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もふもふ元大魔王の成り下がり冒険譚  作者: あらまき


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彼の為だけの備え


「な……何を言っているんだよ? ルーク、こんな時に変な冗談をよせ? なあ?」

 そう口にするレストはおろおろとした態度で目線をあちこちふらふらさせていた。


 レストはこの状況に誰よりもついていけていなかった。

 グラディスの友であり、ルークの仲間。

 そんな立場の彼だけは、この現実を受け入れるだけの土台がなかった。


「…………」

 ルークは何も言わない。

 何時もの様な微笑の様な顔を張りつけ、その冷酷な視線を隠して。

 その眼で、クリスを見ていた。


 レスト程理解出来ていない訳ではない。

 だけど、状況を把握している人は誰もいなかった。

 張本人のルークでさえも。


 だから、この状況で動きだせるのは推測にて答えを導く賢者ではなく、後先考えず暴れられる愚者。

 最初の一歩を踏み出したのは、リュエルだった。


 リュエルは迷わずルークに向かい剣を差し向ける。

 一つは、クリスを信じて。

 もう一つは、間違っていても謝れば良いやという軽い気持ちで。


 そんなリュエルの一撃を、ルークは魔力の障壁にて防いだ。

 無言での魔力障壁行使。

 そんな事が出来るなんて聞いていない。

 そしてそれを隠している理由を考えると……。


 リュエルは黒幕を確信した。


「やれやれ酷いですねぇ。いきなりですか」

 ルークは胸元から本を取り出し、開く。

 たったそれだけで、淀んだ空気が周囲に溢れかえった。

 ゾンビの臭気とも違う。

 これはむしろダンジョン内に溢れる瘴気の様な物に近かった。

「いっ!」

 クリスは再び激痛を覚え、出血する目を抑えた。

 本当に、突然で何の前触れもなかった。

 何なのか全くわからない。

 わからないが……あの本が不味い事だけは目の鋭い痛みで理解出来た。




 ――ああ、本当に恐ろしい。正しい意味で化物ですね。

 ルークは小さな獣を見てそんな感想を持った。


 今、すぐ傍で目から血を流し痛がっている獣。

 その獣から伝わって来る感情は怒りや憎しみ、焦りや恐怖……などではない。

 獣は喜んでいた。

 痛いというその感情に対し、歓喜を覚え楽しんでいた。


 どういう性質で、どういう人生を送ればそんな怪物に成長するの想像さえ出来ない。

 完全な未知。

 故に恐怖に繋がる。

 ルークは獣を恐れていた。


 魔導書を使い、その力で宙に浮く。

 ここで彼らと戦う……という選択肢はルークにはない。

 勝つ負けるという話ではない。

 メリットが全くなくただリスクしか残らないからだ。


 ――せめてもう少し時間があれば……。

 そう思わずにはいられない。


 そうすれば、今の状況でも戦う理由があった。

 想定通り事が運んでいれば、リュエル・スタークを手に入れる為の意味ある戦いが出来た。


「……どうして……どうしてだよルーク! なんで……いや、それより先にグラディスはどうしたんだ!?」

「ああ……すいません。忘れてました。そして申し訳ありません。実は、彼がどうなったかは知らないんです。どこかのゾンビになってもう処理されたんじゃないですかね?」

 ルークはどうでも良さそうにそう呟く。

 レストもそうだが、ルークはグラディスにも手を出すつもりは全くなかった。


 仲間意識とかそういう事は関係なく、単純に興味がないからだ。

 だから正直な話、グラディスは運がなかった。

 巻き込まれてしまっただけで、本当に、ただそれだけの事だった。


「それで、君の目的は一体何なのかな?」

 そう言葉にしたのは悍ましき獣の彼。

 正直答えたくないが、時間稼ぎの為ルークは答えた。

「最初から言っていますよ。そこだけは嘘をつきたくもありませんので」

「最初?」

 クリスはリュエル、ユーリに目を向けた後、レストの方をじっと見た。


「……彼女が欲しいって……そんな理由で……なんで……」

「おやレストさん。私はそんな風に言いました?」

「は? だって、俺達と同じで……」

「いえ、私は彼女を()()に来たと言ったんです」

「だから、同じ意味じゃないか! お前が何を言っているのか、もう俺にはわからねぇよ……」

 我慢出来ず、とうとうレストは泣きだした。

 ここで泣きだす程度だからこそルークはレストを対象にしなかった。


「……はぁ。最初から言っているじゃないですか。人の話はちゃんと聞きましょうね。つまり私は彼女を作りに来たんです」

「それで、次は私達を殺すのかな?」

 クリスの言葉にルークはくすりと微笑んだ。

 そうしたいという気持ちは大いにある。

 この獣の目を抉りたい。

 少女の肉体を奪いたい。


 だが……。


「まさか。貴方がここに来たという事は『かの勇者様』も逃げ出したという事でしょう? なら既に私の手に負える状況ではなくなりました。つまり……損切りです」

 ルークの言葉にクリスは()()()した顔になった。

「ユーリ、本を攻撃!」

 クリスの言葉に反応し、ユーリはナイフを投擲する。

 惜しむらくは、ユーリはリュエル程クリスを信じてなかったから、コンマ数秒のラグがあった事。

 それがなければ、もしかしたらうまくいっていたかもしれない。


 ナイフは本に到達する事なくその場に停止し、カランと音を立て地面に落ちる。

 同時に、地面に巨大な穴が開きゾンビが出現した。


「リュエルちゃん! 聖水!」

 事前に持たされていたのだろう。

 強力な聖水である『エナリスの愛』をリュエルは投擲し、ゾンビの群れに当てる。


 だが……。


「クリス君! 効果がない!」

 リュエルは驚いた表情で叫ぶ。

 不死者に対して特攻とも言える効果を持ち、また腐食や汚染を最小限に留める効果を持つ聖水。

 ああ、確かに死体を冒涜して作った以上効果はあるだろう。


 だけど……本当に偶然、仲間のおかげでルークは『エナリスの愛』を研究する時間があった。

 対策を取る事がそう難しくない位に。


「し、新型だー!」

 クリスは叫ぶ。

 そう、新型には聖水無効以外にももう一つ特別な効果が付与されていた。

 人間なら誰もが持つけれど、ゾンビが行うには難しい力。

 即ち……『疾走』。


 新しいゾンビは、走る事に優れていた。


 突然走り出したゾンビに対応出来るのは、リュエルだけ。

 だけど、ただ一人では群れを止める事は出来ず残りは全てクリスの元に辿り着く。

 そしてゾンビは全員……クリスを撫でる様に、優しく触れた。


 手の平を当てるだけの、そんな行動。

 その直後――クリスの体を鋭い衝撃が貫いた。


 ドスン、ドスンという音と共にクリスが跳ねる姿が皆の目に映る。

 それが何なのか、今理解しているのは犯人のルークのみ。

 だけど、音と共に無言でボールの様に不気味に跳ねるクリスの姿から、これが最悪な行動であるとは皆が理解出来た。


 その攻撃の正体に最初に気付いたのは、ユーリだった。

 攻撃を終え手を降ろしたゾンビの手の平から見える、銀色の釘の様な物。


「『杭打ち(パイルバンカー)』!? なんでそんな物が……いやそうじゃない! 不味いぞ! あんなもん人が受けて良い兵器じゃない!」

 リュエルとユーリは慌てた様子でゾンビを蹴散らす。


 とは言え、それはもう手遅れだが。

 こいつらは一発撃てば後はもう何も出来ないししない。

 完全なる使い捨てでかつクリスを殺す為だけに作った個体。

 そして、もう役目をもう終わっていた。


 地面に倒れるクリスは口からおびただしい量の血を吐いている。

 そりゃあそうだ。

 防護貫通術式を内包した対大型魔獣用兵装。

 それを何十発も直撃して生きている存在なんている訳がない。


 むしろそれでも尚原形をとどめているあの獣の防護は異常の一点である。

「……本当に惜しい」

 そう……クリスを攻撃したのは最も厄介だったからであり、要するに時間稼ぎというただ一点の目的の為。

 出来るなら眼も含め持ち帰りたいというのが本音のところである。


 とは言え、無駄に欲を出し滅びるつもりはルークにはない。

 さっさと撤退する当初の予定を変えるつもりはなかった。


「転移術式起動。では皆様、これで私は失礼します」

 にこりと微笑んだ顔を見せ、そして消える寸前……ルークの顔から笑みが消える。

 そこに居る死体……いや、クリスという獣が立ち上がるのを見たからだ。


 そして立ち上がった瞬間、ルークに飛び掛かった。


「ちょ、貴方は一体何を――」

 訳もわからず慌てるルーク。

 丁度そのタイミングで、転移が発動してしまった。




 避難場所に転移したルークは、そっと自分の体を見る。

 そのふとももに、ぎゅっとしがみ付く獣の姿があった。


「……あー……ええと、貴方は一体、何をしたかったのですか?」

 困った顔で、困惑した顔で、ルークは尋ねた。

「えと……何となく?」

 そう言って、クリスは首を傾げる。

「無計画にも程があるでしょうに……。しかも貴方、もう限界ですよね?」

 脱出の際に相当暴れたというのは、あの素材収集所を作ったルークならば容易に想像出来る。

 そんな状態の後、パイルバンカーの直撃を何度も喰らった。

 限界でも恥ずかしくない。

 というか、生きている時点でもう大分気持ちが悪い。

「うぃ。しがみ付く体力も、もうないっぽい」

 夏終わりのセミの様に、クリスはぽとりとルークは落ちる。

 そして仰向けのまま、気絶した。


「……はぁ。厄介な事を」

 ルークは心底困惑しながら面倒な溜息を吐く。


 これがカモネギである事は否定しない。

 だけど……後はもう逃げるだけだったのだ。

 ハイドランドの四天王に目をつけられる前に逃走し、別の狩場を探す。

 最初からこんな状況が来る事はわかっていたし、そのままどこかに逃げる事も予定調和の内。


 そんな作戦最終フェイズなんて状況に、極上の餌が転がり込んで来た。

 この餌を連れ帰るか放置し帰るか。

 その二択に悩まされる事となったルークは再び小さくない溜息を吐いた。




 クリスが目を覚ましたのは、痛みでだった。

「めっちゃ痛い! 体がめっちゃ痛い!」

 ばたばたと暴れるとガチャガチャ音がする。

 それで、自分が牢に……いや檻に閉じ込められてると気付いた。

 しかも何か鳥小屋みたいなちょっと恰好悪い檻でテーブルの上に置かれていた。


「おはようございます。まあ、もう夜ですが」

 椅子に座り肘をつきながら、酷く退屈そうな顔でルークはこちらを見ていた。

「おはようなんよ。そうしてると本当に悪党っぽいね」

「まあ、悪党ですから。ところで、予定外の事があった所為で少々時間が空きまして、少しの間お話でもしませんか? 私、非常に貴方に興味がありまして」

「うぃ。もちろんなんよ!」

 嬉しそうなクリスを見て、ルークは顔を顰めた。

「やはり……普通じゃない……。貴方は……いえ、良いでしょう。それは後です。まずは興味があると思いますので、私の目的と行った犯行についてどうでしょうか?」

「良いね。物語でやられる前の悪党っぽい!」

「ふふ、ご安心を。その辺りの悪党と違って私は臆病者。作戦よりも命を大切にしてますから。長い人生ですからね」

「どうせなら『既にスイッチは押してある』と言って欲しかったの」

「何ですそれ?」

「何でもないの。それで、まずはお話を聞くんだっけ?」

「ええ、そちらが興味あればですが。興味がないようでしたらやめましょうか? 正直どちらでも構いませんので」

「せっかくだから教えて貰おうかな」

「ええ、了解しました」

 ルークは物語を子供に読み聞かせる様に、自分の人生を話し出した。


ありがとうございました。

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