1#Raptor Rise
夜の帳が下りた新宿の街は、昼間の喧騒を忘れ去ったかのように冷え切っていた。ビル風が裏路地の湿った空気を撫で、アスファルトを冷たい感触へと変えていく。
ビルの屋上、錆びついた手すりに身を預け、深く瞳を細めた。夜闇に溶け込む黒髪を乱雑にかき上げ、視線の先を射抜く。
標的は、裏路地の影を縫うように歩く男。その男の背中から滲み出る、人間離れした気配を、五感は逃さない。
音もなく屋上から跳躍した。重力を無視するかのようにビルの壁面を駆け、着地音すら立てずに次の足場へと移る。獲物は、行き止まりの暗がりに追い込まれた。逃げ場を失った男が背中を向けて止まる。
煙草『DEATH』をくゆらせ、その灰が舞い落ちるよりも早く、男の背後に立っていた。
「命乞いをするなら短く頼む」
感情の欠落した無機質な声音。男が驚愕に肩を震わせ、振り返ろうとした瞬間、右手のデザートイーグルを迷いなく突きつけた。
自動拳銃の大口径が冷たく光る。
銃声が轟く。静寂を切り裂くような乾いた音が反響し、火花が暗闇をオレンジ色に染めた。男の左膝から下は、弾丸の衝撃に耐えきれず、肉片となって路地裏の壁に叩きつけられる。
「あ……が、あぁ……っ!」
声にならない絶叫が男の喉から漏れる。ロキは苦悶に身をよじる男を見下ろし、冷徹なまでの静けさで追撃の照準を合わせた。
「次は、もっとマシな神様になれるといいな」
容赦のない引き金の連打。計5発の弾丸が、男の脳天を正確に撃ち抜いた。
崩れ落ちた死体から、まるで命の残滓のように丸い光の粒子がふわりと浮かび上がる。
それを、空気を取り込むかのように自身の胸元へと吸い寄せ、虚無の胃袋へと沈めた。
路地裏に静寂が戻る。指先に挟んだ『DEATH』に目を落とした。まだ半分も残っている。
「せめて、一本はしっかり吸えないと張り合いがない」
つまらない呟きを吐き出し、彼はデザートイーグルをホルスターに収める。
冷たい夜風が通り過ぎる頃には、そこにいた死体で転がっていた男の姿も、タバコの煙を纏った男の気配も、新宿の闇の中へ跡形もなく消えていた。




