序章 彼女は眠る
⚠︎本当に何も勉強してないし、自分の書きたいものをただ書いてるだけですが、誰かの暇つぶしになれば幸いです。
野太い怒号、甲高い耳障りな怒号。そんな声で目を覚ます。
こんなにも最悪な目覚まし時計が他にあるだろうか。
だがもう今となってはなんとも思わない。リビングに降りて戸を開ければ、濃い化粧にキャバドレス姿の、仕事終わりの母親がいる。
「なにあのくっそ不味い味噌汁、料理もまともに出来ないわけ?あと二日酔いの薬買っておいてって言ったよね、ほんと使えないわ」
「ごめんなさい……」
器に残った味噌汁、昨日片付けたはずの散らばった部屋。これも日常。
器に残った味噌汁を継ぎ足し、それを口に運ぶ。
「ほんとだ……まっず……」
学校でも友達はいない。別にいじめられているわけではないし、仲間はずれにされているわけでもない。ただ惰性で過ごしていたら、端の方に溜まった埃のように片隅に居ただけ。
それでも楽しみはある。それは祖父の家に帰ることだ。
「おぉ、おかえり。準備はできておるよ」
弱々しいが、しかしちゃんと声も体も芯が通っているこの人は私の祖父だ。今は引退してはいるが、元は剣術の師範としてこの家にも多数の弟子が居たという。
そして、私自身も放課後に寄り、剣術を習っている。
「すまないね……本当ならお前を養ってやりたいんだが、わし自身の世話で精一杯でな……」
「気にしてません……慣れましたから……それに、こうして剣を振ってる時だけ忘れられるんです」
祖父はいつも悲しそうに謝罪をする。私もそれに対し、大丈夫だとただ無心に剣を振る。それが私たちの日常だった。
「のぉ、わしが相手をしよう」
「え?」
祖父の口から紡がれた言葉。素振りや型稽古は教わったが、今まで祖父と手合わせをしたことは一度もない。そもそも、祖父は動けるのだろうか。
「なに、心配無用じゃ……老いてはいるが、手合わせくらいはできるよ」
「……分かりました。お願いします」
いつも後ろで見守ってくれていた祖父が目の前に剣を携え立っている。静けさの中に少しピリピリした感覚を感じる。
「私は、優天流師範・新門政宗。名を申せ」
祖父の聞いたことのない声色、震えそうなほどに重たい空気感。名を言い合うのが流派の習わしだ。
震える身体を収めるように剣を強く握る。
「優天流、新門真奈。よろしくお願いいたします」
お互いに沈黙の中、剣を構える。低く腰を落とし、軸足に力を込める。力のなかった目をしていた祖父の眼光が私に鋭く突き刺さる。動かざるを得ない。先に動いたのは私だった。
懐から、下から切り上げる斬撃。しかし、祖父の身体は間合いに無かった。構えを崩さずに後ろに下がっており、振り上げた剣は空を斬り、隙を生んでいた。
祖父はその隙を逃さず、間合いに入ってくる。
重心が剣の重みに取られている中、防御の型を取るのは困難であり、そもそも間に合わない。
「優天流は、基本となる型を極めるよりも、その型を柔軟に自分の肉体や能力に応じて変化させる為にある」
祖父が最初に教えてくれたことを思い出していた。
派生のしやすい型、軽く吹き飛びそうな身体、しかしその分、柔軟な身体。
「優天流の弐之型..有り明け..舞桜!!!」
本来は打ち合い時に回転して切り下ろす型
男にはない柔軟性、身軽さを落とし込み、派生させる。
振り上げる剣にさらに力を込め、身体を限界まで捻り、遠心力を使って二撃目。それも一撃目よりも重く、そして祖父は間合いに入ってきている。確実に当たる攻撃。
鈍い剣の当たる音が響き渡る。
「お見事」
祖父の剣は根元から折られ、そして祖父の首元に剣先が当たっていた。祖父はどこか嬉しそうな、穏やかな表情で私を見据えていた。
「ありがとうございました……」
お互いに礼を行い、組手は終了した。そして、日も落ちきった頃に帰宅しようと門を出ようとした。
「お前はわしから一本取った。免許皆伝だ」
そう祖父が口を開いた。
「そんな……たまたまです……師範の動きは老いているとは思えないほど見事でした……」
「そう言ってくれるなら嬉しい限りよ……のぉ、真奈よ。お主はお主の信じる道を行け。周りなんて気にしなくていい。そしてその道に困ってる人がいるなら優しくするのだ。それが優天流の最も大事な教えだ」
疲れだろうか、祖父の声はいつもよりも弱々しく聞こえる。だけど、すごく胸に刺さる声だ。
「はい、精進して励みます」
そう言って私は帰路についた。あの日常に戻るのだ。
振り返ると祖父は微笑んでいた。だけど……哀しんでいるようにも見えた。そしてそれが、私が最後に見た祖父の姿だった。
翌日、祖父が急逝したと母親に告げられた。
人の前だからか、普段当たりの強い親たちも、お葬式の時はちゃんとしていた。私も祖父に向き合うことができたのだが、涙は出なかった。
出せなかった。泣きたいほどに悲しいのに、何も湧かなかった。
それからの日々は地獄そのものだった。
父親の会社が倒産し、父親が無職となり、常に家にいる日々。エスカレートしていく2人からの暴力と暴言の数々。
私は気がつくと、祖父の道場に来ていた。
近いうちに道場は売り払われる予定だという。元弟子の人たちの計らいで、道場だけは前日まで残してもらえるようになっていた。
「師範……私は強くなれそうにありません……剣を振っても振っても、声が、痛みが忘れられない……痛いのに悲しかったのに……涙も出ない……」
飾られていた短刀。新門家で大事にされてきたものだと言う。真意は不明だが、この刀には不思議な力が宿っており、新門家を守ってきたのだそう。
「これも、売られてしまうんだろう……お弟子さん達が守れるのには限度がある……」
気づけばその刀を抜き、自分の胸に突き立てていた。あまりにも無心だった。それほどまでに壊れ、疲弊していた。何をやっているんだろうと思うも、このまま刺せば楽になれる……そう思う気持ちが込み上げてきた。
「私は弟子失格ですね……大切な刀で自害しようなど……お許しください……そして叱って欲しい……あなたのお叱りなら、きっと痛くない……」
驚くほどに躊躇はなかったし、するりと刀は肉体へと突き刺さった。だけどそれと同時に、本来切腹というのは苦しまないために首落としが付けられる。
それもいないため、耐えるなど不可能なほどに熱く、激しい痛みが私を襲った。声にならない悲鳴、込み上げてくるものがそこにあった。
「いたい、いたぃ、くるしい、くるしい、あつい……!
死んじゃう、死んじゃう……!死たくない!!!」
本音や感情というのは極限を迎えて初めて呼び起こされるのだろう。次第に痛み、感覚が薄れていく。あぁ、本当に死んでしまうのだと、私はやっとそこで涙を流したのだった。
「しに……たくなぃ……師範……私は……しに……」
視界は真っ暗だ。何も見えない、聞こえない、感じない。本当に死んでしまったのだ。死んでもなお、魂なのだろうか、少しだけ考えることができる。
あぁ今思えば、どうでも良くなってくる。強烈な睡魔だけが私を襲う。やっと安心して眠れるんだろう。
そういえば、あの短刀どうなるんだろ。血まみれだから、捨てられるのかな……名前ついていたような……
「……真国……」
その名前を呟いた途端、少しだけ抱かれているような暖かさを感じた。心地よい暖かさ。私はその暖かさを感じ、眠りについた。
「奥様、おめでとうございます。元気なお嬢様ですよ」
「お前、やったな……よく頑張った……」
「えぇ……この子もよく頑張ったわ……」
野太くも震えている声、甲高くない優しい、疲弊した声。
こんなにも聞いたことのない目覚まし時計があるだろうか……
つづく。
初めまして!先ずは最後まで読んでいただきありがとうございます!。
某有名転生小説みたいなの描きたくて、でも何番煎じかわからないほどに作品あるし、きっと私が知らないだけで私の描く物語と酷似しているんだと思います。
でも今作の主人公の様に不器用な小説とも呼べるのか分からない代物ですが、マイペースに書いていこうと思います!
今作のコンセプトとしては、殺伐としたものではなく、凄く暖かくなれるような、だけどちゃんと世界観としても作り込まれているようなそんな転生物の作品を目指しています。
本来ならもっと主人公の転生前の杜撰さを描きたいところですが、本編に入らねばただの悲しい物語になっちゃう(てか、可哀想!)ので、短めの序章ですた。
次回はいよいよ、The異世界生活!
今作が初めての執筆ですが、主人公と共に成長して、完結するころにはめちゃくちゃ上達できるように、優天流の教えで日々精進していきますので、どうか「愛を知る異世界生活」をよろしくお願い致します。




