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アルカク防衛3

 自覚のないままに魔力を使いすぎたのかと思った。

 しかし、体に変調はない。別の原因がある。

 リアが空を見上げれば、見えたのは天へと向かう一本の光。


「……西南、ってことは南の奴らか」


 女将さんが先ほどまでとは違う、重い声で唸るように言った。

 天地を串刺しにするかのような光の線は、辺境伯からの支給品である魔光筒だろう。スイッチを押せば向けた方向に魔力光が放たれるもの――最初は注意を促すために数度点滅させ、空に向けて設置するように――という説明は受けている。緊急時、救援依頼と周囲への警告用として使うようにという言葉と共に。


「とりあえず戻ろう。女将さんも宜しいですね?」


 リアだけではなく全員が空を眺めている中、口を開いたのはリーダーであるアルス。平坦な口調ではあるが、淡々とはしていない。取り乱されるよりも、その押し殺したような声の響きは切実な緊迫感を与えるものだ。


「もちろんだ。ソレは置いていくんだろう?」


 頭を潰されたニンジャフロッグを一瞥し女将さんが硬い笑みを見せた。彼女はそのまま、返事も待たずにザッと駆けていく。見た目からは想像できない速度で小さくなっていく広い背中も、やはり、先ほどまでとは違う緊張が漂っていた。


「フレッド、前に。リアと俺は殿に」


 フレッドと目配せを交わしたアルスの言葉に従い、即座に並び順を整え“魔物狩り”も駆け出した。

 誰も口を開かない。


(あそこから森を越えて魔物が来る? 群れか、C級以上の個体か)


 アルスよりも少し前を駆けながら、リアは救援信号の意味を考えていた。いや、リアだけではない。おそらく全員があの光の根元で起こったことを推測し、自分たちがどう動くかを考えている。


(森って言いたくないくらい狭いけど、向こう側の気配までは視えないし……)


 リアは【強化】状態で仲間の背を追って走りながら魔力感知が使えない。

 もしも、遠く離れた場所の状況が掴めるのならば自分を置いて進んでもらおうとしただろう。

 しかし、今の能力ではそれさえも出来ない。

 悔しさを溢さないように唇を噛みながら駆ける。


 リアの基準だと森と言うには狭すぎる、木々の密集地。

 アルカクに入り込まないように――と魔物を狩っていたのは、その中でも外周部分としか言えない部分である。拠点に辿り着くことだけを目標にして走れば、森を抜けるのはあっという間だ。

 視界の先が眩しいほどに明るくなった。

 速度を落とした女将さんの背がみるみる大きくなり、その向こうに待機している人たちの顔が見える。


「やっぱりヘレナ達じゃなかったわねぇ」


「つーことは、南の連中か。補充されたっつってたよな?」


「二箇所に置いていた冒険者チームの拠点をまとめて、一つに軍が入っているわ」


「軍と揉めた……とかじゃ無いですよね?」


 エリィ、イヴァン、シェリル、ハンス、口を開いていないがリオウの五人――ソロもしくはリーダー格の面々である。彼らも天に向かって伸びる光によって緊急事態だと集合していた。イヴァン組とハンス組のメンバーは方針をリーダーに定め、周囲を警戒中である。


「遠くからでも見るし、狼煙みたいに流れないから便利っちゃ便利だけど……」


「魔物が多いのか強いのか、それによって対応は変わるのよねぇ」


「ウッ……つ、伝えておきます」


 女将さんとエリィが目を細めて光を眺めながらボヤいている。

 二人とも焦りを感じさせない、いつも通りの口調。ただし楽観視していないことは目元の鋭さと、身を引き締めるような空気を放っていることから明らかだ。イヴァンとハンスも平均以上のランクまで上った冒険者の顔と空気を隠すことなく放っている。


「応援に行くにしろ、こちらの方が街に近い。大量発生である可能性も考えると、こちらにある程度の人数は残しておくべきでは?」


 と言ったアルスもまた緊張感を漂わせた厳しい顔だ。イヴァン達が冒険者としての顔を再び見せているように、彼は軍人自体の顔を一時的に取り戻しているのかもしれない。


「そうじゃのぅ。出せるのはワシらの中から一人、パーチィ一組くらいじゃろう」


 リオウだけが唯一、普段通りだ。

 自然体という言葉を体現したような彼の存在と言葉に、ほんの少しだけ場の空気が和らいだ。


「なら、アタシが行くわ。ヘレナは戻ったばかりだし、悔しいけどリオウ爺はアタシ達より強い」


 きっぱりと言い切ったものの、エリィはちょっとばかり嫌そうだ。暑い中走りたくないからなのか、危険地帯に飛び込んでいく真似が嫌なのか。


「ってなりゃ“魔物狩り”は休ませて、俺らかイヴァンとこか」


「僕達の方がバランスは良さそうですね?」


 ハンス組はパワー型前衛系が寄り集まったゴリ押し系、イヴァン組はナイフ遣いの斥候役もおり軽い動きのメンバーが中心だ。自然発生した暫定パーティともなると、類は友を呼んだという形だろうか。

 ともあれ、エリィないし女将さんと組むのならばイヴァン組の方が相性は良い。


「……良いのか?」


 イヴァンは顔だちも体格もほっそりとした男で、冒険者よりも裕福な町人と言われた方がしっくり嵌るタイプだ。空き時間に釣りに行ってしまうくらいに自由人でもある。


「良かないですけど、無視も出来ませんし。どうしようもなく不利なら撤退して、こっちに合流しますよ。それで良いんでしょう?」


「アタシも殉死する気はないわよ? 危なそうなら皆でここまで戻りましょ」


 二人とも、いまだに目元の厳しさは健在。それでも笑みを浮かべ、悲観することも取り乱すこともせずに明るく振舞おうとしている。死亡率が低いとは言えない冒険者稼業で生き残ってきた証かもしれない。


「シェリル殿はどうされます?」


「えっ? 私?」


「はぁ……。シェリルは自分の意志で動けるでしょう、私達の下につけと命じられたわけじゃないんですから」


 アルスの質問にキョトン顔を公開し、フレッドに言われて納得しているシェリルも大物である。


「……エリィ達と行くわ。メンバー的に防御が薄そうだし。エリィ、イヴァン、良いかしら?」


「来るなとは言いませんけど――」


「あぁ、私に何かあっても責任取れなんて言われないから大丈夫よ。私は軍人だもの。エリィ、イザック、すぐに出られるわよね?」


 シェリルはイザックに仲間を集めさせ、必要最低限の荷をまとめていく。

 魔術師でありながら一般の新人訓練からスタートした叩き上げの軍人、かつ“長”付けで呼ばれる立場だからだろうか。辺境伯の娘という生まれからであろうか。反発を招くほど高圧的にもならず、それでいて指示を飛ばして人を動かしている。


「では行って参ります。お互い頑張りましょうね」


 素早く準備を整え、光の根元へ向け出立していった六人。

 残ったのは“魔物狩り”とハンス組、女将さんとリオウの十一人だ。


「とりあえず、女将さんとお前らは休め」


 ハンスに言われて初めて、リアは自分が汗をかいている事に気付いた。話し合いに参加していたわけでもないのに、独特の緊張感と不安に取り乱さないようにするのに精一杯だったのだ。同じくレオナもザイードも、当然ながら話し合いに参加していたアルス達も、全員が汗を拭うことも水を飲むことも忘れていた。

 思い出した途端、耐え難い喉の渇きと暑さに襲われる。


「ふぅぅー……」


 ハンス組とリオウに見張りを任せ、腰を下ろして水を飲む。

 ほんの少しだけの塩を舐めれば生き返る思いだ。


「アルス隊長、ちょっと良いですか」


 一息ついたリアはアルスへとにじり寄り、小声で声をかけた。


「うん?」


「魔力を使った気配感知をやりたいです」


 アルスだけではなく仲間達全員が、リアに魔術適正があることを知りつつも使わなくて良いと言ってくれている。元はと言えば、面倒な人たちに目を付けられたくないから秘密にして欲しいというリアの言葉を尊重してのことだ。この国の王侯貴族に対しての不信感があることも否定できないが――例えば自分が活躍して仕官したいと言っていたならば別の接し方をしてくれていたとリアは思う。


「……君は、それで良いのか?」


 今も自由を奪われることに対する恐怖と嫌悪は変わっていない。

 しかし、仲間や親しい人、自分の身を危険に晒してまで秘匿することだとは思えない。肝心な場面でも出し惜しまなくてはいけないのなら、何のために魔力適正を持って生まれたというのだ。だから――。


「自分からは言いませんよ? まぁ、バレたらバレた時で考えますよ。山を抜ければ追手も振り切れるんじゃないかなー、なんて」


 リオウの気配察知能力はリアが舌を巻いたほどのもの。彼に任せても問題無いのかもしれないが、ニンジャフロッグのように気配遮蔽を行う魔物もいる。

 湧きが強まっている可能性がある現状であれば、僅かでも早く敵の姿を捉えられた方が良いはずだ。そんな思いを込めてアルスを見つめていると、彼はすっと目を細めた。


「任せた」


「はい!」


「フレッド、リアの側に付いていてくれ。俺達は彼らと周囲の警戒に当たろう。ザイード、レオナ、良いな」


 低く落ち着いたアルスの声に促され、立ち上がった二人はキリリと引き締まった顔。目にはしっかりと戦意の輝きを宿している。


(ヤバかったら逃げるって言ってたくせに)


 今のところ、そんな様子は全く見られない。

 それどころか、仮にA級魔物が湧いたとしても自分だけがさっさと逃げることはしないだろう。そう信じられることが嬉しくて、言葉少なに引き締まった顔で立っている二人が絵のように凛々しくて、思わずリアはくすりと笑ってしまった。


「ちょっ! 何だよ、嬢ちゃん」


「早く終わらせて、みんなで宴会したいね?」


「リア……。そういうのは悪運を招く“ふらぐ”っていうやつじゃない?」


「違いますよっ!」


 ふんっ、と女将さんの真似をして怒って見せたリアに““魔物狩り(仲間)”も笑った。


【お知らせ】

通常でも忙しい時期なのにコロナ騒動もあり、コンスタントに続きが書けない状況です。

三章までは週一更新したかったのですが来週は無理(少し間が空く)と思われます。拙作をお読みくださっている方、誠に申し訳ございません。


三章についてはプロットは決まっている状態で、三章投稿後はゴリゴリ書いてきた部分を読みやすく改稿しようと思っていた矢先の出来事。このままエタるつもりはありませんので、少し時間は空いてしまいますが応援していただけると嬉しいです。


皆様、体に気を付けて(なるべく)無理なくお過ごしください。

高山は電話のコール音がトラウマになりそうです^^;

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