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内定もらってたらしい

俺は何も考えずにドアをノックした。


「どうぞお入りください」


扉の向こう側から女性の声がした。

以前に聞いた声だ。 


「失礼します」


ドアを開けて入ると中に居たのはやはり以前面接を担当してくれた緋色さんだった。


「どうぞおかけください」


俺が机を隔てて向かい合うように座ると、緋色さんが何やら難しそうな顔をしている。

以前と同じで十代半ばに見える容姿だが何か雰囲気が違う。


「さて、周防さん。ここに来てもらったのは他でもありません。まずはこれをご覧ください」


机の上にはさっきまでは無かったはずのプロジェクターがいつの間にか置かれており、緋色さんが何もしていないのに部屋が暗くなりプロジェクターが勝手に動き出して壁に何かが映し出しはじめた。


「おや、俺ですか」 


そこに映っていたのは俺だった。

ベッドで寝ていた俺は目を覚ましたのか枕元の時計を見ると飛び起きた。

時計は10時を指しており完全に寝過ごしていた。

慌てて髪を整え髭をそり、スーツを着て鞄を掴んで部屋から飛び出した。

つまり俺の部屋に監視カメラでも仕込まれているのだろうか。

だが俺の視線に気付いたはずの緋色さんは黙ってその光景を見ている。

仕方なく続きを見ると俺が廊下を走り階段を駆け下りて行く様子がずっと映し出されている。

まて、どうやって撮っているんだこれは。

俺はマンションの出入り口を出たところでカメラが引いてマンション全体を映した。

そこで何故か俺は立ち止まっている。


「ああ、思い出した。これ」

「はい、今朝の事です」


仕事を辞めて、ようやくゆっくり寝たはずなのに、寝過ごしたと思って慌てて走って外に出た所で思い出したのだ。

もうあんな所に行かなくても良くなったんだと。

そして着換えてもう一眠りしようと振り向いた時に何かすごい衝撃があって次の瞬間にはここにいた。

だが映像では俺は屋上から降ってきた何かに潰されて地面に倒れていた。


「えっと今のは」

「少し戻します」

 

緋色さんがそう言うと映像が少し巻き戻った。

手にリモコンの類は持っていないしパソコンもない。

どうやったんだ。


「スロー再生します」


何があったのか今度は分かった。


「マジかよ」

「マジです」


それは血まみれの見知らぬ女だった。

屋上から飛び降りた女が俺を直撃した。

結果として俺は地面に横たわり頭から血を流している。

打ち所が悪かったのか目は見開きピクリとも動かない。

つまり死んでいて女の方も同じだった。


「えっと、私はこの女の飛び降りに巻き込まれて死んだって事ですか」

「はい、真に残念ながら」


嘘だと言いたかったが嘘と言い切れる要素が無く、何より何故か自分自身が納得していた。

ああ、俺は死んだんだって。

なら今の俺は何なのか。


「貴方には今日にでも内定を出そうと思っていました」

「はあ、そうですか」


この緋色さんは何者なんだろうか。

そんな俺の考えを読んだかのように緋色さんは名刺を取り出した。


「改めまして。私はローと申します」

「これはご丁寧にどうも」


受け取った名刺には破壊とテコ入れの女神ローと書かれていた。

緋色さんではなくローさんだった。

しかも女神と来た。

けどテコ入れとは一体。


「私にはカーナと言う姉がいまして。姉は世界を造る創造の女神です。そして私は姉のカーナによって生み出されました」

「姉に生み出された」 


それは姉ではなく母ではなかろうか。


「姉には弟がいます。つまり私にとっては兄ですが、兄は姉の造る出す世界が余りにも酷いと判断するとその世界を容赦なく滅ぼします。ですが良い世界だと判断すれば、より良くなるように助言をしたり自ら手を加える事もあります」


滅ぼされる方はたまったもんではないだろう。


「ですが最近姉が酷い世界ばかり造るので片っ端から滅ぼされています」


緋色さん改めローさんは深い深いため息をついた。

苦労しているらしい。


「あの、酷い世界と言うのはどんな世界なんですか」


酷いと言われても想像が出来ない。

するとローさんの動きがピタリと止まり目が少し虚ろになった。


「世界には必ず中心になる人が存在します。主人公ですね。そしてその人と世界のあり方が問題になります。具体的に言いますと名前が違うだけとかですね」

「名前だけで他は同じだと」

「そうです。存在する人や物の名前が違うだけで前に造った世界と何処が違うのか分からないとかが多いですね。つまり同じなんですよ。中心になる人が同じような能力で同じような人達と同じような異性と同じような出会いをして同じような関係になる」


ローさんはまた深い深いため息をついた。


「えっと、それが酷いんですか」


よく似た物なんていくらでもあるはずだ。


「はい、それ以外が適当なんです。そのため世界で矛盾が発生してもそれに気が付かないで放置したり、気付いて修正しようとしてさらに矛盾が生じて世界が破綻する事もあります。何より兄は同じような物を造ってないでどれか1つにでも集中しろと言うわけです」

「なるほど」


しかし修正しようとしてされに酷くなるとか。

世界を造る女神としてどうなんだろうか。


「姉は兄が厳しすぎるから自分にやさしくて理解のある可愛い妹が欲しいと願い私を生みだそうとしました。しかし兄はそんな自分を全肯定するだけの存在なんて駄目だと干渉しました。そのため私は姉の願望を受けながら兄の考えも混ざって生まれました。結果私は姉が好きなので姉に甘いのですが稀に兄の影響でかなり酷い世界を滅ぼす事もあります。しかしどちらかと言えば私は世界の修正や方向を正す事を主とする存在となりました」


世界を修正。

なるほど。

だから破壊とテコ入れの女神か。


「貴方にはそんな世界の1つに行ってテコ入れをしてもらいたかったんのですが。まさかこんな事になるとは」

「えっと、何と言ってよいやら」 


別にローさんに殺されたわけではないらしいのだがこっちが申し訳ないと思うくらいローさんは気落ちしていた。


「それで俺は何のためにここに呼ばれたんですか」 


俺がそう言うとローさんは勢いよく俺の両手を掴んだ。


「実はそれでも周防さんには向こうの世界に行って頂きたいのです。貴方を1度だけ生き返らせる事が出来ますので生き返って仕事してもらいたいのです」

「マジですか」

「マジですよ。ですが」

「ですが」

「本当なら貴方が2.3ヶ月ゆっくりしてもらってから指定する世界に行って頂く予定でした。その場合もし向こうで死んでしまってもこちらに生き返って戻って来てこられる契約を結んで頂く予定でした。しかし今回のケースですと向こうで死んでしまうともう終わりです。生き返る事が出来ません。それでもお願いできますか」

「是非お願いします」


迷わず返事した。


「私が言うのもどうかと思いますがよろしいのですか」

「いえ、どうせ死んだ身ですから。むしろこちらが礼を言う方です。それに死んだ身で断ったらそれこそ終わりでしょう」


どの道死んだ身だし何よりそんな面白そうな話を断る理由が無い。


「いえ、もし周防さんが望むのなら異世界に行かずにある程度の条件を付けて転生が出来ますよ。私に関わった人ならそれが可能です」

「いえ結構です」


転生と言われ俺は迷わず答えた。

何故なら生まれ変わったらそれは自分ではなく自分の記憶を持った誰かだろうと思う。


「そうですか。ありがとうございます」


ローさんは安堵したように微笑むと何処からともなく1枚の紙を出してきた。


「これが契約書です。よく読んで拇印をお願いします」


女神様とのやりとりに紙の契約書とはどうなんだろう。

肝心の中身の方は幾つか気になる事が書かれていた。

出向先では基本的に自由だが女神ローの指示には従う。

出向期間は不明。 

保険等は適用されない。

生命の危機に関しては自己責任、

あと死んでも1度だけ生き返れる事が出来るの一文が消されている。

これはその1度を今使う事になるからだろう。


「あの、そもそも私が行く世界はどんな世界ですか」

「ゲームのような小説のようなファンタジーな世界を思い浮かべてください。剣と魔法で魔物と戦う危険な世界です」


それは是非行きたい。


「出向とありますけど帰れるんですか」

「生きて帰る方法はありますが、通常それは私が関与出来ない案件です。具体的には姉と出会えれば帰れます。その場合飛び降りた女性とぶつかる前に戻りたいと願ってください」

「なるほど。では指示と書かれていますが具体的にどのような物でしょう」

 

前の職場のような理不尽な物で無いなら構わないのだが。


「多岐に渡りますが、そうですね」


ローさんは人差し指を額に当て何やら難しそうに考えていたが、何か思いついたのか実に楽しそうに微笑んだ。


「姉さんの加護を受けた主人公達を倒していただく事になるかもしれません」

「それは、良いんでしょうか」

「別に悪者になってほしい訳ではありません。某猫型ロボットの便利な道具を手にした人が良い人とは限らないんです。姉さんの人選はかなり適当なんです。そのくせ放置するので酷いことになります。そんな人を場合によっては始末してもらいます」


始末しろとか笑顔で言う事ではないと思う。 


「大丈夫ですよ。姉さんの転移を受けいれた人はこちらで死んでしまった人達なんですが向こうで死んでも1回だけその場で生き返れますから。ただし生き返ると加護がなくなります」

「俺は無理なんですよね」

「はい、残念ながら。けどその分加護が強力ですよ。あっ加護って言うのは私達が与える特殊な能力です。強力な魔法の資質とかお約束な能力とかです」

「お約束、ですか」

「はい」


ローさんはまた苦虫でも噛み潰したような顔をした。 

本当に表情がコロコロ変わって見ていて飽きない。


「よくあったのは四次元ポケットっぽいアイテムボックスですね。殆ど無制限に物を収納出来て、中は時が流れていないので物が腐らないのが多かったですね」

「それは便利ですね」

「はい、とても便利です。ですが一期全ての主人公にこの能力を無料配布していい加減にしろと兄が怒りまして。それ以降は使用禁止になりました」


ああ、なんとなくローさんの言う事が理解出来るようになって来た。 

つまり最初に言っていた世界にいる主人公達がみんな同じ能力を持っていたら沢山の世界も意味が無いと言う事の意味が。

 

「他は、そうですね漫画や小説に出てくるキャラクターの力を模した物ですね。とにかく姉は世界の中心たる主人公を強くしたいんです。その世界最強に。兄はそれを見ていつも嘆いていました。最強最強と自分が言うのもアレだけど、まるで宗教だと」


そんな事を言われて俺は昔あった宗教を思い出した。

教祖が拳を振り上げて叫ぶと信者達がそれに続くアレである。


「みなさあああん!最強ですかあああ!」

「「「最強でえええす!」」」

「最強!」

「「「最強!!」」」

「最強!」

「「「最強!!!」」」


つまりローさんの姉である女神のカーナ教とはそう言う物なんだろう。

噴出しそうになるのを堪えているとローさんが噴出した。 


「な、何それ。そんな宗教あったんですか」

 

どうやら俺の考えは筒抜けだったようだ。

アレは最強ではなく最高だったがそんなノリの気がする。

 

「違います。姉さんの教えはそんなんじゃないですよ」


落ち着いたイメージのローさんが慌てているのは見ていて楽しい。


「と、とにかく周防さんに行っていただく世界には姉さんが転生させた主人公が沢山いて中には好き勝ってやってる人もいます。もちろん別に全てを始末してもらうつもりはありません。基本は自由に過ごしてくださってかまいませんが、探索者として生活をしつつレベルを上げてください。自分では見えませんがゲームのように敵を倒せば強くなりますので。あと探索者とは要するにゲームでよくある冒険者ですね。迷宮にもぐったり地上でモンスターを倒して素材を取ったりする」


当然のようにそういう生活をして欲しいと言う訳だがもちろん俺はそう言う生活をする予定だ。

折角そんな世界に行くんだから冒険しないでどうする。


「貴方には面接の時に話された強制負けイベントをぶち壊せる万能無属性魔法を与えます。あらゆる理を無視する力ですので慎重に扱ってください。何か質問はありますか」

「こちらから連絡したい時はどうすれば良いですか」


報告連絡相談。

略してホウレンソウは社会人として基本である。

それに対してローさんはそうですねと少し考えた。


「では寝る前に私に会いたいと強く願ってください。そうすればここに来れるようにしておきましょう」

「向こうにいる主人公の人達はカーナさんの加護を受けるてるんですよね。それは何人くらいいるんですか」

「今現在は11人ですね」

「彼らの受けた加護はどんなものですか」

「申しありません。それはお答え出来ないんです」

「なら私以外に貴女の加護を受けた人はいますか」

「いいえ、貴方だけです」

「言葉は通じるんですよね」

「はい。読み書きも出来ますよ」


それはありがたい


「では最後に、何故私なんですか」


女神であるローさんが俺を選んだ理由が知りたかった。

俺は唯の社蓄だった人間だ。 

ローさんの要請を叶える人材は他に相応しい人がいるはずだ。

  

「それは残念ながら言う事は出来ません」

「そうですか、気になりますが分かりました」

「もし知りたくなったらご自分で捜し求めてください」


ローさんはにっこりと微笑んだ。

どうやらこの件は俺にとって悪い話ではないらしい。

今聞ける事はこれくらいか。

後は行って見ないと分からない。


「分かりました。何かあればまた連絡させてもらいます」

「はい。ではこれにて終了です。貴方の働きに期待しています。どうか良い旅を」


ローさんがにっこりと笑うと辺りが暗くなる。

こうして俺は再就職した。

勤務先は異世界。

上司は女神。

フレックスタイム制で尚且つ完全出来高制。

今度は自分のために頑張るとしよう。


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