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17 歳  作者: 灯凪田テイル
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背中を押す雨


「もう梅雨入りしたんでしょうか?」

 桜井結衣が、使用済み器具を乗せたステンレストレイを片付けながら訊く。2日続きの雨は、新規患者数を少なくしていた。

「少し早いけど、今日はもういいよ」

 凌はそう言って、助手の結衣と茜、受付の杏胡に片付けを言い渡した。

「気をつけて帰るように」

 と3人を送り出すと、凌は休憩室の冷蔵庫から缶ビールを出した。今日は少し疲れた。雨音をBGMに、ちょっと飲んでから帰ろう。自炊が決して負担ではない凌だったが、今日は久しぶりに外食しようと決めた。さて、何を食べようか。

 クリニックの入口の鍵をかけ、3階から階段で降りる。エレベータはあるが、凌はいつもそれを使わない。12階まであるビルのエレベータは、往々にして待っているより階段の方が早いのだ。

 傘をさして通りに出る。駅に続く大通りへ曲がったところで、凌は数メートル先をふらふら歩いている杏胡を見つけた。凌より30分以上も前に帰ったはずだ。何をしてるんだ、アイツは。

 小走りに近づいて、「杏胡」と声をかける。

 ちょっと驚いた顔が振り返った。

「先生」

 何度、先生と呼ばなくていいといっても、杏胡はそう呼ぶ。

「だって、みんなそう呼んでるし。一人だけ先生って呼ばないのは、かえって変でしょ?」

「院長でいいよ」

「一人しかいないのに?」

 そう言われてしまうと、あえてスタッフみんなに「院長」と呼べとは凌の性格からして言えない。

「大丈夫なのか?」

「何が?」

 杏胡は笑って言った。

「訊かないんだね、先生は」

「杏胡が話したいなら、訊くよ」

「別に」

 それに関する会話は大概、そんな感じで途切れてしまう。

 雨足が急に強くなった。

「随分、先に帰ったはずだろ。何してたんだ?」

 傘をさした杏胡を、大通り沿いの店の軒下に引き入れながら、凌は訊いた。

「お腹すいちゃって」

「どこか寄ってたのか?」

「寄ろうと思ったんだけど、お金がなくて」

「ウチのバイト代は、そんなに安いのか?」

 杏胡がぺろ、と舌を出す。

「ごめんなさい、ウソ」

「じゃあ、どうしたんだ」

「金曜日だから」

「うん?」

「たぶん、家にはあの人が来てる」

「あの人?」

「うん。先生」

「先生?誰の?」

「あたしの担任で、お母さんの愛人」

 愛人という言葉に、凌はまじまじと杏胡を見た。背のだいぶ高い凌を見上げる杏胡は、あの公園に棲む捨て猫のようだ。

「杏胡、オムライスは好きか?」

「え?」

「僕、得意なんだ」


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