末期
「妹から告白されるなんて思ってもみなかったな......」
茉由から告白された日の夜。俺は自分の部屋のベットに横になり、一人で考え事をしていた。言うまでもなく、茉由の事だ。
結局、茉由からの告白は少し考えさせてくれと言ってしまい、返事は保留にしてしまっている。
妹からの告白を受け入れるかどうか悩むなんて、俺はやはり末期なのかもしれない。
でも仕方ないだろう?可愛いと思ってしまったんだから。
「妹と付き合ったら、変態シスコン野郎なんてあだ名が付くのかな?...流石にそれは嫌だな」
付き合った後の事を心配するなんて、俺はもう駄目なのだろう。
そんな分かりきったことをぼんやりと考えていると。
「じゃあ、シスコンお兄ちゃんはどうだ?」
俺の部屋の入り口から、声が聞こえてきた。
慌てて跳ね起きるとそこには俺の母親である赤坂雪がいた。母は年齢が39歳とそこそこいい年をしているのだが、20代と言われても信じられる位に若い。...顔も、精神も。
ちなみに父とは3年前に離婚しており、現在は独身である。
「母さん!?いつからそこに!?」
「ん~?『妹から告白されるなんて思ってもみなかったな』なんて言ってた辺りからかな?」
「マジかよ...。もう誤魔化し利かねえじゃねえか」
「そういう事だから息子よ、溜まってる物全部出して、気持ち良くなっちまえよ(意味深)」
「(意味深)とか自分で言うな!母親の下ネタなんか聞きたくないわ!」
俺の渾身のツッコミを「はっはっはー」という笑い声で受け流した母は、「冗談はここまでにして」と前置きをした後に顔から笑みを消した。
気温が下がったとまでは言わないが、今の母には少しだけ威圧感が有るように感じられた。
そんな雰囲気なので何を言うつもりなのかは大体想像が付く。しかし面と向かってそれを言われるのだと思うと、少し怖さがある。
「佑真、お前はさ...」
そこで一度言葉を区切って一呼吸おいたあと、母はゆっくりと俺に言う。
「巨乳と貧乳、どっちが好きだ?」
「......一発殴ってもいいかな?」
さっきの真剣な表情は何だったんだよ。俺のシリアスを返せよ。多分、俺の人生で初のシリアスだったんだぞ?
いつもよりもおちゃらけた様子の母に心底うんざりし...かけて気づく。
「母さん、動揺してる?」
俺の言葉に母の動きが固まる。
「我が息子ながら鋭いね」
そう言った母の顔には、ふざけている様子など微塵も残ってはいなかった。かわりに不敵な笑みをたたえ、その瞳を獲物を狙う猛禽類とでも言うかのような風貌にかえていた。
今度は本気だ。
初めて見る母の表情に戦慄させられるなんて体験、なかなか無いことだろう。
「伊達に何年も私の息子をやってねぇ、ってか?」
笑みを崩さぬまま、母は続ける。
「そりゃ動揺もするだろうよ。自分の子供がシスコンお兄ちゃんにブラコン妹だったなんて知っちまったらよぉ」
「......」
「で、実際のところどうなんだい?シスコンお兄ちゃん?妹と付き合う気かい?」
母の問いかけに俺は目を閉じて考える。
何度も自分の中で自分に問いかけ、そのつど出る答えを反芻する。
途中で「やっぱりこいつ駄目っぽいな」という呟きが聞こえたが、気にしない事にした。




