↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
乙女ゲームのラスボスですが、勇者と結婚することになりました。  作者: 一番星キラリ@9/2やられる前に発売:商業ノベル&漫画化進行中


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/60

無敗の彼が己に負けたなんて

 セインの遺体が王都に運び込まれる。


 そう聞いても現実感が伴わない。

 セインに関する記憶は沢山あるが、その思い出の中に、彼の敗北につながるようなものは……何一つない。誰と剣の手合わせをしても、必ず勝ってしまう。狩猟大会でも、どんな獲物も倒していた。

 負け知らず。

 無敗。無敵。最強……。

 セインの不敗神話は、魔族であれば誰もが知るもの。それはシリルが言う通り、人間でもそうなのだと思う。


 その彼がもうこの世にいない。


 毒を飲んで自害した。

 敵なしと言われたセインが、自分に負けた?


 どうしても信じられなかった。


「……大丈夫か? ミルトンに頼み、癒しの力を使ってもらおうか?」


 シリルの空を映したかのような瞳。

 それを見るだけで心が落ち着く。

 黄金を思わせるシリルの髪。

 魔族は黄金を見るとどうしたって気持ちが昂る。

 黄金の髪で興奮するのに、その瞳で鎮静化する――不思議な事態が、魔族の私の体で起きていた。


「ご指摘の通り、セインは暗黒の国アビサリーヌの騎士団のおさ。当然、知っている。会ったこともあれば、会話だってしたことがあり……。だからだろうか。あのセインが毒で自ら命を……これがどうしても信じられない。無敗のセインが己に負けたなんて……」


「つまり彼の死を、まだご自身の中で、受け入れることができていないのだな」


「そうなのだと思う。……セインのことを知っているのに、涙が出ない」


 私の言葉を聞いたシリルは、とても心配した顔になっている。

 しばし考え込み、そして私に尋ねた。


「セインにも会うか?」


「え?」


「報告によると、毒により自害した彼の体は傷一つなく、まるで眠っているかのようで。それでいて彼に触れようとすると……。彼の飲んだ毒が余程なのだろう。セインの体からは、毒が発せされているのか。触れた者は命を落とす」


 なんて恐ろしい毒なのか。飲んだ者の命を奪うだけではなく、その後も猛威を奮うとは。しかも毒の影響なのか、その体は腐敗することもなく、本当に生きている、まだ寝ているようにしか見えないというのだ。


「本来であれば、現地にて丁重に弔い、墓地に埋葬する。だが現地にいるエルフによると、その体を燃やせば、煙と共に毒が広がり、多くが命を落とすというのだ。では土葬したらいいのかというと、土が毒に汚染され、雨などを通じ、土地全体が毒に侵されるとのこと。仕方ないので王都へ運び、大神殿に安置し、そこで浄化を試みることになった」


「なるほど。そのような猛毒をセインは飲んでいたのか。だが申し訳ない。そこまでの猛毒、私も……聞いたことがない」


 私の言葉を聞いたシリルは、ふわっと髪を揺らすような微笑を浮かべた。

 秀麗だった。


「オデット王女。あなたに毒の正体を突き止めてもらうために、セインの遺体と会うことをすすめたわけではない。触れることはできないが、その姿を見れば……。いえ、見てはまだ生きている、眠っているように思えてしまうだろう。ですが声を掛け、無反応であれば……。彼の死を実感できるかもしれない。そうすることが必要なのかどうか、それはオデット王女、あなた次第だが」


 シリルの気遣いに改めて思う。

 これは私が彼の婚約者だから配慮してくれたのだろうか?

 それは……違うだろう。

 自身の意志ではなく、国の安定のために、私と結婚することを決めただろうから。よってこの提案は、彼の善性に基づくものだろう。


 そしてシリルに問われた私は、しばし考える。


 セインの姿を見て、声をかけ、反応がないことを目の当たりにしたら……実感できるのだろうか。彼の死を。それはやってみないと分からない。ただこれだけは言える。


 セインは、女魔王だった私の右腕だった。私を助け、支え、共に生きてくれた。その彼の遺体がこの王都にやってくるのに、会わないという選択肢なんてない。私が彼の死を受け入れることができようができまいが、これまでの彼の忠誠に応える必要がある。花の一輪でも手向けずにはいられない。


 よってシリルの問いへの答えは――。


「王都にセインの体が到着したら会わせて欲しい」


 そう答えたところで、昼食の時間が終了となった。

 シリルは午後も会議があるので、切り上げることになったのだ。


「また時間を見つけ、会いに伺う」


 そう丁寧にシリルは言うと、私の手をとり、実に優雅にお辞儀をすると、庭園から去っていく。


 その後ろ姿を見送った後、レオンを連れ、部屋へ戻ることを考えたが。

 セインの毒の件が気になった。

 そこまで強力な毒を、セインはどうやって練成したのか。

 もしくはなんらかの毒を、魔術で強化して飲んだのだろうか?


 気になる。


 そこで侍女に相談し、王城内にある図書館へ案内してもらうことにした。

 そこは勿論、動物は立ち入りできない。

 レオンは可哀そうだが、お留守番だ。


 こうして図書館に連れて行ってもらうと……。

 図書館のイメージは「静か」。

 だが今、目の前では大勢の人が忙しそうに動き回っている。

 職員は一律黒のスーツ姿だ。


「今日は図書館で何かあるのか?」

「いえ、図書館は通常、人の数も少なく、落ち着いているはずなのですが……」


 侍女の言葉に、職員のそばにあるカートを見て、私はハッとする。


「これは……」


 カートの中にどっさり入っている本。

 見たことがあると思ったら、それは魔術に関する本だ。

 他にも魔族、魔獣などに関連する本もある。


「なるほど。魔王城にも図書館があった。そこから魔術・魔族・魔獣などについて書かれた本を持って来たということか」


 私の指摘に侍女は、困った顔をするしかない。

 魔王の娘という立場からすると、魔王城を荒らされたわけで、由々しき事態だ。


「!」


 見ると禁書と呼ばれる類の本まで、無造作にカートの中へ入れられている。

 魔術を使えるのは魔族だけ。

 しかも基本的に魔力を持つ男性魔族しか使えない。私を除き。ただし今の私は、首につけたチョーカーにより、魔術を使えない状態だが。

 故に禁断の魔術について書かれた禁書がここにあっても、問題は――ないと思ったが。


 少し離れた場所に、見慣れたシルバーグレーの髪が見える。いつも好んで着ている黒緑色のローブからも、それが誰であるかすぐに分かった。


「叔父上!」


 私の声に、キルがゆっくりこちらを振り向く。


 シリルがキルに会えるよう手配してくれると言っていたが、思いがけず再会できた。

 キルはルビー色の瞳に私の姿を捉えると、笑顔になった。


「オデット! 元気そうで良かったよ。そして婚約、おめでとう」


 キルが笑顔になる。

 魔力を使い、若さをキープしているキル。

 その姿は、叔父というより、兄にしか見えない。


 そのキルの笑顔は、近くにいる職員の女性の顔を赤くさせている。


 そんなキルの元へ、私はゆっくり歩み寄った。


「ありがとうございます。叔父上も、ご無事で何よりだ」


 なぜ図書館に?と尋ねようとしたが、彼が手に持つ本を見て理解する。

 それは魔獣に関する禁書だ。

 禁書は閲覧に制限がかけられ、手続きも面倒だった。

 でもここにある魔王城から持ち込まれた書物は、現状手続きなど不要そうだ。なんなら魔術でちょろまかすこともできる……かと思い、チラリとキルの首元を見る。


 王都に屋敷を与えられ、爵位を得ても、魔力は抑えられているようだ。

 つまりキルの首にも、黒革製のチョーカーが見えた。


 魔術は使えないが、キルは自由を与えられている。

 普段、なかなかお目にかかることがない禁書も見放題だと、図書館へ足を運んだようだ。


「叔父上。必要な本は手に入ったか?」


「はは。バレたか。……まあ、禁書の中には、本当に危険なものがある。ここは人間の王様の直轄する場所で、悪者はそう簡単に足を踏み入ることはできない……ということは理解できているが。何が起こるか分からないからな。人間の手に負えなさそうな禁書は、私が預かることにしたのさ」


 善意のみで、悪意はなし?

 キルは、見た目はハンサムな男。

 しかも柔和な笑みを浮かべ、優しそうに見える。だが、それでも魔族だ。

 何か打算的な考えもあるかもしれないが……。

 それが何であるかは、懐に飛び込んでみないと分からないだろう。


「叔父上、少し話す時間はあるだろうか?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【一番星キラリの作品を紹介】
作品数が多いため、最新作を中心にバナーを並べています(2025年12月の大掃除で・笑)。 バナーがない作品は、作者マイページタイトルで検索でご覧くださいませ☆彡

●9/2発売●
バナークリックORタップで書報ページ
悪役令嬢はやられる前にやることにした
『悪役令嬢はやられる前にやることにした』

●本編完結●
バナークリックORタップで目次ページ
やらかしてしまったモブ令嬢です
『やらかしてしまったモブ令嬢です 』

●新連載●
バナークリックORタップで目次ページ
悪役令嬢に転生!婚約破棄で推しと家族が闇落ち!回避したいだけなのに
『悪役令嬢に転生!婚約破棄で推しと家族が闇落ち!回避したいだけなのに』

●溺愛は求めていませんよ?●
バナークリックORタップで目次ページ
平凡な侍女の私、なぜか完璧王太子のとっておき!
『平凡な侍女の私、なぜか完璧王太子のとっておき!』

●紙書籍&電子のコミカライズ化決定●
バナークリックORタップで目次ページ
悪役令嬢に転生したらお父様が過保護だった件~辺境伯のお父様は娘が心配です~
『悪役令嬢に転生したらお父様が過保護だった件~辺境伯のお父様は娘が心配です~ 』

●これぞ究極のざまぁ!?●
バナークリックORタップで目次ページ
悪役令嬢は死ぬことにした
250万PV突破『悪役令嬢は死ぬことにした』

●出版社特設サイトはコチラ●
バナークリックORタップで出版社特設ページへ
婚約破棄を言い放つ令息の母親に転生! でも安心してください。軌道修正してハピエンにいたします!
80ページが試し読みできる特設サイトへ
『婚約破棄を言い放つ令息の母親に転生! でも安心してください。軌道修正してハピエンにいたします!』


●出版社特設サイト●
バナークリックORタップで出版社特設ページへ
婚約破棄を言い放つ令息の母親に転生! でも安心してください。軌道修正してハピエンにいたします!②
『婚約破棄を言い放つ令息の母親に転生! でも安心してください。軌道修正してハピエンにいたします!② 』

●もふもふも登場!●
バナークリックORタップで目次ページ
断罪の場で自ら婚約破棄シリーズ
『断罪の場で悪役令嬢は自ら婚約破棄を宣告してみた』
日間恋愛異世界転ランキング3位!

●壮大なざまぁを仕掛けます!●
バナークリックORタップで目次ページ
婚約破棄された悪役令嬢はざまぁをきっちりすることにした
『婚約破棄された悪役令嬢はざまぁをきっちりすることにした』

●章ごとに読み切り!●
バナークリックORタップで目次ページ
ドアマット悪役令嬢~ドン底まで落ちたらハピエンでした!~
『ドアマット悪役令嬢はざまぁと断罪回避を逆境の中、成功させる~私はいませんでした~』

●宿敵の皇太子をベッドに押し倒し――●
バナークリックORタップで目次ページ
宿敵の純潔を奪いました
『宿敵の純潔を奪いました』

●コミカライズ化も決定●
バナークリックORタップで書報ページへ
断罪後の悪役令嬢は、冷徹な騎士団長様の溺愛に気づけない
ノベライズは発売中!電子書籍限定書き下ろし付き
『断罪後の悪役令嬢は、冷徹な騎士団長様の溺愛に気づけない』


●妹の代わりに嫁いだ私は……●
バナークリックORタップで目次ページ
私の白い結婚
『私の白い結婚』

●[四半期]推理(文芸)2位●
バナークリックORタップで目次ページ
悪女転生~父親殺しの毒殺犯にはなりません~
『悪女転生~父親殺しの毒殺犯にはなりません~』

●現実世界の恋愛物語●
バナークリックORタップで目次ページ
せと恋~瀬戸内の夕陽がつなぐ島の恋~
『せと恋~瀬戸内の夕陽がつなぐ島の恋~ 』

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。