01:甘くそして寂しいワナ 1/2
なんとでも言えばいい。
私は、私のやり方で、このステージを魅了する。
どんな事があったって、私は常に最高のパフォーマンスを、エンターテインメントを魅せるだけなのだから。
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春ーーー桜が咲く頃
新潟、とあるコンサートホール。
彼女達に会いたくて、同じ目的を持った人々が、1万人は入るであろう箱に集い、彼女達の歌声に乗せて、4色様々に眩く光るペンライトを振っている。
「新潟のみんな〜!!今日は、LoneyHoneyのコンサートに来てくれてありがとう〜っ!!楽しかった〜?!」
<イェェェェェェイ!!!!>
その呼びかけに反応する声は、年齢層は様々ではあるが、若い人達が多いかなという印象で、子供やお年寄りの人達までもが、ペンライトを掲げて叫んでいる。
「のえも楽しかったーーー!!!」
<イェェェェェェイ!!!!>
「恋華はー、新潟の皆にまた会えて嬉しい〜!!」
<イェェェェェェイ!!!!>
一万人のお客さんの中には、わざわざ新潟以外からコンサートを見に来ている人も居る。恋華はその辺りの配慮が足りない。
「新潟まで来てくださった、他の地方に住んでるハニーさん達も、ありがとうございますね」
<パチパチパチパチパチパチ>
悠未は《ゆうび》そういう所にいち早く気づいて、すかさずフォローや気遣いが出来る。最年長の彼女の責任感なのかもしれない。
ちなみにLonelyHoneyのコンサートに来てくれたり応援してくれるファンの人達の呼称として、グループ名から準えて"ハニー"と呼んでいる。私達がデビューしてからずっと支えてくれている、私にとって家族の次に……いや、同じぐらい、大切な存在。
「じゃあ左彩子、最後の曲紹介お願いね」
でも、今は、そんな人達が、怖くてたまらない。目を、顔を、見るのが怖い、逸らしたくてしょうがない。
「みんな、今日は来てくれて本当にありがとう」
…………………………。
静寂、目を逸らした私の耳には、自分の声の残響が、広がっていく。
「また新潟に来れるように頑張るので、これからも私達を応援してください」
………………………。
(うわー出た、さやこす)
(どの面下げてステージ立ってんの?)
(あいつの話聞きたくないんだけど)
一万人が入る程のとても広いこの空間でも、距離は決して遠くない事を、こんなカタチで実感させられる。
大きな溜息、小さな嘲笑、陰口悪口、私がマイクを握った瞬間が合図かの様に、この空間の空気が一瞬で変わる。
張り詰めたこの空気を浴びた事のない私は、指先の震えが喉や目尻にまで達しないようにするのに、精一杯で、必死で、
「それでは最後の曲です、オレンジストレンジスター」
と曲紹介をして逃げてしまったのだった。本来はこの時間で、映画の宣伝や紹介をして伝えなければならなかった。
それでも、この曲には私の大事な見せ場、ソロパートがある。ダンスや歌で魅せれば良いんだ。今までだってそう信じてやってきたんだ。
これだけは、絶対に、観てもらうんだと。
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しかし、その日、いつも起こるはずのアンコールは、
鳴らなかったーーーーーーー
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「ユウちゃーん、カナちゃんが迎えにきたよー」
新学期早々、コイツは変わらないな。親父が1階から階段に向かってボクの部屋へ呼びかける。支度を既に終えているボクは、溜息を漏らしながら階段を億劫に一段ずつ降りていく。
未来を予測するならば、凪田叶永、店先でキミと対面したボクは真っ先にこう言うだろう。
『なんだその荷物は!!』
「部活で使うんだよ〜」
やはりな、やはりやはりやはりな!!!
「カナちゃん〜今年もユウちゃんを宜しくね〜一緒のクラスになれるといいね、ね!」
「オヤジ、頼む、常識を知らないコイツの荷物量に物申してくれよ」
「凄いねぇ〜今年はオシャレさんが読みそうな女子力高い雑誌がスクールバッグいっぱいに入ってるね〜」
「部室で読むんだよ〜っ、うふふ」
「オマエ、女子サッカー部だろう!!!!」
「こらこら、凪田さんチにはいつもお世話になってるんだから、これぐらい手伝ってあげなさい」
「世話してんのはこっちだろう!!音楽雑誌を店に置いてやってるのはなんなんだ!!」
「ユウちゃん!!態度を改めなさい!!」
「大丈夫だよ〜っ、ほらユタカはこっちの紙袋持ってね」
「あ″あ″あ″あ″あ″!!!!!!」
凪田叶永、オマエはなぜ凪田書店の娘なんだ、そしてなぜボクの家であるクラハシレコードの隣が凪田書店なのだと、つくづく、呆れる程思う。
カナエは毎年こうやって、学年末に出たお店の返本されない売れ残りの雑誌や本を、学校へ"勝手に"提供しているのだ。そしてその雑誌達を運ぶのを新学期初っ端に手伝わされ、重すぎるその荷物に顔を顰め汗を流すボクを見た商店街の人達に、憐れみの目で見送られていくのが、小学生の頃から続いている毎年の恒例なのだ。
「要らないからな」
錦宮坂高校へ続く通学路のこの鬱陶しい坂道を進み、鬱陶しい紙袋を担ぎながら、ボクは予防線を先に張る。
「まだ何も言ってないよ?」
だがな、未来を予測するならコイツは次にこう発言するだろう。
「「ベラ」」
ほらな!!ほらなほらなほらな!!
「今年はベラちゃんパスケースだよ」
「要らないと言っているぅぅぅぅぅ!!!!!」
もう一つ、毎年の恒例がこれだ、"月刊フィッシングラバーズ"なる売れ残り雑誌があり、その雑誌は毎年『ベラ』という非常にカラーリングが独特で気持ち悪い魚をモチーフとした、どこに需要があるか分からないグッズを付録にしていて、それが大量に余るのだ。そしてそれを押し付けられるのである。
「パスケースなら、前歩いてる女子のカバンに付いてる、あのミツバチのパスケースみたいなヤツの方が、死ねるほどベラよりマシだね!!」
「あ〜、あれロンハニのコンサートグッズだよ〜、多分だけど」
「は?……ろんはに?」
「流行りの音楽知らないユタカには分かんないだろうね〜!LonelyHoney。クラハシレコードにもいい加減CD置きなよ〜」
「ウチはレコードしか置かん」
「はぁ、ほんとユタカっておじいちゃんそっくりだよね」
「褒め言葉として受け取っておこう」
「ベラちゃんもついでに」
「それは受け取らんっ!!!」
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今年もまたコイツと一緒のクラスは嫌だな、というかコイツと一緒のクラスのヤツとか、コイツの友達は疲れないのだろうか、なんて今更思いながら、学校の校門に着くと、新クラスの書かれた新3年生の名簿のプリントを配る先生達が………、ん?いや、今年はなんだか様子がどうもおかしい
「ユタカ〜あの紙貰ってきて〜」
「……あの騒ぎの中に入ってこいと言うのか?」
名簿のプリントを配ろうとする先生達が、いち早く紙を貰おうとして焦っている沢山の新3年生の生徒に囲まれている……ように、見えたのだが、先生を囲っている生徒達は既に紙を手にしている。そして生徒達は先生に向かい、何かを問い詰めている。
「この名簿作ったのどの先生ですか?」
「ただの同姓同名?」
「先生オタクなの?ふざけただけ!!?」
「まじウケんだけど!」
囲まれている先生は結局、
「いいから自分のクラスさっさと行け!」
というばかりで、全く騒ぎは収まらないどころか、ボクらのように後から来た生徒や他学年の子にまで、野次馬達が集まり、どんどん大きくなっていった。
「ねぇねぇハルコちゃん、私達取りに行けそうになくって、その名簿見せて貰えないかな?」
どうしたものかとウロウロしていると、カナエが先程のミツバチのパスケースをカバンに付けた女子に頼んでいた。知り合いだったのか。
「…………………」
カナエがハルコと呼んだその女子は、何か言いたげな表情で目を地面へ向けたまま、紙を差し出した。
「…………………え?」
新クラス名簿を手にしたカナエがその瞬間、絶句した。
「………ヤ、ヤバイ」
「どうした?」
「またユタカと同じクラスだわ、しかもハルコちゃんも一緒じゃん、凄い奇跡、そりゃみんな騒ぐわ」
………え?!マジかよ!また一緒のクラスかよ!七年連続だぞ?!絶対裏あるだろ?!……いやいやいや、それも驚きだけど、この周りの異様な騒ぎの原因はそれじゃないだろ!!
2人だけが周りとは違う空気で騒いでいると、ハルコがひどく神妙な面持ちで、名簿の一部分を指さした。
「…………出席番号28」
「え?なに………あ………」
「どうした?今度はなんだ?」
ハルコが指さした先を見たカナエが目を見開いて、先程よりもっと絶句した。
「………さっ………水苗左彩子と同じクラス?!ふぉっー?!」
…………………サヤコス?
………カナエの後輩か友達だろうか。




