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関係性の謎かけ

 怒涛のように忙しかった日々が過ぎ去って空き時間ができると、逆に暇な時間を持て余してしまう。それを見透かしているかのようにアレンはもう入学パーティーの準備終わったし暇だよねと昼の休憩時間に屋上に来て欲しいとミリアに連絡してきていた。だが、ミリアはそれを今日は他にやることがあるからと言って断っている。


 メアリーが誤解をしていないか確かめ、していた場合その誤解を解いておくためだ。こういうことは早め早めに行動しておくことが大切だ。下手に勘違いされたまま放置して、後から拗れてしまうと非常に面倒なことになる。


 そういうわけでミリアは今メアリーと大広間のバルコニーにいる。秋の始まりの風が吹く中、二人は向き合って立っていた。


「それで、なんのご用でしょうか?」

「私は、アレンとは恋仲じゃないよって、しっかり説明しておこうと思って」

「そう、ですか……」


 呼び出された理由を尋ねたメアリーにミリアが端的に答えると、メアリーはなぜか沈んだ顔になった。ミリアはてっきり安心するか喜ぶかするものだと思っていたので、その反応を意外に思う。


「だから、不安にならなくてもいいって伝えようと思ってたんだけれど」


 メアリーの予想外の反応のせいで、ミリアの口調も困惑したものになる。好きな人と仲のいい異性が恋愛関係ではないと知ったら、安堵を一番感じるものではないだろうか。


「あなたは既にアレンの中で、兄様よりもずっと大きな位置を占めています」

「うん?」


 それはミリアもなんとなくは感じていた。とにかくあれだけ延々構われていれば、自分がアレンにとって一番の興味の対象だということは理解できる。が、それでどうしてそんなに重たい表情をしているのかが分からない。恋人ではないと、明言しているのに。


「そういう人が異性だった場合、アレンがどう行動するかなんて決まっているのです。……まだ、恋仲であった方が、勝ち目があったと思います」


 メアリーはそう言って寂しそうに静かにほほ笑んだ。その表情は諦めきったように見える。それにしても、恋人だった方が勝ち目があるとはいったいどういうことだろうか。


「自分がアレンの一番になれない以上、こうなる可能性には常に怯えていました。兄様が一番のままだったらとは思いますが……、それはそれで、アレンにとって必要な人がいないということですから」


 続けてそう言うと、メアリーはミリアの右手を両手で掬い取る。そして、その手を自分の胸に当てると、希うかのように言葉を口にした。


「どうか、アレンをよろしくお願いします。私や兄様では、アレンがどんなに無茶をやっても、止めることはできませんから」


 目を閉じて静かに発せられた言葉を、ミリアはどう受け止めたらいいのか分からなかった。確かに、そういう約束はしている。いずれ実権を握るようになったら、ミリアはアレンの隣にいることにはなるだろう。だが、だからといってメアリーが恋心を諦める必要はまったくないのだ。


「ちょっと待って、私は別にアレンの恋人になるつもりは」

「そうでしょうか?」


 ミリアが手をメアリーから話して言いかけた言葉は、途中で遮られた。無いと明言しようとしてなぜか詰まった一瞬に、割り込まれてしまったのだ。


「きっと、私にごめんなさいと言いたくなる時が来ると思います。でも、その言葉はいらないです。私に一言言いに来る時間があるのなら、その分をアレンの側にいてください」


 静かな、でも力強い言葉だった。その言葉でミリアはメアリーがなぜこうも簡単に諦めているのかを理解する。それは、本当にアレンのことが好きだからだ。好きだからこそ、何がアレンのためになるのかを考えていて、そこに自分が必要ないなら静かに身を引く覚悟さえできている。


「本当に、アレンのこと好きなんだ」

「ええ。あなたが見過ごしている可能性に気づくくらいには」


 そういうメアリーは落ち込んでいるだろうにも関わらず芯の通った強いもので、メアリーが諦めるだろうことになるような事態がこれから起こる可能性を、ミリアは頭の中に留め置くことにした。

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