9話 告白
もういいよ、燈馬……
何言ってんだよ! 何も終わってねぇじゃねーか!
だってアタシ…… もう……
というひっ迫した夢で目が覚めた。
楓がウチに住むようになってから、俺のベッドはすっかりソファになっていた。
「…… んん!? 」
頭の下には柔らかくて生暖かい感触…… 目の前には、豊かとは言えないまでも程よく膨らんだ二つの山。
いつの間にか、俺は楓の膝枕で眠っていたらしい。
「あ、起きた? おはよ、燈馬 」
「お…… おはよ。 なんだよこれ 」
「何って、見りゃわかるじゃない。 膝枕よ、膝枕 」
いつからこうしていたのかはわからないけど、掛け時計に目を向けるとまだ朝の4時半だった。
「気持ち良かった? でもこれって、膝枕じゃなくて太もも枕だよね? なんで膝枕って言うんだろう…… 」
「そんなことはどうでもいいって。 なんで膝枕してんだよ? 」
「いいじゃない。 理由がいるのなら…… アタシがしたかったから、かな 」
あれ? なんかいつもと違って突っかかってこないな…… なんだか調子が狂う。
「…… 今日も安定の白なんだな 」
気恥ずかしくなって、チラッと横を向いてパンツが見えたふりをして煽ってみる。
暗闇で見える筈はないんだけど、この照れくさい状況をなんとかしたかったのだ。
「エッチ…… 残念だけど今はピンク! 目が悪くなったんじゃないの? 」
んああああ! 違う!! そういうおしとやかな答えは望んでない! ソファから突き落とすくらいしやがれ!
「どうしたんだよ? お前らしくもない 」
見上げる楓の顔は穏やかで、フフッと微笑みながら俺の頭を優しく撫でていた。
「夕べのアンタ、すごくカッコ良くてさ…… アタシの中ではヒーローになっちゃったから 」
「まだ何もしてないだろ? 努力はするけど、何も出来ないかもしれないし 」
「ううん、出来る出来ないじゃないんだよね。 他人の家庭の問題で難しいのもわかってるくせに、嫌な顔せずに『任せろ』なんて普通言えない。 こうしてるだけで、すごく…… 支えになってるんだよ? 」
任せろと言った覚えはないけど…… なんとかしたい気持ちは強い。
「言ったろ? どこにいたってお前が泣くのは見たくないって。 くそ…… 面と向かって言うと恥ずかしいな 」
「…… 紫苑や藍ちゃんにも同じこと言う? 」
そうかもしれない…… けど、楓に対する想いとはちょっと違う気がした。
「言う…… けど、重みが違うっていうか、お前を前にして言うのもなんだけど。 あいつらが泣いてたら放ってはおかない 」
パシッとおでこを叩かれた。
「フフッ…… ヤキモチ妬いちゃうけど、アンタらしい答えかな。 紫苑は好き? 」
「…… 好きだ 」
「藍ちゃんは好き? 」
「何の質問なんだよ? ワケわかん…… 」
「いいから! 藍ちゃんは好き? 」
誘導尋問か?
「好きだ 」
「アタシは? 」
やっぱりそうくるよな…… でも、素直に言える機会を作ってくれた楓に感謝かもしれない。
「悔しいけど好きだ。 お前が一番放っておけない 」
「アタシも好き…… 悔しいけど。 蒼仁先輩よりもずっと 」
お互いの告白の後、俺達は長いキスをした。
ただただ唇を合わせるだけのキス…… その先のキスも楓と経験済みだけど、今はこれで十分だった。
翌朝…… というか、それから3時間後。
楓の膝でもう一眠りした俺は、遠藤が以前言っていた親戚の刑事を紹介してもらう事にした。
最悪の事態になった場合、法的にどうすれば楓を守れるか…… 警察関係に繋がりを持っておいた方がいいと思っての事だった。
最悪の事態というのは、もちろん楓の両親が犯罪者になった時のことだ。
秋葉さんという刑事に俺の電話番号を遠藤に伝えてもらい、今は秋葉さんから連絡待ちの状態だ。
「なんか、遠藤君にまで迷惑かけちゃってるね 」
「生徒会長権限…… というか、その前に友達として協力してくれた。 遠藤も『遠慮なく使ってくれ』って言ってくれたから、遠慮なくお世話になろうぜ 」
楓とそんなやり取りをしているうちに、俺のスマホに見知らぬ電話番号から着信が入った。
― 神奈川県警の秋葉といいますが。 貝塚君の携帯電話でいいのかな? ―
「はい! 貝塚燈馬と言います、よろしくお願いします! 」
県警と聞いて少し緊張してしまい、上ずった声で名乗ってしまった。
別に悪いことはしてないのに、警察と聞くと緊張するのは俺だけだろうか……
― おおよその話は蘇芳君から聞いているよ。 県警の方にも捜索協力要請が届いている。 私に出来ることは少ないが、出来るだけ協力しよう ―
「ありがとうございます。 それでその…… 鳥栖要一は見つかりそうなんですか? 」
― すまないが、捜索に関しては口外出来ないんだよ。 どこで情報が漏れるか分からないからね ―
「…… それは俺達が鳥栖を庇うかもしれないってことですか? 」
― そう捉えてもらっても構わないよ。 だが、君達を信用していないわけじゃない事は分かって欲しい ―
疑ってなんぼの仕事なんだろうな…… 確かに捜索対象が身内なのだから、俺達も疑われて当然なんだけど、なんか釈然としない。
何か進展があればお互いに連絡を取ると約束し、とりあえず秋葉さんとの通話を終わらせた。
「お父さんもお母さんも、どこ行ったんだろ…… 」
俯いてしまった楓を元気づける為、頭を両手で鷲掴みにして髪をぐちゃぐちゃにしてやる。
「んもう! 何するのよ! 」
「日本の警察の捜査力は世界一なんだ、すぐに見つかるさ 」
「わかってるけど…… 」
崩れた髪形を整えながら、楓はそれでも俯いていた。
「んじゃ、俺達も捜索してみるか? 思い当たる場所とかないのか? 」
『ウーン』と唸って腕を組む楓…… だが、特にピンと来る場所は思い当たらないようだった。
「もしさ、お父さんが切羽詰まってて行方をくらましたんだとしたら、同じ男としてどうする? 」
「は? そんなのわからねぇよ。 運転免許とか持ってるなら遠くに逃げるんじゃ…… 」
いや待てよ? よく言われてるのは思い出の場所とか、印象深い所とか、犯人は無意識に現場に戻るとか言うもんな……
「フェニックス製薬とか、実家とかあり得るのか? 」
「そか! とりあえず行くだけ行ってみる! 」
楓はすぐに身支度をしに二階に駆け上がった。
単に思いついた事だったけど、いてもたってもいられない様子だった楓には十分な理由だったらしい。
「留守番頼むな、菜のは 」
「うん、気を付けてねお兄ちゃん 」
心配そうな顔の菜のはに留守を任せ、俺達は曇り空の中を飛び出していった。




