第一印象
アオハル――すなわち、青春とはクソである。
理由?
そんなもの、まさに理に反しているからだ。
例えば、高校生の恋人同士が、そのまま何事もなく付き合い続け、やがて結婚にまで至る確率はどれほどのものだろう。
あるいは、高校球児が甲子園への切符を掴める確率は?
考えるまでもない。
青春とは、不確実なものだ。
どれだけ努力したところで、必ず報われるとは限らない。
どれだけ誰かを想ったところで、その想いが届く保証なんてない。
だからこそ――
青春とは、クソなのだ。
……と、俺は常日頃からそんな捻くれた思想を抱いている。
と言えば、否である。
では、なぜ俺が今こんなことを考えているのか。
それは、今朝まで時間を遡ることになる。
朝。
いつものように教室へ入った俺は、自分の席へ向かった。
そして。
「……なんだ、これ」
俺の席の隣。
本来ならば、そこには何もないはずだった。
なのに、そこには一つの机が置かれていた。
この時点で、俺はすでに嫌な予感を覚えていた。
そして――その予感は、見事なまでに的中する。
ホームルーム。
担任教師が教壇に立ち、その隣には一人の少女が立っていた。
世間一般では、こういう少女を「美少女」と呼ぶのだろう。
長い髪。
整った顔立ち。
人目を惹きつけるほどの容姿。
クラスの男子たちが野蛮な視線を向けてしまうのも、まあ無理はない。
「今日からこのクラスに転校生が来る」
担任がそう告げる。
少女は一歩前に出ると、淡々と口を開いた。
「諏訪之瀬はじめです。よろしくお願いします」
それだけ。
たったそれだけの自己紹介だった。
しかし、休み時間になった途端、彼女の周囲には大量の生徒が群がっていた。
昼休みになっても、それは変わらない。
質問攻め。
自己紹介。
趣味。
前の学校。
好きな食べ物。
まるで芸能人でも転校してきたかのような騒ぎだった。
そんな光景を横目に、俺は弁当を食べる。
そして放課後。
俺は誰よりも早く教室を出ようとした。
こういう騒ぎに巻き込まれるのは御免だ。
さっさと帰ろう。
「待ちなさい」
背後から声がした。
嫌な予感しかしない。
それでも俺は、仕方なく振り返った。
「……誰?」
少女――諏訪之瀬はじめは、露骨に不機嫌そうな顔をした。
「あなた、やはり心が腐っているわね」
「それが初対面の奴に対する発言かよ」
「大丈夫よ。第一印象さえ良ければいいのだから」
「いや、俺にとっては今の発言が第一印象になるんだが……」
こいつ、思った以上に変な奴だ。
俺が呆れていると、諏訪之瀬は当然のように言った。
「なぜかしら」
「何が?」
「あなた――いえ、沢村君は」
彼女は俺の目を真っ直ぐに見つめる。
「クラスで私に話しかけられる、唯一の権利を持っているじゃない」
「…………は?」
意味が分からない。
というか――
その言葉を聞いた瞬間。
俺はようやく理解した。
朝、俺の隣に置かれていた机。
あれは、偶然なんかじゃなかったのだ。
そしてこの日を境に。
俺の、平穏だった高校生活は――
少しずつ、狂い始めた。




