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悪魔の言示録〜悪魔は世界を幻視する〜(2026復刊+)  作者: 悪魔の海賊出版


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3/3

私を悪魔と呼んでおくれよ

私を悪魔と呼んでおくれよ



 いままで書いてきた話は、Twitterでのできごとから始まることが多い。そしてこの話もまた、Twitterで実際にあったことだ。

 ある日、私のもとに届いた一通のDMからこの話は始まる。

「フォローありがとう! 私はあなたともっと仲良くなりたい!」

 そのやたら明るい言葉から始まるDMは、ついさっきフォローされ、すぐにフォローを返したアカウントからのものだった。

「こちらこそ。こんな怪しいアカウントをフォローしてくれてありがとう」

 それは私の正直(しょうじき)な気持ちだ。

 悪魔であるとか、海賊放送であるとか、反抗的(はんこうてき)であるとか、そんなことを看板(かんばん)に掲(かか)げているヤツがまともだとは、この私も一切思いなんてしないわけだ。

 だから心の中では。悪魔ノ海賊放送 (@AKUMA_KAIZOKU)などという、およそまともな人が中にいるとは思えないアカウントをフォローしてくれる人の度胸(どきょう)に、正直驚(しょうじきおどろ)いているというのが本当のところだったりするわけで。

 この場を借りて私をフォローする君に、心より感謝の意をひょうす。

 悪魔の囁(ささや)きに耳をかす君の心は、間違いなく自称全知全能絶対無謬(じしょうぜんちぜんのうぜったむびゅう)の神様よりも広いよ。

 さらに、ノベルアップ+ (※)に掲載(けいさい)されているこの文章を読んでいるのなら、悪魔の海賊出版などというヤヴァイアカウントが投稿するクソ長い文章まで読んでくれているわけだ。

 君は神より心が広いことを、この悪魔が保証する。

 というわけで、そんな心の広いと思われるフォロワーの一人からのDMに、悪魔は正直な気持ちでもって答えを返したわけだ。

 そこからは、まるでJ-POPみたいな軽快なリズムで、私達はすぐに仲良くなっていた。

 仮にその人のことをサリーと呼ぼう。

 仲良くはなったが、サリーは私のことを悪魔と呼ぶのがどうにも強い抵抗感があるようだった。

 サリーは私の現実世界の名前を知りたがった。

「あなたは悪魔なんかじゃないことを私は知っている」

 その言葉は、私にとってはどうもピンとこない。

 現実世界で人から悪魔とかなりの時間呼ばれ続けた私としては、悪魔というのは自分でつけた仮名(かめい)のようなものではなく、現実世界の私が実際に呼ばれていた本当の名前みたいなものだからだ。

 悪魔というのは設定ではないし、ネットの世界で便宜上(べんぎじょう)つけた仮の名前でもない。私にとっては、かなりの数の人々が現実世界の私につけた、本当の名前みたいなものだから。

「私は現実世界で、本当に悪魔と呼ばれていたことがある。だから、あなたにも私を悪魔と呼んでもらいたい」

 私は自分の気持ちをストレートにサリーにメッセージした。

 そのあたりから、サリーとのやりとりの雲行(くもい)きが怪しくなってくる。

「あなたは本当に現実世界で悪魔と呼ばれているの?」

「そうだ。私が悪魔を名乗るのは、設定とかキャラ作りではなくて、本当に人から悪魔と呼ばれていたからだ」

「人から悪魔と呼ばれるなんて、あなたはいったいどんな人間なの?」

 サリーの文面に、じんわりと私に対して抱く恐怖感がにじみだすのが感じられた。

 そのあともやりとりは続いたが、悪魔という名に対するサリーの嫌悪(けんお)はどんどん強くなっていった。

 具体的に私が悪魔と呼ばれるようになった数々の事件を、サリーに明かしたわけではない。

 ただサリーは、私を悪魔と呼ぶことを、なぜか心の底から嫌悪し恐れているようだった。

「お願いだから、あなたの本当の名前を教えてほしい。本当の名前を教えてくれたら、私はあなたを悪魔と呼んでもいいのに」

 サリーからのメッセージは、私には意味不明のものだった。

 本当の名前を知ったところで、私とサリーの間でいったい何が変わるというのか?

 本当の名前を名乗ろうが、人から現実世界で呼ばれる私のお気に入りであり、私が自身の魂につけられた本当の名前だと感じる悪魔という名を名乗ろうが、君との関係には何の変化はないはずだ。

 そのことをサリーに告げ。

「だから、私を悪魔と呼んでくれ」

 と私はサリーにメッセージを送った。

 そのメッセージに対するサリーからの返事は永遠にこなかった。



 親(した)しげに話していた相手からある日急に返事がこなくなることなんてのは、ネットの世界では日常茶飯事(にちじょうさはんじ)だ。

 それでも私は、サリーのことをちょっとだけ思い出して考えることがある。

 なぜ私は自分を悪魔と呼ぶことにこだわるのか?

 なぜサリーは私を悪魔と呼ぶことを嫌悪するのか?

 私の中に思い浮かぶことはいくつかある。

 サリーはどこか遠い海の向こうにいるような雰囲気(ふんいき)の人だった。だからかもしれない。

 この国では八百万(やおろず)の神がいて、悪魔などという存在は真夜中の世界を跋扈(ばっこ)する魑魅魍魎(ちみもうりょう)と百鬼夜行(ひゃっきやぎょう)のたったひとつに過ぎないものだ。

 だけど、サリーの住む国では違うのかもしれない。

 全知全能絶対無謬の神に反旗(はんき)をひるがえす、正真正銘(しょうしんしょうめい)の悪の権化(ごんげ)。それが悪魔。

 だからサリーは、現実世界で悪魔と呼ばれていた私のことを、本当に恐れだしたのかもしれない。

 ネットの向こう側に存在する、全知全能絶対無謬の神に反旗をひるがえし牙をむく悪魔と、現実世界で実際に呼ばれていたヤツ。

 そんな相手とやりとりすることが、サリーは本当に怖くなったのかもしれない。

 悪かったな。サリー。

 私は君を脅(おど)かすつもりなんてこれっぽっちもなかったんだ。

 それでも、私はやっぱり悪魔で。だからサリー、君にも悪魔と私のことを呼んでもらいたかった。

 そしてサリー、私は悪魔だからこそ、君が本当はどんな人なのかも、もちろんわかっているんだよ。

 だからサリー。君も遠慮(えんりょなく)なく、私を悪魔と呼んでおくれよ。



※初回公開はノベルアップ+にて

 現在はノベルアップ+は諸般(しょはん)の事情(じじょう)により公開停止。そのため、ナローにてアーカイヴで再公開となっています。


2026年、おまけの追記

 我ながら微笑(ほほえ)ましいというか、あの頃の私は暇(ひま)だったのだろうか? とか……

 あの頃の私は、ネットに対して寛容(かんよう)だったのかもしれない。

 そんなことを思ったりした。

 もしも今現在、2026年を生きている私に、サリーからDMがきたのなら、私はいったいどんな反応をするだろうか?

 きっと、なんの反応しないだろう。

 2020年、コロナ禍(か)と安倍晋三禍(あべしんぞうか)の最中にあって、世界の最大メジャーであるSNSはいったいどんなことを話しているのだろう?

 そんな疑問からTwitterにやってきた私は、あまりにもネットの世界に初心(うぶ)だった。2026年に私が思うのはこんなことだ。

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