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15. 〔ラストエピソード〕魔王様と使者、そして執事


帝国と南の国が勇者の形を変えてからは、

()()()()はかなり減った。今では、西を除く各国の勇者と雑談まじりで茶を飲む関係になった。



「隣国の件では、世話になったな」

「私も最初に魔国来た時にガチバトルしたのを思い出したよ」

「あの時は手加減なしで戦える相手が来たって

四天王も試合形式で盛り上がったな」

「魔王を倒して王になる!とか言わなかったけどね」

「その台詞は隣国のやつが史上初だ」

「嫌な1番だね」

「最初で最後であってほしい」



今回の隣国勇者は、これまでの襲撃者と比べても

イレギュラーだったな。


「もうすぐ隣国と交易始まるんでしょ?」

「ああ」

「勇者の役割も、必要なくなるね」

「帝国の貴族にも、まだうるさいのがいるだろ?」

「うちの侵略派は口だけだよ。『勇者様、魔国での

成果はいかがですか?』って言うから

『上々でございますわ』って返しといた」

「ハハッ、本当の事しか言ってないな」

「伯父様にとっては上々だからね」

「やり過ぎて余計な敵をつくるなよ」

「うん、そこはうまくやるわ」


皇帝の姪に、露骨に口出しするような貴族はそういないだろうけど。


「勇者を廃業したら、ご令嬢に戻るのか?」

「...あら、今でも現役の令嬢ですのよ」

「ふはっ、格好と口調が合わなすぎだ...!」

「もう、失礼な魔王陛下ですわねえ」


優雅に紅茶を飲む姿は、ご令嬢に見えなくもない。

綺麗な所作で執事が置いた菓子を堪能していた。


執事が新しい茶葉で入れた紅茶をカップに注ぐ。

イリアは執事に礼を言って菓子の感想を楽しそうに話す。それを無表情で聞く執事。


表情豊かだからわかりにくいけど、雰囲気が似ている。やっぱり血縁を感じるな。



「魔水晶の記録装置に、宰相が関心持ってたよ」

「あれか」

「特に対象が映ったら知らせてくれる機能」

「便利なのは、確かだな」

「国防に使いたいみたい」

「それなら、使用者を限定してもらいたい。

盗まれたり、もし悪用された時に厄介だ」

「わかった。宰相に話を通しておく」

「使用者登録の機能もあるから。あと詳細は宰相に

書いて届けるか」


「うちの宰相と文通仲間ってほんと?」

「文通というか、近況とか魔野菜のこととかは

手紙でやり取りしてるけど」

「おおっ、本当だった!」

「最近は髭にこだわりがあるって」

「髭を語る手紙...」

「ちゃんと大事な話も書いてるからな」


その後も帝国と魔国間の話、南の国から入った

話を情報交換して使者との時間は終わった。

途中、宰相の趣味や皇帝の身近で起こった珍事とか、話題が脱線しながらだったがそれもいつもの事だった。


・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・


来た時の装備を身にまとったイリアと魔王からの

土産が詰まった袋を持つ執事が、城の廊下を歩く。



「姉は、変わりないですか」

「母様は元気だよ。今は社交界から遠ざかって、商会を支援するって動き回ってる」

「そうですか」

「たまには、会いに来たらいいのに」

「今は必要ないかと。魔王様のお側での仕事もありますし」

「そっか」



「この先、魔王さんの特殊な力がなくなったら、どうするの?」

「...そのための工房街(アトリエ)です」

「人助けだけじゃないのが、()()()()らしいね」


アトリエでは、魔王の魔力の代替になる方法も研究している。今すぐに必要になるものではないが、いずれ来る次代のために。



話している間に正面扉を出て、庭園を抜ける。



「隣国の対応次第で【襲撃者】だった勇者はいなく

なる日も近いかもね。

今度は堂々と帝国の【使者】として来れるといいな」

「その時を楽しみにしております」



魔王城の上空にかすかな翼音と共に影が差し、城門の外に降り立つ。

それは城一階分の体躯(たいく)をもつ白銀のドラゴンだった。


イリアはドラゴンの背に飛び乗る。

手には魔王からの土産の品。


「じゃあね!ロイメテル」


執事は頷くと、一言だけ添える。


「イリア、次に来る時まで元気で」


笑って手を振るイリアを背に、ドラゴンは大きく飛翔した。瞬く間に空へと上り、陽の光を受けた白銀の輝きは帝国側の空へ向かい小さくなり、やがて見えなくなった。




姉は先代魔王と親しかった。

人探しのために魔国を訪れた帝国の皇弟と縁ができたのは予期しない出来事だった。帝国に渡り、人脈を広げ、結果的に先代の願いを実現する後押しをした。


帝国に嫁ぐ前の言葉は忘れられない。

『魔国のために自分を犠牲にしようと思って行くなら、やめておけ』と言った自分に、姉は言い返した。


『これが政略だと思ってんなら、よく聞きな。

私は自分がこの先側にいたい相手のとこに私の意志で

行くんだ。こっちを心配してる暇があるなら魔王(ルークラテル)

完璧に支えてやりな!中途半端な真似したら許さないから』


まさかその後に、あの姉が帝国の社交界を渡り歩くことになるとは。


イリアの様子を見るに、帝国でも姉らしく過ごしているらしい。姉とイリアは似ている所がある。





帝国からは外交の助力と、緻密で美しい家具や装飾品を得て、魔国(こちら)からは食料と守護の魔術を用いた装備を送る。


魔王様のあり余る魔力が食料を富ませ、魔国の民が人の国から武力を向けられることのない生活を送れる。


それが守られているのなら、敢えてこちらから動く必要もない。



――キィィン


耳元で小さな音が鳴り、耳朶の装置が稼働する。二体のガーゴイル像が新たな【襲撃者】を捉えた。像に設置された魔水晶から映像が送られてくる。


頭に飾られた色鮮やかな模様の布、裾に沿って広がる衣服を着用するのは、西の国からのお客様。

今度はまあまあの大所帯のようだ。

もの珍しからか、庭園と黒銀の城を目を輝かせて覗き込んでいる。



この国で観光気分とは、いただけませんね。

ほどほどに力不足を痛感させて、()()()いただかなければ。


執務室を出て城の裏手に向かう。


見渡す限り広大な畑に辿り着く。

目に映るのは、明るいオレンジのつなぎを着て

いつも通り収穫作業にいそしむ我が主。


その背中に告げる。



「魔王様、至急玉座にお越しください」



最後の勇者が魔国(ここ)に訪れる日まで。





             

                ――End――


完結です。

読んでくださった方々、ありがとうございます!

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