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ケンツはケン2


部屋に大穴が開き彼は初めからいなかったように消えた。

自分は負けないと思っていたか、あるいは他に何かあるのかわからないが結果は1つ。

松永健二は間違いなく死んだ。

それが全てだ。


「これでこの世界でやることは終わりでいいんですよね」 

「元凶は死んだ。なら終わりでしょ。多分」


2人とも実に軽いがその通りだろう。

俺の場合はボス戦がイベント戦みたいになる。

相手の強さがほとんど関係ない。


「そうだな。これでゾンビはただの死体に戻るだろう」


あっけないがこんなもんだろ。

死体が死体に戻るのはいいがなりかけはどうなるんだろう。

呪と毒が消えたらただの怪我になるだけかあるいは。


「一応あいつが住んでた部屋調べてみませんか。何か良くない物を持っていたかもしれません」

「よくない物ね。確かに」


リッシュの言葉に愛音は何やら察したらしい。

部屋の奥の扉を開けてみるとその理由が分かった。


「うん、そうだと思った」


中を覗くと愛音と同じ制服を着た女の子が俯いて部屋の隅に座っていた。


「リビングデッドでしょうか」

「いえ違うわ。死者なのは間違いないけど、フレッシュゾンビね」


初めて聞く名前が出た。


「フレッシュゾンビってのは何だい」

「えっとフレッシュゾンビとはですね。生きている死体です。心臓は動いていて傷つけば血も流れます。でも死んでいるんです」


生きているのに死んでいる。なんだそれは。


「説明するのは難しいのですが、肉体と魂は1つです。ですが何らかの方法で魂だけが失われてしまうとどうなるか。もちろん普通はそんな状態にはなりません。ですがそんな状態がフレッシュゾンビです」


何らかの方法。

闇属性魔法なら普通にありそうだ。


「あれこの子って。まさか鈴」


女の子の顔を覗き込んだ愛音が声を上げた。


「お知合いですか」

「私の友達。どうしてこんな」


愛音は震える手で鈴と呼んだ女の子の頬を撫でた。


「その子額に何かないか」


俺が気になったのは額に何やら魔法陣っぽいのが書かれている事だ。

愛音が髪をかき上げるとそれがはっきりと見えた。


「これ魂簒奪ソウルスチールだ。あいつ!」


説明を求めてリッシュを見ると難しい顔をしていた。


「ああ、えっと、つまりあらかじめ肉体の魂を奪っておいて、自分が死んだらこの子の体で生き返る、と思っていただければ」


あれか。

死んだら体を奪って生き続けるってやつか。

彼は死んでもこの子の体で生きかえるつもりだったと。


「だがそれは」

「はい、カイさんの魔法で死んだからには不可能です」


俺がやってよかったというわけだ。


「あとはこのパソコンだけですね」


リッシュが持ってきたノートパソコンだが非常に嫌な予感がした。

何故なら起動したパソコンのデスクトップに小説のフォルダがあったからだ。

フォルダを開くと『クラスで召喚されたけど使えないと捨てられた俺は最強の闇魔法使いになって復讐する』と書かれたテキストファイルがあった。

他にも『使えないと実家を追い出されたが実は最強でした』。

『役立たずと追放されたけど俺の支援が無いと困るのはお前らだぞ。実は最強の支援職な俺』

『ずっと修行していたらいつの間にか最強になっていた』

などがあり、もうこの時点で色々察してしまった。

恐る恐るファイルを開くと後ろから愛音とリッシュが画面をのぞき込んだ。


俺の名はケンツ。

俺達は異世界にクラスごと召喚された。

けど俺をイジメている奴らにダンジョンで穴に落とされた。

そこで俺の闇属性魔法が強い事がわかってなんとか脱出するために探索中だ。

地上に戻ったらあいつ等全員殺してやる。


「グルル・・」

「チッ厄介な奴が」


クマかと思うような大きな狼だ。


「ガウッ!」

「イッテ!クッソ!うお~!」


ザシュ!


「ギャウン!」

「はあ・・はあ・・・。とどめだ!くらえダークボール!」


ボシュン!


「ゴブリンだ!」

「「「ギャギャギャ!」」」」

「シルバーウルフだ!」

「「グルル・・・」」

「オークだ!」

「「プギャー!プギャー!」」


「うん?なんだお前ケガしてるのか?」

「わんわん!」

「よし、これでいい」

「きゅ~ん。わんわん」

「ははは、こいつ」

ワシャワシャ

「わん!わんわん!」

「ほら、干し肉だ」

「わんわん!」

「うまいか?」

「きゅ~ん」


「おいちょっと待て!」


俺の静止を聞こえないかのように愛音はノートバソコンを掴むと迷うことなく窓から放り投げた。


「何あれ。これだからろくに本も読んだことないような奴は。あれが高校生の書いた文章とかありえないんだけど。小学生、それも低学年の作文じゃない」

「いや、言いたいことは分かるけど」


愛音の家で読んだ投稿小説サイトのランキング10位から2位まで埋め尽くしていたのと同じだった。

そしてさっきのパソコンの小説フォルダに見覚えのあるタイトルがあったから作者ケン2は間違いなくさっきの七魔人セブンデイズ土の無のケンツ。

ならあのランキングは不正か。

いやそれなら1位は不正が遠く及ばなかったと言う事になる。

あれが、なあ。

そして俺はローさんが言っていた事を改めて思い出した。

姉さんの世界の主人公はとにかく最強だと。

再び思い出すのは、とある宗教の集会場面。

教祖が拳を振り上げて叫ぶと信者も続いて叫ぶ奴。


「みなさあああああん!!最強ですかあああ!!」

「「「最強でえええす!」」」

「最強!」

「「「最強!!!」」」

「最強!」

「「「最強!!!」」」


おそらく異世界召喚の時にカーナさんから直接力を与えられたのは徳永健二だけだ。

クラスメイト達もその時に何らかの力を得たのだろうが、女神の加護には到底及ばない。

だから彼は最強主人公だった。

その彼が書く小説も自分の分身たる主人公は当然最強なんだ。

そんな事を伝えると愛音は分かってるよと答えた。


「別にそれは良いよ。けど動物の鳴き声と擬音を使いまくる時点でゴミ。なにがグルル・・・よ。何よりつまんないの」


ごもっとも。


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