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騎士物語  作者: RANPO
第二章 ~悪者である為に~
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第九話 侵攻

ちらちらと名称だけ登場していた、魔法生物の事件です。

 旅をする人にとって、お風呂というモノは毎日入るものじゃない。少なくとも、オレとフィリウスという旅人はそうだった。近場に水場が無ければ何日もお風呂に入らないなんてことはざらだった。

 ただ、フィリウスは実の所お風呂好きなものだから、重たいのにわざわざ馬車の荷台にドラム缶を積んでいた。水場を見つけたなら火を起こしてドラム缶風呂に入ったわけだ。

 数日か下手すれば数週間……そういう頻度で入っていたお風呂に、オレは今、毎日入っている。

「そろそろ身体がふやけてくるんじゃないかと心配なんだが……」

「そんなわけないでしょ……」

 お風呂セットを手にしたオレは同じくお風呂セットを手にしたエリルに呆れられた。

 基本的にエリルは部屋風呂派という分類に入るらしいのだが、今日はローゼルさんから大浴場に誘われたらしい。だからオレも大浴場――もちろん男子寮の方にある大浴場に行く事にした。


 男子寮は女子寮から少し――というかかなり離れた所にある。位置的には学院の敷地の反対側だ。

 大きい風呂があるならオレも入りたいと思い、一度エリルに男子寮までの道を教えてもらって行った事がある。つまり、今回は二度目の大浴場入浴というわけだ。

「相変わらず広いなぁ。」

 この大浴場にはいくつかのお風呂がある。メインの一番大きいやつの他にボコボコ泡の出るのとか水風呂とか、どういう効果があるのかよくわからない変な色をしたのとかもある。全部試してみたいところなのだが、そういうのはサイズが小さい上にいつも誰かがいるから中々入りづらい。時間をずらして人が少ない時に試すのが良さそうだ。

 という事で、オレは一番大きなお風呂に身体を沈める。ペタリと座り込むと肩の辺りまでお湯に入る深さで、思わず「だはー」とかいう声が出る心地よさだ。

「……ん?」

 しばらく――たぶん相当ふやけた顔でお湯に入っていたオレはふと気が付いた。周りに人が少ないのだ。普通にお風呂の時間帯だからもっといていいはずなのに、他の男子らはなんでかこの一番大きいお風呂じゃなくて他のお風呂に集中していた。

「……田舎者臭さがうつるとか思われてんのかな……」

 なんとなく自分の身体の臭いをかいでいると――


「いいお湯だね、サードニクスくん。」


 そんな風に声をかけられた。聞き慣れない声のした方に顔を向けたオレは相当ビックリした。

「おや? そういう表情は見覚えがあるね。」

 そう言ってほほ笑むその人は――綺麗な銀髪で病気なんじゃないかってくらいに肌が白くて切れ目でキラキラしてて言うなれば美人さんで――な、何が言いたいかっていうと、つまりオレの目には――女性に見えたのだ。

「君も僕を女性だと思ったのだね? だが勿論そうではないよ。見給え。」

 銀髪のその人はその場でスッと立ち上がった。タオルも巻かずにそうしたわけだから、オレの目にはその人の裸体が飛び込んできた。

 きっと女性だったなら膨らんでいるであろう場所には引き締まった筋肉があり、身体のシルエットも男性のそれで――というかそんな事よりも、たぶん男女を区別するのに一番手っ取り早いというかわかりやすいというか……ついているかついていないかで判断すればその人にはついているのだから、男性である事に疑いの余地はない。

「ほら、僕の性別は男だろう?」

「……んまぁ、ソレが単品で売っているって話は聞きませんしね。」

「ふふふ、面白いことを言うね。」

 水しぶきの一つもたてずに再び身体を沈める彼は、そうしながらオレの横に並んだ。

 女性だと思って見ると美人なわけだけど、男性とわかって見るとかなりの美形――んまぁ、美しいって事は変わらないか。

 銀色の髪の毛はたぶんおろすと長いんだろう、ゴムか何かで結んでお湯に浸からないようにしている。まつ毛が妙に長くて切れ目で……流し目とかが似合いそうというか、それをされると男女問わずドキッとすると思う。そしてフィリウスとは違う方向にムキムキで――バランスよく、細くて引き締まった筋肉が身体を覆っている。

 オレが女性だと見間違えたのと同じような事を他の男子も感じているんだろう。男子だとわかっても近くにいくのはなんか罪悪感を覚える。きっとこの人が、周りに他の男子がいない理由だ。

「どうしたんだい? 僕の顔に何か?」

「いえ……なんていうか、かっこいいですね。こういうのは確か――イケメンって言うんですよね。」

「ふふふ、同性にそう言われるとはね。だが整った顔だとか、かっこいい顔立ちだとか言うのであれば君も中々だと思うけどね。」

「えぇ?」

「普段の君は――そう、音を付けるのなら「ぬぼー」っという感じで、そのくせ――矛盾しているが妙に表情が豊かだ。いや、これは物事に対して素直というべきか。しかしそんな君はいざ真剣な顔、例えば戦闘などになるとその顔が引き締まる。常にあの顔だったなら、きっと君の言うイケメンと呼ばれて差支えないだろうね。」

「そ、そうですか……ところでえっと……もしかして同じクラスだったりします? オレ、クラスメイトも全然覚えられてなくて……」

「違うよ。僕が君の名前を知っているのは君が有名人だからだよ。」

「えぇ?」

「ふふふ、妙な時期に転校してきた見るからに場違いな雰囲気を持つ人物がA級犯罪者を撃退し、《ディセンバ》に本気を出させたのだ。有名になって然るべきだろうね。」

「セル――《ディセンバ》に本気を出させた? いや、だってオレは一発で――」

「その一発を引き出した事を言っているのだよ。学院全生徒と《ディセンバ》の戦いは《ディセンバ》の圧勝で、大抵の生徒が全ての攻撃を避けられて終わった。しかし中には《ディセンバ》の予想を超えた動きをし、《ディセンバ》に防御させた生徒が何人かいたのだよ。その内の一人が君だ。」

「へぇ。」

「ふふふ、感想はそれだけかい?」

「んまぁ……どっちかというと今はあなたが誰なのかって事の方が気になって……」

「おっと、そう言えば名乗っていなかったね。僕はデルフという者だ。」

「デルフさん……えっと同級生ですか? もしかして上級生?」

 オレとしては大して意味のない、当たり前に近い質問をしたのだが、デルフさんはチッチッチと指を振る。

「いけないな、サードニクスくん。確かにここは寮の大浴場。学年関係なく多くの男子生徒が利用するのだから、僕は上級生かもしれないね。しかしだね、ここはやはりお風呂なのだよ。」

「?」

「この学院は学年でネクタイやリボンの色が異なり、それを見れば何年生かすぐにわかるが、逆に言えばそれを見なければ判断する術がない。騎士はイメロを持っていなければそうと見られず、王冠を頂かない王はいない。わかるかな? 権威や身分、名誉といったモノはいわば服なのだよ。それを示すモノがなければ実際にそうであったとしてもそうだと信じられない場合もある。ならば風呂場とは、証明のしようがない故に平等な場所であるのだよ。」

「……つまり、お風呂場で何年生だとか、それを聞いて恭しく接してみたりってのは――野暮って事ですか?」

「おお、理解が早い――というか深いね。」

「前に同じような事を言われた事がありましたから。んまぁ、ならもう聞きません。オレはサードニクスくんで、あなたはデルフさん。」

「ふふふ、君は面白いな。」

「それでデルフさんは……えっと、何かオレに用が?」

「ん? 話しかけた理由かな? 特に意味のない雑談を通して君という人物を知ろうと思ったのだよ。」

「そ、そうですか……」

「この学院に来てそろそろ……ひと月かい?」

「えぇ、まぁ。」

「日が浅い、とは言えなくなってきたものの、やはり四月を経験していない君には説明を受けていない分、知らない事が多いはずだ。だから気が付かないのだろう、今、君がどれだけ多くの生徒に狙われているかを。」

「狙われて!?」

「ああ、命をという意味ではないよ。君という人材を欲しているという意味だ。」

「人材?」

「ここは学院――学校だよ、サードニクスくん。学校には先生と生徒という枠組み以外にも様々なグループがあるだろう? 部活動や委員会といったね。」

「え、ここにもそういうのあるんですか?」

「あるとも。君の戦闘技術は体術だけで見れば一年生においてダントツだし、三年生ともいい勝負をするだろう。そんな有能な生徒を放っておかない人々がいるのだよ。ちなみに、僕もそういった人々の一人であり、だからこそ君の実力以外の部分を知りたいと思ったのだよ。」

「はぁ……」

「だからお話しよう、サードニクスくん。」




 ローゼルに誘われて大浴場に来るのはロイドが部屋に来たその日以来。今日は加えてティアナがいる。

「……ティアナ?」

 服を脱いでタオルを巻いた――つまりお風呂に入る格好になったティアナは顔が見えなかった。前髪が完全に眼を隠してて口と鼻しか見えない

「ああ……髪留めを外しているからな。」

 ローゼルが当然みたいにそう言ってお風呂場に入っていくからあたしはそれ以上何も言わなかった。ざばっとお湯を浴びて、あたしたちは三人並んでお風呂に入る。

「……ロ、ロゼちゃんは相変わらず……すごいね……」

 ティアナが隣に座るローゼルにそう言う。たぶん、ティアナはあたしと同じくらいなわけで、だからローゼルのそれはうらやま――しくないわよ!

「あ、あんたたちも部屋風呂派なのね……」

「基本的にな。だが週一回くらいはこっちに来ている。せっかくだから大きな方にも入りたいモノだ。」

「……で、あたしを呼んだ理由は何よ。この前みたいになんかあるんでしょ?」

「あー……そのだな……」

 ローゼルにしちゃ珍しく歯切れの悪い感じで、髪の毛をくるくるいじりながらこう言った。

「い、一緒に生活を始めてそろそろひと月だが、ロイドくんとの――その、生活はどうかなと思ってな……ほ、ほら! カーテンなんかを買っ――提供した身としては気になるところなのだ!」

「べ、別に何も――」

 って言いかけて、時々ロイドが言うこっぱずかしい事とか、いきなり近くに来たりとか、ちょっとした事で笑い合ったりするのを思い出して、あたしは顔が熱くなった。

「!! な、なんだその顔は! 何をしているんだ! ロロロ、ロイドくんと何を!」

「ど、どーでもいいじゃないそんなこと!」

「どうでもよく、ないです!」

 ティアナまでそんな風に言う。

「な、夏休みはどうするのだ! ま、まさかずっと二人――」

「な、なわけないでしょ! そ、そりゃまぁ……うちに遊びに来るとか言ってたけど……」

「家に!? ロイドくんを!? そ、それはあれか! 両親に紹介するというあれ的なあれか!」

「ロ、ローゼル! あんたさっきから変よ!?」

「変ではない! だ、大事な事なのだ!」


「そうだね。それはボクも詳しく聞きたいかな。」


 バシャバシャお湯を飛ばしながら言い合ってたら、あたしたちの正面にいた誰かがそう言った。

 っていうか、その声は聞き覚えがあった。

「……なんであんたがここにいんのよ――」

 お風呂だから当たり前だけど、髪を結んでなくて花飾りもない。だけどその茶髪と内側が真っ黒な可愛い顔は――

「――リリー・トラピッチェ。」

 ロイドの知り合いでこの学院に定期的にやってくる商人でもある。だけど重要なのはそこじゃなくて……

「ボクのロイくんを紹介するの? 両親に?」


 この女はロイドがす――好き……なのだ……


「う、うちに来るって言ってるんだから、そりゃ――紹介するわよ。が、学院の友達だって……」

「ふぅん?」

「へ、あれ? 時々学院に来る……商人の人です……よね……?」

 ティアナが(そんな状態で前が見えてるのか疑問だけど)リリーを見て首を傾げる。

「ん? 君は初めましてかな。ボクはリリー・トラピッチェ。君はだぁれ?」

「ティ、ティアナ・マリーゴールド……です。」

「ティアナちゃんか。よろしくねー。ちなみに、確かにボクは「学院に来る商人の人」だけど、明日辺りからはそうじゃなくなるよ。」

「どういうことだ?」

 いきなり現れたリリーを半目で睨みつけるローゼル。リリーはそんなローゼルの質問に答えようとしたけど――

「――! ローゼルちゃん……そ、それは反則……」

 今まで余裕の表情と、暗くて怖い顔しか見た事なかったけど、初めてリリーが焦った顔になった。ローゼルの胸に視線を落としながら。

「む?」

 リリーの視線に気づいたローゼルは、たまに見せる――っていうかたぶんこれが本性の意地の悪い顔になる。

「何を言うかと思えば――ふふふ。君もなかなかじゃないか、リリーくん。しかしあれなのだろう? 男性は胸の大きな女性に魅力を感じる場合が多いと聞く。やれやれ、困ったモノだな。なぁ、リリーくん。」

 ローゼルがかなり腹立つ顔になる。

「この前会った時も思ったけど……生で見ると恐ろしいね……ローゼルちゃんがロイくんと相部屋だったらボクも本気を出してたかもしれない……で、でもでも、ロイくんはそーゆーのできっと判断しない人だからね……うん……」




 エリルやローゼルさん、ティアナという友達ができたのはいいけど、全員女の子だからお風呂だけは寂しく感じていたオレだったが、デルフさんという人と親しくなった事でオレの学院生活はこの上ないまでに充実してきたぞ! と、ウキウキした気持ちで部屋に戻ってくるとなんだか人がたくさんいた。

「ロイくんってば長風呂なんだね。」

「リリーちゃん? え、なんでリリーちゃんが?」

 エリルがいるのは当然として、ローゼルさんとティアナが加わって、さらにリリーちゃんまでいた。エリルはふわふわしたいつもの寝間着、ローゼルさんは長袖長ズボンの青いパジャマ、ティアナは普段着と同じ、妙にぶかぶかした服。でもってリリーちゃんはエリルの寝間着のズボンバージョンみたいな服にナイトキャップを被っていた。

 知り合いの女の子たちのパジャマ姿っていうのは正直結構ドキドキするもので、リリーちゃんがここにいる理由が気になるものの、オレは席を外した方がいいんじゃないかと思った。

「えぇっと……オレ、どっかで時間潰してこようか?」

「なんでよ。」

「いや……ほら、これはあの、女子会ってやつじゃ……」

「違うわよ。むしろ全員、あんたに聞きたい事があって来たのよ。」

 なんかムスッとした――いや、真剣? な顔のエリルにそう言われたオレはそそそっと部屋に入った。

「おほん。それじゃあ聞くがロイドくん。」

「な、なんでしょうか……」

 眼を逸らしながら、お風呂に入り過ぎたのか顔の赤いローゼルさんがオレに尋ねる。

「そ、そのだな。だだだ、男性はむ、胸の大きな女性に――その、ひかれると聞くが……本当だろうか?」

「ほぇ?」

 予想の外の質問にすっとんきょうな声を出してしまった。

「要するにねロイくん。胸の大きな女の子と小さな女の子、どっちが好きかって質問だよ。」

「……そ、それはオレがって事? それとも世の中の男はって事?」

「ロ、ロイドくんは、どっちなんですか!?」

 金色の眼をキッと光らせてかつてない迫力でそう言うティアナの言葉を合図にしたみたいに、全員がオレを真剣な顔で睨みつける。内容はともかく、これはきっと相当真面目な話なのだろうと思ったオレは自分の考えを真剣に話した。

「――オレの場合で言うなら、胸の大きさで好きかどうかは決めないから何とも言えないかな。それで決めちゃったら勿体ない。」

「勿体ないとは――どういう事だ?」

「えっと、オレが……この六、七年の旅で思った事で、たぶんオレの信条? みたいなのになっているモノがあって……ずばり、「人は見かけで判断しない」なんだけど……」

「七年の旅で得たにしちゃ聞いたことある信条ね……」

「そういうなよ、エリル……」

 地味にショックを受けつつ、オレはこの信条的なモノを説明する。

「この言葉はな……例えば、道の向こうから見るからに人の良さそうなおじいさんが歩いて来るとした時、もしかしたらそのおじいさんは熟練の詐欺師かもしれない――的なマイナスの意味合いじゃなくて、プラスの意味合いだ。見るからに悪そうな人が歩いて来るとした時、もしかしたらすっごくいい人かもしれないし、趣味の合う友達になれるかもしれない。だから見かけだけで判断しちゃいけないって話。」

「それがさっきの勿体ないにつながるわけ?」

「そう。女の子は胸が大きくなきゃっていう目で見て、胸の小さい女の子を「ありゃダメだ」って否定するのはダメなんだ。もしかしたら、否定した中には自分と相性抜群でいい奥さんになる女の子がいるかもしれない。生涯の親友になる人だっているかもしれない。だから胸だけで決めるのは勿体ないんだ。」

「なるほどね……」

「あ、ちなみにこれはフィリウスの教えってわけじゃないからな。旅を通して得たオレ、オリジナルだ。」

「ロイドくんらしいな。」

「そ、そうか?」

 真剣な顔だったみんながうんうんと何かに納得して解決した風な空気を出したんだが――はてさて、一体この質問はなんだったのやら……

「でもあれだね。フィルさんと旅しててその考えが身に付くのは面白いね。」

「そうだね。フィリウスは「胸は大きい方がいい!」って叫んでいたから……」

「「男なら女の母性に包まれ、埋もれたいものだ!」とも言ってたね。」

「……そこだけ聞くとただのセクハラおやじね、フィリウスさん……」

 げんなりするエリル。

「そういえばフィリウス、夏休みになったら様子を見に来るって言っていたな。うん、その時みんなに紹介するよ。」

「《ディセンバ》に続き《オウガスト》か。加えてエリルくんの家に行くと《エイプリル》にも会う事になるのか。これはすごい事だな。」

「ちょっと、なんでローゼルがうちに来る事になってんのよ。」

「何を言う。ロイドくんを「学院の友達」として紹介するのだろう? ならばわたし――わたしたちが行っても問題ないだろう?」

「べ、別にあたしがロイドをしょ、紹介したいから連れてくわけじゃないわよ! こいつが来るって言うから……紹介するなら「友達」って言っただけ!」

「ならばわたしも行くとしよう。クォーツ家の令嬢と友人になったのだ、リシアンサス家としては挨拶に行かねばな。」

「あんたねぇ!」

 時々始まるエリルとローゼルさんのよくわからないケンカをいつものように眺めていたオレはふと思い出して、いつの間にかオレのベッドの中に潜っているリリーちゃんに尋ねる。

「んで、なんでリリーちゃんがここに?」



 次の日、教壇に立った先生の横に制服姿のリリーちゃんが立っていた。

「あー……お前らもよく知ってる商人のリリー・トラピッチェだが、本日付けでこの学院の生徒になった。よろしくな。」

「どうもー。」

 手を振るリリーちゃん、ざわめく教室、雄たけびを上げる数人の男たち、そしてムスり顔のエリル。

 オレと同じように、リリーちゃんが転入してきたのだ。


 リリーちゃんが学院に入った理由。それは「バレちゃったから」。オレも昨日初めて知ったのだが、リリーちゃんは第十系統の位置魔法の使い手だったのだ。

 魔法を上手に使える人というのは大抵、騎士の学校とは限らないけど何かしらの教育機関でその使い方を勉強した人という事になり、それが基本。だけど、近所の魔法使いからとか独学とかである程度魔法を使える人というのはそれなりにいる。

 ちゃんとした教育を受けてないけど魔法を使える人たち――彼らにとっては便利な事で良い事なんだけど、教育をする側からすると彼らはとても危険な状態と認識される。便利さの裏にある危険性や暴走した時の対処法なんかを学ばずに魔法を使うって事は赤ん坊に爆弾のスイッチを与えるようなモノ――なのだとか。いつどんな形の災害に繋がるとも限らないから、そういう危険な状態の人を見つけたら教育機関はその人を機関に入れてしっかりと教育を施すというのが決まっているらしい。

 そしてリリーちゃんは、リリーちゃんが言うに独学で魔法を使えるようになった人。リリーちゃんの歳で魔法を使えるというのは、本来なら学校に行くべき年齢である事からそういう危険な状態の人である事が確定する。だからリリーちゃんは今まで魔法を使えるって事を隠して商人をしていたらしい。勿論、学院と契約する時も魔法を使えるなんて一言も言っていなかった。

 それがこの前――オレは気が付かなかったんだけど、オレと再会したあの日、リリーちゃんは位置魔法を何度か使ってしまい、その気配を学院長に察知されてしまったのだ。


「生徒となりはするが商人としての活動は続く。今度学食の方に購買を作ってそこで今まで売ってたようなモノを扱うそうだ。」

 今更自己紹介する必要のないリリーちゃんはちらっとオレ――じゃなくてエリルの方を見てぐぬぬという顔をした後、空いている席にヒョイと座った。

ちなみに、ティアナも同じクラスで今はローゼルさんの隣に座っている。友達がみんな同じクラスにいるというのは地味に嬉しい事だ。

「さて……」

 いつものように授業が始まる――はずだったんだが、リリーちゃんを紹介した後、急に表情を険しくした先生がこう言った。


「国の一大事が起きた。」


 重々しい口調で一言そう言った先生がパチンと指を鳴らすと、チョークが勝手に動いて黒板に物凄い勢いで何かが描かれ始めた。

「本来なら国王軍が対処するわけだが、状況があいつらのキャパを超えている。故に、この学院に協力要請が来た。」

 黒板に描かれたのはこの街の地図だった。

「これは我が国、フェルブランドの首都であるラパンの地図――セイリオス学院はここ、王宮はここ……ま、言われなくてもわかるだろうがな。問題はこの街の周りだ。」

 黒板に描かれた地図を見るとよくわかるのだが、この街は隣街に続く街道が二本ほど伸びている以外、周りを草原とか森に囲まれている。

「この街が作られ、首都となった当時の王妃は身体が弱く、頻繁に病にかかっていた。だから当時の王が周りに自然を残すよう命じた為、この街の周囲はこうなっている。自然が豊かで空気もうまい上、かなり遠くまで見渡せるから敵も見つけやすい。他にも自然を残したことでマナが充実しているなど良い事がたくさんあったわけだが、今回はそれが裏目に出た。」

 さっきとは色の違うチョークが街の周囲の草原なんかを塗りつぶしていく。それはまるで生き物の分布図のようだったのだが、その範囲はこの街をぐるりと囲んでしまった。


「この色をつけた部分に今――どっから湧いて出たのやら、大量の魔法生物が集結している。」


 教室がざわめき、そしてオレはさっき先生が言った言葉の意味を理解した。

「……サードニクス――とトラピッチェはこの状況を理解したみたいだな。そ、小さな村なんかじゃそこそこの頻度である事――あれがこの街で起ころうとしてんだ。」

 ありえない。オレは思わず身を乗り出した。

「そんな……だって、こんな大きな街ですよ!? それにここには騎士がいっぱいいるわけだし……魔法生物がそれに気づかないわけは……」

「そうだ。本来ならありえねーし、だからこそありのままの自然を残した状態で街を作ったんだ。だがそれが起きた。前代未聞だろ?」

 シャレになんねーよなって顔をした先生は、何が起きているかをよくわかっていない他の生徒たちの方を向いた。

「魔法生物学は一年の後期からだから知らないのは無理もない。大きな街で育った奴じゃ特にな。ざっくりいうと、今この街は滅ぼされようとしている。」

 リリーちゃんが来た事で起きたざわめきが一気に塗り替えられる。冗談を言っていない事は先生の顔を見れば誰でもわかる。だからこそ、そのざわめきには少しの恐怖が混じっていた。

「――で、今から私はこの件について他の先生とか学院長とかと会議をする。だからその間に何が起きてるのか説明しといてくれ、サードニクス。」

「……え、オレですか?」

「……ちなみに、お前これの経験はどれくらいある?」

「……全部フィリウスと一緒にやったんですけど……三回くらい……」

「充分だ。じゃ頼んだぞ。」

 スタスタと出て行く先生の背中を見送った後、オレはクラスのみんなからの視線を受けた。

「……えぇっと……」

 助けを求めてエリルを見たが、エリルもこれは知らないみたいで首を振った。

「……しょうがないなぁ……」

 渋々階段を降り、いつも先生が立つ場所にオレは立つ。

「手伝うよ、ロイくん。」

「ありがとう……」

 大勢の人の前で何かを話すなんて経験、まったくないんだが……そうも言っていられない。これは本当にまずい状況なのだから。

「えっと……まず前提の話なんだけど、オレたちが国とかを作って自分の領地っていうのを作るのと同じように、野生の生き物にも縄張りってのがあるんだけど――んまぁ、これはみんな知ってるか。」

「ついでに言えば、人間が戦争して相手の領地を手に入れるみたいに、野生の中でもより良い環境を求めて縄張り争いが起きるよね。」

 と、リリーちゃんが補足してくれた。これはありがたい。

「普通、オレたち人間は野生の生き物からしたらすごく強い生き物だ。魔法とか武器とか使うから。だから、オレたちがすごくいい土地に住んでいるからって野生の生き物がその土地を奪うために戦いを仕掛けて来ることはない。」

「野生の生き物は相手との力の差ってのを測る力が人間よりあるからね。自分より強い生き物には挑まないんだよ。」

「そう……普通は。だけどこれが魔法生物だと話が違う。」

 そこまで話して、前の方の席に座っているローゼルさんがハッとした顔になった。

「つまりこういう事ですか? 魔法生物は他の生物と違って魔法を使える分強いから、その縄張り争いを人間に仕掛けて来る事があると?」

 みんなの手前だからか、オレとしては違和感がすごい優等生モードのローゼルさん。

「そう――です。でも勿論全ての人間に対して挑んでくるわけじゃない。魔法生物はマナを扱う器官を持っている関係で、魔法を使う騎士の力を感知できると言われている。だからこの街みたいにたくさんの騎士が守りを固めている場所には仕掛けてこない。逆に、強い騎士が駐在しているわけじゃない小さな村とかは――襲われやすい。」

「こういうのを魔法生物の侵攻って言ってね。村とか町じゃよくある事なんだ。普通は国にお願いして守ってもらうんだけど、あんまりに辺境だと軍が間に合わなかったりするから傭兵さんとか個人の騎士団に頼んだりするね。」

「では……今この街が置かれている状況というのは……」

「さっき言ったように、普通なら強い騎士のいるこの街は襲われないはず……なのにこの街は何故かその侵攻をされようとしている。そういう状況――です。」

「あ、あの、質問、いいかな……」

 おずおずと手を挙げるティアナ。

「うん。」

「魔法生物にもランク……があると思うんだけど……Sランクの魔法生物とかなら街に攻撃してくる事も……あるんじゃないかなって……」

「それはそうなんだけど、魔法生物ってランクが上なほど――えっと、個体数が少ないんだ。侵攻をするようなのはたくさんの群れを作る魔法生物で、そういうのは大抵CとかB。Aランクの群れってのはかなりレアらしくて、Sともなるとまず無い……んだけど、今まさにまず無い事が起きているからなぁ。」

「街の周囲にいる魔法生物がどれくらいの強さなのかってのが気になるよね。」

「その辺は先生の会議待ちかな。んまぁどちらにしろ、オレたちもなんかする事になるんだろう。」

「た、例えばどんな事を……するのかな……」

「そんなに心配しなくてもいいと思うよ、ティアナ。街の周りを国王軍がガードして……ついうっかり倒し損ねて侵入しちゃったのを倒すみたいな事だろうから。」

「で、でもあ、あたし魔法生物となんて戦った事ない……」

「! そう……なるのか……」

 なんとなくローゼルさんを見るとオレの疑問を察したのか、すっと答える。

「先生がさっき言ったように、魔法生物学は後期の内容です。加えて外に出ての実戦となると二年生の範囲になりますね。」

「ふぅん。じゃあもしかしたら、一年生の中で魔法生物との戦闘を経験した事あるのはボクとロイくんだけなのかもしれないね。」

「……それならそれで街の一番奥に配備されたりして基本的には戦闘にならない場所を任される事になるかな……」




 魔法生物の侵攻。正直全く馴染みのない言葉だったけど、戻って来た先生が説明する現状から相当深刻だって事がわかった。

 この街をぐるっと囲んでる魔法生物の数は数千で下手すれば一万にも届きそうってくらい。構成はほとんどがCランク――つまり一番弱い部類の魔法生物で種族はバラバラ。ちらほらとBランクもいるらしい。

 連中はゆっくりと街に迫って来てて、三日後にはここに到着する。

 対してこちら側。国王軍、その構成人数は総勢十五万くらいって言われてるけど、全員が王宮にいるわけじゃない。他の街とか国境の警備をしてる人もいれば、何かの任務で国外にいる人もいる。加えて軍の人全員が騎士ってわけじゃないし、騎士なら魔法生物に余裕で勝てるってわけでもない。

「要するに何が言いたいかっていうとな、現状の国王軍の戦力じゃこの街の完全防衛はたぶん不可能って話だ。」

「でも先生。セル――《ディセンバ》さんがいるじゃないですか。確か大抵王宮にいるって……」

「まぁな。だが十二騎士にもできない事はある。特に《ディセンバ》はどっちかっつーと一対一で力を発揮するタイプだからな。一対多数の戦いは――他の十二騎士よりも苦手なはずだ。」

 確かに、時間魔法って火とか風と違って広範囲に攻撃できるようなモノじゃないわ。


「そ、それじゃあこの街はこのまま……」

「私たち死んじゃうの……?」


 不安気な顔がちょっとずつ絶望したみたいな顔になっていく生徒を見た先生は慌てて手を振った。

「おいおいまてまて。なんか勘違いしてるだろ。言っとくが負ける事はないからな?」

「え?」

「防衛は出来るが完全防衛は無理って話だ。CやらBやらの魔法生物が数千集まった程度の軍勢に負けるような指導、私はしてない。が、一切の被害を出さずに勝つってのは今の戦力だと出来ませんってことな。」

 ふーとため息をついた先生は、さっきまでの深刻な顔をいつものやる気のなさそうな顔にして話を続けた。

「……要するに、ついうっかり倒し損ねて侵入を許しちまうのが何体か出てきちまうんだよ。んでそういうのにまわせる戦力はないから、そこを学院にお願いしたいって事だ。」

 ……さっきロイドが言った事をそのまま繰り返した先生。

「基本的には三年と二年がやる事になるから一年のお前らは避難所の警護って形で一番後ろにさがる事になる。なるんだが――」

 ふと先生があたしの隣――ロイドを見る。

「サードニクス。お前は別だ。二、三年と一緒に街を守れ。」

「えぇ!? なんでオレだけ!」

「この場合、魔法のへたくそ具合はどうでもいい。単純な経験と戦闘能力が欲しいわけで、そうなるとお前は後ろにさげとくのが勿体ない戦力だ。」

「……で、でも経験あるって言っても、さっきも言いましたけどあれはフィリウスと一緒に……」

「あー……この際経験もどうでもいいか。お前は強い。これは確かだ。適当なチーム組んであとで報告しろ。」

「チ、チーム?」

「要するに小隊だ。周りに建物とかある中で被害を気にしながら魔法生物と戦うってのは難しい。だからチームを組め。二、三年にもそうさせるつもりだ。」

「い、いやチーム組む理由はわかりますけど、上級生に知り合いいませんよ、オレ。」

「? 一年の中で組めばいい。」

「そ、それじゃ本来一番後ろにさがるべき人を前に出すって事ですか……」

「そうなるな。どうせ二年になったら実習でやる事だ。それがたまたま本番ってだけで、たまたま街中での戦闘になるってくらいだ。好きな奴選べ。」



 三日後に戦いが始まるみたいなのに普通に授業を進めた先生。二、三年は小隊を編成したり色々したみたいだけど、基本的に後ろにさがる一年生はいつも通りになった。

 一人を除いて。

「どうしよう……」

 お昼。学食で何かのどんぶりを食べながらロイドがそう言った。

「チームの事?」

「そう……だって何もしなければ安全な場所にいられるのにわざわざ前に出たがる人なんているのかな……」

「いないわね、たぶん。」

「しかも即席チームな上に日にちもない……踏んだり蹴ったりだ。」

「……あ、あたし……で良ければ……その、別にいいけど……」

「?」

「……なによ、その顔は。」

「あ、ごめん。いや、とりあえずエリルは確定だなーって勝手に思ってたから……」

「な、なんであたしが確定なのよ!」

「この学院で一番息が合うのはエリルだろうから……」

「んなっ!?」

「だからさっきの「どうしよう」は、エリルをなんて言ってチームに入れようかってのと他のメンバーどうしようってのの「どうしよう」だったんだよ。でもそうか、エリルはオーケーか。ありがとう。」

「ど、どういたしまして……」

「今度なんかお礼するよ。」

「い、いいわよ別に。」

「……そういえば――その、エ、エリルの――をさ、触っちゃった時、オレなんでもするって言ったよな……」

「! 何思い出してんのよ変態!」

「ち、違う! そうじゃなくて――エ、エリルに借りっていうかなんていうか、そういうのがたまってくなぁと……」

「……あ、あの事は……な、なんか適当な時に面倒な事してもらうわよ! でも……今みたいのはそういうのにカウントしなくていいわよ……だいたいそんな事言いだしたらあたしだってあんたに色々……ある事になるじゃない。体術教わったり……」

「んまぁ……」

「だから……その、あたしとあんたの間でそ、そういうのは……無しでいいんじゃない……?」

「そ、そうか……」

「そ、そうよ……」


「おほん!」


 珍しくロイドも顔を赤くして、二人で何とも言えない感じになってたらローゼルがものすごく不機嫌な顔で咳払いをした。

「まるでわたしたちがこの場にいないように二人で会話しないで欲しいな。」

 あたしの前にはロイドが座ってるけど、あたしの隣にはローゼルがいて、その隣にはティアナ。でもってロイドの隣にはリリーがいる。

「それにロイドくんも酷いぞ。」

「えぇ、オレ?」

「エリルくんは確定でなぜわたし――わたしたちはそうでないのだ。ロイドくんがチームを作るとなった時、わたしも参加しようとすぐに思っていたというのに。」

「あ、あたしも……力になれないかなって……」

「ボクは? 一番付き合いの長いボク。」

「あ、いや、でも……ほら、ローゼルさんはクラス代表だからきっと避難所でクラスをまとめる係になりそうだし、ティ、ティアナは復帰したばっかりだし、リリーちゃんは元々商人さんだったし……」

「避難所に入ったなら、生徒も含めてその場をまとめるのは現役の騎士だろうからな。わたしは必要ない。」

「あ、あたし平気だよ……? べ、べつに病気だったわけじゃないし……」

「ボク、たぶんロイくんといい勝負できると思うけど?」

 三人が三人ともそんなことを言いながら睨みつけるモノだから、ロイドはお礼を言いながら三人にもチームへの参加をお願いした。

 こうして、あたし、ロイド、ローゼル、ティアナ、リリーっていう五人がメンバーの小隊が出来上がった。




「……ひねりのない、予想通りのメンバーだな。」

 放課後、何気に初めて行く職員室で先生にチームのメンバーを報告するとつまらなそうな顔でそう言われた。

「具体的な配置とかは他が決まり次第伝える。」

「はい……あの、先生。」

「うん?」

「今回の侵攻……普通じゃないですよね?」

「? そう言ったはずだが。」

「大きな街が襲われるっていうのもそうですけど……侵攻してくる魔法生物が一種類だけじゃないなんて聞いたことないですよ。」

 魔法生物の侵攻とはつまり縄張り争い。他の種類の魔法生物と同じ縄張りを共有する魔法生物なんていないわけで、だから普通、攻めて来るのは一種類だけになるはずなのだ。

「……お前はどう思ってる?」

 鋭い目で逆にそう聞かれたオレは、思っている事を素直に言った。

「……なんというか、まるで誰かがそこら辺の魔法生物を片っ端から集めて無理やりこの街に侵攻させている……みたいな印象です。」

「さすがだな。ずばり、軍の上の方もそう思っててな、一体どういう方法かは知らないが、今回の侵攻には余計な力が働いてるようだ。」

「じゃあこの侵攻には何か別の狙いが……?」

「さてな。……他言無用で頼むが、ぶっちゃけ侵攻に対しては戦力が足りてるんだ。完全防衛も可能なくらいに。だが――例えばこの侵攻が何かの陽動だとしたら……そんな感じの事態を想定して王宮内部に上級騎士を配備したりしててな。それで足りないんだ。」

「なるほど……もしかして、またエリルが!?」

「それも「さてな」だ。だが仮にそうだとしても、お前のチームに入ってる時点で警護は万全。そうだろ?」

 まるで挑発するみたいにオレにそう言う先生。

「――はい!」

「よろしい。んじゃあ――この後ヒマか?」

「は、はい? と、特に何もないですけど……」

「よし。それじゃ小隊を集めろ。校庭で待ってる。」



 ということで、急遽校庭に集まったオレたちは槍を持って立っている先生の前に並んだ。

「ふむ。風と火と水と形状と位置か。やりようによっちゃ面白い事になるチームだな。」

「ていうかいきなり何なのよ。」

「なに、三日後に備えてお前たちに特別授業だ。んま、正確には先取り授業だがな。」

「先取り? 魔法生物学でもやるのですか?」

「いんや。単純に実力をあげるのさ。三日もあればお前たちは今より一段階強くなる。」

「い、一段階……そ、そんなに急に強くなれる……んですか?」

「なれる。これは二年の真ん中くらいで教える事なんだが――言ってしまえば精神論だからな。授業自体は一瞬で終わる。」

「なぁにそれ? 気合いでも入れるっていうの?」

「近いな。じゃあ教えるぞ。お前ら――」

 すぅっと息を吸い、えらくもったいぶった先生はこう言った。


「必殺技を作れ!」


 ……

 …………

「…………えぇ?」

 予想外なその言葉を自信満々な顔で告げた先生はオレたちの反応を見てくくくと笑った。

「必殺技って……なんとかアターックみたいに叫ぶあれですか?」

「そう、それだ。」

 ニヤニヤしながら、先生はそれでも至って真面目に話を続けた。

「別に必殺技って程じゃなくてもさ、ここぞって時に相手にお見舞いしてやろうって思ってる技とか魔法とか――お前らにだって一つ二つあるだろ?」

「んまぁ多少は……」

「それに名前を付けろってだけの話だ。それが魔法ならその魔法名を叫ぶも良し。」

「なんの意味があるのよ、それ。」

「強いていえば、意味を与えるっていう意味がある。」

「はぁ?」

「例えばだが……私が道ですれ違ったサードニクスを呼び止めるとするぞ? その時、「おい、そこの男で黒髪で中肉中背でそこそこ整った顔立ちの、だけど若干都会に溶け込めてない感じのする奴」って言うのは面倒だし、ピンとこないだろ?」

「オレってそんなに田舎っぽいですか? まだ?」

 先生からもそう見られていた事にショックを受けるオレだったが、先生は構わず続ける。

「そこをただ「おい、サードニクス」って言うだけってのは、一瞬だし呼ばれた側もすぐに気づくだろ? 名前を付けるってのはそういう事だ。」

「あの……全然……わからないです……」

「要するに、今からあの技をしようとか、あの魔法をやろうって思うだけだと、意外とイメージがぼやけたままなんだよ。それを言葉にして自分の耳に入れる――これだけで頭の中のイメージはしっかりとした形を持つ。魔法使うのも、何かの武術をやるのも、頭の中には常に最高の結果を出す自分のイメージを持つべきだ。それをやりやすくする為に、行動に名前を付けるんだよ。」

「なるほど……じゃあ先生もそんな感じの必殺技を持っているんですか? こう……なんとかサンダー! みたいな?」

「ああ、ずばりそんな感じのな。結構な数の騎士が――やっぱり恥ずかしいとか、子供っぽいとか言ってやらなかったりするんだが……事実、十二騎士戦に参加して上位に食い込むような奴は全員イカした技名を叫ぶぞ? こんな風にな。」

 そう言ってすっと槍を構える先生。そして――


「『サンダーボルト』!!」


 よく通る、迫力のある声で技名が叫ばれるのと同時に、先生の前方に無数の雷が落ち、地面を真っ黒に――しつつ砕いた。

「当然、技名を叫ぶってのは次の行動を相手に教える事にもつながったりして……良い事ばかりじゃない。だがこれをするだけで技の精度、速度、そして威力はビックリするくらい簡単に上がる。時間のないお前らにはうってつけだろ?」

 先生の雷の威力に呆然としているオレたちを置いてけぼりにし、先生は話を続ける。

「クォーツなら、まずはお前独特の爆発を利用したあの格闘術に名前を付けてやれ。でもって必殺のパンチとかキック、連続攻撃に名前を付けてみろ。リシアンサスなら形作る氷一つ一つに名前をつけてみるといいだろう。たぶん、今までよりも早く氷が出せるようになる。マリーゴールドは銃だから難しいが……例えば敵のどこを撃ち抜くかで名前を分けるとかな。トラピッチェは――悪いが実力がわからんからなんとも言えないな……すまん。」

 さらっとアドバイスを始めた先生は、最後にオレを見た。

「そしてサードニクス。お前は技名もそうだが、この小隊の名前を考えろ。」

「? 第一とか第二とかじゃないんですか?」

「軍に入ればそうだが、個人で作った騎士団はそれぞれに名前をつけるもんだ。たった五人の小隊とはいえ、これも立派な騎士団だ。だからイカしたのをつけろよ。」

「はぁ……」

「よし。んじゃ授業終わり。また明日な。」

 と、ほんとに一瞬で授業を終わらせて帰ろうとする先生に、オレはついでに聞いてみた。

「あ、先生。」

「あん?」

「名前と言えばなんですけど、オレの剣術の正式な名前ってなんですか?」

「? 曲芸剣術のか?」

「そうです。イメロができた頃に生まれた剣術っていうなら歴史は古いはずだし、ちゃんとした名前もあるんじゃないかと思って。」

「かもな。だが少なくとも私が知ってるそれの使い手は昔から今まで通して、例の《オウガスト》とお前だけだぞ?」

「えぇ? そうなんですか?」

「きっと生まれはしたけど誰もできなくてひっそりと忘れられた剣術なんだろうよ。それを《オウガスト》が掘り起こした。名前を知ってるとすれば《オウガスト》だが……そいつはもういないし、どこでこの剣術を知ったのかも不明。唯一言えるのは、その《オウガスト》が自分の剣術を曲芸剣術だと言ったことだけだ。」

「えぇ!? 曲芸剣術って命名したのってフィリウスじゃないんですか!?」

「違う。昔らかそう呼ばれてるんだ。だから残念ながら――今の所は曲芸剣術ってのが正式名称だな。」

「まじですか……」

「それこそ、お前が名前を付けてもいいかもな。」




 先生の急な授業が終わって、とぼとぼと寮に向かって歩いてるとロイドが思い出したみたいに言った。

「そういえばオレ、リリーちゃんの魔法とか武器とか全然知らないな。」

「そうだね。逆にボクはみんなのを知らないよ。」

「ふむ。仮にもチームで戦おうというのだから、その辺りはきちんとしておいたほうが良いかもな。」

 というわけで、そのまま校庭でやればよかったんだけど、なんとなく戻ってきちゃったあたしたちは寮の庭にそれぞれの武器を持って集まった。三日後っていうのが長いのか短いのかよくわからないけど、お互いの力を知っておけば、いいコンビネーションとか思いつくかもしれないわ。

「それじゃーまず、誰も知らないボクの武器から紹介するよ。」

 そう言ってリリーが旅行の案内係みたいに手を出すと、そこにパッと短剣が現れた。

「おお! それが位置魔法?」

 武器よりもそれを出した魔法に食いつくロイド。

「そうだよ。予め印をつけておいた物ならボクがどこにいても呼び出せるんだ。ま、さすがに数百キロとか離れると無理だけど。」

「すごいな! 印をつければなんでもいいの?」

「重さが十トンを超えなければ大抵はね。」

「十トン! それじゃあリリーちゃんは馬車ごと移動できるんだな! 商人向けの魔法だなぁ……」

 何気なくロイドがそう言うと、なんでかリリーは少し焦る。

「そ、そうだね……あ、でも人間と魔法生物はちょっと難しいかな。」

「そうなのか。じゃあ向かって来た敵を空高くに移動させるとかはできないのか。」

「うん。でも、その移動される人が移動することを了承すればできるよ。」

 ちょっと首をかしげるロイドだったけど、それをローゼルが簡単に言い換える。

「それはつまり、敵の強制移動はできないが、味方を支援するという形での移動は可能ということだな?」

「そうなるね。それと自分自身の移動は特に制限なくできるよ。」

「便利な魔法だなぁ。やっぱりオレみたいな自然系よりはそういう……なんだっけ、概念系? の方が羨ましく見えるな。」

「そうでもないよ。《オクトウバ》くらいになると何でもできる感じだけど、ボクとかだとまだ使うだけで結構疲れるからね。さっきロイくんが言ったみたいに馬車ごと移動するっていうのもよくやったけど、あれをやると半日は動けなくなるからね……」

「すごい魔法はそれだけ消耗するってことか……」

「うん。で、これがボクの武器ね。」

 すらっと抜かれた短剣は結構使い込んでる感じがする年季の入った刃をしていた。

「マジックアイテムでもなんでもない、普通の短剣だよ。」

「短剣か……リーチがないけど、リリーちゃんみたいにパッと移動できるならこれが丁度いいのかな……あ、でもイメロはつけるんでしょ?」

「ああ……そういえばもらったね。そっか。イメロがあればもっとすごい移動ができるかもしれないんだよね……」

 リリーがいつの間にか手にしたイメロを見つめる。そんなリリーに、ちょっと珍しいんだけど意地悪な顔したロイドが笑いながらこう言った。

「売っちゃダメだよ、リリーちゃん。」

「うーん……迷いどころだね。第十系統の位置のイメロなんて結構レアだから。売る相手と売るタイミングをうまいことやれば相当な金額に……」

「リ、リリーちゃん?」

「うふふ、冗談だよ。さ、次はみんなの番だよ!」

 その後はロイド、あたし、ローゼル、ティアナがそれぞれの武器と魔法をリリーに教えた。そして、あたしたちの戦い方を改めて見ると意外にもいい組み合わせだって事がわかった。

 あたしはガントレットを飛ばすのを例外とすれば近距離タイプ。

 ロイドは剣をある程度飛ばして戦う事から近~中距離タイプ。

 ローゼルは離れた所から攻めて近づいて行く感じだから中距離もできる近距離タイプ。

 ティアナは完全な長距離――しかも相当離れたところから狙えるはずだから超長距離タイプ。

 リリーは武器的に近距離だけど位置魔法があるからオールラウンダーというか、敵を攪乱させるタイプ。

「エリルのアタッカーとしての攻撃力は相当高いし、ローゼルさんの氷を使った戦い方は応用力がある。そんな二人を援護しながら周りの敵をちょこちょこオレが削って、ちなみにティアナの長距離支援もあって、さらにリリーちゃんの位置魔法により攪乱、背後からの奇襲……おお、なんかすごいチームだな。」

「すごいのはいいけど……ねぇ、ロイド。魔法生物と戦うのってどんな風なの?」

 騎士は守る為に戦う人だけど、その「戦う」っていうのの経験があたしにはほとんどない。ましてや魔法生物なんてじっくりと実物を眺めた事もない。

「どんな風と言われても……」

「だってほら、中には羽はえてたり、手がいっぱいあったりするんでしょ? そういう人の形してないのと戦うのなんて初めてだから……」

「ああ……そういうのは気にしなくていいよ。」

「気にしない?」

「きっと空を飛ぶ魔法を使える人はいるだろうし、手を増やせる人だっているだろ? だから人の形をしていないとかは、そういう魔法を使える人なんだなーぐらいに思っておけばいいんじゃないかな。それよりも明らかに人と魔法生物――いや、野生の生き物の間には大きな違いってのがある。」

「む、なにやら重要そうだな。わたしたちにも教えてくれ。」

「うん……えぇっと、考え方っていうのかな……んまぁ知能の差ってのがあるだろうけど、そもそものスタンスが違うんだよ。オレたちよりももっとシンプルなんだ。例えば――オレがエリルと戦うとするじゃんか。」

「い、いきなりなによ……」

「炎が邪魔でエリルの姿を見失う――じゃあ常に風を吹かせてみたらどうだろう。あの爆発の加速は厄介だ――じゃああのガントレットとかを破壊したらどうだろう……みたいに、エリルの攻撃や戦い方に対して色々攻略法を見つけていく。でもって弱点でも見つけられたらバンザイってなる。」

「それがなによ……」

「要するに、こういう事を彼らはしないって話なんだ。ただただ単純に、今の自分と相手の強さを比べて、自分が負けるとわかったらそれ以上はやらないで逃げるんだ。こうすれば、ああすれば、もしかしたら勝てるかもって考えをおこさない。」

「ちなみに言うと、足りない分は気合いだーとか、根性でなんとかーって考えもないよ。」

 やっぱりというか、リリーもその辺は理解してるみたいでロイドの説明に補足する。

 ……あたしが知らなくてロイドが知ってる事……をリリーが知ってる……なんか……むかむかするわね……

「なるほど。彼らはもっと現実的なんだな? 彼らにとって戦いとは常に命をかけたそれなのだろうから……」

「そういう事。名誉とか武勲とか……勇気、勇敢……んまぁ、つまりあんまりカッコつけないんだな。でもって――」

 ふっと、ロイドの顔が真剣なそれになる。

「自分が勝てると思ったら彼らはためらわない。人間よりも優れた身体能力と、人間よりも冴えている直感と、人間よりも冷たい心で、一切の容赦なく相手の命を絶ちにくる。」

「わ。ロイくんかっこいいー。」

 リリーの言葉に、かっこよく言ったロイドが少し顔を赤くした。

「だ、だから彼らとの戦いは長引かないよ。こっちがあっちより強いとわかったら逃げていくからね。」

「ぎゃ、逆に……その、全然逃げ出さない時は……」

 おどおどとティアナが聞くと、言いにくそうにロイドは答えた。

「……もしも、まだ出していないとっておきの技とかが無くて、全力でやってるのに相手が逃げ出さないのなら――ほぼ確実にこっちの負けだね。彼らの勝てる、勝てないの判断はオレたちよりもきっと正確だから……」

「あ、あたし大丈夫かな……」

「大丈夫だよ。オレたちはチームを組むんだからね。ティアナが危なそうなら助けに行くよ。」

「う、うん……」

「よし。では本番――と言うと少し変かもしれないが……ま、当日までにフォーメーションのようなモノを決めておこうか。いざという時、誰が誰をフォローするのか――とかな。」

 そんな感じで、あたしたちは半分以上が初の実戦っていうチームでどう頑張るかを考えて、その為の訓練を始めた。




 フェルブランド王国。現在存在している多くの国一つ一つにその国に合った二つ名のようなモノをつけるとすれば、この国は『剣と魔法の国』となり、剣術や武術、そして魔法技術が主に発達している国である。加えて、世界中の猛者の中から選出される十二騎士を歴史上最多で輩出している国でもある。

 自然が多く、海とも接しているこの国は様々な意味でとても豊かであり、そんな豊かさを求めてこの国にやって来る者も多い。

 だが自然が多いという事はそのまま自然の脅威と隣り合わせという事につながる。実際、噴火や土砂崩れといった自然災害、魔法生物の侵攻などの発生件数は他の国の倍近い。

 ただ、そんな環境だからこそ腕の立つ騎士が育ち、また魔法技術の進歩につながっているわけであるから、この国においては自然との折り合い、バランスが重要視される。


「んが、そんな感じで自然を大切にするお利口さんなせいであんまし科学技術が発達しねぇ。おかげで一番そこんとこが進んでる国と比べると技術レベルは一世代分くらい離れちまってる。」

『しかし、だからといって技術が進んでいる国と同じ事ができないわけではない。結局、科学でやるか、魔法でやるかの違いというわけだな。』


 フェルブランド王国の首都ラパン。その街を取り囲むようにして進軍する魔法生物の群れの中、一際大きな亀のような魔法生物の背中に寝そべっている女と、傍に立つフードの人物がいた。

そしてもう一人――

「でも姉御、なぁんでいきなりこの街なんですかい?」

 シルエットは団子か雪だるまか――とにかく丸々太った男だった。その身長はフードの人物と並ぶ二メートルはあろうかという高さなのだが、下手をすれば縦よりも横の方が長いのではと思えるその身体に伸びきった上下をかぶせ、しゃべる度に身体の肉をゆらしながら寝そべる女の方を向いた男の顔は、肉が垂れ下がって眼が隠れていた。

 そんなブタだの醜男だの呼ばれそうではあるがその巨体に誰もそうは言えないだろうという男の質問に、女はさらっとこう答えた。

「知る必要ねぇよ。どうせお前はこの後で殺すんだからな。」

「ぶえぇ!? あ、姉御、そりゃないですぜ! おい、どういうことなんだよアルハグーエ!」

 その名前に反応したのはフードの人物だった。

『私も困っているのだよ、バーナード。私の事もいつ殺そうなどと呟いているのだ。ラパンにホットドックを買いに行ってからずっとこうだ。』

「ホットドック……あぁ、腹がへってきた。姉御、そのホットドックはうまかったですかい?」

「普通だな。」

「そりゃいい。まずくなけりゃそれでいいでさぁ。あっし、ちょっくら買いに行っても?」

「構わねぇが……こいつらは大丈夫なんだろうな?」

「問題ないでさぁ。こいつらはもう、そういう生き物になってるんすから。」

 殺す殺されるの会話はいつの間にかホットドックの話になり、丸い男は亀のような魔法生物からぴょんと飛び降りた。

『それで正直な所、一体どうしたんだ? 部下を皆殺しにするつもりなのか?』

「その予定だ。よく言うだろ? 女ってのは一晩で心変わりするもんなんだよ。」

『ホットドックを買いに行って心変わりか。ピュアな乙女もいたものだ。』

「そう、そうなんだよ。信じられるか? このあたいが、今や一人の男の事しか考えられねーんだ。長生きはするもんだな。」

『? ちょっと待て。まさかお前が――恋しちゃったとか言うのか? 瞳の中に星を瞬かせる恋する乙女になったと?』

「らしい。あたいも女だったんだなぁ……」

『気持ち悪い事を言うな……』

 真っ黒なドレスを着て、首から髑髏を下げた女がしみじみと遠くを眺めるのを本気で気持ち悪そうにぶるぶる震えながら見下ろすフードの人物は、どこか作り物のようなため息をついた。

『お前に桃色に輝く背景は似合わないぞ、アフューカス。』

ここまできてようやく、ロイドらがいる国と街の名前が出てきました。出すタイミングを逃していたのですが……先生に感謝ですね。


加えてようやく主人公パーティーが出来上がりました。

書き始めた時、私の頭の中にはロイドとエリルとローゼルしかいなかったのですがね。

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