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意外な本性


「な…………」


「な?」


 フォルテはその場で顔を伏せ、ポツリと呟いた。

 聞こえた言葉をラムセスが復唱する。


 するとフォルテは勢いよく顔を上げ、爆発した。



「なんだよーーー!! そんなに邪険に扱わなくてもいいじゃんか!! ゴルドくんに絡まれてて可哀想だと思ったからちょっと親切にしてあげようとしただけだよーーー!!」


 先程までの気取った口調を投げ捨てたフォルテに、ラムセスは目を剥いて驚く。


 フォルテは両目から涙をボロボロと流し、両腕をポカポカとラムセスへぶつける。


 あまりの変貌ぶりに、言葉も出ない。


 そんなラムセスを気にも留めず、フォルテは続ける。


「だってだって、ゴルドくんいつも問題ばっかり起こすんだもん! 父上達から頼まれて隠れて見守ってただけなのに! 偶々ラムセスくん達のお話も聞いちゃったから! 申し訳ないと思って謝ろうとしただけだもん! だからこうして話しかけるタイミングを見計らって、折角だから少しお話しようとしたのに! …………「貴族祭フェスタ」は初めてって聞いたから! ちょっとでも楽しい思い出にしてほしいって思っただけなのに…………こんな風に悪者みたいに扱うなんて! そりゃボクだって盗み聞きしちゃったから無罪って訳じゃないよ!? でも、もっと愛想よくしてくれたっていいじゃんか!! 先輩面させてくれたっていいじゃんか!! なんだよなんだよ! みんなボクの身長ばっかり見てバカにして! ちゃんと歳上として敬ってくれてもいいじゃん!! ラムセスくんは八歳の癖にボクより背が高いし! ボクだって好きでこんな体に産まれてきた訳じゃないんだよ!? 真面目そうだから大丈夫だって思ったのに!」


「え、えぇ…………」


 堰を切ったように次々と溢れ出す主張に、ラムセスは言葉を挟む余裕もなく、ただひたすらその勢いに流される。


「だいたいなに!? ボクはそんなに信用ならない!? そりゃ突然出てきて突然話しかけてきた怪しい人に気を使う必要なんかないよね! ふんだ、得意げになっちゃって! どうせ歳下に言いように言い負かされてるのを情けないとでも思ってるんでしょ! ボクだって行きたい場所もやりたい事も沢山あるのに! こういう時だけ年長さん扱いでアレもコレも頼んできて! ゴルドくんだってマスキンくん、ラムセスくんだってバステトちゃん! 相手がいる人はさぞ楽しそうで羨ましいよね!! ボクなんてこんな日に一人で魔術で気配を隠しながら他の人が仲良く一緒に遊んでるのを見てるだけだし!! だいたいボクだって女の子なんだよ!? もっと優しくしてくれてもいーじゃんか! 好きでこんな格好してるわけじゃないんだから! 何が優雅さを身につける為だよ! こんな醜態見られてる時点でお察しだよ!!」


「うわぁ」


 聞いてもいない事まで次々と暴露し始めたフォルテに、ラムセスは段々と申し訳ない気持ちになってきていた。


 話を要約すると、こうなる。


 今回の接触は親切心からだった。

 恐らくゴルドと交流のあるこの少女は、親族に頼まれて街に出た彼らを見守っていた。

 その途中で合流したラムセス達の話を意図せず聞いてしまい、少しばかりの罪悪感を持っていた。

 その件について謝罪をする為、タイミングを見計らってラムセス達に話しかけた。

 ついでに先輩として面倒を見てあげようと、困っている所に入り込んだ。


 何処かよそよそしいラムセスの緊張を解そうと、なるべく親しみやすい性格を心掛けた。


 そして話を切り出す前に、不自然な所をラムセスに突かれ、慌てて誤魔化そうとしたが、出来なかった。


 いっぱいいっぱいになってしまったフォルテは、こうして洗いざらい本音を暴露し、言わなくてもいいコンプレックスについてまで初対面のラムセスに知られてしまった。


(つ、辛すぎる…………)


 恥も外聞もなく喚き散らしたフォルテは、何処からか取り出したハンカチを使い、顔を吹いている。


 最後に一度鼻をかみ、懐にしまった彼女の瞳は、完全に濁りきっていた。


「ボク、帰る」


 力無くそう呟き、立ち上がろうとしたフォルテを、ラムセスが引き止める。


「待ってください! ごめんなさい、僕が意地悪でした!」


「やだーー! かーーーえーーーるーーーのーーー!!」


 両手をバタバタと振り回して抵抗するフォルテを、その肩を抑えることで無力化する。


 ラムセスとフォルテは、王国の未来を支える貴族として嫌でも関わりを持つ関係だ。

 公爵同士である以上、私的な付き合いも必要になる場合もある。


 特にラムセスは、今回が初めての「貴族祭フェスタ」だ。


 その初会合がこの結果で終わったとしたら、その後の関係性もぎこちなくなる事まちがいないだろう。


 ゴルドという前例がある以上、ラムセスは相手が子供であっても警戒して対話をしようと決めていた。


 それは、自分という存在を抜きにしても、この国の貴族は平均的に精神年齢が高い傾向にあるからだ。


 お互い民のために生きる仲間とはいえ、無警戒でいるのは話が別。


 そう思ったラムセスは、こうして歳上であるフォルテに対して最大限言動に注意を払い、その尻尾を掴んだ。


 そもそも一日に何度も貴族の子息に遭遇するなんて、奇遇で済ます方が難しい。


 何かしらの思惑があると判断し、それを追求しようとした。


 それが本当に歳相応の親切心から来ていて、その上こんな風に泣かせてしまうなんて、思ってもいなかった。


 何せ、あれだけ「油断ならない」と言わんばかりの遭遇だったのだ。


 ラムセスは、女の子を泣かせた経験がない。


 つまり、慰め方が分からない。


 しかしこのままでは、公爵家長女を泣かせたという事実だけが残ってしまう。


 自分の醜聞を晒す事に繋がるため可能性は低いが、この少女がラムセスの事を風聴する可能性もある。


 このままではいけない。


 そう考えたラムセスは、その頭脳を全力で回転させ、解決策を探し出す。


 そして、一つの解答を導き出した。


「フォルテ! フォルテ! 聞いてください!」


「やだーーー!! かえってねるのーーー!!」



「ここで帰したら僕の立場がありませんよ! お願いします! 馬鹿な後輩を助けると思って、機嫌を直してください! フォルテ『先輩・・』、お願いします!」


 ラムセスの言葉、正確にはその一単語を聞いた瞬間、フォルテは動くのを止めた。


「先輩…………?」


 ぎこちない動きでラムセスの方を振り返り、彼女は確かめるように言葉を吐き出した。


 ラムセスはフォルテを指差し、念を押すように一言。


「先輩」


 変化は劇的だった。


「ふふーん? そっかー、先輩かー」


 フォルテはみるみるうちに機嫌を直し、二本の足でその場に直立する。


 服についた埃を払い、懐から手鏡を取り出す。


 そして魔術で風を起こし、やや乱れた髪の毛を整え、キメ顔を作った。



「そこまで言うならば仕方がないね! このフォルテシモ・ソフィアリ・マエストロ、良き先人としてラムセス少年の力になろう!」


「ありがとうございます、先輩」


 嬉しそうなフォルテの姿を見ながら、ラムセスはこう思った。


『この人、少し面倒臭いな』



「じゃあ……そろそろ準備は出来ただろうし、バステトちゃんの事迎えに行ってくるね!」


 そう言うとフォルテは踵を返し、返事を待たずに歩き始めた。


 機嫌を直し、鼻歌を歌いながら店の裏側へと戻っていく後ろ姿を見送り、ラムセスは盛大なため息を吐き出す。


 少し頭から離れたいたが、本来の目的はバステトの服を購入する事だ。


 一難去ったが、まだ一難も二難も残っている。


 ラムセスはこれから、着飾ったバステトのドレスを品評し、本命を決める必要がある。


 真面目に向き合わないのはバステトに失礼だと、ラムセスは考えていた。


 ここで手を抜く事は、できない。


 若干の疲れが表れている顔を叩き、気合いを入れ直す。



 そして、彼女が姿を現した。

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