6.奇妙な時間
雨が入り込まず、隙間から街灯の微かな光が差し込む、路地裏。
「リオ・クエリ、是非是非あなたは問うてみてください」
アリアのその言葉は、私に伝えるものではなく、宣言的なものだった。私はなぜか、おかしなことに自然と聞き入れていた。
流れるように、無視しているのではないかと疑問に思うほど、私は話を始める。
「ねぇ、アリア……さっき懐かしいと言ったけど、この辺に住んでるの?」
アリアも先ほどまでの話をすっかり忘れたかのように、私の話に答える。
「いえ、別に。昔、こんな場所で生活していたなぁ〜と。家は……あなたからしたら遠い場所にありますね」
「じゃあ、なぜ遠くからアリアはここに来たの?」
「友人に頼まれたからですね。まぁ、表面的にもあれを友人と言って良いかはよくわかりませんがね。
私はとりあえず観光ですね。まぁ、お土産でも妹に買っていきますかね」
アリアはほとんど見えない路地の空を見上げて、私にいつもと変わらない表情で、
「こんな話をしていたら朝になりそうですね」
私はなぜか、自分がなぜここまで自己中心的なのか疑問に思った。なぜ私はアリアに話しかけたのか。なぜ話をしたのか。
なぜか、あの何とも言えない気持ちは薄れて、夜の寒さとアリアの言葉が私を冷静にさせ、現実に引き戻していく。
「嫌だったなら、なんか付き合わせてごめん。私にも、なんでアリアに話しかけたのかがよくわからなくて」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
アリアの言葉には、私を気遣っているのではなく、抽象的だが、その場の雰囲気に流された言葉というよりは、何か事実を言うようなものを感じた。
そして私は、いつもこんなことを気にしないので、それも何かが引っ掛かる。
「何か……今、私おかしいんだけど? さっきと違う?」
「いえ、別にあなたは普通です」
今の私の言葉は正常だ。今の問い方はいつも通り、そのまま抽象的でも相手に伝えることを意識している。
私は、何かに悩んだような顔をしている。だが、それすら言葉にできないほどに抽象的な何かに悩んでいる。
私を見てアリアは……
「まぁ、それは運命とやらですよ。昨日と今日の異常は運命だったと説明してしまいましょう。まぁ、運命とは支配の別名ですけどね」
アリアは私の悩みを固定しようとしている。確定させて、私の悩みは全て運命が原因だと、不安定な抽象化をやめさせようとしている。
だが同時に、最後に零した言葉で全てを揺らしている。
だからこそアリアは、私に問わせたいんだろう。そう、構造的には見える。
「クエリ……混合してますよ、ずっと」
アリアは……何とも表現できないが、強いて言うなら笑顔というのか無表情というのか。抽象的だが、ほとんど無表情ではある。そこに何の気持ちも感じられない。
アリアの表情は基本、よくわからない。
アリアの言葉を受け止めても、アリアの言葉はわからない。まぁ、アリアはわかるように言っていないだろうが、私には意味不明だろう。
そして私にはわかる。わかることを含め、アリアの言葉は私の行動を示している。まぁ、私もわかるように説明していないが。
「どういうこと?」
私はごく自然な返しをした。私は、
「まだ、早いと言われますよ」
そう、まだ気づく時じゃない。アリアの言葉はその通りだ。
私は変わらず、意味不明だと言いたげな顔をしている。
「そろそろ、家に帰りませんか? あなた、風邪ひきますよ?」
アリアは私を見て言う。嬉しいものだ。アリアが私を心配してくれるのは。
私の格好は、確かに雨に濡れた寝巻きに裸足という、普通に見たら頭のおかしい格好をしている。
まぁ、アリアが貸してくれた上着を着ているとはいえ、濡れている寝巻きは流石に寒いのだ。
「そうだね、寒い……」
「もう、朝になりますよ」
話が終わろうとしている雰囲気の中、私はアリアに、
「アリア、連絡先交換してよ」
「良いですよ」
アリアがバーチャル携帯端末を出すが、私はポケットを探してもタバコとライターしか見当たらない。
「え? ない?……家近いから待ってて。いや、せっかくだし来てよ。泊まってもいいから。こんなに迷惑かけたし」
私は必死に引き留める。行動的にも表情にも、それは現れている。
「出会って数時間の私を家に呼んで良いんですか?」
「どういうこと?」
私の言ってることは少し強引だが、別に変なことは言っていない。なんなら、アリアの言葉が変なのだ。そんなことは一般常識的にあり得ない言葉だ。
「いえ、私が変なことを言いました。気にしないでください。家はどっちですか?」




