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もふもふ元大魔王の成り下がり冒険譚  作者: あらまき


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さんかげつくらい


 冒険者学園は学園という形ではあるが複数の建造物に住居があり、仕事場まである為その機能はほとんど街に等しい。

 だから当然、食事が出来る場所は無数に存在し、そして食べる場所を選択するのもまた冒険者としての重要な要素となる。

 あながち馬鹿に出来ないからだ。

 食堂での出会いという物は。


 そんな複数ある食堂の中でも、今回だけは少しばかり雰囲気がマシであまり誰かと接しない静かな物をクリスはセレクトした。

 自分だけのランチタイムなら場末の酒場の様な食堂に向かう。

 新入生が多く、喧嘩も多く、ついでに言えば自分の外見でもあまり注目されない。

 喧嘩やら騒がしさやらで注目される余裕がなくなるという方が正しいだろうが。


 だけど、クリスはこう見えても紳士である。

 たとえその外見がもふもふぬいぐるみで現実と架空の冒険者の区別がそれほどついてなくて、ついでに言えばへっぽこでも、紳士を自称する程度には気遣いが出来るつもりである。

 そんな訳でお洒落なカフェテリアの様な食堂にリュエルと共に座り、静かに昼食を取っていた。


 オムライスをもぐもぐと食べるクリスを、リュエルはじーっと見つめ続ける。

 黄色く可愛い食べ物を食べる、キラキラ光るもふもふした可愛い物体。

 あまりにも似合い過ぎて心までピカピカ輝いてしまう。

 今この光景は一分一秒さえ見逃す事は許されない。 

 例え注文したホットサンドが冷めるとしても、それ以上に大切な物が目の前に広がっていた。


「それでね、バランスが重要だと思うの」

 クリスに声をかけられ、リュエルははっと我に返る。

「バランス……というと?」

 もしや私の背が高すぎて女らしくないとかそういう事なのか。

 そんな事を考え不安に陥るリュエル。

 自分で言う程あんまり我に返ってはいなかった。


「午前中は授業を受けたから、午後は何か冒険者らしい活動をすべきだと思うの」

「なるほど。今私達に出来そうなのは学内依頼と学外依頼。それとダンジョン探索だね」

 愛しいクリスきゅんの為に昨日調べた事をリュエルは口にする。


 学内依頼は学園側、並びに権限を持つ上級生が出す依頼の事。

 内容は様々だが教師の手伝いが多い。

 偶に生徒を勉強させる為だけの依頼も混じっている。

 勉強させるという言葉はそのままの特別授業の様な物から、騙して悪いがの様な痛い目を見せる物まで。


 学外依頼は外部の人から冒険者学園の生徒に対して出された依頼の総称である。

 冒険者ギルド等依頼を受ける組織から簡単な依頼を回される場合や、相場よりも安い事を理由に直接学園に依頼される場合が該当する。

 学生向けでかつ低予算である為難易度自体は外よりも大分低い依頼ばかりなのだが、極稀に依頼主が騙して予算ケチってとんでもない依頼がまぎれる事もある。


 ダンジョンはその名の通り学園が抱えるダンジョンに挑戦するという事。

 解放されている二つのダンジョンの内一つはかなり難易度が低く、入学してすぐでも低階層なら参加が許されていた。


「という感じ。私としてはダンジョンが狙いだと思ってる」

 リュエルはそう言葉にした。

「どして?」

「私にダンジョンアタックの経験があるから。ソロでの活動だったけど、教えられる事はあると思う」

「なるほど。だけど、今行くのはちょっと良くないかなー」

「何故?」

 ダンジョンデートを夢見ていたリュエルは少し食い気味に尋ねた。

「私が完全にお荷物になっちゃう。もう少しだけ待って。最悪荷物持ち位は出来る様になるから」

「気にしなくても良い。経験は大切」

「私が気にするし、私がつまらない。それに、一応だけど私にも出来そうな事は思いついてるから」

「出来そうな事って、一体何?」

「盾役。これでも防御力は結構あるみたいなんだよね」

「……凄く嫌なんだけど」

 珍しく、本当に珍しく、リュエルは純粋に気持ちを口にする。

 その位、リュエルにとってその提案は嫌な事であった。


「まあ、このサイズじゃ盾役として信頼出来ないのはしょうがないの。でもそれは機動力で何とかするから」

 嫌な理由が頼りないからと思い込んでいるクリスのズレた回答に、リュエルはジト目を返した。

「それならせめて、何でも良いから後衛をやってくれた方が嬉しい。非戦闘のサポーターでも良いから」

「あー……それも手だね。一応魔法も学ぶつもりだけど、そっちはあまり期待しないで。私才能ないから」

 何故か嬉しそうにそう言葉にするクリスを見て、リュエルは何とも返事に困った。

 否定すべきか肯定すべきか。

 それでも一つ、確かな事はある。

 例えどうであろうとも、クリスきゅんを前に出して戦いたくはない。

 あの美しい毛並みが傷付く様はあまり考えなくなかった。


「あー。少し良いだろうか」

 横から声をかけられ、クリスとリュエルは食べるのを止め顔を見る。

 その声で気づいたのだが、随分と周りの声はやかましくなっていた。

 静かで落ち着いて食べられるのが売りの隠れ家的名店だとアルハンブラに教えて貰った場所だというのに。

 特に、女性の黄色い声。

 まるで爆弾の様な雄たけびが彼らを襲っていた。


 その雄たけびの中心にいる彼の顔に、クリスは見覚えがあった。

「あー。あの時の」

「クリス君の知ってる人?」

「勇者候補生の人。入学式の時見た」

 呼ばれ、彼は苦笑を見せる。

「そうだね。俺も君には見覚えがあるよ。改めて名乗ろう。俺はクレイン。君達の先輩で、勇者候補生だ。よろしく、クリス、リュエル」

 そう言ってから、彼が好青年らしい爽やかな笑みを彼らに向けると、再び黄色い歓声に包まれた。


 輝く銀の髪に白銀の鎧。

 誰が見ても一目に正義とわかるその外見の彼は当然、死ぬ程モテる。

 強く、正しく、かっこよく。

 当然タカリや楽する目当てで近づく奴も多いが、それだけでなく本気で心酔する奴も多い。

 だから何時だって、クレインの周りに大勢の目が眩んだ人が集まっていた。


 それがカリスマであり、クレインの実績である事はわかる。 

 それが間違っているとは言わないし、クレイン自体相当迷惑となっている事も想像出来る。


 それでも……クリスは彼を『勇者』と思いたくなかった。

 彼にとって勇者とは、あのどこまでもまっすぐで素直な女性であった。

 混濁合わせるというよりも、一般人そのものであった彼女こそが、クリスにとって一番正しい意味で人であった。


「それで、えと、何の用でしょうか先輩」

 きょとんと首を傾げながらクリスは尋ねる。

 とは言え、大体の予想はついているが。


「ああ。今日は後輩への顔見せと、良ければチームを組まないかというお誘いにね」

 そう言ってから、クレインはリュエルににっこりと微笑みかける。 

 リュエルは相変わらずの無表情のままだが、何となく不機嫌になったという事だけはクリスにも理解出来た。


 そう、予想通りでしかない。

 勇者候補生が勇者候補生に声をかけるなんてのは、他にあるだろうか。


「興味ない」

 リュエルはつっけんどんに言い放つ。

 そもそもだが、リュエルは勇者候補生という言葉にさえ興味がない。

 親元の組織がやらかした上に自分は製造されたクローン勇者である為、おそらく勇者候補という身分は没収されるだろう。

 そんな事実でさえ、リュエルはどうでも良いと思っていた。


「そもそもだけど、私はもうクリス君のパーティーに入ってる。上級生が横から引きぬくのは失礼……だと思います」

 後から付け足した様な敬語にクレインは苦笑する。

 それは彼女に対しての不満からではなく、彼女がそこまで苦言を口にする程これまでスカウトされたと想像出来たが故の同情からだった。

 自分もそうだったから、その気持ちは痛い程にわかった。


「気持ちわかるけど、少しは話を聞いて欲しい。それに、君だけじゃないよ」

「……え?」

「クリス、君にもだ。リュエルと共に俺のチームに来て欲しい」

「おお、まさかスカウトされた」

 クリスは嬉しそうに驚いた。

「ああ。君もスカウトしてるよ」

「嬉しいけど、でもどうして?」

「君が普通と違うからだよ。ああ失礼。これだと悪口みたいだ。そうではなく、輝く物があると見たんだ。特別な何かを。だからまあ……純粋に青田買いって奴さ。まあパーティーじゃなくてチームなんだけど、それでも損はさせないと約束するよ」

「なんと」

「それで、どうかな? もちろんすぐに決めなくても良い。あくまで出来たら……」

「ううん。せっかくのお誘いだけど、ごめんなさい」

 ぺこりと、クリスは頭を下げる。

 クレインもそうだが、リュエルも目を丸くし驚いていた。


「……悪い話にするつもりはないよ? 本当に。この名に誓っても良い」

「そうだとしても、むしろそうだからこそ、ごめんなさい」

「いや、構わないよ。でも、理由は知りたい。良ければ聞かせてくれないか? 俺の誘いを断るその理由を」

「うぃ。と言っても、そう難しい話じゃないの。私はリュエルちゃんこそ『勇者』に相応しいと思ってる。それだけ。つまるところ……」

「なるほど。ライバルとして俺と競いたいと」

「うぃ。えぐざくとりー」

 きりっとした顔でクリスは頷いた。

 まさかの挑戦状にリュエルは目を丸くしおたおたと慌てる。

 急いで否定しないとと思っているが、この場で何と言えば良いかわからなかった。


 クレインはくすくすと楽しそうに笑った。

「なるほどなるほど。そう言う事なら誘うだけ無粋だね。わかった。ここは素直に諦めよう。そして、これから君達は共に競い合うライバルと認識するよ」

「うぃ。そう思って欲しい」

「ああ、了解した。とは言え、俺の方が実績でも学年でも先輩である事は確かだ」

「うぃ。ライバルと壁は高い方が良いの」

「あはは。そう言ってくれると嬉しいよ。皆俺の前に立とうとしてくれないから。……ただまあ、先輩である事は事実だからね。例えライバルでも困った時は気軽に連絡して欲しい。勇者候補生の仲間として、ライバルとして、君達を助けたいんだ」

「うぃ。ありがとうございますなんだよ」

「そう言う事だから、これで失礼するよ。邪魔したね。お二人さん。それと先輩としてアドバイスだ。『目先の眩んだ冒険者は足元を踏み外す』。依頼や冒険をするのも悪くないが、しばらくは普通に学内を散策をお勧めするよ」

 手をぱたぱたと振ってから、やけにこなれたウィンクをして、クレインは騒がしい空気と黄色い歓声を引き連れ去っていく。

 その落差だろうか、まるで音が消えたかの様に錯覚する程静かになった。


「良かったの?」

 リュエルはそう尋ねる。

 内心はめちゃくちゃ慌ててて、そして褒められた事は嬉しいけど勇者に興味なんてないんだけどどうしようとか色々考えているけれど、逆に考え過ぎて何を聞けば良いのかわからなくなっていた。

「うぃ、良いの。上級生のチーム入りするつもりは最初からなかったし。私は私のパーティーを結成するのだ!」

 きりっとした顔で、しゃきーんと決めポーズを取り、そう断言。

 そして席に座りオムライスを食べる為スプーンを持つ。

 リュエルもすっと席に着き、若干冷めたホットサンドを手に取りじっとクリスを見つめる仕事に戻った。


「にしても、面白くなりそう」

 もぐもぐとオムライスを食べながら、クリスは呟いた。

「面白く? どうして? ライバルになったから?」

「ううん。あの人ね、明らかに私に興味持ってた。もしかしたらリュエルちゃんじゃなくて私が本命だったのかもと思う位に」

 まさか同じ趣味か、処さねば……と一瞬思ったリュエルだがそんな訳ないとすぐ我に返った。

「そうなの?」

「うん。他の人みたいに、私の方をリュエルちゃんのついでに見る目じゃなかったからね。でもね、あの人、入学式の時は私にそんな目を向けてなかった。私に興味なんて全くもってなかった」

「……それで?」

「つまり、たった一日程度で考え方が逆転する位に、私に興味を持ったって事。さて、どんな情報から私に興味を持って、そして私に何を期待したんだろう。そう考えると、楽しくなってくるの」

 ニコニコと、クリスは本当に嬉しそうだった。

「私はまだクリス君の事を、貴方の事をあまり知れていない。だけど……もしそうなら、彼は貴方にとって敵という事じゃあ……」

「かもしれないし、違うかもしれない。もしくは、単なる善意で本当は勘違いだったかも。でも、正直どっちでも良いかな」

「どっちでも?」

「うん。私の敵でも味方でも、どっちでも良いんだ。きっと楽しいから」

 強がりでも何でもなく、本心からそう言っている。

 だからようやく、リュエルはクリスの事が一つだけわかった。

「クリス君は、悦楽主義者なの?」

「そう言う訳じゃないよ。平和は大切なんよ。でも、平坦な道より山あり谷ありの方が好きなんよ」

 結果よりも、仮定を求めたい。

 それはこれまでクリスが手にする事がなかったものだから。

 だけど、それはクリスしか経験のした事のない事だから他人に説明出来るものではなかった。


「そか。クリス君は、素直なんだね」

「幼稚でごめんね?」

「ううん。とても好ましいと思うよ。そうやって、楽しい事を楽しいと言えるのは」

「そか。ありがとう」

「どうしたしまして。それで、午後の予定についてなんだけど、予定変更して良いかな。一つ行きたい場所があった」

「うぃ。どこどこ?」

「剣をね、買おうと思う。あの剣じゃなくて、もっと普通の剣を。一緒に成長する為に」

「なるほど……。じゃあ午後は剣を売ってる場所を調べよか。もしくは打ってくれる場所を」

「適当な場所で使い捨ての安物でも良いよ? そこら辺の購買の」

「ふふーふ。一つ、私の秘密をお教えしよう」

 そう言葉にするクリスは腹が立つ程のドヤ顔だった。

「聞きたい」

「ふふふーのふー。実は私、それなりにお金持ちだったりします。具体的に言えば小切手しか今持ってなくて小銭に困る位に」

「だからここの支払いは任せてね」

「毎度お世話になります」

 事前に決めた事とは言え、感謝は忘れずに。

 クリスはぺこりと深く頭を下げた。

「気にしないで」

「という訳でそんなこんなのお詫びとか、後初めてのお買い物で嬉しいとか、仲間に剣を買ってあげるなんて冒険者らしい事にテンション上がってとかで、良い物を買ってあげたいとか思っちゃったりしてます」

 そう言われても、リュエルはクリスの申し出を断ろうと考えた。

 高価な物を貰う事に気後れしたからだ。

 だが、少し考えなおしてみる。


 大好きな人からプレゼントを貰って、嬉しくない訳がない。 

 それが高価な物という事はイコール、婚約指輪に匹敵する。

 イコール……結婚同然。


「給料三か月分位で、お願いします」

 感情を表すのが苦手なリュエルだから表情はそのまま。

 だけど、頬は少しばかり紅潮していた。


「私、給料幾らだっただろう」

 言葉の意味が伝わらず、そんなどうでも良い事を疑問に思いながらクリスはオムライスをぱくついた。



ありがとうございました。

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