背景世界 再改訂版
歴史は人が竜に滅ぼされようとしていた時に始まる。名のない魔術師は竜(なお過去と現在ではその意味する範囲が異なる)を魔法によって殺した。これによって彼は竜殺しとして知られる。彼は死んだ竜の魔力を元に巨大な結界を張りおよそ三千人の人々を救済した。これが現在まで残る人々の祖先となった。この時に古代の三十の王朝が救われたと伝わる。現在まで知られているのはキュムグ(Kymgu、クムグ、ヒュムグ)、カムレ(Kamre)である。それらはいずれもクドゥル及びデンバクドゥルの王家である。他にアッギギ(Aggigi)、ヴァンダングー(Vandangu)、エルニヤ(Elnya)、オゴー(Ogo)、シンヒス(Shinhis)、スーム(Sum)、タエークー(Taeku)、ダガパ(Dagapa)、ディルニルル(Dilnil’l)、ドゥルカウンナウル(Durkaunnaur)、ネムニタク(Nemnitak)、ノース(Nos)、ハーン(Han)、ハム(Ham)、フティド(Hutid)、ブーフ(Buf)、ブレトゥ(Buretu)、ペボエト(Peboet)、ペルワ(Perwa)、ミカイヤ(Mikaiya)、メブレクク(Mebrekuk)、ヤケス(Yakes)、ユィ(Yi)、ユズズナエグ(Yz’znaeg)、ルーン(Run)、ルケヤ(Lkeya)、ワゴーフイ(Wagohui)、ワンカウワン(Wankauwan)という名も記憶されているが既に滅びた。イブブーク、エルニル、ガイブーク、カリグ、ナドレーア、ハウゲンス、モロクという名も伝えられて、王朝の数は三十に一致しない。しかしそれらは自らの起源を古の王朝に遡らせるための過去に現れた王たちの計略であるとも言える。結界内部は後に内域と呼ばれ、名のない魔術師はその中に自ら閉ざされる運命となった。名のない魔術師は唯一の神の存在を認めたが、神を必要としなかった。以後彼に従う魔術師は本質的には無神論だが、自らが人間を超えた存在として神のようになれると信じている者が多かった。内域にはそれまでは殆ど孤独であった魔術師が一箇所に集中することによって人と竜との戦いにおける研究が進み月の魔力によって竜を殲滅する方法を見出した。これによって竜殺しと呼ばれるようになった魔術師は三人の魔術師を結界の外へと送り彼らは月が天頂にかかる位置で魔法陣を張って月を鈍くも破壊した。月からは魔力が溢れ出し世界は月の魔に覆われて竜はこれらによって喰らい尽くされた。
なお結界外苑に侵入できた弱い竜はそのまま生き残りその後人々を苦しめてきた(内部に秘める魔力が大きいほど結界内部には侵入できなくなる)。月はそのおよそ二千年後に崩壊し六つに分裂したがその時代の内に五つは破壊されて現在に至る。竜殺しと呼ばれた魔術師は結界内部に閉ざされておよそ千五百年後に肉体が朽ちて消え去った。竜は月の魔力が大地に満たされたことによる自然結界によって大空に押し出されその命が尽きて後延々と空を飛び交っていた。その密度は地域によって変化し時には渦巻いていた。右巻きと左巻きでは左巻きの方が尊ばれていることが多かった。地上に取り残された竜は基本的に精霊湖の水を啜るか竜砂魔砂漠の砂をしゃくらなければ飛べないようになった。竜を産むのは走竜、炉竜、臥竜の三種類の獣であり、その種の繁栄の方法としては、卵ではなく子を直接産む。これらの獣はそれほど長く生きないが雌は竜に変容して各地に卵を産み、それから繁殖しない竜が産まれる。この竜は千二百年ほどの寿命を持ち、人々を苦しめるのである。なお魔術の言語化に成功したのはこの時代であり後世に星鴉大として知られる一人の少年による奇跡的な精霊との交流により実現した。その後異なる人物であるがスウヤーウルウンによる魔術は星穀峡谷の全ての魔術師の規範となった。彼は魔術大法典を書き残し、8000頁に及ぶ知恵はその後のほとんど全ての魔導書の事実上の参照元となった。しかし原典は内域にのみ残され、その後消失した。
魔術師と人々によってサンフィネス教が成立していった。それは一つの聖典を有している教えの体系であり、人間がどのように生きるべきか、歴史がどのように展開されてきたかについて体系的に語られていた。一夫一婦制を基調としながらも一夫多妻制を容認し、殺人や姦淫、盗み、偽証を禁じていた。それら法を守らなかった場合は投獄され、最悪の場合は処刑された。また一人一人の内に神が宿り、また神とは一人一人のことである。
会堂は教会と呼ばれ、内域以外の地域にも広がっていった。これは魔術師らによって公認された最初の宗教であり、倫理的、道徳的に非常に吟味されていた。しかし悪しき魔術師の理念とは対立したので、公に信仰告白することが困難な地域もあった。信仰告白とは「善き魔術師に従い、共に歴史を紡ぐ」というようなものである。後に冒険者たちの間に最も広まった教えであり、彼ら固有の神々との信仰と習合する形で多様な固有の信仰の総体としてサンフィネス教は存在した。
また、その教えでは外典の存在を認めていて、預言者と呼ばれる人々が語ったことを一部或いは全部聖典に取り入れつつ、書物の記述が拡大されていった。その書物は聖書と呼ばれた。
その時代重要な人物として知られるのはコズュンである。彼は教会で指導的な地位にあり、伝道者として活動していたが、やがて教会を離れた。二十年後メウ湖の畔で目撃される。そのご目撃証言が途絶えたとされるが、彼は永遠に生きていると考えられるようになった最初の人物であり、神の子になったと言われている。しかしサンフィネス教会は神の存在を積極的には認めていない。
地上には地下深くに沈んだ竜の血が各地から噴き出して精霊湖の水と混ざり合った地では悪し水泥虫或いはボーニャパケトロイミと呼ばれる半固形の液状の生命体が飛び出した。それは魔力を集め増大したため魔術師と後述のトークレムによって重宝された。古い時代のレイスには悪し水泥虫の沼地が広がっていて魔力溜まりを広域に展開していた。それはその地域の王の王権の象徴であり、右手の王笏と共に左手に悪し水泥虫を持つのである。
多くの強大な竜が滅びたことによって、人々は全地に広がっていけるようになった。しかし魔力の影響により砂漠に覆われていた。このため魔術師たちは土地を再生するために動き出すこととなった。この時から既に善き魔術師と悪しき魔術師たちの分断が起こり始めていたと言える。内域に残った魔術師たちは人々の生活を整備するための世界観や歴史観、人生観を含めたサンフィネス教の構築に努めていた。一方で外域に出ていった人々は自身の起源を求め、また心に望むことに忠実になろうとした者がいた。アーヴェナダ砂漠のオアシスに巨大な城を建てた王エルーディランド・レダ、魔術師としてはエルーディランダルスとして知られる者は協力者であった魔術師らと共に文明の再興を独自に取り組んだ。
内域の北東には無尽森林が広がり多くのクドゥルが住み着いた。無尽森林とは魔力によって領域が結界となってある森の一点が無限に広がるように受け取られることからそう呼ばれる。つまり有限の領域の森が外側からは見えずとも内部で無限の森として広がっていくのである。球状の大地の一点の接平面としての領域空間として一にして多の、多にして一の無尽森林が無数に出現するのである。このため事実上無限に多くの木材を得ることができたためクドゥルはこれを魔術師を介して人々に提供していた。これはデンバクドゥルにも同じことが言えるのだがクドゥルとデンバクドゥルの違いは曖昧でありながら斧が片側の刃しかついていないのがクドゥルで両側についているのがデンバクドゥルといった具合である。デンバクドゥルとはドーブニウ山脈に住んでいた者のことを指す言葉である。
クドゥルやデンバクドゥルは元々は人間なのであるが、人々から離れた存在となって魔力による影響を受けずある部族は食料や水分を摂る必要がなくなった。死から遠かったが寿命の上では百三十年程度の存在である彼らは魔術に対して敵対的な考えを抱いていてスッザーリヤと呼ばれる永遠の命を持つ人々の存在を信じていた。以後剣を携えてあらゆる戦いに関わるようになった彼らは人々の王国の王から雇われて傭兵となる例が相次いだ。魔法は禁忌のように唱えられていたが一方で魔術師として育てられることになる者も中にはいた。本質的に魔術師の才能のある彼らは成長して五百年生きるようになったのだが魔法を禁忌としていた反面魔術師との関係は穏便なものとしていたため長老として部族を指導することがあった。
内域の西には南北にドーブニウ山脈が走り多くのデンバクドゥルが住み着いた。デンバクドゥルは人々から外れた異質の存在であり勇敢な者を多く輩出した。デンバクドゥルは山地に数多くの王国を設立して山を下り支配地を拡大することがかつてあった。後のレイスで青銅の時代と呼ばれるその時期は炉竜と呼ばれる獣に青銅の精錬をさせて斧を携えていた。「我ら斧の戦士」という言葉で知られる彼らは精霊湖周辺の湖に生えた木々を伐採し魔術師の仲介を経て人々に多くの木材を売っていた。ここで手に入れた金貨や銀貨などがドーブニウ山脈の坑道に残されている。鉄鉱石などを採掘していた彼らは鉄を生産しようとしたが炉竜によってうまくいくことはあまりなかった。そのため青銅の戦士として有名である。なお人々の救済からおよそ千年後にエンスとカンを無尽森林から支配地域としたクドゥルらは鉄の王国と呼ばれそれは鉄の時代とされている。製鉄技術に優れたクドゥルは無尽森林に現れた。デンバクドゥルの信仰体系には名のない魔術師が組み込まれていて魔術師を神的存在或いは神の使いとして扱っていた。彼らの有名な王ダウムネオグによって統一的な見解が形作られた。彼らは独自の星詠文字によって占いをし、様々な散文や韻文を粘土盤に刻んだ。
救世歴113年12月、内域の北東の岩石砂漠マジェローバにおいて悪しき魔術師たちは賢魔竜と契約を結んだ。「竜の世が来た時には我々が人を支配するかをあなた方に委ねる。今の世において我々は人を支配するように努める」これは「世界の記録」に残されている。
悪しき魔術師たちは魔竜の呪いを防ぐ聖なる盾を作り上げた。契約が反故にされた場合竜の軍勢と戦うためである。彼らは竜を信じつつ竜殺しの英雄を求めていた。魔王たちは禁忌であった異世界召喚魔法を用いて、異世界由来の人間や魔物を多数呼び寄せた。
同じく救世歴113年12月、ルガムの北、アーヴェナダ砂漠中に地下迷宮Lg113.12が建設された。全体で七層になっていて数十人の魔術によって一気に完成した。全階層において扉の魔法で脱出できる。難攻不落とされていたが、427年に初めて攻略され、その後572年ごろからは断続的に攻略者が出ている。
ドーブニウ山脈の北に住んだデンバクドゥルは天バクドゥル(グザンレンバクドゥル)と呼ばれ、彼らは彼らの有名な王レピュアの子孫から救世主が生まれると考えていた。それは全世界を統一し人々に命を与え、永遠に生きるようにする存在なのだが、救世主を名乗る者は何人か現れたが、世界帝国も永遠の命も実現していない。しかし彼らが衰退して後、池田の子孫との交流からキリストを救世主と崇める人々が集団で起こされ、ある種のリバイバルが起こった。
人々は内域の南東にある大河の周辺に人口を集中させていて特に「剣河」(エダルカド)と呼ばれる大河周辺に文明が起こった。その地では架空の王の名の下に多くの魔術師が知恵を働かせて文明の発展に努めていた。すなわち多くの魔術師が一人の王の名という偽名の形で活躍した。その名はクリストスである。その地においては公共事業としてピラミッドが数多く建てられた。また使用期限のある貨幣を導入しその時代において経済が著しく発展した。またエムハヤムルスを中心とした魔術師たちが呪砂によってヤクト・ツェパデの壁を形成したことで、内域への陸路が完全に閉ざされた。
レイスにはいち早く人々が集まって王権が成立したが百年と経たない内に暗断裂によって滅んだ。その主因は魔王ベルクゴルム・レムの暴走であると考えられている。しかし実際には本質的ではないと言える。彼は空に浮かぶ巨大な鯨を造ろうとして他の研究と共に途中で挫折させられたものと伝わっている。その後のレイスでは諸魔王と諸魔将による奇跡と捉えられているのだが、巨人を除くほとんど全ての巨大な生命を実現し、結界の内部作用に支えさせながらその命脈を保っていた。しかし月魔世の終わりまでにそれらは全て封印された。それらは魔王によるその地の根系を担っていた。環レイスと呼ばれたレイスの北東地域では魔術の知恵が重んじられ数多くの図書館が建てられた。暗断裂によって滅んだレイスの知恵を集めるためにある魔術師が立ち上がり暗黒のレイスの魔術にまつわる石版を集めて環レイスの各地の図書館にそれらを取り戻した。その後オープ・パルクによってルガムの北東に建てられた大図書館にその知恵は移された。大図書館は全ての魔術の知恵を集結する目的で築かれた所であり、後に魔術の使用が段階的に禁じられていく過程において、後世にそれまで知識や知恵を残す拠点となっていった。
この頃までに小人族の手によってエレノイヤ(エル・レノイヤ)と呼ばれる聖剣が打たれた。それは刀身が輝きを放ち、精霊が宿っていると言われた剣で、時が経っても錆びて古びることなく、その切れ味と美しさを増し、職人としてのデンバクドゥルにも知恵のある魔王にも再現できず、その名を汚されたことがないので、ほとんど唯一の聖剣として知られる。それはレイスの様々な王家によって守られて、月魔世に行方が知れなくなるまで、その地における支配権の象徴だった。その後小人族は衰退し、歴史の表舞台から姿を消して各地に点在する森の中で細々と暮らすようになった。なおエムティッサも聖剣として知られている。
救世歴221年2月スウヤーウルウン朽ちに及ぶ。
救世歴246年8月地下迷宮Dr246.8が築かれた。
救済後三百年ほどの間にアズバータによってレンダーク教が創始された。後世六星派、淵世派、楽派、大車輪群などの分派が生じた。レンダーク教が共有している世界観ではこの世界の起源については特に説明を求めていないか、六星派ではテノンスという神格による創造としている。テノンスはその教派ひおいてアアネンパの三分神の一つであり、魔術の神テノンス、秩序の神コアムティ、身分の神サザヤネルがいるとされる。アアネンパの分神がいるところが天であり、第三の天である。第二の天は魔術師たちが作用する領域、第一の天は月のある領域の宇宙である。淵世派においては魔術による自律性のある機関に意味を見出している。これは魔術を用いる生命を含め、この世界が幾つかの概念によって生成されたものと考えていたからである。この意味で、魔術というものは魔術の連鎖を生み出し、互いに制し合う多元的なものと理解されつつも、一つであるということは本質的に多数であり、この世界は還元不可能な円環の上に建てられた城のようなものと捉えていた。円環は虹によって比喩され、この世界は実際にあり、形を持ってあるということが厳かで美しい、それを聖なると呼んでいた。魔術師たちは一定数レンダーク教淵世派或いはノーザンガの世界観を受け入れていて、善とは第二の天において永遠に残る記念碑的な仕事をすることだった。レンダーク教は基本的に虚無的な世界観を持っている嫌いがあった。しかし楽派はそれとは反対に、全てに意味があり苦しみは本質的になく、死後全ての人は至福に至ると考えていた。大車輪群においては輪廻転生が説かれていて、この世界自体も破滅と再生を繰り返しているのだと見ていた。六星派では人、クドゥル、デンバクドゥルの起源をテノンスによる異世界からの人間の召喚であると考えていた。人は一万年前、クドゥルは二十万年前、デンバクドゥルは十四万年前くらいと説明していた。
救世歴612年、剣河流域で量産型の魔法の杖が開発される。魔法使いの間で爆発的に普及した。
『水を運ぶ者』参照
北原平原の東、無尽森林近くの市街、後にエセンと呼ばれるところで一般攻撃魔法が再発明された。魔術師はその知恵をすでに知っていたがかなりの範囲で秘匿としていた。魔術師同士の戦いの中で歴史の中に語られることはあったが、再現性は最早なかった。しかし救世歴732年7月エセンの魔法使いシシは実践形式の演習の中で彼自身は聖光と名付けた魔法を披露した。対戦相手は死亡、その名が周辺に広まった。本人は罪を問われることはなかったため、魔族との戦いに出て百人以上殺した。魔術師たちはこの魔法が広まることを快く思っていなかったが、北の魔族が習得したことを受けて黙認した。エンスで、レイスで、ルガムで、カンで相次いでこの魔法が再現され、一般攻撃魔法の起源と見做されている。
救世歴735年7月結界魔法を利用した防御魔法が内域の魔術師により示される。以後一般攻撃魔法は魔法使いを殺す魔法ではなくなる。
救世歴752年10月カンのレオグラドでセカンナ学校の学生ラトにより実用的な空を飛ぶ魔法が構成、或いは再発明される。以後魔法使い同士の比較的低空での空中戦が繰り広げられるようになる。
人々の救済後八百年の間に各地に残された巨竜が人間の手によって墜ちていった。その一つとして現在にも伝わるのが大長虫ことツァロメロズである。竜を殺した者としては別にダエーセンやツォーレヌーが知られている。彼らはその業によって富を得て穏やかな余生に暮らした。またエリンという女性も竜殺しに数えられその地の王に城を報酬として得た。彼女の書いた書物群の影響はエリン派と呼ばれる一種のカルト集団を生んだと伝わる。またエンスとカンの間にあったアナーナク王国の騎士ギーナーはニョブジジとして知られる竜を殺した。
救世歴932年10月、地下迷宮Dr932.10が築かれた。
エンス、カン、ルガムには人々が集まり繁栄した。というよりは人々が集まった地域が歴史以前の有名な地名によって呼ばれるようになった。その間の地域は隙間(以後インパル)と呼ばれ、その地の人々は厳しい環境に置かれ、多くは飢えか渇きで死んでいった。砂漠地帯は一度魔術師の計略によって羊歯の森に姿を変えた。その後徐々に再度砂漠化されていった。
その時代、月の魔力が地に満たされたことによってその魔力と局所的に結びつくことによって魔術を扱う非魔術師が現れていた。彼らの内人を殺せる者をトークレムと呼び、そうでない者をトークレドと呼んだ。魔術を扱えない者はトークレと呼ばれていた。トークレムは魔術師とは違い短命である者が多く五十年ほどで命を地の魔力に奪われていた。魔術師は基本的に魔力の塊のようなものでありそれぞれが固有結界を持っている。このような人々は肉体が朽ちるまで命が存続し五百年以上の寿命を持っていた。魔術師はトークレムをあまり好ましく見ていなかったのだがトークレムは王国の支配者となることがかつて多かった。魔術師は宮廷魔術師として政治に参与することが通例であったがこれはエンスの地において多く見られた。ところで魔力を内に秘めた金をハデノンゴール、銀をディスニルフィア、銅をアジェインベウブ、鉄をキュクセインシャン、錫をカグァルカグァン、鉛をトヌマと言った。またこれらの名を持ってそれぞれ対応する金属が後世呼ばれるようにもなった。
この世界では、死者は必ずしも消え去るものではないと考えられている。人間が死ぬと、その魂は多くの場合、深い眠りのような状態に沈んでいく。人々はそれを陰府、眠りの国、底の静けさ、あるいはただ「下」と呼ぶ。しかし、全ての魂がそこへ正しく沈むわけではない。強い未練、名の重さ、呪術による拘束、或いは魔力の濁流に飲み込まれた魂はときに世界の面に残される。
その魂が魔力由来の魔物と結合した時、その世界における最も不気味な存在の一つが生まれる。
それは人間の転生ではない。死んだ者が新しい人間として生まれ変わることはないはずである。ただ、かつて人間であった魂の欠片が、魔物の肉、魔力の核、獣の本能、土地に染みた記憶と絡み合い、ひとつの異様な存在となるのである。
このような魔物は、ただの獣ではない。人の言葉を理解することがある。古い家の扉の前で何日も動かず、すでに滅びた家族の名を鳴くことがある。かつて愛した者に似た相手を守ろうとすることもあれば、逆に、守れなかった者への憎しみだけを何百年も繰り返すこともある。魔術師たちはこれを「魂結び」と呼ぶ。だが、民間ではもっと恐れられている。「死にそこなった魔」「帰れない人」「獣に食われた魂」「黒い弔い」地域によって呼び名は異なる。
特に戦場跡、古い魔法都市の地下、月魔世以前の神殿遺構、竜と人が争った谷、そして魔王の分身体が討たれた土地では、こうした存在が生じやすいとされる。そこでは大地の魔力が穏やかではなく、死者の眠りを下へ送る力よりも、世界の表面へ引き戻す力が強いからである。
冒険者や魔法使いの中には、これらを単なる討伐対象と見なす者もいる。実際、多くの場合、それは正しい。魂結びの魔物は人を襲い、村を汚し、井戸を濁らせ、子供の夢に入り込む。放置すれば土地そのものが病むこともある。
しかし、熟練した魔法使いの中には、剣や炎ではなく、まず名を問う者がいる。「お前は何を覚えている」この問いに反応する魔物は危険であると同時に、ただの魔物ではないとされる。完全に人間ではないが、完全に人間でなかったとも言い切れない。その曖昧さが、この世界の死生観を深く歪ませている。
人々は輪廻転生を信じない。死んだ者が別の赤子として帰ってくるとは考えない。けれども、死者がまったくこの世界から消えるとも思っていない。ある者は眠り、ある者は沈み、ある者は名だけを残し、ある者は魔物の中で狂った夢を見続ける。
そのため、古い村では葬儀の際、遺体を清めるだけでなく、故人の名を三度呼び、最後に一度だけ呼ばないという風習がある。三度呼ぶのは、その人が確かに生きたことを世界に刻むため。最後に呼ばないのは、その魂をこの世に引き留めないためである。
魔術師はこの風習を迷信と呼ぶこともある。だが、迷信だけで片付ける者は少ない。この世界では、迷信とはしばしば、かつて誰かが生き延びるために見つけた不完全な真実だからである。そして旅人は、夜の荒野で遠くに人の声を聞いても、決して返事をしてはならないと教えられる。それが本当に人間であれば、朝まで待てばよい。それが人間でなければ、返事をした瞬間、こちらの名を覚えられる。
名を覚えられた者は、夢の中で呼ばれる。夢の中で三度返事をした者は、やがて自分の死者と魔物の区別がつかなくなる。だから、この世界の夜は静かではない。沈黙の中に、返事を待つ声がある。
廃墟の柱には読めない文字が残り、神殿のレリーフには名を失った英雄が刻まれ、森の奥では、かつて人であったかもしれない魔物が、誰かの帰りを待っている。
この世界の恐ろしさは、死者が戻ってくることではない。戻ってきたものが、もうその人ではないこと。それでもなお、どこかにその人の欠片が残っているかもしれないことにある。
魔術師はまた、ル・エルの救いとル・イルの滅びを信じていた。それは神によってある特定の知識が与えられた者は神の言葉を担い、永遠の命を霊の内に実現するというもので、自分からそれを手に入れたと思い込んでも滅びに至るというものである。これは心に刻まれた知識の価値というのが絶対的でなければならないというもので、特に「聖なる神の正しさの基準に適う正しい者は死んで(墓に葬られても)その日のうちか数日で復活する」という理解が神から来た者は永遠に生きられるという信仰があった。しかし彼らは名目上神を必要としない人々が多く、自らが神のようになれるという自己認識の下で運命を自力で左右しようとした。特にある人々は永遠の眠りというのを求め、魂の消失を目指していた。彼らは名のない魔術師は神か神の子、神の霊を持つ者であるということを信じていて、彼が復活することを信じる者はその人も復活すると言われた。しかし竜殺しと呼ばれた名のない魔術師は肉体が朽ちた後千年以上に渡り消失したままで、復活する気配はない。
この頃までに魔術師は魔術の論理的解釈としてある種の四項理論を理解していた。それは天蓋(sphere、ソルカ)、蒼穹(azure、オグザンル)、星珠(orb、コルマリフ)、地蓋(globe、ステイラ)によって魔術の概念を説明するものである。(詳しい説明は対話篇などで試みられているが、)天蓋的魔術師として天水の魔術師、地蓋的魔術師として地下鉱の魔術師というのが導き出され、剣河において、それは能力の高さを表したものではなくそれぞれが一長一短なのだが後世には上級魔術師と下級魔術師として知られた。天蓋と地蓋の間に時空領域(scheme、)が、蒼穹と星珠から図(schema)が作られ、図は領域に展開(extension)される。後の聖王国の信仰では、魔術師の理論が神学的に適用され、「大地球星星珠出現」(major globe orb advent、ステイラ・コルマリフ・ウェゴネンティユィス)とそれに伴う「自由王国領域生成」(free kingdom scheme generation)が人の救いの道の先にある唯一の時空であり、自分の命と不可分な形でその時空領域に参与するものこそが神の子供たちであると考えていた。カンの地では魔術師は自治を行い、魔術の継承が盛んに行われ、若い魔術師やトークレムが大量に発生した。しかしながらトークレムは状況によっては死刑に処された。それは魔術を扱うと称していながら実質的に何も行わない不義と看做された者に対する処罰であり、比喩的に論文を書かない学生紛いや学者紛いに対する扱いである。ルガムの地においては急速な発展によってそれ以上発展しない段階に至って、余生を過ごす魔術師やある程度裕福で自由な人々が住んでいた。ドレイスの地から奴隷を得ることによって、人々は仕事による人生の円環から解放されていた。また魔術師はその知恵を買われ法律の運用を任されていた。ナナキと呼ばれる人々を深層心理から操作するような大魔法と呼ばれるもので民衆の行動を大きく決定するなどした。
内域の北西に位置したエンスでは天の神と地の神が信じられ例えば人を殺せば天の神に好かれるが地の神に嫌われるといった具合にどちらかの神に愛されることを目的にした信仰が発展した。エンスでは長く戦争状態が続き領域が確定しない国家によってその全土が覆われていた。エンスにおいては宮廷魔術師が活躍して政治の実権を握る場合があった。その地においてはトークレムが非常に多く水を得るために魔術を扱う者が多かった。魔術で得られた水は大量に摂取しないと渇きを潤せないため魔術の使用によって寿命を縮める者が多かった。その地において有名な王はゴスリム・リムである。本名はゴスリムであるが、古の魔王ベルクゴルム・レムになぞらえて名を改めた。彼は最後の王と呼ばれ、その地を一度完全に統一した。その地においては天の神に対する信仰に由来し、数多くの塔が建てられた。また地の神に対する信仰に由来し、数多くの城が建てられた。
エンスとカンの間のアシタノ王国の王子シシはエンスの西側に遠征し、そこで多くのデンバクドゥルを捕虜として連れてきた。彼は一人の少女に目を留める。彼女は王子を睨みつけ「殺せ」と言った。「死んでどうする」と問うと「天の神の妾になる」と言った。彼はそれを好意的に受け止めて、「今死ぬな」と言って解放した。それから彼女をドーブニウ山脈の北東の麓の支配領域ペルソシュの人々の上に立てた。彼女はその地位に甘んずることなく民のことを第一に考えた統治をしていた。しかし彼女は卑しき魔女だった。彼女が密かに愛していたシシの死後、人々を監禁し、己の若さを永遠に保とうと、彼らを糧にした。彼女には複数の男性との間に複数の子供がいたのだが、その内の一人エクスは彼女の支配に終止符を打つべく、東方魔術師同盟に支援を呼びかけ、複数の魔法使いと共に、卑しき魔女の居城に乗り込み、彼女を捉え、封印した。彼女の命は西域のポントナム湖に沈められた。その後水と一体化しながら愛する者を求めて出られない湖上を彷徨う女王レヴォザルサンの伝説ができ、確認された記録はないが、現在でもその地の人々には卑しき魔女が愛と水の女王として愛するシシの到来を待ち望んでいると考えられている。
内域の北東に位置したカンでは「能」と呼ばれた才覚が非常に重要視され演劇や歌唱の才能のある者が有名を得た。いわゆる放送の仕組みが作られ画面の中では人能者と呼ばれる人々が活躍した。魔法の石板が作られ、魔法使いはそれを所有した。放送は五百年余り続いたが魔法戦争による中断を経て停波となった。魔法の石板も古の技術となった。以降その文化が復活する兆しはない。カンには魔術の学校が設立されてこの時代に有名になった魔術師の多くがこのカンの魔術の学校の出身である。なお学校と言っても師の集まりといったもので弟子を取ることによって魔術が伝承された。その中でラティス魔大学は現在まで存続している最後の学校である。その地では魔術師による自治が認められていた。このため砂漠の魔王による支配以外で正当な魔術師の支配がある意味では理想的に成り立っていたと言われる。各地の人々を写した映像記録が集積された。その地の都市の多くは迷宮のような構造をしていて、非常に入り組んでいた。それ自体が魔法陣としての役割を担っていたとも言える。
カンにおいて一年を十二ヶ月とした時に各月の名称が定まった。一月は墨鼠、二月は月熊、三月は金羊、四月は王樹、五月は巨蟹、六月は茫鹿、七月は獅子、八月は魔竜、九月は臥竜、十月は宝珠、十一月は灰鳥、十二月は大猪である。墨鼠は「冬の底。黒く小さく、年の始まりとして不吉だが静か」。月熊は「冬眠・月光・雪原の重さ。冬の終わり」。金羊は「春の到来。毛・陽光・牧畜・柔らかな豊穣」。王樹は「樹木が芽吹き、王権や生命力が立つ月」。巨蟹は「水辺・湿気・初夏。内海や河川の気配」。茫鹿は「草原・霧・迷い。夏前の広がりと幻想性」。獅子は「盛夏。王者・太陽・戦い・名望の月」。魔竜は「最も暑く危険な月。災厄・魔力・竜の暴威」。臥竜は「暴れた竜が伏す。秋の始まり、力の沈静」。宝珠は「収穫・結実・魔石・祭儀。秋の富」。灰鳥は「枯れ野・渡り鳥・灰・死者の気配」。大猪は「年末の荒々しさ。狩猟、冬越え、土臭い生命力」。それぞれこれらのような印象である。
内域の南に位置したルガムはその地の発展が人々の救済後五百年頃から始まって百年の内に急速に進みこれ以上発展することはないという状態に至った。その地においては民主主義が発展して法律を作る者が一定の力を持った。大域小法と呼ばれる法律集が成立して魔術師を通して後の全地の法体系の基礎となった。その地において権威を失った王達がルガムの西側に細長く高い線形の城壁のような宮殿を建てて数百年に及んで暮らしていた。ルガムの東には三日月の弧状の広大な海が広がっていて永遠の海と呼ばれた。魔術師たちはその海の向こう側に大陸が存在することを観測していたが、永遠の海に生じたある種の無限性のために到達不可能であると看做された。またルガムとカンの間の砂漠は魔術師によって海のように流動的な砂海にされて、カンとの間に貿易船が運行した。それらの船は沈没することがあり、後世冒険者などによって貨物の回収が行われた。ルガムから南に離れると、アトンハトンと呼ばれる地域があり、アルカ・フューリー(Capital frost)と呼ばれる全地の最高峰がある。その別名を凍王の玉座、それが連なる山脈をヴリサン連峰と言うが、その山は一つ独立したように聳える。その地域を支配した王として有名なのはクルヘークォフーナアルである。その国はクルヘークォフと呼ばれた。月魔世の後にはイケダ王国の池田誠一もいるのだが、王国の滅亡後忘却の対象となった。アトンハトンの東、永遠の海に隣接する地域には十三の部族が生息した。特にクハヴァール人とハヴァール人が有名である。
ルガムの南西にはドレイスと呼ばれる地熱地帯が広がりポルケと呼ばれる鳥が集まった。ポルケの卵が信仰の礎となりその地の王達に献上された。ドレイスには幾つもの温泉が湧いていて温泉の精霊に対する信仰が起こった。その地には剣河の支流の流れ着く巨大な塩湖パルミラ海があった。また東にはアラルガル平原が広がっていた。ドレイスに起こった王として有名なのはハンベスである。彼はエンスとルガムを相次いで支配して六人の守護者と四人の騎士を支配地域に配置した。剣の騎士、槍の騎士、弓の騎士、鎧の騎士、精神の守護者、永遠の守護者、力の守護者、知恵の守護者、美の守護者、愛の守護者がいた。彼らの多くはルガムの西の王宮群から取られた。その地においては王家に生まれた者の内最も若い者が騎士となり最も老いた者が守護者となったその後四人の騎士は守護者と同一視されたのだが有名な話として騎士であるハドアは守護者として認識された。ハドアは砂嵐に巻き込まれて行方不明になって以来永遠の守護者として崇められた。エルン・ケバンセスを名乗ったハンベスによるエンスとルガムの支配は長く続かず、晩年にはドレイスに退いていた。その死後王国は崩壊し、ドレイスに築き上げた守護者と騎士の制度ばかりが残った。またその地は後の時代冒険者ギルドの拠点が置かれたことで有名である。月魔世の終結後数百年の輝きの時代に各地に残された宝物がその地に集結した。
エンス、カン、ルガム、ドレイスの円環の地域の南西に位置するレイスは一度暗断裂によって滅んだ後に悪魔と呼ばれる悪しき魔術師たちが集う地域となった。悪魔はまた魔王としても知られていてザナレルなどが有名である。彼らが東レイスから中央レイスにかけてを支配して、その地は彼らの思い通りに作り変えられていった。レイスの東には円形の内海が広がっていて単に海と呼ばれたがここでは内海などと表現する。
中央レイスはハールワー人が支配した。彼らは後に不気味文字と呼ばれ神聖文字と自称する文字が刻まれた。彼らは三の民族を支配して奴隷として扱っていた。ハールワー人の王ハルワチュケトムは最盛期の王として有名である。彼は太陽王として知られていて天候を左右する魔法を扱った。特に有名なのは曇天を晴れ間をもたらす魔法である。
この頃までに名工イヴァヌスの手によって魔剣イズファロアが打たれた。レイスにおいて様々な魔王がそれを所有した。またイズファロアに次いで有名な魔剣フィフィフィもこの頃から月魔世までには成立していた。魔剣アグノンヴィも有名である。魔王はそれらを根源として多くの剣を生成し、自ら作り上げた軍勢に持たせていた。このため、レイスには多くの魔剣が残されたのだが、聖剣エレノイヤの刻印と刀身の輝きは魔王の知恵と魔法を持ってしても再現できなかったと言われる。
所謂内海の周辺の都市国家が同盟を結んで海の帝国が成立した。海の帝国で貨幣の流通が進み経済が著しく発展した。金貨(100万円)、小金貨(10万円)、銀貨(1万円)、小銀貨(1000円)、銅貨(100円)、小銅貨(10円)、鉄銭(1円)。また頻度は低いが中金貨(50万円)、中銀貨(5000円)、中銅貨(50円)、鉄貨(5円)もあった。海の帝国はレーヴィアとして知られた。その主な構成都市はオベール、ブレドツリュウゲ、カガルディオラ、ペンテオス、エラドス、ベラルディア、ディアン。
その海には海賊が蔓延ったことで知られており海賊王と呼ばれる豪族が出現した。彼らは海の帝国や周辺の島々に集められていた宝物を奪って黒水牛帝国の人々などと交易を行っては栄華を極めていた。海賊を襲う海賊なども出現し混沌の様相を呈していたのだが冒険者ギルドが設立されてから後の時代には宝物が散逸し始めてむしろ彼らが冒険者になるか、或いは追われる身となった。この時に冒険者になれなかった者の中には島に占拠してそのまま王となった者もいる。
エンスのアウグスツ・ローブは最高の徳は知恵だと考えた。ルガムのリー・チェイン・ナクスは勇気、ドーブニウ山脈のコボルテア・ダッカスは節制とした。
1067年、デリカウェストの名持ち魔熊アプゲティスが魔法使いギュムネキアによって討たれた。
魔術師たちは人々がこのまま魔術を使い続けると世界が滅びに至ると観測した。そこで彼らは段階的に魔術の使用を廃止する決定をした。救世歴1152年8月のことである。各地の図書館に収められていた知恵を廃棄して唯一大図書館に知恵の集中を図ることにした。魔術の使用、特に結界魔術が抑えられたことによって世界は半安定に至った。これによって魔術は三段に渡って活用されるようになった。つまり魔術の離散化が起こって大中小の状態でしか顕現しなくなった。半安定となってから異世界からいわゆる聖獣や魔獣と呼ばれる存在が紛れ込んでくるようになった。これは暗断裂が軽く全地に広まるからである。
結界魔術が抑えられたので、悪魔の伸長が著しくなった代わりに、世界の法則として新たな魔術師がほとんど誕生しなくなった。
魔術師は一刻も早く安定状態にすべく努めていたが、それは一度実現した後月魔世で再び不安定になった。世界の本質は安定だが、不安定な時空に覆われた。月魔世の終結後は安定に戻った。しかし暗断裂によって綻びが出た地域では半安定や不安定となって、異世界からの異物を招きやすい。
無尽森林に住んでいたクドゥルがカン及びエンスの方向へ大挙して押し寄せて後のレイスで鉄の王国と呼ばれる十ほどの王国群を建国した。これによって人々によって保たれていた魔術の知恵は失われていき青銅の王国たるデンバクドゥルと合わせてクドゥルとデンバクドゥルの時代が二百年近くに渡り続いた。この間にクドゥルらは人々を奴隷として支配するようになり魔術師たちの助言を受けながらいわゆる全世界の主となった。しかし完全な支配は魔術師の管轄の元実現しなかった。
東のインパルの覇者であったシシは王位を明け渡して後の老年期にドレイスの知恵の守護者であったプッポルケを半ば強引に娶った。彼らの子アビト、ザンガ、マドウェフはそれぞれ有名な氏族の祖となった。ゴーデマの自称であるにも関わらずザンガング朝オノノンド王国のゴーデマの孫ハーデンの祖として特にザンガは有名である。
エンスやカンの北には北原平原が広がっていた。その地では魔術の使用が限られていたため剣や弓矢が重んじられていた。また竜の祠が建てられ空に渦巻く竜に対する信仰が確立した。竜が渦巻く地では魔術を自然に扱えたため魔法による儀式が数多く行われた。その地において乗竜術が見出され竜と人との共存が一部果たされた。この流れを魔術師たちは良いと見ていなかったが竜と共生したミュオガ、ヤパン、ソルキアの三国が台頭し乗竜部隊でもってエンスやカンを襲撃した。その地に長く留まることはなかったものの魔法戦争後の世界を混迷へと向かわせた。乗竜術はその後各地に伝わり乗竜隊を生んだ。特にこの時代のレイスにおいて盛んになり穢が竜の世話をした。それ以前からブセラトゥトとケルコーンによって竜との共生が図られ、三国を経てベルドリとレミョンズによって確立した。
無尽森林の東、永遠の海の北西海岸上にはイェッシェッシェ王国が無尽森林内から移動して、長い年月をかけて衰退しながら存在し続けた。後の月魔世の間に滅んだ。ルガムの南にはルーア王国が起こった。またドーヴニウ山脈の西にはエホーブ王国が起こった。その王国が現代まで続く聖王国の礎になったと言えるのだが、イェッシェッシェ王国やルーア王国の支配階層がその地に移り住み、一つの国家を成立させた。
ルガムの南東に半ば想像上の魔術師たちの理想郷「知恵の原」が広がっていた。正確にはその根拠地が置かれた。その地において魔術師たちは有限の領域を分け合いながら、自由王国連合を結成し、彼らの統治に従う者をその地に集めていた。その地は制限された結界魔法によって拡張され、人々はその地で働く必要がなく、生活における何の義務も負わなかった。大図書館の南に位置したのだが、唯一中に魔術の研究が許された地域で、時に破壊的な結果をもたらすこともあったが、結界内のみの影響に留まるようにされた。この地の研究で小さな暗断裂を意図的に引き起こし、それが起こらない程度の魔術の使用度合いの境界線の研究が行われた。またルガムの南東には永遠の海付近を起点として北東から南西にかけて爪痕陵が走っていた。そこには走竜が多く住み着いていた。
異世界人が度々転移してくるようになったのだが、魔術師たちはサンフィネス教を通して女性は発見次第保護し、神殿域で養うことになった。結婚は許されず、生涯独身を強いられた。後世、言語を習得した場合職につけた。男性は魔法の才能があれば冒険者などに、そうでなければ鉱山などで強制労働させられた。
救世歴1197年3月、5歳の佐藤天音が「晴嵐の神子」の世界よりドレイスの鎧の騎士領に転移。兄の佐藤文に見つけ出され一時的に同行するも帰還。彼女が成長するまで戻せないと告げられ、再び迎えに来るとのこと。一部「失われ魔女ん」を参照。一応アマネちゃんの物語の中核がどのようなものかというと、草原の城と都市の扉のない部屋の中を魔法で行き来しているアマネちゃんが草原に現れた竜の問題を解決しようとする。その最中拠点の都市を歩いている時、その地のハドアという女守護者(支配者)に遭遇し、姿勢を低くしないのでハドアの従者たちに不敬を咎められる。ハドアは「帽子を取れ」と命じ、アマネちゃんは従う。ハドアは「しばらくそうしておれ」と言って立ち尽くすアマネちゃんを置いて、翼のない竜種に乗って行進を続け、不敵な笑みでアマネちゃんの方を返り見る。それから彼女たちはしばらく交わることはなかった。その途中「かつて全地を支配した王はどこへやら、時代の流れに取り壊されて今は亡き余の墓も無しって感じかな」などと詠んだ。ある時荒れ野で同じような構図で再会する。ハドアは魔物を討伐しに軍隊を率いているが、アマネちゃんがその魔物を小型化して無力化していた。そこでアマネちゃんは「平和はあなたが持っていてください。私はこの子を連れて行きます」と言って、ポケットに入れ、メドウという黒豹(猫を大型化させた)に乗り、その場を去り、冷たい目でハドアを返り見る。それから自然発生した砂嵐が起こりアマネちゃんは生き、ハドアは命を落とす。死は直接描かれず、アマネちゃんがハドアの支配する都市にいた時、ハドアの臣下が民衆にその死を報告している場面に遭遇するというもの。
『晴嵐の神子』参照
魔術の使用禁止の決定に反する悪しき魔術師たちは人々を命糧として監禁し魔力の根源として用いた。これらの魔術師は悪魔或いは魔王とも呼ばれレイスに置いて強大になった。レイスは悪しき魔術師によって彼らの思い通りに作り直されていった。最悪の魔王として知られているザナレルは中央レイスに巨大な宮殿を魔術で建設した。その大きさは人が百年かけても巡れないほどであり現在もダンジョンとして残されている。随所に宝が封じられていたため盗掘目的で遺構に入る冒険者が後を絶たなかった。ザナレルはまた自らの幾何学的な観念世界を築き上げ、この世界の全ての存在をその世界へ流出させ、全ての命をある種の記号に落とし込もうとした。それは生きているとも死んでいるとも言えない状態であるが、ザナレルの計画が明らかにされると彼は善き魔術師によって意図的に起こされたレイスの大暗断裂によって、インパラルシャンドウに流されて消えた。このことは初め善き魔術師の間で強い抵抗があって、大暗断裂のために悪しき魔術師へと身を翻す者が現れた。
大陸の南東の端の細長い半島地帯には黒水牛帝国が起こったのだが、他の文明世界とは断絶した状態が長く続き、魔術師の王インザ・ナギオンが五百年を超えて支配した。しかし彼らは内海の海賊とは貿易を行い、金などの金属を内海の輩にもたらした。
カンからルガムにかけてのインパルの魔王キロクはこの世の全ての本質は「無」であるとし、同地域の魔王アーウムは「有」であるとした。キロクは地球世界の仏教の三法印「諸行無常」「諸法無我」「涅槃寂静」には到達しなかったが、所謂永遠の眠りによる幸福を説き自身の結界の影響圏で破壊的な活動をした。アーウムは自身を神の子とみなして、全ての存在を己の奴隷とすべく、全ての僕とされた人々の人生を管理するシステムを作り上げた。この体系は後に多くの魔王の規範となり、人の能力を言葉や数値として可視化するステータスの走りとなり、善き魔術師たちにも取り入れる動きがあったのだが、その後禁忌とされ封印される。しかし魔術師同盟の善き魔術師たちは人々を管理するために背後ではそのシステムを起動していると言える。魔術師たちはその情報を元にどこに魔力の流れをもたらすのかを常に計算して、実行に移していると言える。更に戦争などが起こった時にはステータスは人々にも魔法の石板を通して表示され、事態解決に動くものの動機づけであったり、人々の中で諦めをつけるものを納得させる一つの要素になっている。なお冒険者はそれを確認するためのカードのようなものを支給される場合がある。レイスではそのようではない。ただしステータスに表示されることが全てではなく、特に極限の状態ではそれは管理を外れ、崩壊する。
1323年、量産型の魔法の袋がカンで普及し、全地の魔法使いに広がる。
ザナレルをはじめとする魔王は魔法戦争の時にこの世界から追放されるに至った。魔法戦争は良き魔術師と悪しき魔術師の戦いの様相を呈していて人類史上最大の戦争であったと記憶されている。それは魔術の使用を消極的に認める立場と積極的に認める立場の対立のようなものであり、前者は善き魔術師、後者は悪き魔術師或いは魔王や悪魔と呼ばれることが多い。魔法戦争に際しては異世界またはキキリンジジの世界と呼ばれるような多元世界群からそれまで禁忌とされていた異世界召喚魔法によって勇者と呼ばれるような人々が多数召喚生成された。魂に呪いが刻まれていない。有名なのはセイデン・ディーロー、ウェスラ・トウェンズ、エサード・グレンヴィである。
魔族はルガムの南にあるフンベール半島に逃れ、また、レイスに立て篭もった。その後の月魔世では更にレイスに多くの魔族が集まり、人々の王からの信仰を食い止めたため、以後その二つの地域は二種類の魔族がそれぞれ生息している。多くは人間として、一部は人間を離れて亜人と化した。しかし亜人としての印象が強い。この亜人のような魔族を旧魔族、また月魔世以後魔族と認定された人間としての魔族を新魔族と呼ぶこともある。彼らの多くはレジナ教を信奉している。シロマリモノンスノ族がいた。レジナ教は魔王教と呼ばれることもあり、またそれとは別物と考えられることもあるのだが、魔王教徒は異端として多くの地域で排斥された。なおレイスのダクモン王国は例外であり、人口の大半を魔王教徒が占め、それ以外の人たちを奴隷のように支配していた。
多くの魔王は対妻或いは対夫と呼ばれる人の形をした霊体を愛する目的で生成しそれぞれが理想とする形に作り上げていた。複数の対妻を維持するにはその数百倍もの人々の犠牲を必要とした。特に彼女或いは彼と交わる時には最も多くの犠牲を必要として、また魔王は対妻との間に魔族を生んで更に魔法によって魔物を作り出した。カンの地において大量に発生したこれらの存在は魔法戦争中から終結後にかけてレイスや永遠の海に捨て去られた。
魔法戦争に至ってザナレルは非常に強大になり、その魔力によって世界の全てをインパラルシャンドウ内の人工世界と交換しようと試みた。それは実現可能性が高まったのだが、実際には起こらなかった。
魔法戦争で追放された魔王は強大な存在のみで弱小の者は放置されていた。新たに起こる魔王の連続に魔術師たちは対処しきれなかった。最悪の場合では暗断裂が起こり、また超新星が起こることもあった。暗断裂は治療を余儀なくされ、超新星によるメノウは集められて、大図書館に一時的に保管されていた。その後空帝によって天空城に封印されている。その数は三十三個に及んでいる。
魔法戦争の後に対妻を持つ魔王が各地に留まり特にルガム周辺の砂漠において勢力を拡大した。これによって世界は海の帝国と砂漠の魔王とによる二つの権威の時代が訪れた。海の帝国はレーヴィア帝国などと呼ばれ、砂漠の魔王の国の一つはインパルの平原を支配してエッティノ帝国などと呼ばれた。レーヴィアは対魔王軍魔法大隊を組織した。その帝国の周囲はアルヴァタール人、クィンケタン人、また砂漠の民ローヴルなどが支配した。
救世歴1516年11月、後のゼウンンレエエルが知恵の原に生まれた。各地に移り住んで育った。
救世歴1586年、ドレイスにおいて角付き法衣が確立される。1800年代までにレイスにおいて採用、その後ドレイスでは廃れ、魔族の象徴となる。
救世歴1607年までにオダエスが魔法隊を組織して戦争を行い以後それは後の戦術の基本に組み入れられた。魔法隊は魔術を詠唱しながら行進する部隊と自由に動き回る部隊によって構成されて以後戦争の規範となる。
カクイフは魔道に対する罪を犯した者を収監するエグロー・マズローの監獄を設置した。彼はオダエスと共に善と悪の中間にある裁定者であると自認していて、善き魔術師の側の王国や悪しき魔術師の側の王国と戦った。
魔術の離散化から数百年余りで魔法革命がルガムの南の一帯で起こった。これは魔術使用の離散化によって魔術の数値化を実現するものであった。これによって魔術師たちは安易に魔術の運用ができるようになった。
ルガムとドレイスの冒険者たちが連盟を組んで冒険者ギルドをそれぞれの地域に設立した。以後国家や人々から依頼を受けてそれを解決する職業が発生した。冒険者は暗断裂の解消や竜の討伐を大きな使命としていて、異世界から紛れ込んだ異常な霊体や悪しき魔術師が創造した様々な獣や、魔力の影響を受けた動植物を破壊していった。完全に解決することはなく、月魔世に一旦計画は放棄された。冒険者ギルドは階級が複数あり、赤銅、鉄、青銅、銀、金などのクラスに分けられた。彼らの活躍は書物に書き残され、特に大いなる名と認められた者は星の巨人と呼ばれた。引退後の彼らは他の人々の階級を引き上げるかどうかの決定権を持っていた。冒険者の序列はギルドから支給されるステータスカードのようなもので確認ができ、新しい神の子(御子)、星の巨人、英雄、所業の完成者、有能な冒険者、並の活動者などの称号があった。魔術師と冒険者という二つの人間の姿形というものが以後の世界で最も重要なものとなったが、彼らは互いに重複する意味を持つことが多く、大別されるわけではなかった。
魔術師はサンフィネス教を通して各地に英雄廟聖殿が建てられた。結界魔法により隠遁されていた。冒険者の活躍が描かれたレリーフを多数飾っていた。多くは後世でその名前も意味も忘れ去られたが、魔術師たちの意図するところだった。映像記録の上映が普及する甲魔歴以前、月魔世以前のものである。また環レイスなどの図書館にも文字での記録が収められた。
クドゥルや特にデンバクドゥルを含む多くの人々は弱小な魔王や更にその影響を受けたトークレムによってエンスやルガム、ドレイスにおいて結界に閉じ込められナナキにより人格を崩壊した後人体改竄の実験台となって解放されたため人々とは更に逸脱した存在となり獣のように営む穢として知られるようになった。それは群をなして人々に襲いかかるなどの行動を取るようになるなど特にレーヴィア帝国にとっての脅威となった。
デンバクドゥルが衰退してレイスにおいてはそのまま穢と同一視されるようになった。山岳地帯で鉱石の採掘にあたっていた穢が支配的となりデンバクドゥルの監督不在のまま勢力が拡大した形となる。
救世歴1747年穢死森に住み着いていた穢を金聖剣王トーシハーが駆逐した。
救世歴1753年、レイスで大型の掃除の魔法が開発される。二つの大きな魔石を交換し続けて、掃除先の魔石が帯びた魔力が埃を剥がす。その強さの調整で小さな虫も除去可能。
ドレイスにおいてゲルルム、ヘルヌン、シルムウという三つの国家が起こった。それらの国においては所謂「輪廻転生」が信じられていて、守護者や騎士に対して敵対していた。人々は修行によって天界に転生できると考えられたのだが、そこに至るための道は様々な理論が提唱され一貫しなかった。そんな中でヘルヌンのザッカーシードは輪廻転生を終え、神と同等の存在として永遠の観測者になるための道はこの世の全ては移り変わり、実体のあるものは自己の深部にある真意識だけだと唱えた。それをも消し去れば存在が消滅するという彼の理論によれば魂は転生しないが、霊は転生する。初めて生まれた時に魂を受け、それから霊が初めの肉を離れると、様々な魂を経由して、最終的に神の位置に還るという思想であった。魂は陰府に留まる。
オノノンド王国の王エクシザール・オヌーナンドはチン王と決闘し勝利、レイスの北東に領土を獲得する。その後オノノンドの王位を簒奪しザンガの子孫を自認してザンガング朝を名乗ったゴーデマは山の竜として知られる黒の鎧胆王エテュドを討った者で中央レイスの支配権を確立したことで知られる。ゴーデマの孫ハーデンはオノノンドをポロズ王国に改めて北レイスの山脈に人が登れないほどの巨大な要塞ポロゼロログを竜を使役しつつ建設していた。これは結局完成を見ずに終わるが、後述の月魔世においてテイロクの居城となった。オノノンド王国建国千年を祝う祭りに関して七年前から前夜祭を行なっていた。千年祭の時に現れた無名の英雄エズが武闘大会の優勝の褒美としてハーデンとの直接対決を望んだ。これが受け入れられた結果ハーデンは敗れて死んだ。ポロズ王国は崩壊して周辺の未開の民族が中央レイスに攻め入った。
ハーデンの死から数年後(救世歴2012年)月が崩壊して六つに分裂し破片が地上へ落下した。地上では月の魔力を支配下に置いた者が覇権を握る月魔世が訪れた。天にかかる六つの月にちなんで六大魔王と呼ばれる存在が起こった。現在その名は人々の記憶から抹消されることとなったため伝わっていない。しかしその内の一人の名は確定的なのはケーズーであると言われる。また他はべべ(ビービ)、クノム(キュノム、ヒュノム)、ハヌン、スルキン、ノトン、ポナ、アブムとも言われている。
レイスはハーデンの孫であるサロスが支配するに至った。サロスは周辺の王を打倒して覇権を唱えた。しかし彼は魔王ではなく比較的早くに寿命を迎えて死んだ。
ダイマゴンとして知られる悪魔大のテイロクがサロスの死後レイスにおいて台頭しナナキによる穢の軍隊や支配した竜などの力によって全地を闇に覆い覇権を唱えた。六大魔王の主となり各地に竜の神殿やダンジョンを地上や地下に構えて、後の時代に冒険者の討伐の対象となった。
ダイマゴンテイロクは結界魔法によって閉じ込められていた悪しき魔術師や魔王を多数解放した。全て成功したわけではないが、強大な存在も牢獄から出てきて、世界に君臨するようになった。特にエグロー・マズローの全囚人の放出は彼の最も大きな行いであると評価されている。彼らは数々の竜を支配下に治め、地上にいる人々を掻き集める形で彼ら自身の共固有結界に閉ざして、命糧とした。彼らが生きている限りは魔王らの命は継続し、また魔術の根源である魔力も尽きることはないとされた。このため魔王らは人々を他で捉えておく街を作って、そこで積極的な繁殖を強いて行わせた。
全地における月魔世を集結に導いたのはゼウンンレエエルである。彼はあらゆる魔王と同一視される結界を消失させ全地の暗断裂を回避した。この時代の魔術師として最も有名である彼は大図書館の館長と魔術師連盟の指導者を務めた。彼は魔術師を七つの位格に区別した。それは魔術師、大いなる魔術師、生命の魔術師、知恵の魔術師、知識の魔術師、死の魔術師、光の魔術師である。それは功績によってではなく完全にその人の内面に由来してその位置を占めると考えていた。光の魔術師とは神自身或いは神の子である。またトークレムと偉大なるトークレは火、普通のトークレを俗、それ以下の人々を穢、滅びとした。後にそれは点数化された人間の位置付けとして、神(100点)、光(99点から90点)、死(89点から80点)、知識(79点から70点)、知恵(69点から60点)、生命(59点から50点)、大(49点から40点)、無題(39点から30点)、火(29点から20点)、俗(19点から10点)、穢(9点から1点)、滅(0点)と12段階の実質的に10段階の評価が行われた。なお50点以上は聖人、30点以上は能力や人格の面で優れて普通の人である。魔王は滅に該当する。彼は後世魔術師以外の人々の間でザナレルとその存在を混同された。月魔世終結を記念して甲魔暦が制定され、千二百年以上続いている。
ダイマゴンテイロクらが支配していた竜は二つの竜が統括していた。一つは炎帝竜々東アッヴァロ・ワラ、もう一つは氷帝竜々西ヴァンログ・ヴァギである。それら二つの竜は魔術師らによって封印されることとなった。もし殺してしまえば、大量の血が流れ出て、大地全体を覆い尽くすだろうことが予測された。如何なる結界を以てしてもその澎湃を止める手段はないと考えられていた。それはそれらの竜が悪しき魔術師らによって改造されていたからに他ならない。彼らが或いはそれらが死んだ時に世界が滅びに至るように計画されていた。唯一の解決法は暗断裂を意図的に引き起こして、世界の隙間に追放することなのだが、正確無比な生成が困難であったため、結界の中で永遠の時間を過ごさせることとなった。
人々の救済後千五百年余りで名のない魔術師は肉体が朽ちていた。その朽ちに及んだ言葉に十戒が示されていてゼウンンレエエルの生前に公表された。その中には特に魔術師による支配が明示的に禁じられた。「忘れてはならない。殺してはならない。害してはならない。奪ってはならない。憎んではならない。妬んではならない。偽ってはならない。貶めてはならない。崇めてはならない。統べてははならない」以降魔術師やトークレムによる支配者は魔族などと同一視されるようになる。ゼウンンレエエルは魔術の知恵に通じる鍵を閉じて、甲魔歴121年朽ち果てた。
甲魔暦紀元前後魔術師連盟と全地王国連合によって空帝が立てられた。彼らは七人でムガサーサオドフ、レテオドフ、ワルデイオドフ、デレヒュタドドフ、ペルワオドフ、ピラウェンドドフ、ユーザンロドフという帝であり、オープ・パルクの大図書館の魔術の知恵の内深刻な脅威をもたらすと判断されたものを天空に上げられた城の中に封印し、また魔王たちの肉体の残骸である魔骸を結界の中に閉ざすことを使命とした。彼らは結界の中に生き、外部の暦の換算で一万年以上生きると見積もられている。彼らは天空城を操作して、大陸(アルカ、エルン)中央部からドーブニウ山脈の西までを漂うのであるが、後継者の選定も同時にしなければならない。彼らが忠実であるかということには魔術師たちが注視しているのだが、現状問題は見出せず、空帝でなくとも空民という、交代で天空城に上り、空帝たちと共に城を扱う人々は職務の内容の割に良い暮らしが地上と天空でできたので、空を目指す人が多く集まった。しかし空帝の後継者探しは難航していると言っても良い。現状ではドーブニウ山脈の東の空域に、ノックル・ベラルディ・ホーテンヘルジ・ムガサーサオドフが、西にゴロツァレニア・ゴロツォレニアカベス・ユーザンロドフが、内域の北、北原平原と無尽森林にかけてにコイレー・ヴェラドー・フェーエデーウシシ・レテオドフと、ワアーラティレー・ワルデイオドフが、内域の東、大図書館の西側の空域にゴウヒサブワウゴ・デレヒュタドドフと、バールクレイル・エトリ・アマル=ダス・ピラウェンドドフが、内域の南、剣河流域にアイオンゼカード・ネディウィウォール・ペルシシア・ペルワオドフが配置されている。彼らは善き魔術師たちの根系として、過去のレイスの魔王たちのそれと対比されている。
海の帝国レーヴィアが新海の帝国レーヴィアとして復活した。再び第一魔法大隊から第十魔法大隊まで組織され、規模はむしろ拡大した。
西暦20“00”年代の日本から甲魔暦二百年代に池田誠一が転移し、アトンハトンの東域にイケダ王国を築く。彼は多くの女性と結婚し多くの子孫を残すが、魔術師によって敵対視され、記憶ごと抹消されることになる。彼は聖書(The Bible)と呼ばれる書を携えていて、新共同訳だとされ、これを封印する。彼の子孫は聖書に書かれていたキリストに対する断片的な信仰を持っていた。
以下は伝説。
セオドロプ・ギドローザには魔王エルン・シンベイが占拠していた。その地の周辺にはエクサオン王国があった。王国の王家は古三十朝に幾らか連なるとされるマグダミン家であって、大臣に国家運営を任せていた。エルン・シンベイは竜化し、人の命を求めてエクサオン王国の街や集落を襲撃するということがあった。彼の拠点はイドネアーザの森にあった塔であり、そこを幾つかの竜と共に治めていた。それを倒したのが勇者エギンバルドであり、かつての勇者の子孫でありながら貧しい暮らしをしている者だった。彼はデンバクドゥルが作った聖剣を操り、エルン・シンベイの首を切り落とした。その血が溢れ出して、森は死んだが、今では蘇っている。人々はエギンバルドを称賛し、彼は王女と結婚して、貴族の地位を得て、エギング領を治めるようになった。彼の子孫が代々その地位にありながら、時の王たちに仕えて、現代に至る。
ナマネクタデウムを支配していた魔王はエンヤーガキナーヤである。その周辺にはダーべレンス諸侯領があり、ナザグゼッペン帝国が影響力を及ぼしていた。エンヤーガキナーヤは七頭の竜を引き連れて、ダーベレンス諸侯領の領地にある集落を襲撃した。彼は金銀財宝を集めて、それを洞窟に秘蔵していた。その頃冒険者として全世界を旅していたエルン・サガがナザグゼッペン帝国の王位にあったオーカンドーデンの協力を取り付けて、ダーベレンス諸侯領に領地と城を受け取る約束を得た上で、帝国の軍勢と共にナマネタクデウム攻略に乗り出すことにした。エンヤーガキナーヤは魔物によって居城を守っていたが、軍勢はこれらを突破。魔王に接近する。エルン・サガは勝利目前のところで魔王の配下に殺された。エルン・サガに従っていたアクスは魔王との一騎打ちに持ち込み、遂には勝利を収めた。軍勢は勇者の死を悼んだが、同時に魔王を打ち破ったことで高揚していた。彼らはアクスを殺し、誰が魔王の首を持ち帰るかで闘争があった。しかし全ては有耶無耶のままで、約束されていた領地も城も計画は宙に浮いたままとなり、エルン・サガ・アクスという名前のついた道が整備され、その先にあるナマネタクデウムは四人が争って覇権を握ろうとした。オーカンドーデンはエンヤーガキナーヤのメノウを宝物庫に収めた上で、今後このような混乱が生じた場合には反乱軍と見做して鎮圧すると宣言した。しかしナマネタクデウムの元魔王領は戦争の絶えない地域となって、そこを統一的に支配する者が現れないまま月魔世を迎えた。
アバキエスという魔王はカンマンドーゼスの釜という地域を支配していた。そこはかつてフェオルデュレ王国の領土であったのだが、アバキエスが結界を張って以降は人が住めない地域となっていた。魔王は軍勢を作り出し人々を襲い、自らの命を長らえさせようと努力していた。そんな中でフェオルデュレ王国の同盟国であったナガスメニア王国の騎士団の騎士であるレイキセルが立ち上がり、魔王討伐に乗り出した。彼らは結界魔法を破壊すべく、魔法使いを送り込んだのだが、レイキセルも中心的な役割を果たした。逆に魔王の領域内に巨大な結界で包み込んだことによって、魔王は急激に老化し、死に至ったと考えられている。魔王軍の残党が禍根を残す結果とならないように絶滅を目指したのであったが、最終的に月魔世にその影響が魔王たちに利用されるほど解決しなかったと言っても良い。アバキエスは消えたが、アバキエスの釜という名でその地域は呼ばれるようになり、レイキセルはそこをナガスメニア王国の管轄にして、フェオルデュレイ王国の騎士団と共にその地域の魔物の暴走を防いだ。多くの冒険者が送り込まれたのだったが、犠牲となった者も少なくなかった。
エーデルマンには魔王ビグゼラントがいた。その周辺にはシカズカスカ王国があり、エンコーディライト朝の王エンゲルは冒険者ギルドを通して魔王の討伐を呼びかけた。ウェシュトゥミスという集団はシーバケナイが率いていたのだが、彼は集団の中から四人を選りすぐって魔王の支配するエーデルマンに乗り出した。結界魔法によって封じられていた地域を突破し、竜によって守られていた塔を占拠した上で魔王軍が攻めかかってきたのだが、ウェシュトゥミスの輝きと呼ばれるような光の魔法によって応答し一騎当千の勢いだった。最終的に魔王と対話するに至り、魔王はその座を降りることを選んだ。ビグゼラントはエグロー・マズローの監獄に収監され、月魔世までは完全に閉ざされていたのだが、その時代が訪れた時にダイマゴンテイロクに解放されて、再びエーデルマンを治めるようになった。しかし善き魔術師によって世界の隙間に追放されてからは永遠の苦しみの中で呻いているとされる。ビグゼラントの声がエーデルマンには今でも時々聞こえると言われる。
池田誠一はフォルミナ大森林から出て二つに分かれて海に注ぐ川の名をジェイムス川、ジェイソンボールド川と名付けた。また彼は、濃い血同盟、或いは良い血同盟を各地の国と結んだ。彼が設立した凪の森病院はよく知られている。また魔法都市シサイアノイア、ハテノウォーノード、カヘランジェネシスを建設した。彼は16人の正妻を持っていた。りら、咲希、焔楽、雪乃、エライア、イドレア、ヘスケミ、イアム、カーシャ、シッパ、ゴーメ、ウェンズディ、リフィア、タクティス、ルーシィ、恵美子。誠一の子に池田蛍、池田奏がいて、前者は仏教的な土壌を受け継ぎ、後者はキリスト教的な土壌を受け継いだ。彼は半ば冷笑的に空帝を暴食のサブワウゴ、怠惰のベラルディ、嫉妬のヴェラドー、傲慢のクレイル、強欲のカベス、色欲のゼカード、憤怒のラティレーと呼んだ。
レーヴィア帝国の対魔王軍第三魔法大隊との戦いでフォルミナ森林を通る回復魔法攻撃とレニオン将軍による爆撃で池田王国は壊滅した。
フィーネシア王国での最優秀冒険者魔法使い、203年205年カズキ・ヒロサキ(弘前一期)、311年アシュタリゼド、313年ダンケス、330年魔法剣士ギメル、413年ジェイコブ・エドワーズ、433年パスワ・グデイシェンド、521年ガウス・オゴセディア、556年ゴイムズ・ビアーダ・ウィルペンス
204年、弘前一期は一之瀬愛花と結婚した。その年、息子の英悟がフィーネシア王国ダークロード領に生まれる。彼は魔法使いとなった。弘前一期はダークロード領に伯爵として領地を持った。
300年代、地球世界から来た吉野晴臣が料理人として世界的に有名になる。
152年、ジンユエン・リン(林静遠)が冒険者階梯で7位になる。455年、サイリサ・メローヒ・ルフォリシスが階梯で4位、ネディク・スホルが7位、同一魔術学校卒業で饗宴に名を連ねるのは初めてだった。
甲魔暦1200年頃の時点で大地の中央部を支配しているのはフィーネシア王国、セムル王国、ドーブニウ王国、フェンフレイユー王国、フォーンフェヴォー王国、イクツドゥーク王国、アーゲスティア王国、デレクタード王国である。これら八ヶ国を主とし、その属国などは中央諸国と呼ばれる。カンから無尽森林を含む北東域を支配する魔法大国ヤアマがある。エンスの北西にはクドゥルの都市国家連合が、北原平原にはミュオガ、ヤパン、ソルキアは健在。ドーブニウ山脈の西の海に面した地には聖王国が位置する。この頃までにこれらの国家を含む大陸がソルカティヤ、或いはゼオンカディヤ(ゼオンハディヤ)と呼ばれるようになった。ただし特にレイスではエルン・フィーンと呼ぶ。
中央諸国では乗竜術は禁じられた。
旧ドレイスの人口3000万人、旧ルガムの人口600万人、旧カンの人口800万人、旧エンスの人口1000万人。
フィーネシア王国は甲魔歴25年成立。教会と冒険者ギルドが一体、更に魔術ギルドが一体となった組織が支配的だった。王は既におらず、首都とされるのはフィーンで内域を含んでいた。ドレイスからレイスに跨る。評議会に主権が移るまで十人の王が支配した。レグナード一世、セルフィア女王、オルドヴァン一世、フィアネ二世、アデリア(アデルマ)女王、ザムトール一世、エルセイン(エンセヴァン)一世、ミラディア(ミディアム)女王、レグナード二世、セルディオン三世。
ダークロード領、タンジェント領、エーリア属州(大エーリア)、カエサーインなど。
その国は魔術師連盟とも協力的な関係にあった。その国では冒険者と魔術師となることが人々の幼い頃の憧れのようであった。冒険者・魔法使いは毎年、「階梯」として序列化され、上位七名は王国主催の饗宴に招かれた。魔術を扱う者は魔術師やトークレムではなく魔法使いなどと呼ばれ、サンフィネス神殿とその下部組織の神殿でその人の使用可能な魔法が制約の上で決定された。セムル王国とはアラルガル平原によって隔てられていた。
フィーネシア王国は半軍事、半魔術、半開拓国家である。総人口2500万人。寄留者700万人。そのうち1000万人が何らかの冒険者・魔法使い登録を持つ。しかし、実際に専業として生きる者は10万人にすぎない。王国は魔法使いを大量育成した。そのおかげで国は繁栄した。しかし、魔法が社会の隅々まで浸透した結果、王国は魔法なしでは維持できなくなった。魔法使いを抑えれば国が弱る。魔法使いを自由にすれば国が割れる。冒険者を厚遇すれば農民が不満を持つ。農民を守れば冒険者が搾取される。魔物を狩れば資源が増える。しかし魔物が減ると冒険者の仕事がなくなる。
大多数は農民、職人、兵士、学生、商人、神官、地方役人などであり、必要に応じて魔法的・軍事的任務に動員される。この制度によって王国は魔物、遺跡、魔石資源、辺境開拓を管理しているが、同時に巨大な魔法官僚制と冒険者階級を生み、王権との緊張を抱えている。
魔法・戦闘・探索・護衛・採集などに関わる登録人口。専業10万人。それだけで生活する上位・中核層。兼業990万人。農民、職人、兵士、学生、商人などが副業・徴用・訓練として参加。戸籍・徴兵・資格・ギルド・魔法教育が結びついた身分/資格制度に近い。
産業としてあるのは魔石採掘(魔法都市・結界・武器・医療に必要)、魔物素材(皮、骨、角、血、臓器、魔核)、護衛業(商隊、巡礼、貴族、学者、採掘隊)、遺跡探索(古代魔法、失われた道具、禁書)、結界維持(都市・農地・街道の安全確保)、魔法教育(初級登録者を大量育成)、治癒・薬草採取(医療と宗教の中間領域)、軍事請負(王国軍を補助する半民間戦力)
冒険者ギルドは王立冒険者庁によって管理されていた。依頼の斡旋だけではなく、登録、等級認定、犯罪者管理、魔法使用許可、遠征命令、緊急徴用、危険魔法の封印を扱った。
専業10万人は王国の力であると同時に危険でもあった。特にこの世界では魔術師が王になることや、魔王化の問題があるので、フィーネシアでも「魔法使いは国家に仕えることはできるが、国家そのものを所有してはならない」と言う原則があった。カンの魔術師自治の理念とは違って、フィーネシアは王国であることから、魔法使いを制度に取り込む方向だった。
社会問題として、1. 冒険者崩れ。専業になれない者、依頼に失敗した者、負傷して戻った者が大量に出る。彼らは盗賊、私兵、違法魔法使い、傭兵団になる危険があった。2. 魔法格差。魔法教育を受けられる都市民と、登録だけの農村民の間に格差が生まれる。同じ「登録冒険者」でも、実力差は圧倒的だった。3. ギルド利権。依頼の配分、魔石の買い取り、等級試験、危険地域の通行許可などで腐敗が起こる。フィーネシア王国は大国であるほど、冒険者ギルドが巨大官僚制になる。4. 王権と魔法使いの緊張。王は魔法使いを必要とする。しかし魔法使いが強くなりすぎると、王権を脅かす。この緊張がフィーネシア王国の政治劇の核になる。
フィーネシア王国には魔物が多く、何度殺しても出現する。土地そのものが魔物を発生させる仕組みを持っている。フィーネシアは魔物を討伐する国ではなく、魔物の再発生と共存しなければならない国である。魔物は「湧く」のではなく、世界の傷口から再構成される。フィーネシア王国の地下や森、古戦場、沼地、廃都、山脈の裂け目には、かつての大戦や古代魔法によってできた魔素の澱みがある。魔物はそこで自然発生するが、完全な無から生まれるわけではない。魔物は・死んだ魔物の残留魔力・土地に染みついた血と恐怖・古代の魔法陣の残骸・異界から漏れた獣性・人間や獣の死骸・竜や魔王の眷属の薄い痕跡、などが混ざって、一定周期で形を取る存在である。
フィーネシア王国はドレイスとルガムに跨る大国であり、かつて魔法戦争期に激戦地であった。古代の魔術師たちは、この土地で大規模な結界、召喚、封印、竜殺し、魔王討伐、都市防衛を行った。その結果、地脈が壊れた。本来なら地中を静かに流れる魔力が、フィーネシアではあちこちで噴き出す。その噴出口を人々は、「魔湧き穴」「獣門」「黒い泉」「魔素溜まり」「骸の胎」「再出の窪地」などと呼ぶ。魔物はそこから出現する。魔物が多い理由は過去の魔法文明の負債を現在の王国が処理しているからである。
ある意味で魔物は完全に殺せない。フィーネシア王国は強い。冒険者も魔法使いも多い。それでも魔物を根絶できない。理由は三つある。第一に、魔物の発生源が多すぎる。王国全土に魔湧き穴や魔素溜まりが点在している。第二に、発生源を完全に塞ぐと地脈が暴走する。つまり、魔物を生む穴は危険だが、同時に余分な魔力を逃がす排出口でもある。第三に、魔物は王国経済にも組み込まれている。魔物素材、魔核、魔石、討伐報酬、冒険者ギルド、魔法研究。魔物を完全に消せば安全になるが、同時にフィーネシアの魔法経済も崩れる。かなり嫌な深みが出るとすれば、王国は魔物を憎んでいる。しかし、魔物がいるから王国は強い。魔物がいるから冒険者制度が成立し、魔法研究が進み、軍事力が保たれている。つまりフィーネシアは、魔物を討つことで生きている国である。
魔物の発生には周期がある。第一に小湧き。数日から数週間ごとに起こる局地的発生。ガブリグのような小魔物、獣型魔物、毒虫型魔物などが出る。村や町の自衛団で対応できる。第二に中湧き。季節ごとに起こる発生。街道封鎖、農地被害、商隊襲撃が発生する。王立冒険者庁が討伐依頼を出す。第三に大湧き。数年から十数年ごとに起こる。複数地域で同時に魔物が出現し、王国軍と専業冒険者が動員される。第四に黒湧き。数十年から百年単位で起こる災害級発生。魔王の前兆、竜の再出現、古代魔法陣の暴走などと結びつく。
魔物の発生地には以下のような型がある。1. 古戦場型。かつて多くの人間、魔法使い、魔物が死んだ土地。鎧をまとった骸骨、首のない騎士、血を吸った獣、戦場の記憶をなぞる魔物が出る。ここでは魔物は「死者」ではなく、戦場の怨念と魔素が作る模造品である。2. 森林型。森の奥で魔素が濃くなり、獣が魔物化する。狼、鹿、猪、鳥、虫などが異常変化する。3. 廃都型。古代都市の地下施設、壊れた魔法炉、封印された研究所などから出る。人工魔物、魔法人形、合成獣、結界の守護者の成れの果てが出る。フィーネシア王国の魔法研究機関が欲しがる素材もここに多い。4. 裂け目型。異界との薄い接点から魔物が染み出す。別世界から魔獣や聖獣が供給されることにも繋がる。フィーネシアでは小さな世界の隙間が多数あり、そこから異界の獣性だけが漏れる。完全な生物が来るのではなく、断片がこちらの魔素で肉体化する。5. 魔王残響型。過去の魔王、あるいは魔王候補が滅ぼされた場所。そこでは魔物が通常より統率的に出る。群れを作る。武器を使う。人語をまねる。時には「小さな王」を立てる。こうなると、単なる討伐ではなく、政治的・軍事的事件になる。
フィーネシア王国の成立とはもともとドレイスとルガムの境界地帯は、魔物が多すぎて小国や都市国家では維持できなかった。村は滅び、街道は寸断され、商人は通れず、農地は何度も放棄された。そこで、複数の領主・魔法使い・都市・神殿・冒険者団が連合し、やがて統一王国になった。つまりフィーネシア王国は、「魔物の再出現に対抗するために生まれた王国」である。これはかなり強い国家理念になる。フィーネシア王は単なる支配者ではなく、「魔物の湧く土地を人間の土地として保つ者」王権の正統性もそこにある。
魔法使いが多い理由。魔物が再発生する土地では、魔法使いの役割は戦闘だけではない。・発生源の観測・魔素濃度の測定・結界維持・死骸の処理・魔核の回収・汚染された井戸や畑の浄化・魔物化した獣の判別・魔物の群れの予兆分析・子供への防衛教育・地図作成・討伐後の封印。つまり魔法使いは、戦士であると同時に、技師、医師、測量士、役人、災害対策官でもあるフィーネシア王国に魔法使いが多いのは、魔法が「便利な才能」ではなく、「国土管理に必要な技術」だからである。
フィーネシア王国の冒険者ギルドは、酒場で依頼を受けるだけの組織ではない。むしろ、「魔物災害対策庁の民間化された末端組織」に近い。ギルドは以下を担う。・魔物発生情報の収集・討伐依頼の発行・死傷者補償・魔物素材の買い取り・登録者の等級管理・危険地帯の通行許可・王国軍への応援動員・違法討伐や素材密売の摘発など。
まとめると、フィーネシア王国の地には、魔法戦争以前から存在した古い地脈防衛機構と、魔法戦争期の破壊、さらに異界の獣性が混ざってできた「魔湧き」が多数存在する。魔物はそこから周期的に再構成されるため、倒しても根絶できない。王国は魔物を討伐しながら、魔素の流れを管理し、発生源を完全封印せずに制御している。冒険者と魔法使いが異常に多いのは、この魔物災害を日常的に処理するためであり、フィーネシア王国そのものが魔物再出現への対抗制度として成立したからである。
セムル王国には竜の里と呼ばれる多くの竜が生息した谷があり、人々の侵入を拒んでいた。冒険者たちは竜が食して腹に蓄えた銀を求めて竜の里を目指したが、その途中にある砂漠で息絶える者も少なくなかった。その国の首都はセムリアと言い、小規模ながら十分な高さのある城壁に囲まれていた。特に結界によって守られていたので、空からの竜の侵入は大方防げていた。人口300万人。
ドーブニウ王国はドーブニウ山脈から山麓域にかけてを支配した王国であり、古都はニウド、新たな首都はヤ=グザンロン・サン=フィネスシスであった。教会の理念を受け入れた国家であり、支配者と支配的な種族はデンバクドゥルであったが、前述の通り彼らは衰退しつつあり、人間との共生が図られている最中であった。卑金属や貴金属を多く算出し、特に銅はアルカ(大陸)中央部の消費の半数近くを賄っていた。人口1000万人
イクツドゥーク王国は魔術師連盟による支配を受けていて、王は儀礼的な存在として担ぎ上げられているだけである。リギュル王国を属国としている。首都はアブクズで、既存の宗教の変形で固有の宗教であるアンダークシャーハン教の中心が置かれている。その宗教と共鳴する形で反竜を掲げている国であり、その国に侵入した竜は全て駆逐の対象となる。冒険者ギルドの中北東の中心があると言ってもよく、その地で竜を討伐することを生業とする者も少なくない。人口600万人
フェンフレイユー王国の王家は多数の神格を持つ天の神を信じ、フォーンフェヴォー王国の王家は多数の神格を持つ地の神を信じていた。彼らは魔術師連盟の指導の下実権を失うのだが、それぞれある神殿の祭司としての立場を保ち、それぞれの王国の神官団は政治的権力を持って一般の階層の人々を支配した。フェンフレイユー王国では多数の空塔が建てられ、空帝の補給の要衝となっていた。人口200万人
フォーンフェヴォー王国においては多数の城壁が築かれ、時代を遡りカンの地域に築かれた都市をある種の模範としていた。天の神の王国の首都はフレイヤー、地の神の王国の首都はシャーンヴィーである。いずれの王国も都市圏ではフィーネシア王国の教会の教えが受け入れられ始めていて、三割ほどの人々は教会の徒であったのだが、王家の信仰と融合がなされている状態で、教会の教義の枠組みで天の神、地の神をそれぞれ信じているような状況だった。二つの王国はそれぞれの神はかつて恋人であり結婚して番だったが、現在では離婚しているという認識を持って、基本的に合同の祭祀を行うことはない。しかし七百年に一度天地は番に戻り、交わり、それからまた離婚すると考えられていたため、甲魔暦においては800年頃に一度だけ二つの王国を横断する大きな礼拝が行われた。人口300万人
アーゲスティア王国は一度アーゲスティア共和国として貴族の元老院による統治が行われたが、貴族制は緩く保たれたまま、王が空位として形式上の王国が復活した。摂政についているのが魔術師によって選定された統治者である。人口1000万人
その国はデレクタード王国と共にアア帝国を保護している。その帝国に肌の黒い人々を集め、その国に隔離していると言ってもいいが、自由と自治は十分に守られている。デレクタード王国は人口700万人
レイスの魔法使いは中央諸国などには魔族と看做された。レイスにおける魔法教育は一貫した学校制であり、魔法適性があれば入学できた。一般に12歳で検査が行われ、13歳の年から入学し、5年から6年、それ以上で卒業した。
カリキュラムとしては一例として、1年目に主に魔力感覚、防御、回復、副に魔法倫理、魔法具、体力訓練。2年目に主に防御、非殺傷攻撃、強化、副に索敵、撤退、応急治療。3年目に主に攻撃、強化、対魔物戦、副に通信、地形操作、祝福・呪い基礎。4年目、主に飛行、戦術、連携、副に高位防御、名望魔力対策。5年目以降、主に結界、封印、専門戦闘、副に研究、実地任務、魔王・竜・異界対策。
4年次に進めるかどうかを試験によって決め、落ちたものは離脱となった。
レイスにはブレドツリュウゲ、ダーカン・ドレマゾマン、エボゴ・エンナキア、ベドセスなどの都市国家、カンドセパネ、シリングリーチ、レイノウ、エピス、メナス、タルス、オストラコンなどの国家があった。オストラコンでは山羊を生贄に捧げる教えが信仰の中心だった。
月魔世の終結後千二百年ほどして2020年頃の地球世界の日本から錦戸咲良が転移し、九年ほど後次いで2018年頃の日本から西野雄太が転移する。「天国行きから異世界へ」を参照のこと。彼らは事実上の夫婦となり生涯共に過ごした。ハーンヴァール王国、ブレドツリュウゲなどに住んだ。(西野雄太と錦戸咲良の双子の娘は彼らが名付けた陽彩花、璃耀華がいるともされる)西野雄太はデゴルボルン投獄のきっかけを与えた名もなき東の魔法使いとして知られた。
錦戸咲良はメヒャステラ神殿などでの試練を乗り越え王選に勝利し、王となる。国名をサクライロド(サークレイロッド、Kingdom of Sacrairod)にした。彼女は強い呪いの影響(女性器が開かない)で子を残せないということも口実として伴侶である西野雄太に妾を与えた。その正確な数は分かっていない。彼女はまた暴虐の魔女というきつい愛称としての呼ばれ方をして、極端な改革を進めた。まず娼館は廃止された。
錦戸咲良の王宮はハナン城と呼ばれた。料理人の責任者にはチョン・リウォンという異世界人を採用し、故郷の料理を振る舞わせた。また彼女は劇場を作り、地球世界から来たウィリアム・オドワイヤーの娘サラ・ドワイト・オドワイヤーは歌手として有名になった。錦戸女王主催のフェリクス音楽大会の声楽の部で優勝した。またその妹リサ・エヴァンズ・オドワイヤーは魔法使いになった。彼女らは二人ともグランスノー教会で出会ったカイという命級冒険者と結婚した。なおこの男は後に魔王教徒魔族であることが密告され、処刑された。国内法ではなく国際法が適用された。サラの息子アレックスことアレクサンダーとリサの娘アレックスことアレクサンドラはそれぞれデゴルボルンに幹部として仕えた。
(またドレイスの王ハンベスはドレイスの塩湖の近く平野に一つ聳える山に巨大な城を築いていた。錦戸咲良により再発見されたのだが、残されていた文書によればそこにはアマネという魔女が少女時代に拠点としていた。彼女の配偶者西野雄太は彼女を「失われ魔女ん」と表現した。)
大魔王デゴルボルンが現れ、勇者ジンが彼に勝利する。世界は一時全てが大魔王の支配下に置かれたが、その支配は結果的に長期間には及ばなかった。(彼はポロゼロログにザナレルの砦を再現し、ザナレルポロゼロロガルザナレルを実現して、そこに住んだ。その体を魔の結晶と化したが肉体を保存していて、子孫を残すために多くの女性と交わった)その以前に錦戸咲良は死に(正確には生きながら天に上り)、西野雄太はその前後に死んだ(正確には生きていて40年後に死んだ)。彼ら二人は池田誠一の子孫との関係と、封印されていた聖書の知識からイエス・キリストに信頼を置いたと言われる。これは西野雄太が書いたこの世界の歴史に加筆を加え編集したものである。
陽彩花と璃耀華はそれぞれ池田の子孫と結婚して世界宣教を行なった。姉はアルミニウス主義に近く聖霊派とされ、妹はカルヴァン主義に近く洗礼派とされる。
璃耀華の息子イケダス・ニシキドス・ライトは全ソルカティヤ=キリスト教協議会の会長になった。また彼の五代の子孫レグムは冒険者として光の階級に到達した。
新海の帝国東は福音化された。
世界は不安定になり、霊化した英霊が彷徨いながら世界の安定を取り戻すために延々と戦いを続ける場になった。世界は荒廃し、光が取り戻されることはなかった。
七大魔力列強。第一位、名のない魔術師。第二位、魔王ザナレル。第三位、ゼウンンレエエル。第四位、スウヤーウルウン。第五位、ダエーセン。第六位、ツォーレヌー。第七位、西野雄太。




