


 私の独り言に答えてくれたのは、シリルだった。


「シリル!」


 仕切りの布を手で持ち上げ、シリルがこちらへと歩いて来た。

 入浴の後だろうが、髪は綺麗に乾いている。

 黄金の髪は淡いランタンの光を受け、妖艶に輝いていた。


 美しいな……。


 寝間着のシャツは、熱さを逃すためか、ボタンがいくつかはずされ、普段見えない鎖骨が見えている。


 いろいろ想像した後なので、ドキッとしてしまう。


「このナイトティーは甘みはなく、サッパリと爽やかなものだ。自分が戦場で飲むようなものだからな。まさか妻と楽しめるとは思わなかった。オデットが好きそうな甘みのあるものを用意できず、申し訳ないな」


「そんな……!」


 というかさりげなくシリルに“妻”と言われ、頬が緩みそうになる。


「だが、これはこれで、なかなかいけるぞ」


 そのまま隣に腰をおろしたシリルが、ティーポットを手にとる。


「あ」


 シリルに紅茶をいれさせるわけにはいかない。

 夫婦二人の時は、妻が積極的に動くべし……と、幽閉された時、部屋にあった本に書かれていた。それがエルエニア王国の慣習なのだと思った。


 シリルの手に私の手が重なり、二人とも一瞬、動きを止めることになる。


「一杯目は自分が入れよう。二杯目はオデットが入れてくれるか?」

「! 分かった! ありがとう」


 丁寧にシリルが入れてくれたナイトティーを飲みながら、彼の咄嗟の気配りに感動していた。

 強引に「自分がいれよう」ではなく、「二杯目は君に頼む」なんて言われたら……。

 素直に「分かった!」と言いたくなる。

 シリルは、イエスを引き出す達人なのかもしれない。


「オデット、大浴場はどうだった?」


「! 感動した。建物の外にも湯船があったので……。もし戦がなければ、星空を見ながら、入浴できたと思う。そこだけが残念だった」


「なるほど。東部にルクシアという大きな都市がある。その近くに、温かい湯が沸く泉があると聞いている。その湯を引いて、水で温度を調整し、入浴できるようにしているのだとか。そこは周囲を木々に囲まれ、同じように空を見ながら入浴できるそうだ。……行ってみるか?」


 それはまさしく前世でいうなら温泉では!?

 この世界では、温泉がまだ定義されていないが、存在はしている。


「行きたい! きっとその湯につかれば、シリルの疲れも癒えると思う。何日か滞在し、ゆっくりその湯につかり、美味しい物を食べて……。シリルもリラックスでき、ぐっすり眠れると思う」


 ティーカップを口元で止め、シリルがこちらへと体を向ける。

 カチャッと音がして、シリルはティーカップをソーサーへ戻した。


「オデットは……君自身が楽しむことより、自分の疲れがとれることを、考えてくれるのだな」


 それは……。

 それこそ前世の気質の影響だ。先輩社員の雑用をしていたので、先回りして動いたり、気を使っていたから……。もはや習慣だ。利用しようとしている人に対し、それをしたらいいように扱われる。でもシリルは私を利用することなんて考えていない。結果として、気づかいができると、私のことをポジティブに評価してくれていると感じた。


 シリルに評価されることは、とても嬉しい。それに。


「……私は何もできないし、何もしていないが、シリルは皆のために戦っている。シリルは魔法で強制的に疲れ知らずになっているかもしれない。でも私はちゃんと休息をとってほしいと思っている」


「オデット……」


 吐息のような甘い囁きと共に、シリルにふわりと抱き寄せられ、持っていたティーカップを落としそうになる。


「おっと、あぶない」


 優れた瞬発力を持つシリルがカップを掴み、そのままソーサーへ戻してくれる。


「あの日の夜もそうだが、オデットといる時、理性を保つのが……とても難しい。君を愛おしいと自分が何度思っているか、想像つくだろうか?」


「そ、そんなに何度も!?」


「何百回は思っていたかもしれない……。理性が消えそうになる」


 そう言ってぎゅっと抱きしめるシリルのおかげで、私の理性は既に吹っ飛んだと思う。


「ここがどこであるか忘れ、君を求めてしまいたくなる」


 シリルのかすれ声が耳をくすぐり、かかる息の熱さに意識も飛びそうになる。


「このままベッドへ運んでもいいか?」


 もう声は出せず、ただ頷くと、シリルが軽々と私の体を持ち上げた。

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