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悪魔の言示録〜悪魔は世界を幻視する〜(2026復刊+)  作者: 悪魔の海賊出版


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柔らかく押し寄せてくる世界

柔らかく押し寄せてくる世界



 とある場所で、とあるできごとについて、私は誰かと会話していた。

「ご協力していただけますか?」

 私に投げかけられたその言葉に私が返したのは

「それはつまり、強制(きょうせい)ということですか?」

 という言葉だった。

「とんでもございません!」

 相手はすぐに私の認識(にんしき)が誤(あやま)りであることを示した。

 私は自分の返答に驚(おどろ)いた。

「ご協力していただけますか?」

 この言葉が私にはその時、本当に

「それはつまり、強制ということなのか?」

 と思えたからだ。

 だから私は

「それはつまり、強制ということですか?」

 と何も特別な感情を抱くこともなく、反射的に返してしまっていた。

 私がいままで交(か)わしてきた会話の中で、このようなやりとりが過去にあっただろうか?

 私は自分の記憶と思い出を振り返った。

 結果はそんな会話を交わしたことはない。

 私はよくものを忘れる。それでも、このような印象的(いんしょうてき)な会話があれば、それは覚えている自信がある。

 だが、過去にそんな会話を交わした記憶も思い出も私にはなかった。

 そして、過去に

「ご協力していただけますか?」

 という言葉を投げかけられたことは無数(むすう)にあるような気はする。

 しかし、その言葉を

「それはつまり強制なのか?」

 と過去に思ったことはない。ということだ。

 私はゾクリとした。

 つまり、私の中では

「ご協力していただけますか?」 

 この言葉がもつ意味合いが、いつの間にか変化していたということだ。

 言葉は変化するものだ。

 だが、

「ご協力していただけますか?」

 という言葉には一切(いっさい)の変化がない。字面(じづら)としてはだ。

 なのに、私の中ではこの言葉が持つ意味が、すでに変化しているのだ。

 それも、私が意識もしないうちに。

 なぜ、

「ご協力していただけますか?」

 という柔(やわ)らかく質問するこの言葉が、私には強制を暗示(あんじ)させる言葉に変わってしまったのだろうか。

 その理由について、私には思い当たることがいくつかあるのだけど、あえて私はひとつもあげない。

 なぜ私がその言葉を、強制と感じ取ったのか?

 あなたがそれにもしも興味(きょうみ)があったり、または暇(ひま)でたまらないのなら、ほんのちょっと考えてみてくれたら私はうれしい。

 そう書くと聞こえがいいけれど、私は某所(ぼうしょ)で悪魔なんて名乗っている奴だ。だからちょっと意地悪をしてみようと思う。

「なぜ私がその言葉を強制と受け取ったのか? ほんのちょっと考えてみることにご協力していただけますか?」

 さて、あなたはこの言葉に、いったい何を感じ取っただろう。




2026年、おまけの追記


 2026年の今現在、「柔らかく押し寄せてくる世界」を書く元になったできごとを、私は一切覚えていない。

 それでも、あの時たしかに感じた、やわらかく押し寄せてくる世界の感触を、私は今でもはっきりと覚えている。

 2021年に柔らかく押し寄せてきた世界は、今や濁流みたいになって人を飲み込み、私までもを飲み込もうとしているように思える。

 それは不可視の怪物であり、不可視であるからこそ誰もその存在を認識せず、次から次に食われていくという最悪の恐怖だ。

 君は感じないだろうか? 2026年の言葉の端々に、あそこに、ここに、柔らかく押し寄せてくるを越えた、不可視の怪物が襲いかかってきている恐怖を。

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