馬鹿はどこにでもいる
リッシュが調べた結果鈴と呼ばれた少女がこうなってしまったのは三日くらい前。
俺達はほんの少し間に合わなかったらしい。
「カイさんお願い。このままじゃ可哀そうだから」
死んでいるなら愛音が終わらせただろうが生きているならそうもいかない。
愛音の友達は理力集束弾で跡形もなく消えた。
愛音がそれをどんな思いで見ていたのかは分からないが、少なくと富永への恨みは消える事はないだろう。
この騒動も終わりを迎え俺達は向こうへ帰る。
そのはずだった。
「ねえ、ちょっとコンビニ寄って行っていいかな。アタシが死んだとこ。なんかそこに行かないといけない気がするんだ」
いざ向こうへ帰ろうとしたところで何やら気になる事を言い出した。
聖女が気になる、何かあると言えばきっと何かある気がする。
「それは神託ですか」
「それとはちょっと違う気がする。けど何か気になるというかなんと言うか」
二人は俺をじっと見ている。
そんな事言われたら俺も気になるよ。
「じゃあ、寄って行こうか」
ところが件のコンビニへ向かう途中、俺たちの前にゾンビが現れた。
もちろんそいつは問答無用でリッシュの魔法で灰になった。
だが何故ゾンビいる。
「どうして不死者がいるのでしょうか。まさか」
「アイツはカイさんの魔法で死んだよ。それは間違いない。影武者とかじゃなかったし」
「そこまで分かるんですか」
それはゲームでよくあるやつで、戦ったボスが弱すぎると思っていたら影だったとか。
だが何となくだが俺も本物だと分かった。
多分加護の力だと思う。
ゲームで自分の影を無数に操りどれが本物か分からず、見破るためには特殊な道具が必要とかのパターン。
その場合、ボスと初見でイベント戦闘となり負ける事がある。
俺はそういうのが大っ嫌いだし多分ローさんも同じく嫌いなんだろう。
だから見破れる。
「リッシュって生命看破使えないの」
「あの、生命感知ならともかく、それ使えるの大司教様か聖女様くらいでは」
「多分レベルが足りないだけだよ。もっとレベル上げようね。そうすれば女神ノ涙だって使えるようになるよ」
「いえ、流石にそれは」
実に軽く言うが愛音は聖女でガチ勢なのだ。
本気でレベル上げをやっていた。
リッシュは聖女になるために訓練を怠った事はないが愛音との違いがあるとすればレベル。
今は俺とせっせとレベル上げをやっているがその内愛音のような魔法を使えるようになるのだろうか。
「しかし、そうなるとこの騒動の原因は彼ではなかったと言う事になるんだが」
自分で言っておきながらそれはないと思うんだ。
道を歩いているとまたゾンビがいた。
そいつもリッシュの魔法で灰になる。
「確かに不死者はいるけど数が少ない気がする」
「そうですね。しかしどうして」
彼の居た所まではそれこそ道いっぱいにゾンビがいた事を考えると少なすぎる。
そんな時である。
「あっ止まってください」
リッシュが愛音の手をつないで俺の腕に抱き着いてきた。
これは合図だ。
リッシュがそのままそっとささやいた。
「右側にある高い塀の先、黒い門の後ろ辺りに三人います」
「悪意感知ね。けどそこって」
言いたいことは分かる。
何せ塀の内側はここから見えるし何かわかっていたし。
「中学校の裏口だな」
雪野中学校と書かれていた。
異世界の手引き曰く。
ゾンビが溢れる世界において学校は大抵碌なものではない。
パターンその1。
一部の連中が好き放題やっている。
パターンその2。
特定のコニュニティーだけで形成されている。
愛音はこれにあたった。
パターンその3。
純粋な助け合い集団。
愛音の両親がいたのはこれだ。
さて悪意を向けてきているわけだがこれはどうだろうか。
場所が場所なだけに迷う。
「そこにいるのは分かっていますよ。出てきてください。こちらに敵意はありません」
リッシュが1歩前に出た。
これだけ見ると実に聖職者だ。
しかし反応はない。
「お互い警戒しているのは分かっています。無益なやり取りはやめましょう」
再びリッシュの問いかけにも反応がなかった。
「出て来いって言ってるのが分かんないの。アタシ達も暇じゃないんだよ」
愛音が馬鹿にしたように言うと、ようやく相手が姿を見せた。
見た所10代半ばくらいだからこの学校の生徒だろうか。
「バレたじゃん」
「けど可愛い子発見!」
「おっさんはいらね!」
手には金属バット。
馬鹿しかいないのだろうか。
「ガキが。世の中なめんじゃねえぞ。理力散弾」
富永の話を聞いたからかこの手の奴らに容赦はいらないと感じ問答無用の一撃。
自分でも分かるくらいイラついていた。
結果2人が死に運悪く生き延びた1人がのたうち回っている。
さてとどめというところで倒れている奴の頭に飛んできた何かが突き刺さりボンッと爆発した。
その瞬間にリッシュと愛音が身構えた。
「今のは魔法矢!」
「しかも相当の使い手だよ」
飛んできた方を見るとこちらに歩いてくる人影が1つ。
「まったく本当にゴミね。人様に迷惑しかかけない。ああ、でもこれで世の中3人分良くなったわ」
年はおそらく20代半ばの上下赤いだぼっとしたジャージを着た女性。
髪は肩くらいで黒く何より恐ろしく整った顔立ちをしている。
ただし目の下のクマは酷く目も濁っていてフラフラと足元がおぼつかない様子だ。
2.3徹もしたのかのように。
「あれ、あなた。もしかして雪ちゃん」
その視線はリッシュに向いていた。
雪ちゃんとはどう考えても日本人の名前だが間違えるくらいひどい状態なんだろうか。
俺達の視線を受けたリッシュが一瞬固まった。
「あの、違いますが」
「ああ、そっかそうよね。あの子死んじゃったし。でもその服は正道教会のやつよね。なんでこの世界にいるの。と言うか今魔法使ってたよね。なんでこの世界にいるの。私と同じなのかしら。でも勇者じゃないわよね。なんでこの世界にいるの。あれ、そっちの子はもしかして聖女かしら。どうしてこの世界にいるの。ああ、なんだけっけ。そう、そうそう」
ああ、これはきてるな。
俺にも覚えがある。
「愛音頼む」
「任せて浄化」
愛音の魔法を受けた女性はしばらく動かなかった。
「あれ、おかしいな。手ごたえはあったけど」
しばらく様子を見ていると女性はゆっくりと動き出した。
俯いた顔を上げるとクマは消えていた。
息を飲んだ。
そこにいたのは美女、いや絶世の美女。
「ああ、うん助かったわ、私は風上月子。以前はここで教師やってたけど今は無職よ」
堂々と無職と言ったぞこの人。
それに魔法を使ったからにはただの無職じゃないだろ。
「これはご丁寧に。私はリッシュ・ナインスターク。カーナ様にお仕えしております。今はこちらのカイ・スオウさんの仲間とさせていただいております」
「アタシは五十嵐愛音。向こうで聖女やってたよ」
「そっちのリッシュが言ったけど私は周防甲斐。女神の依頼でこの世界に来ています。とにかくそちらの話を聞かせてもらえますか」
これはまた面倒な予感がした。




