集落の危機(コウ視点)
「ここが領土の端っこみたいだね」
「ああ。思ったより広いな…」
コウたちはファイティングベアを倒して手に入れた領土を確認して回っていた。
「ねぇねぇ!そろそろ戻ろうよ!」
太陽が青空に浮かぶ一つの巨大な暗雲に包まれ、辺りが暗くなる。
…雨が降るかもしれないな。
「そうだな。帰るか」
「うんっ!」
エメの肩に手を置き、ワープしようとした瞬間、凄まじい悲鳴が耳を貫いた。
「わー!耳がガンガンするー!」
エメが両耳を抑えながらコウの周りをぐるぐる走る。
「今の…人の声じゃないか?」
「た、多分人であってると思うよ。でもなんでこんな所に?」
「分からないが兎に角行ってみるか」
悲鳴の方向に走っていくと、複数の建物が見えた。何だか慌ただしさを感じる。そして視線の先には、ゴブリンに剣を向けられた少女が映る。
なんやかんやでまともに人と会うのは初めてだな。
※襲撃者は人としてカウントしていません。
「ん?…この世界で初めて人を発見だな」
うん、初めてだ。俺は今初めてこの世界で人と遭遇したぞ!
自分に言い聞かせるコウ。
『あの子助けなくていいの?』
念話を使って問いかけてくる。
そうだった。取りあえず助けてみよう。
コウは走り出し、その勢いでゴブリンの首をはね落とす。なにも考えずに切ったため、ゴブリンの血が少女に、雨のように降り注ぐ。
「 大丈夫か?大丈夫か!?お~い生きてるぞー 」
こちらが助けた立場だと分からせたら血の濡れ鼠になったことであたってくることも無いだろう。
「よ~っし【ヒール】!」
少女の表情は先程までよりマシになった。
良いぞエメ!もっと恩を売るんだ!
「それで…なにがあったんだ?」
状況の確認は大切だ。今の状況を確実にーーーん?
『なあエメ。あの子耳が尖ってるんだけど、ひょっとしてエルフか?』
「お父さんがねっ!大変なの!ゴブリンがたくさん、三匹も、お父『そうだよ!エルフであってると思うよ!』さんちっちゃいナイフしか持ってないのに!」
タイミング計れよ…エルフってマジでいるのかぁ。ってエメのせいで殆ど話聴けてなかった!確かお父さんが大変らしい。
「つまり君のお父さんが危ないってことか…道案内宜しく」
おいしょっと。エルフって思ったより軽いんだな。
「どっちに曲がればいい?」
「えっと左です!」
しばらく道を走り続ける。エメが見えないのは気のせいだ多分。
ゴブリンの死骸が3つ転がっている。なんか少女が嬉し泣き?している。ゴブリン3匹程度で命の危機ってどんだけ弱いんだよ………って思ったけどこないだ1匹のゴブリンにやられそうになったのを思い出した。
「ゼェ…ゼェ……やっと……追い…ついた…」
そういえば完全に忘れてたな…でも俺の心臓組み込まれてるから、それなりに身体能力は高い筈なんだがなぁ。む、あっちの方にたくさんの気配を感じるぞ。
「取りあえずあっちに行ってみるか」
「ちょっ…と……非道い…」
別にエメが面白いからじゃ無いぞ?
急に開けた所に出た。大分当てずっぽうだったんだが結果オーライだな。思ったより人が多いな。向かい側にわんさかいるゴブリン達と睨み合っている。
「あれ…やってみようかなぁ」
『エメーあれ使ってもいいか?』
『一回使ったら無くなっちゃうけどそれでもいいなら』
普通に返しているように聞こえるがそれは念話だからであって、実際のエメは地面に倒れ込んでゼェゼェいってる。
「あーっと…皆さん下がって下さい!」
アイテムボックスから真っ赤な拳大の石を取り出す。
これは魔石というらしい。長く生きた魔物からとれる魔力の塊?みたいなものだ。その色と同じ属性の魔術を強化してくれるらしい。エメから聞いた。
どのくらい強化してくれるかというと、大体一段階。初級魔術を中級レベルにまで底上げしてくれる便利な道具だ。でもあまり手に入らないそうだ。
ファイアアローを使うか…いや待て、ファイティングベアを倒したときに初級魔術火のレベルが上がった筈だ。そしてそれの一ランク上となるとーーーまずっゴブリンが突撃してきてるっ!
ファイアランスいやーーー
「【インフェルノランス】!」
コウの背丈を優に超える大きさの炎の槍が"何槍も"現れて、視界の全てを焼き尽くす。
《レベルが上昇しました》
なにこれ…火、出すぎだろ…
煙が晴れて、コウが恐る恐る確認すると、広場半分から向こうに、人工物は一切みられない。
地面にチロチロと燃える火を、突然降り始めた雨が消火する。
ナイス…雨。
コウの手から、輝きの失われた石が滑り落ちるのだった。




