復讐
予想に反して愛音はずいぶん苦労したらしい。
リッシュは何やら複雑そうな顔をしている。
聖女に対する認識が違ったようだ。
「アタシの話はこんなとこだよ」
リッシュは黙って嘘はないとうなずいた。
痴情の縺れと言えばそうかもしれないが愛音は被害者だ。
「リッシュ。カキガハラってたしか今も聖女いるんだよな」
「ええヨウコ様です」
「勇者を呼ぶんじゃなかったのか」
「おそらく先にグラスに召喚されたからでしょう」
なるほど。
世界に勇者は1人だけだから聖女を呼んだと。
愛音がこんな事になったのによく召喚出来るな。
「なら今度は俺達だな」
どこまで話すべきかは大体決めている。
「簡単に言えば俺はローさんからたまに仕事を頼まれる。今回はこっちの世界をこんなにした奴を探して何とかする事だ」
何とかには当然殺す事も含まれる。
ましてこんなバイオハザード状態にした奴なら容赦なんかいらんだろ。
「それってどんなやつなの」
「詳しくは教えてもらってない。けどあっちの世界に行ったことがあるって事は聞いてる。後はまあ、会えばわかるとの事だ」
愛音に会ったことは想定外。
「それってあてはあるの」
「もちろんある」
あるからの仕事だ。
「こいつがあるから大丈夫なはずだ」
左腕につけた腕時計っぽい何かを見せた。
見た目は腕時計だが魔力込めると立体映像のように矢印が浮かぶ。
方向は分かるしそれとの距離で矢印の長さが変わる。
「こいつは方位針。今回の仕事に必要になるって貸出された神器だな。探し物を指してくれる」
「それってとんでもないんじゃ」
言いたい事は分かる。
確かにこいつは便利だ。
「ただ万能じゃない。ゾンビ騒動の原因とか言ってもこいつは動かなかった。けど異世界に行った人間を探したら反応があって君に当たった」
ある意味愛音は運が良かった。
それにしても相手の名前とか教えてくれたら多分一発なんだと思う。
前から思っていたがローさんも色々制限が厳しいらしい。
すると何か考え込んでいた愛音が少し申しわけなさそうな顔をした。
「あの、アタシのお父さんとお母さんが生きてるかだけでも教えてもらえないかな」
「それくらい構わんよ。名前は」
「五十嵐正樹と雪音」
そりゃ気になるわな。
魔力を込めると方位針は割と近くを指した。
「割と近いな。多分10分くらいの距離だな」
「アタシ行って来る」
「駄目です。貴女は死んだ人間ですよ」
死んだ人間が現れたらそれこそゾンビと思われる。
でももう火葬してお墓に入っているからよく似た他人に思われるか。
いやなんにしてもやめておいた方が無難だ。
とは言うもの止めても行くだろう。
「仕方ない。俺が行って来よう」
「では私もお供します」
実際これはどうなんだ。
ローさんは愛音の事を何も言ってなかったから多分カーナさんがやったんだろうけど。
なら多分愛音の役目は俺と同じになる。
問題は愛音がこの件を片付けた後そのままこっちにいてもいいのかどうか。
それなら問題は無いけどあっちに帰らなければならないなら両親とは会わない方が良いと思うんだ。
しかしまだ高校生だし両親には会いたいのは仕方ない。
「あっちょっと待って」
愛音はスマホを取り出した。
「カイさん。ちょっと動画取って。お父さん達にメッセージ」
「ああそうだな。死んだ娘が会いたいと言ってますってわけにはいかないよな」
日が少し傾きだした頃にリッシュと五十嵐家を出発。
俺達の来た方向と反対に徒歩で十分程度に小学校があるらしい。
方位針はその辺りを指しているので多分今はそこが避難所になっているかもしれないと。
実際に来てみると門はしっかりと閉じられており、金属製の警棒持った警官が二人見張りに立っていた。
「そこで止まってください」
二人は俺とリッシュに気付くと警告の後、横に建てられたテントに合図を送った。
言われた通りにそのまましばらく待っていると中からさらに警官が二人出てきた。
「失礼。人を探しています。ここにいるか教えていただきたい」
とりあえず丁寧に相手の目を見て用件をはっきりと伝える。
営業の基本である。
「探している方のお名前は」
「五十嵐雪音さんと正樹さん夫婦です」
ここに愛音の両親の反応があった。
「申し訳ありませんがここで武器を預けてください」
「まあ、そうですよね」
さすがに銃は置いてきたが剣に金属の良く分からん武器を持ってる2人。
何だこいつらって思うだろう。
俺達が素直に武器を渡すと年配の方の警官は特に天秤の針の重さに驚いていた。
実際あれはかなり重く持たせてもらった事があるが多分15キロくらいはある。
そして門を僅かに開けてもらい中に入ってしばらくすると40半ばと思われる愛音に似た女性が校舎の方から疲れた様子で現れた。
見ただけで分かるほどよく似ている。
愛音の母親だろう。
「あの、どちら様でしょうか」
明らかに俺達を警戒していた。
見覚えのないコートを着た男と金髪のシスターだからな。
「これは失礼。私は周防甲斐と申します」
自己紹介をすると名刺を渡したい気分になる。
「初めましてユキネ様。私はリッシュ・ナインスターク。リッシュとお呼びください」
そしてリッシュは少し頭を下げて綺麗な一礼をした。
「はぁ、あの、それで、どういった」
説明するのは簡単だが信じてもらえるかは別問題。
そこで登場するのが文明の利器。
「これを渡すように頼まれました」
ポケットから愛音に託されたスマホを取り出して手渡した。
すると雪音さんは渡されたスマホに驚いて目を見開いた。
「これ、このスマホは」
「最新の動画を見てください。私達はここで待ってます」
それは愛音からのメッセージ。
本人達しか分からない昔話を動画にした物。
雪さんは少し離れた所で動画を見だした。
「アイネのご両親は生きているんですよね」
「そいつは間違いない。だが」
「来られたのはお母様だけ。普通ならお父様かお二人ご一緒のはず」
その通り。
なぜ一人なんだ。
しかも女性が来るとか。
嫌な予感しかしない。
大体5分程の動画を見終えた雪音さんは涙をこらえながら俺達に頭を下げた。
「わざわざありがとうございます。あの、あの子は今本当に家に」
「ええ、知っている人に会うと問題なの私達が参りました」
「そう、ですか」
どうも手放しに喜べない状況らしい。
「失礼ですが旦那さんは」
俺の問いに雪さん体を強張らせた。
「主人は、昨日噛まれてしまいました」
それはこういった状況の映画などでよくあるパターンだった。
身内に噛まれた人がいてをれを隠していたがそいつがゾンビになって被害がでる。
大抵噛まれたのが子供で親が隠して庇うパターンが多く、今回もそれだったようだ。
もちろん最初の被害者はその親だった。
そして近くにいた旦那さんが巻き添えを食った。
ゾンビに噛まれてしまったら大体三日程でゾンビになってしまうらしい。
しかし問題はない。
何せこの場には元聖女候補筆頭がいるのだ。
リッシュが大きく胸をはった。
噛まれた人を癒すことは可能なのである。
旦那さんを連れてきてもらったが顔色がかなり悪い。
「では帰りましょう」
「はい、お世話になります」
門番の人達には最後は家で迎えたいと言ったら反対されなかった。
門を出て小学校が見えなくなった所ですぐさまリッシュが魔法を使った。
「生きておられるのなら問題ありません。私にお任せください」
呪解除、解毒、浄化。
見る見るうちに旦那さんの顔色が良くなった。
二人ともそれはもう驚いた。
そして家に到着し感動の再会。
両親は泣いているが愛音の方はそうでもなかった。
「まさかもう一度会えるなんて夢にも思ってなかった」
「アタシは会うつもりだったけどね」
事故当時に戻ってくるつもりだったから仕方ないがこの温度差。
何はともかく良かったと言っておこう。
「そうだ、達也君の事だが」
「うん、こんな状況だしね」
愛音の幼馴染にして彼氏のたっくん。
本名は須藤達也。
写真を見たら俺の知ってる勇者だった。
当然だが方位針は反応しなかった.
世間は狭いのか、あるいは何か基準でもあるのか。
愛音の願いが生き返る事なのに家族は無事だが彼氏は亡くなっていた。
これはちょっと可哀そうだ。
「いや、そうじゃないんだよ愛音。達也君が亡くなったのは一年ほど前で、こんな事になる前なんだ」
彼は半年ほど前に召喚されたと言っていた。
微妙に時間がずれているが世界がこうなる前に死んだらしい。
何故彼が亡くなったのか。
問題は愛音を殺した車の運転していた奴だった。
そいつは以前に議員をしていた。
だから愛音を殺しておいて逮捕されなかった。
同じようなことをした奴はすぐに逮捕されたにもかかわらずにだ。
テレビなどで報道された時には容疑者と呼ばれなかった。
連日ネット等では上級国民だの勲章持ちだから逮捕されないと言われ続け、本人は悪びれもしない。
それから随分時間がたってようやく逮捕された。
しかしこいつが本当にどうしようもない所謂老害と呼ばれる奴だった。
事故の場所で現場検証の際に頭を下げることもせず、車が悪いとブレーキがきかなかったと言い続けた。
ありえない。
たとえブレーキが故障してきかなかったとしてもやった事に変わりはない。
ならば謝る。
だが一切は自分は悪くないと言い続け、車の販売会社と警察が調べた結果、ブレーキは正常だったと判明したがそれでも認めない。
愛音に関しては全く触れない。
それどころか自分が被害者だと。
1年過ぎてもう一度現場検証をする時にそれは起こった。
その場には愛音の両親もいたがそいつは警察官に言われても彼らに見向きもしなかった。
本当にクズだ。
その時打ち上げ花火が上がった。
皆が何事かと見上げたそのわずかな瞬間に愛音を殺したその男をタツヤ君がナイフで刺した。
即死だったらしい。
彼はぞの場で取り押されられた。
動機など考えるまでもない。
そして数日後に彼は留置所で首をくくって死んだ。
「嘘、そんなたっくん」
これはあんまりではないだろうか。




