ある嘘つきな漁師の手記
小さい頃、海辺に佇む美しい人を見た。ふわふわな桃色の髪を海風に靡かせながら海を見ている。その淡いエメラルドを乗せた瞳には常に青い景色が揺らめいている。そんな御伽噺のお姫様のような人だった。
私はそんな彼女に声をかけてみたくて仕方がなかった。その頃の私は子供ならではの行動力でそれを実践した。
「ねぇねぇ、なんでずっと海をみてるの」
彼女は不振がりながら幼い私に答えてくれた。
『私、人魚姫なの』
そうか、お姫様だったのか。私の問いに少しずれた答えだったにも関わらず妙にふいに落ちた。人魚姫だから、海を見ているのか。
納得した私は軽く会釈して親のもとへ帰り興奮気味に彼女が人魚姫であることを伝えた。きっとお姫様のような彼女が本当にお姫様だったのか喜びを分かち合ってくれるはずだと思っていた。
しかし予想と反して両親は眉をしかめた。どうやら私が人魚姫に話しかけたことが気にくわなかったらしい。あんなに美しい人に話しかけて一体何がいけなかったのだろうか。思案する私をよそに両親は言った。
「あいつはね、呪われてるんだよ。いつまでも年を取らずにあそこにいる。気味が悪いバケモノなんだよ。こないだなんて雨を操ってたとか…」「お前も不用意に近づくんじゃないよ。何をされるかわかったもんじゃない。」
「この話はもう終わり。わかったら二度と関わろうなんて思うんじゃないよ」
反論する暇もなく捲し立てられて終わってしまった。これ以降十数年にわたり、わずかに芽生えた好奇心にも蓋をして過ごすこととなった。
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ある日何気なしによった本屋。ふいに視界に入った絵本。人魚姫という絵本だ。思わず手に取った。持ち帰り震える手で読み始める。彼女の物語だろうその絵本。彼女の秘密を知ることができるのかもしれないと思っていた。
内容はよくある御伽噺だった。囚われの特別なちからを持ったお姫様が、優しい人間の手によって海をわたり自由を手にする物語。最後には優しい人間との再会を持ち詫びて海を見つめるという頁で締め括られていた。
そうか。彼女は誰かを待っているのか。妙に腑に落ちた。あのお姫様は、もう会うこともないだろう優しい人間との再会を夢見てあそこにいるのか。
―私が、代わりに彼女を幸せな結末につれていってあげないだろうか。
そう思い、私は彼女の佇むあの海辺へと足を進めた。
これにて完結です。つたない文章でしたが、お付き合いいただきありがとうございました。
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