多分
「では次でヴィレンドレーの城門の入口に着きます……多分ですが」
マーシャルソンは優秀な魔法使いだ。
レウェリンと同じぐらい。
転移魔法は、移動先の地形や状況が分かれば、問題はない。
でも分からない場合は……。
ジェノの町から一度目の転移をした時。
辿り着いたのは、川のすぐ近くだった。
私は、大丈夫だった。
マーシャルソンも、護衛騎士も。
だが。
キルは川に落ちた。
深い川ではないし、流れも速くない。
ふくらはぎが隠れるぐらいの小川だったが、マーシャルソンは青ざめ、急ぎ魔法でキルの濡れた服を乾かした。
「服より靴だ! 濡れた革靴ほど気持ち悪いものはない!」
キルは怒りはしなかったが、そう言ってマーシャルソンを慌てさせた。
そんなハプニングがあった一回目の転移の後。
ついにエルエニア王国北部最大の城塞都市ヴィレンドレーに到着となる。
ヴィレンドレーの街中に、いきなり到着することもできた。だがどこに着くか分からない。いきなり前世の警察にあたる、ヴィレンドレー警備隊に捕まるような事態は避けたかった。よって、城門前の到着を目指すことにした。
国王直筆の許可書はキルが持っている。入城したら同行している護衛騎士に託し、シアやペルたちの到着に備えてもらうことになっていた。
「城門の前は、広場だ。沢山の馬車や人がいるはずだ。そこにはヴィレンドレーへの入城を待つ人々がいるだろう。人とぶつかることはあるかもしれんが、さすがに川はないからな。大丈夫だ。問題ないだろう」
キルにそう言われ、マーシャルソンは額に浮かぶ汗を自身のハンカチで拭う。
「だ、大丈夫だと思います。では皆さん、転移します」
こうして次の瞬間。
ヴィレンドレーの城門前の広場に到着することができた。
私、マーシャルソン、護衛騎士は普通に地面に着地。
だがキルは……。
「なぜ、私だけ、馬の水飲み場に?」
「ブウ」「ヒヒーン」
「おい、やめろ、馬!」
なぜかキルが転移する先には水がある。せっかく乾いた革靴はまた濡れてしまい、マーシャルソンが「わわわわわ」と慌てていた。
ともかく、魔法でキルの靴を乾かし、準備は整ったので、門衛の所へ向かう。
キルが門衛に許可書を示すと……。
「国王直筆の許可書……。勿論、通行を許可しますし、入城いただいて構いません。ですが今、ヴィレンドレーは戦闘状態です。この辺りにはまだ被害は出ていません。ですが中枢部に着き、時計台にでも上れば、裏門の様子をご覧になることができるでしょう。火を吐くレッドドラゴンの群れが暴れ、そうなると周囲一帯火の海です」
「でも勇者シリルが軍を連れて来たのだろう?」
私が尋ねると、門衛の顔が輝く。
「勇者シリル様! ええ、そうです。シリル様が来てくれたおかげで、裏門の住宅街に取り残されていた住民の多くが、ようやく避難できました。レッドドラゴンの群れも半分ほどまで減っています。……ですがまだ完全制圧には至っていません。それにドラゴンをいくら倒しても、翌日にはまた数が増えており……まだ本格的な戦闘が始まって三日しか経っていませんから、まだ何とも言えないですが」
カイテリアはここぞとばかりに召喚を行っているようだが……。
既にシリルの手の平に転がされていた。
手の平に転がされている。
それはこういうことだ。
シリルとレダがいる。
さらにミルトンとレウェリンがいるのだ。
レッドドラゴンの群れは殲滅できる。
だがそれをせず、半分残すことで、カイテリアに「これはいけるぞ」と思わせているのだ。当然だが翌日、カイテリアは追加でレッドドラゴンの召喚を行う。
いくらカイテリアが召喚を得意としても、連続で召還を続け、今日で四日目。
魔力の限界は近いはずだ。
そこで一気にシリルは畳みかけるつもりなのだろう。
自分達が有利とカイテリアに思わせ、油断させる作戦。
こんなのセインがいたら一発で見破るだろうに。
なんだかんだでカイテリアは、最前線での戦闘経験がなかった。
そして数多の戦いを制してきた、シリル率いるパーティとその兵と対峙するのは、初めてのこと。さらにカイテリアに従うのは決して名将でもなければ、知将でもない。セインもいないのだ。
完全な負け戦になる。
門衛から注意事項を聞いたキルは「ふむ、ふむ」という感じで頷いた後、おもむろに口を開く。
「なるほど。だが大丈夫だ。戦は早々に終わるはず。あ、あと。君たちに忠告しておく。フードを被り、アイスブルーの髪、銀色の瞳の長身の青年が現れたら、どれだけ怪しくても通過させた方がいい。命が惜しいなら」
「そ、それはどういう……」
キルの言葉に門衛は驚きで目を見開いている。
「魔族一の魔力を持つ、騎士団の団長セインを知っているか? ここを目指していると、通達が来ているだろう?」
門衛はキルのこの一言ですぐに悟り、だが半信半疑で尋ねる。
「だがその者が来たら、絶対に捕えよと通達には……」
「無理だと分かるだろう? 死にたいのか?」
「ですが……」
「奴を倒せるとしたら、それは勇者シリルだけだ」
こう言われては、返す言葉がないのだろう。
肩の力を抜いた門衛は「ご教示いただき、ありがとうございます」と頭を下げる。
「避難を優先させるんだ。命を無駄にせずに」
門衛の肩に手を置くキルは、まるで彼の父親のように見える。
まだこの門衛は若い。多分、十六歳か十七歳。
キルは結婚していないから、子供はいない。
だがこうやって慈しむような顔をしていると……。
というか、魔族のくせにキルはなぜ、人間にこんな眼差しを向けることができるのだろう。
私は前世記憶が覚醒したことで、人間としての感情を持ち合わせている。よって自然と人間に歩み寄る気持ちになれると思うのだが。
「さて、マーシャルソンくん。セインがこの城門を通過したら、そうと分かるように、魔法を」
「その必要はないですよ、キル殿」
「ほお。それはどういうことだい?」
「こ、ここにはとんでもない魔法と、エルフの精霊の力でしょうか。目に見えないと思いますが、展開されているんです。精霊の力の方はよく分かりませんが、多分、魔術を感知したら、地面から何かが……。魔法の方は、感知魔法、防御魔法、反射魔法……一番効果的なのは拘束魔法でしょうか。ともかく自分の出る幕はなさそうです……」
間違いなく、各種魔法と精霊の力を展開しているのは、レウェリンとミルトンだろう。セインを迎え撃つために、ぬかりないということだ。
「なるほど。でもまあ、その感知魔法でセインの登場を知ることができるのはレウェリンだろう? マーシャルソンくんが気づいていくれないと、私たちはセインが来ても分からない。頼んだよ」
「えええ、こんな複雑な魔法が展開されているところに、僕の魔法を使うんですか!? 罰が当たりそうな気がします。それに僕の魔法を感知され、怒られそうな気が……」
「大丈夫だよ、レウェリンは好々爺だ!」とキルは笑うが、「あの方は僕達の中では伝説なんです!」とマーシャルソンは涙目だ。
「オデット様、ではわたしはここで、シア様、ペル様、そして残りの護衛騎士を待つようにいたします。許可書をお預かりしてもいいですか?」
護衛騎士の言葉に、私は頷き、キルを見る。
キルが許可書を取り出す。
「さっき、優秀なマーシャルソンくんが魔法をかけてくれた。君から三メートル以上離れると、この許可書は燃えてなくなる。これで悪用はされない」
キルから許可書を受け取ると「絶対になくしません」と護衛騎士は宣言する。
一方のキルは、私とマーシャルソンの顔を順番に見た。
「さて。では私たちは用意が整った、ということだ。ではこのままヴィレンドレーの中枢部にある時計台に向かおうではないか。マーシャルソンくん。時計台だ。水は絶対にない場所だ。頼んだぞ」























































