第六夜 働いて、思い出して、怒られた
一悶着あったが、無事にベラの治療は済んで数日が経った。
目を覚ましたベラは暴れる事も無く、水や食事もちゃんと摂ってくれた。
俺を睨む眼光は変わらずに険しく鋭かったが…
…いや、殺し合って仲良くなるなんて考えて無いけどさ…
元気になって俺を襲いかかってくるなよ?
今は村長と思わしき女性の家の一部屋を借りて生活している。
本当にありがたい。
言葉を覚えたら毎日、女性に愛を叫ぼう。
俺はベラを看護しつつ、女性から頼まれた仕事をやってる。
言葉は分からなかったが手本を見せられて笑顔で道具を渡されたらやるしかないよな!?
うん、働かざる者、食うべからずだよな!
鎖の件があるからベラからあまり離れられない為、室内でやれる手仕事だ。
鎖の巻き込みを女性達に見せておいて良かった。
言葉が分からないから離れられない理由を説明するのは難しかっただろうし。
…巻き込みを見ただけでも女性達が何が起こったのか分からないとは思うが俺とベラを離したら何かが起こる事は理解できてるだろう。
やってる仕事はこれだ。
この見た目がバスケットボールに似た木の実、カンコロを道具を使って硬い殻をかち割り、中にある種を取り出す。
殻の割り方は床に置いてある三角錐の道具に木の実を何度か叩きつけて割る。
殻は硬い為、根気良く続ける必要があり、忍耐が求められる仕事だ。
種も大きく、拳より一回り程もあり、一つのカンコロに複数の種が入っている。
振ると殻と種がぶつかってカラカラと乾いた音が鳴る。
見た目と大きさは違うが要領は銀杏の殻割りと一緒だ。
取った種と皮は別々の木の皮のようなモノで作られたザルに入れる。
なんと木の実の皮も何かに使えるらしい。
この木の実、カンコロは村の近くに自生しているようで村の主食はこれを加工してできたドンドという代物だ。
見た目はパンに似ているが…密度が高いのか持つとどっしりと重い。
作り方は詳しく知らないが前世で団栗で作れるクッキーが有ったからそんな感じの加工品なのだろう。
味も独特の苦味こそあるが香ばしく美味しい。
蜂蜜かジャムが欲しくなるな!
…残念ながら俺はモノを食べられない体に成っていたので噛むだけ噛んで吐き出してしまったが…
飲み込んでも数分もしないうちに吐き気がして全て嘔吐してしまう事も初めて知った。
森では何が毒か分からなかったから何も口にしなかったし、川の水も吐き出したのはベラに川に頭を突っ込まれた後だったから疑問にも思わなかった。
女性達から心配されたがジェスチャーで大丈夫だと伝えた。
多分、伝わっているはずだ!
とても不審な顔をされたがな!
あの顔は俺の心に響く…
おっと、トラウマで手が止まっていた。
俺は無心になる為にカンコロの殻を割る作業を再開した。
床に置いた突起物
作業を進めているとベッドの方から大きな音がした。
「おい!?
ベラ、大丈夫か!?」
驚いてそちらを見るとベラが上半身からベッドをずり落ちていた。
顔から床に落ちて痛そうだが、ベラは顔を床に着けて俺へ手を伸ばしていた。
俺は心配になって手を伸ばしたが…とても力強く手首を握られた。
それは物凄く、強く。
…痛い。
ベラは少し顔を上げて俺をじっと睨む。
眼光と格好のせいで悪霊に捕まったように感じてしまう。
「んぁ!?」
そしてグイッとベラに引っ張られた。
元々、殻割りで床に座っていたが、ベラに手を伸ばす為に四つん這いの姿勢だった為に、容易くバランスを崩してしまった。
ベラは俺を引っ張る際に俺に覆い被さるようにして腕を首に回して締め上げてきた。
こいつ…動けるようになった途端に俺を殺しにきやがった!
ただ、病み上がりのせいか上手くキマっておらず、息は苦しくない。
しかし、力は病み上がりのベラの方が強く、振り解けない。
…俺ってそんなに弱いのかなぁ?
「〜〜…
〜〜〜!?」
こ、この声は!
「た、たずけ、て…」
カンコロの種と皮を回収しにラーニャちゃんが来てくれたか!
ラーニャちゃんは川で俺達が見かけた人影だ。
背丈は俺よりも小さく、高学年から中学生辺りの女の子だ。
そりゃ、知らない全裸の男が追いかけてきたら逃げるよな。
俺はドアの方だと思う方向へ手を伸ばして助けを求めた。
「〜〜〜〜〜〜!?
〜〜〜!」
俺の必死な声音が伝わったようでラーニャちゃんは俺からベラを引き離してくれた。
そして暴れようとするベラを容易くベッドに抑え込んだ。
…俺はこんな歳下の子よりも力が弱いのか…
「〜〜〜!
〜〜〜〜!?」
ラーニャちゃんは頭上に生えた獣耳や尻尾を動かしながら俺を怒っている。
絶対に誤解してる!
早口過ぎて言葉は分からないけど、俺がベラに悪戯したと思ってるよな!?
俺は覚えたての拙い言葉で否定した。
この村はラーニャちゃんのように人間じゃない人で構成されているようだ。
ラーニャちゃんみたいに獣耳や尻尾、鱗や翼など獣の特徴を備えた者が大半でなかには人型の獣みたいな者もいる。
屈強な男の背中にまるで赤子の天使みたいな小さな翼が生えてた所を見た時は思わず笑ってしまった。
あとは鉱石の塊みたいな者や空っぽの動く鎧とか…
俺を助けてくれた女性みたいに普通の人も居るが、とても少ない。
俺達は人間とは違う種類の人達が暮らす村に来た
【ラーニャ】
もうっ!
弱ってる女の人に手を出すなんて!