隠されていた真実
翌日の放課後、ミリアは一人ホワイトガード家に来ていた。呼び鈴を鳴らしてしばらく待つと、ドアが開いて中から人が現れる。
「ミリア・コールドウェルさんですね」
「はい」
出てきたのは品の良いすらりとした女性だった。年齢からして、アレンの母親だろう。
「お待ちしていました、入ってください」
そう言われたのでミリアは静かに扉を潜る。そのまま閉められた扉の音がなぜか大きく響いて聞こえた。
「緊張していますか?」
「あ、はい……」
「大丈夫ですよ。あなたは、あの子に選ばれたのでしょう」
図星を突かれてミリアは正直に言葉を返すと、アレンの母親は静かにほほ笑んでそう言った。確かにそうだし臆していたところでどうしようもないのだが、どうしてか落ち着かないのだ。女神様が住んでいる場所だからだろうかとミリアは思う。それくらいしか、原因が思いつかなかった。
そのまま一つの転移盤を示され、それに乗って移動する。移動先は落ち着いた雰囲気のソファーが並べられた部屋だった。どうやら応接室らしい。
部屋の中には人影が二つあった。一人はアレンの父親だろう男性だ。もう一人は、一目見ただけでそれだと分かる風貌だった。純白の腰まで伸びた髪を持つ者など、この世に一人しか存在しない。
「あなたが、ミリアなのね」
そんなこの国の信仰心を絶対的に集めている女神様が、ミリアの姿を認めるとたっと駆け寄ってくる。無邪気に楽しそうにそう言う姿は、荘厳なイメージを持たれている世間の感覚とは控えめな言い方をするとすごくずれている。
アレンがうっかり外でフィオナと呼び捨てにしていたり、自分に関するハチャメチャな創作小説を喜んだりという情報にようやく納得がいった。なんというか、威厳というものがまったくないのだ。
「はい、私がミリア・コールドウェルです」
「それが今のあなたの名前なのね」
ミリアが答えると、女神様は感慨深そうにそう言った。今の、という言葉をミリアは不思議に思う。確かに昔は名前が無い時期もあったが、女神様の言い方は元々他に名を持つ人が名前を変えた時に対して言う言い方だった。
「どういう、ことですか?」
言葉の意図が分からずに尋ねると、女神様は静かにほほ笑んだ。その表情の変化によってそれまでの天真爛漫な雰囲気が掻き消え、知識の深淵を知る威厳ある女神の顔が現れる。
「隠していて、すみません。本当は私はあなたの生まれについて知っているのです。だってあなたの生まれはこちら側なのですから」
ミリアの出生については発見当時かなり調査されたと聞いている。それが不明で打ち切られたのは、女神様も門の中のことは分からないためだ。調査をするにも大変であるし一族であることは明白なのだからそのように扱うということになった。
それなのに、女神様は隠していたと言った。知らなかったわけではなく、知っていて明確な意図を持って秘密としたのだ。どんな意図でそんなことをしたというのだろうか。
「もしあなたがここに来て私と会うことがあれば、話そうと心に決めていました。逆にそれ以外では一切気づかれないようにもしていましたが。でも、あなたの中にあったはずの記憶を封じ込めたのは私ではありませんよ」
最初からミリアに会ったら話すつもりだったと言っているが、ミリアが今ここにいるのはアレンがミリアを選んだからだ。それとも、それさえも女神が計らったことだというのだろうか。
「どうして、そんなことを……」
「それが、私にとって必要なことだったからですよ」
「必要?」
「これから、すべてお話します。隠す必要性は無くなりました」
そしてそれから、女神の説明が始まった。どこで生まれて、どうして捨てられて、その目的がなんだったのか。それらは、知らずにいられたら幸せな知識だった。だが、このままではいつまでも知らずにはいられない知識でもあった。すべてを聞いてミリアはどうしてこんなことになったのだろうと思う。ミリアにとっては悲劇以外の何物でもない事実だった。
ここまでが、ミリア視点の物語です。
物語は視点をアレンに引き継いで続いていきます。
そういうわけなので、今ここでミリアが知った真実がお披露目されるのはもう少し後になります。
ここからの物語は、人が平穏に暮らせるために考えられた場を飛び出して進んでいく、義務と責任と想いによってがんじがらめになった、恋人達の物語です。
タイトルは、「神もまた空を仰ぐ」
投稿直後にシリーズ一覧に追加しますので、目次ページの一番上の「世界迷彩の果て」からご覧になっていただければと思います。
一週間休憩したのち、シリーズを更新していく予定です。




