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02-12:禍々しき黒衣と隠し事2

 魔力は空気中の魔素と絡み合い、魔力の持ち主――リアが想像した現象となって世界に現れる。

 作ろうとしたのは半透明の刃を吹き飛ばす強風。


 魔力によって形作られた風は、魔術光と呼ばれる光の粒子を放ちながら動く。

 思い描いた通り、半透明の刃と衝突した。

 魔力の強さに極端な優劣はなかったのだろう。リアが放った風と黒ローブが放った刃は共に四散し、空気中に溶けていった。


「風、導き貫け」


 間髪入れず、リアは魔力でコーティングした矢を放った。

 矢は通常の【強化】時よりも素早く狙った場所へと向う。だが、相手もされるがままではない。ナイフを振って矢の勢いを削ごうと半透明の刃を飛ばしてくる。

 初見の時と同じくリアの放った矢は軌道を変えたものの、今度は風の魔術にって不自然極まりない方向修正を果たす。速度を落とすことなく、言葉で指示したとおりに黒ローブの上腕を射抜くことに成功した。

 力の抜けた黒ローブの手から、ぽとりとナイフが落ちる。


「**シハイ、**ナイ***ナゼ****」


 好機と見たフレッドが動く。

 しかし、黒ローブの動きは更に早かった。

 転がるようにして落ちたナイフを回収し、立ち上がりながら猛烈な勢いで走る。手負いの獣を彷彿とさせる動きである。フレッドが逡巡する間に、靡いていたローブは見る見る小さな黒い塊になっていった。


 まだ、あれだけの余力があったというのか。

 追ったとしても捕獲して襲いかかった理由を聞き出せはしないだろう。そもそも自分たちと同じように物事を考え、会話することが出来る相手だとも思えない。


 ふっと息を吐きながらフレッドは振り返ってリアを見た。

 聞きたいことは山ほどあったが、彼と目が合うとリアは弱々しく笑い――白目を剥いて崩れ落ちた。



 * * *



 眠い。

 そう思いながらリアは寝返りをうつ。

 チクチクする。

 藁がはみ出してしまったのだろうか。上掛けの毛布は自分のものだが、マットレスはヘロン亭の備品だ。袋が破れてしまったのなら女将さんに誤って縫い直さなければ、とリアはぼんやりした頭で考える。

 それにしても青臭い。


「――少なくとも、私がこれまで戦ってきたC級の魔物でここまで強い個体はいませんでしたよ。最低でもBには含まれると思うんです。頭が割れているのはこのアルスが斬りつけて動かなくなったから出来ただけです」


「しかし、Cランクの彼が斬りつけて止められるくらいなら――」


 ヘロン亭に宿泊客がいるなんて珍しい。いや、そんな訳は無い。

 だとすれば――。


「貴方だって冒険者ならお分かりでしょう? ランクは目安でしかありません。彼は約三年でCまで上がった。貢献度の関係で次の昇格試験は受けていませんが、私でも戦って勝てるかどうか。最低でもB以上の実力はありますよ。先日もB級のメタルベアを倒していますし」


 リアがむくりと体を起こすと、中年も後半に差し掛かったであろう禿頭の男と、その男に言い募っているフレッドの横顔が見えた。先程から聞こえていた声もフレッドのものだ。

 無事で良かった、と思うと同時に自分がなぜ草の中で寝ていたかも理解した。

 しかし、現在の状況は分からない。あの禿頭は誰だ。


「あっ、リア! 大丈夫? 疲れて寝ちゃったって聞いたけど」


「レオナさん? どういう状況ですか、これ」


「ギルドから職員連れてきたんだよ。あのオッサンは自分も元Cランクだけど、苦戦しなかったとか、ウダウダ言ってさ。弱いから苦戦しただけだろうの一点張りで。隊長もムッとしちゃって、お陰で私までとばっちり」


 魔力を使い切ったせいか、寝起きだからか。

 偉そうにフレッドに何やかんや言っている禿頭にイラッときた。

 レオナは目元に疲れが滲んでいるものの、とばっちりを喰らってウンザリという口調の割には嬉しそうだ。ざまぁみろとでも暗い喜びに近いようにも感じられるが。


「それは、お疲れさまでした。寝ちゃっててスミマセン。……にしても、あのアルス隊長がムッとしたって、拗ねちゃったってことですか?」


 あの顔で、という言葉が浮き上がってきたがそこは堪える。

 リアの情けである。


「そ。帰りも【強化】でブッ飛ばして走りっぱなし。あのオッサンだって着いた時には倒れそうになってて、しばらく喋れなかったくせにさ。復活したらしたで文句つけるばっか、調べようともしない」


 言われてみれば禿頭のオッサンは汗みずくである。

 レオナが漂わせている疲労の気配も、ナイトベアとの戦いだけではなく強行軍によるところが大きいようだ。


「……本っ当に、お疲れさまです。でもギルドの方がそんな感じだと――」


「そもそも弓はDランクの、そこで寝ているガキでしょう。Dランクの矢が刺さるって時点で変異種って事はない思いますがね。BやAなら当たるはずもない。色だって個体差ってもんがあるでしょうが」


 その言葉にリアのイラッとは、カチンに昇華した。

 胸の奥で怒りが燃え上がるのを感じる。自分のことを聖人君子だとも、人よりも心が広いとも思っていない。しかも今は魔力切れ直後で、寝起きでもあるのだ。

 平常よりも感情の抑えが効かないと自覚していながら、黙っているという選択肢はリアの中に無かった。すっくと立ち上がって、大股でフレッド達の元へと向かう。


「オネンネしてたガキが何だ。大人の話に入ってくんじゃねぇよ」


 これでもフレッドが居るから本人としては抑えたつもりなのだろう。彼がいなければ鼻で笑いながら、もっと毒のこもった言葉を吐いたであろうことは想像に難くない。

 その態度は当然、リアの怒りを更に燃焼させた。

 だが、ヒステリックに話せば相手は自分の言葉を聞き流し、フレッドへの攻撃材料とするかも知れない。私はアルス隊長だ、と言い聞かせてリアはなるべく平坦な声で話しかけることにした。


「……その魔物を射抜いたくらいの【強化】で矢を飛ばしてみましょう。貴方が元冒険者でギルドの職員さんなら、それも判断材料になりますよね?」


「止まった的に当てるのを見せて自慢しようってか?」


「そんな事はしませんよ。そこらに石がありますから、思いっきり放り投げてください。元Cランク冒険者なら、C級魔物ぐらいの速さで投げられますよね?」


 とうとう男はギルド職員という仮面を剥ぎ取り、実に嫌な目つきでリアを見下してせせら笑った。

 気にせずにリアは弓を持ち、矢を番える。


「たかがDのガキが。後で泣きわめくんじゃねえぞ」


「……早く投げてください」


 ふん、と鼻を鳴らして禿頭のオッサンは石塊を掴むと思いっきり放り投げた。

 一般人ならば速く高いと思うかもしれないが、リアが想定していたよりもずっと劣る。余裕を持って石塊が描く放物線を眺め、当たると確信したうえで射ることが出来るほどだ。

 回復しきっていない魔力のせいで、実のところナイトベアに向けたほどの【強化】は出来ない。それでも全く問題はなかった。


 弾き出された矢は真っ直ぐ正確に石塊に当たり、それを砕いても速度も軌道もほとんど変えずに飛び続けた。割れた石が雹のようにバラバラと降る。

 愕然とした表情でそれを眺める男にリアは冷たい視線を向けた。


「……こんな矢がC級やB級に命中するのは、ありえないですかね?」


「私はそうは思いませんよ、ゲオルさん。確かに彼女は若く、ランクも高くはありません。ですが彼女の矢はもっと上位の魔物にも通用する。そうそう、メタルベアと戦った時にも彼女は活躍しましたよ」


 労るようにリアの肩を軽く叩くと、フレッドは畳み掛けていた。それを聞いているのかいないのか、禿頭のオッサン――ゲオルは茫然自失といった様子で割れた石が散らばる辺りを眺めたまま硬直している。

 ここぞとばかりにフレッドが捲し立て、戦意喪失状態のゲオルに要求を飲ませようとしていた。


 リアが彼らから目を逸らせば、最上級の笑顔でレオナが親指を立てていた。アルスも目元と唇の端が笑っているし、少し離れた所で空気になっていたザイードも笑いながら拳を上下させている。

 溜飲が下がったと言わんばかりの皆の反応で、リアの心に渦巻いていた苛立ちは薄れた。単純すぎるのかもしれないが仲間っぽくで嬉しい。嫌味なオッサンに一泡吹かせされたのも嬉しい。


「――というわけで、きちんと持ち帰ってギルドで確認して頂きたい。分かる方なら毛色の違いも分かるでしょうし、研究機関であれば厳密に調べてくれるでしょうね。勿論素材をタダで手放す気はありませんから、売値が下がるような解体は保証がない限り許可しません。私達はこの事を依頼者である村長と、アルカクのギルドに報告します。報酬と結果はアルカクへ、良いですね?」


 延々と話していたフレッドも面倒裏くなってきたのか、やや圧を掛けるような口調で締めた。ゲオルは嫌そうな顔で頷くと、ナイトベアの死骸を銀色の袋に仕舞いギルドへとは帰っていった。

 微笑みながら手を降るフレッドに見送られて。


「あぁ、疲れた。喉も渇きました。これから村長さんの所に連絡して……帰りますか?」


 違和感を覚えるほど、フレッドは普段通り。黒ローブとの戦闘は夢だったのではないか、そんな事を思ったリアだったがフレッドを良く見れば記憶と同じく上着の袖は破れたままである。

 無かったことには出来ないだろう。


「出来ればもう一泊したいな。……皆は?」


 目を細めて太陽の高さを見ていたアルスが切り出した。

 レオナも疲れているし、飄々としているがフレッドも魔力的にきついはずだ。リアもまた、ここから【強化】でアルカクまで走り抜けようという気にはなれない。


「賛成。私は別に急ぐ用事も無いし、また走るのは辛い」


「オレも……まぁ、良いぜ。嬢ちゃんはヘロン亭の手伝い大丈夫か?」


「大丈夫です、明日が明後日でも全く」


「じゃ、泊まってこう。そうだ、嬢ちゃん余裕あるか? 隊長達が村長と喋ってる間、オレと夕飯探しに行こうぜ。多く捕れたら宿代替わりにあげても良いだろ?」


 リアは寝ていたわけではなく、軽症ではあるが魔力切れで倒れていたのだ。

 正直そこまで余裕はない。だが、頭を冷やす時間が欲しかった。


「軽くなら大丈夫です。……あっ! 遠くまで行っちゃった矢、ついでに探しても?」


「探すのは良いけどよ。オレ達全員分の苛立ちをふっ飛ばしてくれたんだ、矢の一本ぐらいパーティ資金から出してやらァな。良いっすよね? じゃ、オレ達はメシ確保な」


 ナイトベアのいた方へ逆戻りし、食べられそうな魔物を探すことになった。

 戦果はワイルドボア一体と、ビッグラビット一体。

 ちなみに矢は見つからなかった。

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