黄泉比良坂の名探偵
雪に閉ざされた季節がゆっくりと過ぎ去ると紅梅の香りが広がり、やがて、春へと変わっていく。
それは何処か人生に似ていて巳湖斗は平坂を下りながら学校へ向かい、校庭に添って植えられている桜の蕾が顔を覗かせているのに笑みを浮かべた。
恋人の有栖川美玖は東京で父親と共に暮らし始め、毎日LINEや電話で遣り取りをしている。
今朝も『おはよう(*‘∀‘)今日は平坂の日ですね、頑張って(/・ω・)/』と送られてきた。
巳湖斗はそれを見ると頬を染めながら微笑み
『ありがとう。今日も頑張ってくるから。美玖ちゃんも頑張れ!』
と返した。
あと一週間ほどで彼女は出雲市へ収録にやってくる。
暫くの間、出雲市と東京と交互に行き交う事になるので会う事が出来るのだ。
巳湖斗は門を潜り
「もうすぐだよな」
と呟いた。
それに背後から浅見武士がポンと背中を叩くと
「顔がにやけてるぜ、巳湖斗」
と笑いながら告げた。
隣で歩いていた三笠八重子が
「当り前じゃない」
遠距離恋愛って大変なんだから
「でも会えない時間も愛を育てるんだよねー」
美玖ちゃんはアイドルだし秘密の恋愛だしね
と業と目をキラキラさせながら告げた。
…。
…。
いやいや、恥ずかしいから。と巳湖斗は真っ赤になりながら振り返り
「武士に三笠も…」
と顔を顰めた。
2人は巳湖斗と並んで歩くと武士が
「で、今日も見に行くんだろ?」
と聞いた。
八重子も笑顔で
「私も協力するから」
と告げた。
巳湖斗は頷くと自らの手を見つめ
「ああ、死の坂を下りきる前に助ける」
その先に神蔵の秘密があると思うから
と笑顔を2人に向けて答えた。
この時、朝の眩い輝きが正面から射し込み明るい未来を彼らに知らせていた。
黄泉比良坂の名探偵
巳湖斗が授業を終えて帰宅すると家には見知らぬ靴が並んで置いていた。
来客のようである。
靴を脱いでリビングに行くと2人の客が訪れていた。
1人は御手洗禊であった。
「やあ、お帰り」
もう1人は近松元治であった。
「お、おかえり…巳湖斗君」
これから行くんだろ?
「是非私にも報告を聞かせてもらいたい」
巳湖斗は戸惑いつつも
「は、はあ」
と答えた。
火無威は笑って
「巳湖斗、気をつけて見たらすぐに帰ってこい」
と告げた。
巳湖斗は鞄を置いて制服を着替えると
「わかった」
と答え、御手洗と近松に手を振ると家を出た。
その時、携帯のLINEが通知を届けた。
京都新報社の七尾雄一からであった。
『平坂を今も見に行っているのかい?見たら是非教えてもらいたい。蜻蛉の奴もそう言っていた。頑張れ』
巳湖斗は笑むと足を進め
「事件が解決しても誰かが死んでしまったらその時点で誰も救われない」
だから
と平坂の上に立って足をさらに進めた。
…今日も俺は死にゆく運命から手を掴んで引き戻す…
坂は逢魔が時の坂道は金色に輝いて雲が棚引く空との間に今日もまた死の運命抱く人々を浮かび上がらせるのであった。
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。




