作文であり小説ではない
その日は一晩お世話になることになった。
愛音は部屋にこもってしまい、両親も微妙な空気。
どんよりとした雰囲気の中俺達は客間に通された。
2人一緒に。
「何故タツヤ様の事を話さなかったのですか」
あの場で俺はタツヤ君について話さなかった。
それにリッシュは合わせた。
「言ってどうなるって事だ」
「それは、向こうに戻りたいと思われるのではないでしょうか。元々はこの世界に生き返るためとの事ですし、今はタツヤ様も亡くなられているうえにこんな状況になっているのですから、全てをやり直すためには魔王と戦い勝利しカーナ様に願いを叶えて頂くしかないのでは。でもその場合はこんな世界にご両親を置いて行く事になりますね」
「大体それが可能かどうか分からん。ローさんに色々聞かないと」
聞きたい事が山のようにある。
そんな事を言いながらベッドに腰かけたリッシュはテレビを見ている。
なにやら録画されている食べ歩きの番組を面白そうに。
伝えればどうなるか。
あっちに戻りたいと言うだろうか。
この状況で両親を置いて。
そもそも愛音は向こうで死んだんだから向こうで生き返るはず。
なぜこっちで生き返った。
それとも向こうで死んでリスキルされただろうか。
それでもこっちにいるのはおかしいし聖女の力を無くしていないし。
「しかしこの人たち同じ事しか言いませんね。エビを食べたら絶対プリプリですねって言いますよ。あとドロッとした物食べら濃厚ですね。後は優しい味ですねとか。こればっかりじゃないですか。なんですか優しい味って。具体的に言ってください」
こいつテレビにはまってやがる。
「ようするに味をうまく表現できないんだよ。甘い辛いとかもっと複雑にあれこれ言えないからやさしい味とか言ってごまかしてんだよ」
俺も思うよ。
何が優しい味だ。
そんな事を話しているうちに疲れていたのか俺はいつの間にか眠りについていた。
気がついたらいつもの部屋である。
「いやちょっと待ってください」
俺の報告を受けたローさんは頭痛を堪えるかのような顔した。
「アイネさんが亡くなったのは知っています。てっきり2回亡くなったとばかり。いやいやルールは守らないと。待ってよと言う事はあれがこうなって、つまりあれがこうなるじゃない。あっあっあ、カイさん!」
「なんでしょうか」
「アイネさんは向こうに戻っていただきます」
これは想定外だ。
いやそれが正しいのか。
「あなたにしていただく事は変わりません。速やかに原因を突き止め排除してください。それが終わってこちらに戻る際、アイネさんも一緒に戻っていただきます」
「しかし本人が望まない場合はどうすれば」
失った娘が帰って来た。
それなのにまた危険な世界に行ってしまうのを容認する両親がいるだろうか。
それに原因を排除しても世界が元に戻るわけではない。
そんな世界に両親を置いて行くほどアイネは薄情に見えない。
俺の問いにローさんは険しい顔をした。
「申し訳ありませんがこの件は決定事項になります。そうしなければ世界が歪みます」
これも想定外だ。
まだ言いたい事があるが意識が遠くなり世界が白くなる。
「おや、おはようございます」
ぼんやりした頭にリッシュの声が響いた。
声の方を見るとリッシュは机の上にノートパソコンを広げていた。
なじんでやがる。
「おはよう。何してんだ」
テレビもノートパソコンも当たり前のように使いこなしてやがる。
「少々気になるものがありまして。こちらへ」
言われるままにリッシュの元へ行くと彼女は立ち上がり俺に椅子を譲った。
開いているページは小説投稿サイトで中には人気のランキングがあるらしい。
「使徒様は異世界転生とかチートとよく仰います。漫画や小説で読んだとも」
なるほど。
試しに10位ぐらいの物を読んでみた。
タイトルは『ひたすら修行をつんでいたらいつの間にか最強ですが無自覚の少年はそれに気づかず世界を旅をする』。
作者はケン2。
ドラゴンを相手にするんだから作戦が必要だな。
ユウキ「どうする?何か案はないか?」
シュナ「無理だよ死んじゃうよ」
リナ「文句言わないの!」
シェナは戦いに反対らしい。
けど逃げうわけにはいかないんだ。
ユウキ「シェナはサンガクの村に行てくれ。俺達でやるよ」
シェナ{な?!誰も嫌なんて言ってないでしょ!」
これ小説サイトだよな。
台本形式なんてありえないだろ。
誤字あるし。
もう一度言うが小説と言っておきながら台本形式とかありえないぞ。
いやそもそも何故こんな物が10位になってるんだ。
こんな物が。
すごく嫌な予感がするが次は9位を読んでみよう。
タイトルは『無能だと追放されたけど実は最強です。今更戻って来いとか言われてももうかわいい子とパーティー組んでるからもう遅い』。
作者はケン2。
またかよ。
森に入ってからずっと見られている気がする。
「誰かいるな」
気配察知を使った。
「あそこか」
俺はゆっくりと弓を構えた。
ギリギリ・・・パッヒューン、ドス!
「ぎゃああああ! ハァ・・ハァ・・・なぜ分かった! くっくそ! 行けゴブリンども!」
「「「ギャギャギャ」」」
「ゴブリンなんか相手になるか!」
ザシュ!ザシュ!
「「「ギャギャ!」」」
「これでどうだ!」
「ギャ?」
グサッ!
「グギャァ!」
「くっそ~!しかたない俺が相手だ!」
キンキンキン! キンキンキン!
そっとページを閉じた。
マジかよなんだこれ。
リッシュを見ると俺の様子に何やらうなずいている。
「おっしゃりたい事は分かります」
「いや、これ、なに。この、なに」
いや本当になんだこれ。
「次をどうぞ」
いつの間にか後ろに立っていたリッシュが俺の両肩を掴んでいた。
「もう嫌なんだが」
見る価値なし。
小学生の作文だ。
そもそもこんな物が上位に位置するなど不正の匂いがする。
「次をどうぞ」
リッシュの目が死んでいた。
「だがこれは」
肩を押さえつけられていて立ち上がれない。
しかもギリギリと掴まれているところが痛い。
「次をどうぞ」
よし次は6位を読んでみよう。
タイトルは『ゴミスキルと実家から追い出されたけど実は神スキルだった。我慢をやめた最強』。
作者はまたケン2。
「ここが冒険者ギルドか」
ギイ・・・バタン
中は薄暗くてひどく酒の匂いがする。
ジロジロ・・ザワザワ・・
「見られてるな」
ジロジロ・・
「ふん、不愉快だな」」
無視だ。
「あそこが受付か」
ようやくついた。
ページを閉じた。
「リッシュ」
「なんでしょうか」
ゴミ。
本当に何だこれ。
頭痛がする。
あまりのひどさに言葉が出ない。
「俺は学生の頃、毎日のように本を読みまくった」
高校も大学も電車で通っていたから行きも帰りもずっと本を読んでいた。
朝は満員電車でサラリーマンがスマホを握りしめているのをしりめに紙派の俺は文庫本を読んでいた。
「推理小説はもちろんハードボイルドもSFもドロドロの人間ドラマもファンタジーも面白そうな物は片っ端から読んだ。だから言う。ゴミだ。何だこれ」
そう吐き捨てた。
「おっしゃりたい事は分かります」
リッシュの目は死んでいた。
虚ろで光がなかった。
「次をどうぞ」
「いや、ホントにダメだって。ゴミ。読む価値ないよ」
酷すぎる。
「おっしゃりたい事は分かります」
これって無限ループですか。
「次をどうぞ」
そっとリッシュの手を掴んで呪文を唱えた。
「心にひと時の安らぎを。精神鎮静化」
リッシュの目に光が戻った。
ジンに教えてもらった魔法だが初めて使うのがこんな状況とは。
「あ、あれ、私は確か小説を見て、それであまりの内容に気が遠くなって」
「おかえり」
「えっとお手数をおかけしましたようで。申し訳ありません」
「いやいいよ。しかし本当酷いな。よくこんなもんで小説とか」
「いえ、これは小説ではなくラノベだそうです」
ラノベと来たか。
しかしそれでもひどいのは変わらないと思う。
「これをゴミと言った理由は幾つかある」
内容とかそんなものではない。
色々な小説を読んがからこそ言える事がある。
「擬音を使うな!漫画じゃねえんだよ!それを文章にしたのが小説だろが!何だよギリギリヒューンってアホか!」
1番許せないのがそれだ。
小説なら擬音を使うな。
この1点だけは絶対に許せない。
何も全てを否定するわけではない。
ここぞという場面で使うのならありだ。
けど戦いの場面で剣戟を擬音でカットするとかありえない。
何がキンキンキンだ。
見られてる場面で擬音でジロジロとか本当にありえない。
何度も言うが小説で頻繁に擬音を使うなんてありえない。
小学生の書いた作文だ。
けどそれが当たり前になっているのか。
「あとゴブリンの鳴き声なんかセリフ扱いすんな。意味ないんだよ」
なにが「「ギャギャギャ」」。
ザシュ!「「ギャ!?」」だ。
それに何の意味がある。
漫画で犬がワンワン言ってるようなもんだぞ。
「この2点で小学生の作文レベルだこんもん。ゴミだ」
ケン2の書いたものは全部同じだ。
もしかして作者のケン2は小学生なのか。
「そして1番大事な事が」
「おっしゃりたい事は分かります」
「正気に戻ったと思ったんだけど」
「いえ、私は正気に戻りました。問題は1位にある物です。こいつは桁違いですよ」
マジかよ。
今までのは雑魚なのか。
いや違う。
ランキングだから面白いものがトップのはず。
でもあんな物が10位に入ってるんだ。
ちなみに2位から10位まで作者が全部ケン2だった。
ありえないだろ。
1位は唯一違う作者だが期待は出来ない。
タイトルは『私は聖女じゃありまん』か。
作者はネカア。
そのタイトルで嫌な予感がするんだ。
だがその前に他のも読んでおこう。
一応な一応。




