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次の依頼



迷宮の8階層は7階層と大して変わりは無かった。

違いは遭遇する確立が上がったくらいが。

 

「魔法炸裂弾(マジックブラスト)」


放った魔法が当たると小さな爆発が起こりコボルトを穴だらけにした。

1発1発の威力が上がっているのが分かる。

あの階層での戦いで一気にレベルが上がったらしい。

リッシュのメイスがコボルトを吹き飛ぶのは変わっていないがたまに頭だけが吹き飛ぶ事があるのであっちも大概だ。


「かなり強くなりましね。危なかった場面ばかりでしたが無駄ではなかったので良しとしましょう」

「そうだな。けど稼いでる連中はあんな奴らを軽くあしらってるんだろ」

 

ドラゴンに斬りかかるジンの動きなんて見えなかったし。

漫画じゃあるまいし人の動きが速過ぎて見えなくなるとか驚きだ。


「そうですね。ですが実際に王都の迷宮の40階層を実力で超えるとなると、最低でも10年はかかると言われています。もちろんそこまで目指す人が少ないのもありますが」

「10年もか。そんなにかかるのか」


もっと速く行けそうな気がする。

リッシュが大きなため息をついた。


「そうなんですよ。私もそう思いました。実際の所20階層を超えた辺りなら1日の稼ぎが10万カナを越えると言われてます」

「1日で10万」 


つまり50万円。

それだけあれば十分すぎる。


「もちろんそこまで行くなら大抵5、6人のパーティーを組んでますので頭割りになります」

「それでも十分だろ」


5人組みだとしても1人当たり1日2万カナだ。


「王都の迷宮は10階層以降が急激に広くなります。真っ直ぐ下への階段に向かっても3日以上は当たり前になります」

「そんなにか。けど話はまた後だ。来るぞ」


前方からコボルトが4匹と少し先の十字路の右から3匹。


「正面は私が」

「任せる」


そして夕方には下への階段に到達して地上に戻った。

順調である。

何時ものように結晶を換金し、2人で夕食をとり、道具を磨いて寝る。

そうすると朝に気持ちの良い目覚めが訪れる。

しかし気が付くと何度目かの応接室だった。

 

「こんばんわカイさん」


そしてローさんが居てももはや驚くことも無くなった。


「こんばんわローさん」


俺は何故か2度と着ないと思っていたスーツを着ていた、


「ああ、その格好ですか。それは貴方の心に浮かぶ誰かと会う時の姿を反映しています」

「そうですか、心にね。フフ」


そう簡単に染み付いた物は取れないと言う事か。

乾いた笑いが出た。

魂にこびりついている言われて気分だ。


「と、とにかく、セイナさんの件お疲れ様でした」

「はい。ああ、私がやったわけではありませんが」


どうやらタツヤ君早速がやってくれたらしい。

これで聖女がどう行動するか知らないが、リッシュから話を聞くにあまり良い行動はしないと思う。


「いえ、貴方の功績ですよ。私の予想より随分速く片付きました。これで彼女も少しは・・少しは・・まあいいです」

「いいんですか。いいならいいですけど」


とにかくコレで最初の依頼は片付いた。

ローさんは満足げに笑っていた。


「ではボーナスを支給します」

「ボーナスですか」

「私の依頼を初めてこなしたので特別ボーナスです」


ボーナスか。

通常は年に2回。

夏と冬に有り、会社によっては月収の3倍とからしいが俺の勤めていた会社ではそんな物は無いよりまし程度だった。

月収に関して言えば、何せ基本給が少なくてそこに営業成績が加算されるので、多い月は80万を越えたりするが新規契約が出ない時は20万を切る。

そんな会社なのでボーナスなど期待する物ではなかった。

その少ないボーナスも課長の命令で高いスーツを買わされた事があった。 

課長が抱えている顧客がスーツ販売をしているからそのご機嫌取りのためだった。

逆らえるわけも無く少ないボーナスを使わされた。 


「カイさんカイさん」

「え、はい」

「大丈夫ですか。どす黒いオーラが出ていましたよ。昔を思い出していたようですが」


我ながら何がトリガーになるのか分からんが、どんな事からでも連想してしまう気がする。

駄目だ。

あの会社の事を思い出しても良い事が1つも無い。


「大丈夫ですよ。ええ大丈夫ですとも」


もう過去の事だ。

忘れるんだ。


「ではボーナスはこれです」


どこか引きつった笑みを浮かべたローさんが取り出したのはナイフだった。

全体が金色で20センチ程度。

鞘には綺麗な装飾が施されてあり鍔は無く、抜いてみると刀身が無い。


「あの、刃が無いんですけど」


これはあれだろうか。

魔力を流すと光の刃が出るやつだろうか。

いや、抜いた時に抜いている感触があった。


「刃はちゃんとありますよ。見えないだけです」


言われて良く見て見るがやはり何も見えない。

試しに触って見ると、固い感触がある。

目を凝らして色んな角度から見ても見えないがしっかりとある。

触った感触から察するに厚みは普通にあるのに、テーブルに僅かな影すら落とさない透明な刃。

しかも刃の部分に重さを感じない。

柄の部分を握れば相手には何も見えないだろうと思ってしっかりと握ってみたら柄の部分も消えて見えなくなった。

これで俺は完全に何も握っていないように見えるだろう。

 

「あの、これで誰かを殺れって事ですか」


どう考えて暗殺用だ。


「いえ、とんでもない。役に立つ小物を差し上げようと思ったんですが、普通の物ではつまらないのでそれになりました。それでも神器なので見えない事と絶対に折れたり刃こぼれしません。聖剣程の切れ味はありませんけど」

「今つまらないって言いましたか」

「いえいえ、気のせいです。何よりナイフの類はあればきっとお役に立ちますよ」


やはりこの人は俺の想像する女神とは少し違う。

けど貰える者は貰って置こう。

そのうち何かの役に立つ事もあるだろう。多分。


「ありがたく頂きます」


俺が受け取るとローさんは嬉しそうに笑った。


「では次の依頼です」

「もうですか」


速すぎるだろう。


「ああ、すぐに取り掛かって頂きたい案件ではありません。まだ速いんですが先にお伝えしておいた方が良いかと思いまして」


嫌な予感がする。

つまり準備が必要になると言っているのだ。


「可能な限りレベルを上げてください。純粋な強さが必要になります」


そう来たか。

俺の魔法はどんな相手だろうと一撃だ。

だが当らなければ意味が無い。

当る状況に持っていけば良いのだろうが、やはり自力の違いは大きい。

ホワイトファングで思い知った。

最後はほんのわずかだが動きが見えるようになったし。

対応は出来ないけど。


「そう言われましても、レベルなんて分かりませんよ」


ゲームじゃあるまいし。

それとも俺が知らないだけで分かるのだろうか。


「その力を与えられて方もいますが、兄はそれが大嫌いだったので禁止になりました。今いる使徒の中で使えるか方は1人だけですが簡単には会えないと思います」


ローさんは頭痛を堪えるように額を押さえていた。

1人いるのか。


「レベルが分かると何か問題があるんでしょうか。便利だと思いますが」


強さが数字で見れるなら分かりやすいし、相手のも見れるなら戦いが楽になる。

ゲームでもよく使ったものだ。


「例えばあなたがファンタジー小説を読んでいて、登場キャラクターのステータスなんて書かれていたらどう思いますか」


ゲームのようにレベルに始まり力とかスキルとかが書かれていると言う事か。


「そうですね。一巻の最後に主要キャラ1人2人のが書かれていたらちょっと見るかもしれません」


大して興味は無いが主人公の強さとかちょっと見るくらいだ。


「では1巻の中はいくつもの章で分けられていますが、全ての章に主人公と仲間のステータスが細かく書かれていたらどう思いますか」

「邪魔です。そんな物無いと思いますが、あったなら見もしませんし、読む気が一気になくなりますね」


あるのかそんな物が。

そう言えば昔読んだラノベに主人公が呪文を唱えるとその前後の行が空欄になるのがあった。

だから1ページがスッカスカだった。 

それと同じような行稼ぎだろう。 

 

「あったんです。そしてそんなものばかりを繰り返し見せられた兄は我慢の限界を迎えました、貴方と同じ理由で以降、姉の世界で一切のステータス等を見る力を禁止しました」


ちょっと今の所が気になった。 


「つまりあなたのお兄さんはこの世界を小説として読んでいるんですか」


一瞬ローさんはハッとした表情を浮かべたが、すぐに真顔になって頷いた。


「そうです。あっ私はテレビみたいに見る事の方が多いですよ」


そうか。

以前物語とか主人公とか言っていたのはそう言う事か。


「自分のレベルを見る事は出来ませんがゲームではありませんのでそれが当然です。とにかく無理はしないで強くなるようにしてください。死んだらおしまいですから」


RPGには死んでも生き返る事が出来る物と出来ない物がある。

大抵は戦闘で死んでしまってもアイテムや特定の施設で生き返る事が出来る。

別にそれが悪い事だとは思わない。

生き返ることが出来るが回数制限があったり、生き返る確立があって失敗したら完全に死亡するとか。

それと逆にどうしても許せない物があった。

戦闘で叩き潰されようとも魔法で丸焼きにされようと生き返るくせに、イベントで銃で撃たれたらあっさり死んだやつがあった。

それまで平気だったのに設定されたイベントではあっさり死んだのだ。

例えイベントで死んだとしても、敵を道連れにマグマに飛び込むとか、限界以上の力を使って文字通り力尽きたなど言い逃れの出来ない死に方なら納得した。

なのにとあるゲームでイベントで銃で一発撃たれただけで瀕死になって、仲間と最後を語り死んだのを見せられた時に一気に冷めて二度と続きをプレイする事はなかった。

そんなクソゲー認定したゲームはともかく、現実ではどんな状況でも一撃でも当たり所によっては死ぬ。 

だから慎重にレベル上げるためにかなりの安全マージンを取る必要があり俺も無理をすりつもりはないのだが。


「かなりのレベル上げが必要になりますか」


俺はRPGで経験値を稼いでレベルを上げる作業は苦にならない。

もちろん限度はあるが。

 

「結構必要になります」


レベル上げは強い敵を倒し続ければ、それだけ速くレベルを上げられるが当然危険が増す。

ローさんの話し方から察するに少し無理しないといけないかもしれない。

 

「善処します」


だからこう答えるしかないわけだ。




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