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想定外はいつでも起こる

 武闘会の結果は、結局レティの優勝で終わった。それでもウォルトとの試合は前回のように一瞬で決着がついたわけではなく、かなりの善戦の末にレティが勝ったのだ。武闘会中で一番の勝負だったとミリアは思うが、勝ちは勝ち、負けは負けだ。


 ウォルトが勝てばすべて丸く収まったというのに、なんでこう肝心なところで必要な結果をもぎ取れないのだろうか。レティは手を抜かずに向き合ったというのに。


「ま、こればっかりは仕方ないよね」


 レティとウォルトの試合直後、アレンが放った第一声だ。その言葉からしてアレンもウォルトが勝つことを期待していたことが分かる。ミリアがメアリーをこの後訪ねる予定だということを除いても、ウォルトがレティに勝っていればウォルトの方が強いということになって、一年以上捩じれてしまっていた関係の原因が取り除かれたのだから当然だ。


「レティが手を抜くわけにもいかないしね。ウォルトがレティの強さを認められるなら勝敗なんてどっちでもいいのに」


 ウォルトがレティの強さを認められないから、自分方が強いと示さずにいられないのだ。ここで勝てていれば自分の方が強いと納得できてそれも収まるかと思ったのだが、現実はなかなかうまくいかない。


「無理じゃないかな。ウォルトは恐怖に駆られて強くならざるを得なかった状態で得た強さを、そんなものは努力じゃないって思っているみたいだから」

「努力じゃない、か……」


 殺されるかもしれないという恐怖から少しでも逃れるために強くならざるをえなかったということは、確かに努力ではないかもしれない。誰だって後ろから凶器を持って襲ってこられたら全力で逃げるだろう。レティは、ずっとそんな状態だったのだ。


「あれでもウォルト、レティのこと心配してるんだよ。こんな動機で強くならざるを得なかったなんてどんなに辛かったんだって」

「レティは、誰かのためであんなに強くなれるなんてすごいって言ってた」


 互いに相手のことを理解してはいるのだ。ウォルトが意地を張る必要がなくなれば、レティだって態度を和らげる。それで、意地の張り合いはおしまいになったというのに。


「そういえば、アレンはウォルトを慰めに行かなくていいの?」

「今回はウォルトだって覚悟があったと思うから、行かない。むしろ今は放っておいた方がいいんじゃないかな。きっと、勝てなかった自分に自己嫌悪してると思うから」


 前回はレティとの試合の後すぐにウォルトを慰めに行っていたのでミリアは聞いてみたが、アレンの返事を聞いてそれもそうかと思う。年下の女の子に訳も分からず負けた前回と違って、今回は負けることも覚悟していた強敵相手に負けたのだ。ただ、どちらの方が自己嫌悪に繋がるかと言えば、今回の方ではないかとミリアは思う。


「見られたくもないと思うし。しばらくはそっとしておこう」

「あー、それなんだけど」

「ん、何?」


 しばらくそっとしておくつもりのアレンは、間違いなく知らないだろうこれからの予定を思う。ウォルトが家にいたらメアリーがレティを連れてきたなど、絶対にそっとしておくの範囲に入らない。そういうわけで、ミリアはアレンにレティのこれからの予定を伝えることにした。


「この後、レティがメアリーに誘われててプロトガルド家に遊びに行きます」

「……え」


 それを聞いたアレンは、しばらく固まったのち聞き返してきた。たぶん、聞き間違いだと思ったのだろう。残念なことに間違いではないのだが。


「三日前、図書室でメアリーと話した時にメアリーがレティを誘ったの。今日試合が終わったら家に遊びに来ませんかって」

「よくレティが頷いたね」

「私が行ったらって言ったの。メアリー相手じゃ一緒に居ようと離れていようと危険性は一緒でしょって」

「あー、なるほど」


 事情を説明してアレンにこれが事実だと認識させる。ミリアだってウォルトが負けると思っていて促したわけではない。むしろ、ウォルトが勝つだろうと思っていたからレティに遊びにいったらと言ったのだ。そもそもウォルトとレティでは勝利へのモチベーションが違った。負けていいと思っているレティに勝ちたいと思っているウォルトが負ける可能性を、ミリアは認識こそしていたがそうなるとは思っていなかったのだ。


「そうだね。ちょうどいいか。……僕もウォルトの家にこの後行くことにするよ」

「うん、お願いする」


 ややこしいことになるかもしれないが、アレンがいれば大丈夫だろう。ミリアは一安心するが、アレンの次の言葉でそれは吹き飛んで行ってしまった。


「え、ミリアも来るんだよ?」


 アレンが言ったことを理解するのに、ミリアはしばらく時間を必要とした。行くのはウォルトの家である。従兄のアレンはともかく、なんの関係もないミリアが誘われたわけでもないのに家に行くのだ。


「……はい?」


 ミリアは聞き返したがアレンの意志はまったく変わる様子が見えない。何を考えているんだと思いつつ、ミリアはアレンの言うとおりにウォルトの家に行くことを了承した。

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