↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/4

01:甘くそして寂しいワナ 1/2

なんとでも言えばいい。

私は、私のやり方で、このステージを魅了する。


どんな事があったって、私は常に最高のパフォーマンスを、エンターテインメントを魅せるだけなのだから。


ーーーーーー

春ーーー桜が咲く頃


新潟、とあるコンサートホール。


彼女達に会いたくて、同じ目的を持った人々が、1万人は入るであろう箱に集い、彼女達の歌声に乗せて、4色様々に眩く光るペンライトを振っている。


「新潟のみんな〜!!今日は、LoneyHoney《ロンリーハニー》のコンサートに来てくれてありがとう〜っ!!楽しかった〜?!」


<イェェェェェェイ!!!!>


その呼びかけに反応する声は、年齢層は様々ではあるが、若い人達が多いかなという印象で、子供やお年寄りの人達までもが、ペンライトを掲げて叫んでいる。


「のえも楽しかったーーー!!!」


<イェェェェェェイ!!!!>


「恋華はー、新潟の皆にまた会えて嬉しい〜!!」


<イェェェェェェイ!!!!>


一万人のお客さんの中には、わざわざ新潟以外からコンサートを見に来ている人も居る。恋華《こいか》はその辺りの配慮が足りない。


「新潟まで来てくださった、他の地方に住んでるハニーさん達も、ありがとうございますね」


<パチパチパチパチパチパチ>


悠未は《ゆうび》そういう所にいち早く気づいて、すかさずフォローや気遣いが出来る。最年長の彼女の責任感なのかもしれない。


ちなみにLonelyHoney《ロンハニ》のコンサートに来てくれたり応援してくれるファンの人達の呼称として、グループ名から準えて"ハニー"と呼んでいる。私達がデビューしてからずっと支えてくれている、私にとって家族の次に……いや、同じぐらい、大切な存在。


「じゃあ左彩子《さやこ》、最後の曲紹介お願いね」


でも、今は、そんな人達が、怖くてたまらない。目を、顔を、見るのが怖い、逸らしたくてしょうがない。


「みんな、今日は来てくれて本当にありがとう」


…………………………。


静寂、目を逸らした私の耳には、自分の声の残響が、広がっていく。


「また新潟《ここ》に来れるように頑張るので、これからも私達を応援してください」


………………………。

(うわー出た、さやこす)

(どの面下げてステージ立ってんの?)

(あいつの話聞きたくないんだけど)


一万人が入る程のとても広いこの空間でも、距離は決して遠くない事を、こんなカタチで実感させられる。


大きな溜息、小さな嘲笑、陰口悪口、私がマイクを握った瞬間が合図かの様に、この空間の空気が一瞬で変わる。


張り詰めたこの空気を浴びた事のない私は、指先の震えが喉や目尻にまで達しないようにするのに、精一杯で、必死で、


「それでは最後の曲です、オレンジストレンジスター」


と曲紹介をして逃げてしまったのだった。本来はこの時間で、映画の宣伝や紹介をして伝えなければならなかった。


それでも、この曲には私の大事な見せ場、ソロパートがある。ダンスや歌で魅せれば良いんだ。今までだってそう信じてやってきたんだ。


これだけは、絶対に、観てもらうんだと。


ーーーーーーーー


しかし、その日、いつも起こるはずのアンコールは、


鳴らなかったーーーーーーー


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ユウちゃーん、カナちゃんが迎えにきたよー」


新学期早々、コイツは変わらないな。親父が1階から階段に向かってボクの部屋へ呼びかける。支度を既に終えているボクは、溜息を漏らしながら階段を億劫に一段ずつ降りていく。


未来を予測するならば、凪田叶永《なぎだかなえ》、店先でキミと対面したボクは真っ先にこう言うだろう。


『なんだその荷物は!!』


「部活で使うんだよ〜」


やはりな、やはりやはりやはりな!!!


「カナちゃん〜今年もユウちゃんを宜しくね〜一緒のクラスになれるといいね、ね!」


「オヤジ、頼む、常識を知らないコイツの荷物量に物申してくれよ」


「凄いねぇ〜今年はオシャレさんが読みそうな女子力高い雑誌がスクールバッグいっぱいに入ってるね〜」


「部室で読むんだよ〜っ、うふふ」


「オマエ、女子サッカー部だろう!!!!」


「こらこら、凪田さんチにはいつもお世話になってるんだから、これぐらい手伝ってあげなさい」


「世話してんのはこっちだろう!!音楽雑誌を店に置いてやってるのはなんなんだ!!」


「ユウちゃん!!態度を改めなさい!!」


「大丈夫だよ〜っ、ほらユタカはこっちの紙袋持ってね」


「あ″あ″あ″あ″あ″!!!!!!」


凪田叶永《カナエ》、オマエはなぜ凪田書店の娘なんだ、そしてなぜボクの家であるクラハシレコードの隣が凪田書店なのだと、つくづく、呆れる程思う。


カナエは毎年こうやって、学年末に出たお店の返本されない売れ残りの雑誌や本を、学校へ"勝手に"提供しているのだ。そしてその雑誌達を運ぶのを新学期初っ端に手伝わされ、重すぎるその荷物に顔を顰め汗を流すボクを見た商店街の人達に、憐れみの目で見送られていくのが、小学生の頃から続いている毎年の恒例なのだ。


「要らないからな」


錦宮坂高校へ続く通学路のこの鬱陶しい坂道を進み、鬱陶しい紙袋を担ぎながら、ボクは予防線を先に張る。


「まだ何も言ってないよ?」


だがな、未来を予測するならコイツは次にこう発言するだろう。


「「ベラ」」


ほらな!!ほらなほらなほらな!!


「今年はベラちゃんパスケースだよ」


「要らないと言っているぅぅぅぅぅ!!!!!」


もう一つ、毎年の恒例がこれだ、"月刊フィッシングラバーズ"なる売れ残り雑誌があり、その雑誌は毎年『ベラ』という非常にカラーリングが独特で気持ち悪い魚をモチーフとした、どこに需要があるか分からないグッズを付録にしていて、それが大量に余るのだ。そしてそれを押し付けられるのである。


「パスケースなら、前歩いてる女子のカバンに付いてる、あのミツバチのパスケースみたいなヤツの方が、死ねるほどベラよりマシだね!!」


「あ〜、あれロンハニのコンサートグッズだよ〜、多分だけど」


「は?……ろんはに?」


「流行りの音楽知らないユタカには分かんないだろうね〜!LonelyHoney《ロンハニ》。クラハシレコードにもいい加減CD置きなよ〜」


「ウチはレコードしか置かん」


「はぁ、ほんとユタカっておじいちゃんそっくりだよね」


「褒め言葉として受け取っておこう」


「ベラちゃんもついでに」


「それは受け取らんっ!!!」


ーーーーーーーー

今年もまたコイツと一緒のクラスは嫌だな、というかコイツと一緒のクラスのヤツとか、コイツの友達は疲れないのだろうか、なんて今更思いながら、学校の校門に着くと、新クラスの書かれた新3年生の名簿のプリントを配る先生達が………、ん?いや、今年はなんだか様子がどうもおかしい


「ユタカ〜あの紙貰ってきて〜」


「……あの騒ぎの中に入ってこいと言うのか?」


名簿のプリントを配ろうとする先生達が、いち早く紙を貰おうとして焦っている沢山の新3年生の生徒に囲まれている……ように、見えたのだが、先生を囲っている生徒達は既に紙を手にしている。そして生徒達は先生に向かい、何かを問い詰めている。


「この名簿作ったのどの先生ですか?」

「ただの同姓同名?」

「先生オタクなの?ふざけただけ!!?」

「まじウケんだけど!」


囲まれている先生は結局、

「いいから自分のクラスさっさと行け!」

というばかりで、全く騒ぎは収まらないどころか、ボクらのように後から来た生徒や他学年の子にまで、野次馬達が集まり、どんどん大きくなっていった。


「ねぇねぇハルコちゃん、私達取りに行けそうになくって、その名簿見せて貰えないかな?」


どうしたものかとウロウロしていると、カナエが先程のミツバチのパスケースをカバンに付けた女子に頼んでいた。知り合いだったのか。


「…………………」


カナエがハルコと呼んだその女子は、何か言いたげな表情で目を地面へ向けたまま、紙を差し出した。


「…………………え?」


新クラス名簿を手にしたカナエがその瞬間、絶句した。


「………ヤ、ヤバイ」


「どうした?」


「またユタカと同じクラスだわ、しかもハルコちゃんも一緒じゃん、凄い奇跡、そりゃみんな騒ぐわ」


………え?!マジかよ!また一緒のクラスかよ!七年連続だぞ?!絶対裏あるだろ?!……いやいやいや、それも驚きだけど、この周りの異様な騒ぎの原因はそれじゃないだろ!!


2人だけが周りとは違う空気で騒いでいると、ハルコがひどく神妙な面持ちで、名簿の一部分を指さした。


「…………出席番号28」


「え?なに………あ………」


「どうした?今度はなんだ?」


ハルコが指さした先を見たカナエが目を見開いて、先程よりもっと絶句した。



「………さっ………水苗左彩子《さやこす》と同じクラス?!ふぉっー?!」





…………………サヤコス?

………カナエの後輩か友達だろうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。