15、アリシア
『セツナ、起きてる?』
「あぁ…起きてるよ」
それは夜遅く、他の生徒が寝静まっている時間帯。ルナはセツナに声をかけた。
『あのさ、月を見ない?』
「異世界で月を見るのは初めてだな」
セツナは異世界に月があるとは先日まで知らなかった。しかしギンの属性についての話で異世界にも月があると分かったのだ。
ルナに手を引かれセツナはベランダに出る。
「これは…」
『うん、さっき見て私も驚いたの』
ベランダから出て空を見上げると、空には地球で見るよりも何倍も大きい月の姿があった。
しかしそれだけではないのだ…セツナが驚いたのそこではない…
「紅い…月?」
月は血のように真っ赤だったのだ…セツナは地球でいう月はまた別の存在でここは異世界なんだと改めて認識する。
『綺麗だね…まるで』
「まるで血に染まっているみたいだが…確かに綺麗だ…」
『………昔を思い出すね』
「………ああ」
『………月の下で明日の朝ごはんは何が食べたいとか、部屋の中で月を眺めながらセツナの宿題みてあげたっけ』
「………そうだな、ルナ姉は宿題はすぐに終わらせちゃうからいつも俺が見てもらってた」
『冬は寒いから部屋の中で窓に息を吐いて白くなった部分で遊んだよね』
「雪が降った日にベランダで遊んでたら次の日は二人して風邪ひいたっけ…」
『ステラは暗い場所だとすぐ寝ちゃうから、二人だけ羨ましいって怒ってたよね』
そんな昔話をしばらくしてセツナが話が一段落ついたところで立ち上がる。
「そろそろ寝るか」
『セツナ』
ルナはセツナの服の裾を掴み呼び止める。しかしルナはずっと空を見上げている。
「ん?」
『さっき、血に染まってるみたいって言ったよね』
「ああ、言ったな」
『私にはもっと綺麗な色に見えたんだ』
「何色に見えたんだ?」
『それはね…』
ルナはセツナの方に顔を向けてセツナの眼を指差す。その時のルナの表情は…
『セツナの瞳の色!』
嬉しそうに笑っていた。セツナは口元を緩めフッと笑うと背を向けて部屋に入っていく。
「俺は月の色よりルナ姉の瞳の色が綺麗だと思うよ」
そんな言葉を残して―――
♢♢♢
セツナ達はその日、入学式のため制服を着て学園の講堂に向かう。
制服は白を基調としており、所々に青い装飾が施されている。
学年によって装飾の色は違い、今年の一年生は青、二年生は黒、三年生は赤となっている。
行く途中でティアが注目を集めていたため、セツナは周囲に聞き耳を立てたが「あの子凄い可愛い」などの声がほとんどだったため、無視した。
講堂に入りセツナはパンフレットを眺めていると興味深い項目があった。
「学園長挨拶…どうするんだこれ…」
それは学園長挨拶という項目、セツナが興味深いと思った理由…それは…
「入学式なんて何百年振りかしらね~長いこと生きてるから覚えてないわ~」
(こ・い・つ・だ)
「どうしたの?」
(何でこの学院長はさも当然かのように新入生席に座ってるんだよ…)
『えー、これから王都第一学園の入学式を始めます』
「あ、入学式が始めるみたい」
新入生同士での会話で騒がしかった講堂は静まり返り、壇上に視線が集まる。
『えー、まずは国から栄誉あるワイズマンの家名を授かっている学園長による挨拶です』
ワイズマンという言葉に辺りがざわつく。
「表舞台に一切姿を現さないと言われるワイズマンがようやく見れるぞ…」
「噂では人間の男で【生命の輝き】というユニーク魔法を使い何百年も生きてるらしいぞ…」
「名前さえ公表されてない生きた伝説の正体が分かるのか…」
『静粛に!』
そう先生がいうと再び講堂を静寂が支配する。
『では、ワイズマン学園長の声を有難く聞くように』
すると何処からともなく声が聞こえてくる。
『我が王都第一学園へようこそ、ワシは君たちを歓迎しよう』
その声は明らかにティアの声ではなかった…けれどセツナとルナはその声に聞き覚えがあった。
(ギンか…)
(ギンさんが喋ってるんだろうな…)
その声はティアの契約精霊、ギンの声だった。朝から部屋にはいなかったのは理由をセツナはここでようやく理解する。
『―――学べ!育て!そして羽ばたくのだ!新入生諸君!』
パチパチパチパチ
セツナがそんなことを考えている内にギンの熱弁は終わったらしく、会場が拍手の音に包まれる。
『次は第一学園生徒会長ルーク・ブレイブ様と新入生代表アイシア・ロードランス様の言葉です』
セツナはロードランス、ブレイブという名前を聞いて軍の資料を少し思い出す。それは国の重要人物の資料だった。
一昔前に魔物の王、魔王と呼ばれる存在が現れたとき国を救った英雄が四人いたのだという。
四人はそれぞれ、別々の武器を使う事と国の未来の道を開いてくれたという意味を込めて王様が家名を授けたのだという。
強力な魔法で大軍を一掃する英雄にワイズマンと、
千切れた腕さえ治す奇跡の英雄にリバイブと、
美しく純粋な槍術を操り、戦う相手に敬意を払う武人の英雄にロードランスと、
そして魔法、奇跡、武術、全てにおいて最強と言われた存在にブレイブという家名を授けたのだという。
そして英雄たちの血を受け継いだ子孫たちもいる。
ワイズマンは生涯独身で子孫が居なかったため、国で一番の魔法使いにその家名を授けることになった。
と、ここまでが資料の情報だったとセツナは記憶している。
この情報はそこまで凄いものではなく、異世界人なら子供でも知っているのだ。
(英雄…か)
セツナは心の中でそう呟く、そして英雄の家名を授かったティア・シルフィード・ワイズマンを見る。
そう、自分の学校の入学式の最中でセツナの肩に寄りかかりながら寝ている国一番の魔法使いを…
その後、日本の学校で何処かで聞いたことのあるような言葉を聞いて入学式は無事に終わったのだった。
♢♢♢
入学式が終わり、クラス表を見ているセツナ達。クラスは生徒の差別意識を生まないようにと成績順などは考えずに構成されている。
「私達は一のAだね~」
『ティアさんと同じクラスだね!セツナ!』
「偶然って凄い!いや~偶然って凄いね~、まぁこれでセツナ君と学園生活送れるからいいかな?なーんて」
「………」
セツナはティアに向ってアイアンクローを喰わらせる。
「痛い痛い!なんでいきなり!」
「お前、同じクラスになるように仕組んだろ」
「何を証拠に!」
「言い方がわざとらしいんだよ!」
「確かに仕組んだけど!いきなり可愛い女の子に!アイアンクローは酷い!」
「はぁ…じゃあ教室に行くか…」
セツナはティアを開放し、教室へ向かう。
♢♢♢
セツナは途中でギンとも合流しそのまま教室に向かった。
「一のA…ここか」
ガラガラガラ
スライド式の扉を開けて教室に入ると、黒板には見たことない言語で「全員揃うまで待機」と書かれているのがセツナには分かった。
(これは異世界の文字…自動的に理解が出来るようになってるのか…)
セツナはそんなことを考えながら席は自分で決めていいとティアから聞いていたので、一番後ろの真ん中辺りの席を確保する。
机は床に固定されており横長い。一つの机に三人が使えるようになっている。
「セツナ君がそこ座るなら私は…」
『甘いよティアさん!』
「なぬ!」
『セツナの隣はお姉ちゃんの権利!』
「ま、負けた…早すぎる。けれど逆隣がある!」
そしてティアはセツナの隣に座り、セツナはルナとティアに挟まれた状態になる。
「ねえ君」
ルナとティアの会話に疲れていたセツナの目の前には青い髪の男子生徒が立っていた。手は白く繊細、まるで女の子のような顔立ちの男子生徒は入学式で見た新入生代表のアリシア・ロードランスだった。
アリシアという名前が女の子っぽいがセツナは異世界の常識など知らないのでそのまま流した。
「君はアリシアだったか?それで俺に何か?」
「君の前の席に座ってもいいかな?」
「構わないが、何故英雄の子孫と言われる方が俺にわざわざ断りを入れる必要がある?」
「えっ!そ、それは…」
『セツナ!分からないの!?』
ルナが突然実体化して、話に割り込む。アリシアは少し驚いているが、すぐに適応して見せた。セツナはその様子を見て「流石に英雄の子孫ぅてだけはあるな」と感心する。
『アリシアさんはね!セツナと友達になりたいんだよ!』
「友達になりたいのか?」
「ちょ、そ、そんなんじゃなくて…その、少し話せたら…みたいな」
『前の席に座ることを理由に話しかけて仲良くなりたいんだよ!』
「仲良くなりたいのか?」
「お願い…誰だか知らないけどそれ以上は…僕のメンタルが…」
『友達がいない人にとって一人でいて何となく無表情で一緒にいても苦にならなそうなセツナは友達を作る練習になりやすいの!』
「俺ってそんな無表情なのか?」
「ご…」
「『ご?』」
「ごめんなさいぃぃぃぃ!!」
そう言いながら、アリシアは泣きながら教室の外へ突っ走っていった。
『セツナ、友達出来そうだったのに何で泣かすの…』
「あ、今の俺が泣かせたことになってるのか」
「セツナ君」
何故かセツナに罪が擦り付けられたところでティアが会話に割り込む。
「追いかけるなら今だよ!彼女は今、ここから三百メートル離れたところで隠れて泣いている!」
「何で分かるんだよ…」
「この学園には私の結界が張ってあるのだ!青春してきなさい!」
「はいはい、俺が泣かせたっぽいし行ってくるよ」
「仲直りしたら、このカメラ?とかいう道具で写真取ってきてね!男の友情物語結構好きなの!」
「じゃあ行ってくるか」
「あぁ…写真…」
セツナはティアを無視して教室の外に出て、アリシアの走った方角へ向かう。友達を作るため…
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