ヒュドラ・サタン
サタン・ウイルスは全世界へと拡散していった。
これはエーリュシオンがウイルスに覆われるということであった。
まさに悪夢だった。
セリオンたちは対応を協議した。
セリオンにスルト、アンシャルが聖堂執務室に集まった。
ちなみに、サラゴンとアリオンはサタンとの戦闘で戦闘不能状態へと追いつめられた。
現在は療養中である。
「さて、これからどうする?」
セリオンが質問を投げかけた。
「アンシャル、このウイルスはどういう性質を持っているのだ?」
「ああ、このウイルスは私たちのように気息の修業をした者には感染しにくい。普通の人間には感染すると、高熱を発症し、最悪死に至る」
「サタン・ウイルスはウイルスというより、呪いに近いのかもしれないな」
「呪いか……サタンの呪い……」
「現在、エーリュシオンはサタン・ウイルスによる猛威にさらされている。目下、このウイルスに対するワクチンはない。ワクチンが開発される前に人類が死に絶えるだろうな」
アンシャルが冷静に現状を述べた。
「く……どうすればいいんだ……」
セリオンは絶望的な気持ちになった。
「セリオン、手はある。希望はあるよ」
「スラオシャ!?」
「スラオシャ殿……」
「スラオシャ様?」
そこに現れたのは大天使スラオシャだった。
「いったいどうすればいいんだ?」
「ああ、君が倒したのはサタンじゃない」
「それはどういうことだ?」
「本物のサタンは地上にはいない。月にいる」
「月?」
「月にバビュロン宮があって、そこからサタンは体を操っていたんだ。サタンの本体は月にある」
「だが、月に行く方法はないぞ?」
「安心してくれ。私が君を月に送る」
「俺を月に?」
「そうだよ。これはエーリュシオンの存亡をかけたサタンとの決戦だ。準備はいいかい? 迷っている時間はないよ?」
「わかった。俺が行く」
「若き狼よ」
「セリオン……」
「俺がサタンを倒してすべてを終わらせる。この危機を打開するには、サタンを倒す以外にいはない」
「若き狼よ、おまえに世界の命運は託された。かならず、サタンを倒してくれ。おまえだけが希望だ」
「セリオン、おまえにすべてを託す。ディオドラやエスカローネには私から言っておこう。気をつけてな」
「ああ、俺がすべての決着をつける。スラオシャ、ゲートをつなげてくれ」
「それじゃあ、ここにゲートを作ろう」
スラオシャが手をかざすと、魔法陣が現れた。
「行ってくる」
セリオンはゲートに入った。
セリオンがゲートに入ると、白い宮殿があった。
「ここがバビュロン宮か。サタンの居城……じゃあ、行くか」
セリオンは宮殿の中に入った。
宮殿はただひたすら正面に続いていた。
そこに影が現れた。
影から、現れたのはたくさんのサタンだった。
「サタンが複数? いや、違うな。こいつらは手下だ」
これはクローン・サタンだった。
サタンより能力は劣るが、猛者の集まりであるのも確かだ。
セリオンは神剣サンダルフォンを出した。
「サタンが操っているんだな? 悪趣味だ。まあいい、行くぞ!」
セリオンは蒼気を全力で解放し、サタンの集団に向かって行った。
セリオンがクローン・サタンと戦っていたころ。
バビュロン宮の玉座では主がほおづえをついていた。
悪魔王サタンであった。
「クローンどもはセリオン・シベルスクに倒されるか……まあいい。それはわかりきっていたことだ」
サタンは虚空に浮かぶ青い星を見つめる。
サタンはおもむろに、その星に手のひらを伸ばす。
そしてそれを包み込む。
それはサタン自身が青い星を自分のものにするという意思だった。
セリオン・シベルスクがここに来るまでには時間がかかる。
その間、サタンは過去を回想していた。
サタンはかつて神に仕える将軍だった。
彼は神に忠実に仕えた。
いつからだろうか。
神に反逆することを思い立ったのは。
サタンは神に反逆した。
配下を集めて反乱を起こしたのだ。
だが、サタンは敗れた。
敗れたサタンは魔界に落ちて、再起をはかった。
それから、地上で、暗躍し、神への反逆を再びもくろんでいた。
サタンはセリオン・シベルスクの誕生を知った。
それが転機だった。
神の子が地上に誕生したのだ。
サタンは目の色を変えた。
それはサタンにとって、神への反逆を確実にできることを意味した。
「フッフッフッフ……セリオン・シベルスクよ。早く来るがいい」
サタンは玉座でひたすら待つ。
セリオンは玉座の間にやって来た。
クローン・サタンはビームサーベルを持っていたが、セリオンは殲滅した。
「おまえがサタンか?」
「クックックック、いかにも。私がサタンだ。セリオン・シベルスクよ、ようこそと言っておこうか。よくここまで来た。おまえがここに来たことで、私の計画も完成される」
「計画?」
「フッフッフッフ! そうだ。私は神に反逆する! そして神を越えて、世界で、宇宙で最強の存在になるのだ!」
「わからないな。おまえの目的は何だ?」
「フハハハハハハ! 私の目的は神を越えることだ! そして、この世界全土を私が支配する、新しい楽園を作ることだ!」
「神を越えてどうする!? そもそもそんなことが可能なのか?」
「ハッハッハッハッハ! 可能だよ。おまえの血があればな」
「俺の血?」
「そうだ。おまえの血が私を世界最強の存在へと高める。そのために闘牛団を使い、おまえの血を手に入れようとしたが、それには失敗した。まったく、使えない役立たずどもだったがな」
セリオンは怒りを抱いた。
いくら敵として対峙した相手とはいえ、役立たずと言い切るのがセリオンには許せなかった。
「おまえは俺が倒す。そして、エーリュシオンに拡散したウイルスも沈静化させる」
「ハッハッハッハッハ! できるかね? すべてはセリオン・シベルスクよ、おまえが地上に誕生した時から始まったのだ。そう、それがすべての始まりだった、そうは思わないかね?」
「ふざけたことを」
「ファッハッハッハッハ! もはや時計の針をもとに戻すことはできん! 神の子たるおまえが誕生したのが始まりなのだ! おまえの血を手に入れれば、私は最強の存在へとトランスフォームする!」
「俺の血に何の値打ちがある?」
「フハハハハハハハ! 幸せなことだ、それを知らないとはな! おまえの血には神の子のDNAが刻まれている! それを解析すれば、私はさらなる力を得ることができる! そして神をこの手で打ち殺すのだ! 世界は私に支配される! これが私の野望だよ! フハハハハハハハ! ファーハハハハハハハ!」
セリオンはサタンの野望を聞き、こいつは狂っていると思った。
「赤き祝福の正体は、DNAを分析することで、新しい能力を付け加えたり、能力を改変することだ! 君のDNAは神の領域に手を入れることができるのだよ!」
「なら、おまえに俺の血を渡すわけにはいかない。俺はおまえを何としてでも倒す!」
「ファッハハハハハハハ! やってみるがいい! いでよ、アハシュエロス(Ahaschueros)!」
サタンの手に一振りの黒い大剣が現れた。
「さあ、戦おうではないか! これが究極の決戦だ! 全力で来い!」
「俺はエーリュシオンの希望だ。俺が倒れればエーリュシオンは破滅する。それは絶対に防ぐ! 行くぞ、サタン!」
セリオンは大剣を構えた。
「フハハハハハ、ファーハハハハハ、アーハハハハハハハハ! 多連・闇黒槍!」
サタンが複数の闇の槍を作り出す。
それらは一斉にセリオンを目指した。
セリオンの大剣は光で輝いた。
セリオンが光の刃を飛ばす。
多連・闇黒槍は迎撃された。
セリオンはサタンに斬りかかる。
セリオンは剣撃をサタンに浴びせた。
サタンはそれを軽く受け止める。
「これはどうかね? リング・クーゲル!」
サタンが手からリング状のショットを放った。
セリオンはそれを光の大剣で斬りはらう。
サタンがリング・クーゲルを分散させた。
セリオンはそれらを的確に斬る。
サタンが闇のオーラをまとって突進してきた。
セリオンはそれをジャンプでかわす。
「フハハハハハハハハ! これならどうかね?」
サタンが周囲に自分の顔のウイルスをまとった。
サタンはウイルスを実体化させたのだ。
サタンがセリオンに突進してくる。
だが、セリオンはそれをうまくよける。
サタンは柱に着地し、柱を蹴ってセリオンに執拗な突進攻撃を続ける。
サタンはサタン・ウイルスを弾丸のように発射した。
セリオンは光の大剣でそれを迎撃する。
サタンが消えた。
「!? 消えた?」
「フハハハハハ! ここだよ!」
サタンは浮遊していた。
サタンに闇の魔力が集まる。
「くらえい! フィンスター・ヴェレ!」
サタンが黒い闇の衝撃波を放った。
セリオンは光の大剣を叩きつける。
セリオンの攻撃で、衝撃波は砕けた。
「燃えたぎれ! ヘレン・フォイアー!」
サタンが目から赤いレーザーを照射した。
セリオンの前面にレーザーの跡が残る。
そこから地獄の業火があふれ出た。
セリオンはすみやかに後退してこれを回避する。
「終わりだ! エントレーズング!」
サタンが大剣を振るいながら攻撃してくる。
「くうっ!?」
セリオンは強制的なガードに追い込まれた。
サタンの攻撃は最後に波動がついていた。
セリオンの腕から赤い液体が落ちた。
セリオンの血だ。
サタンの剣にはセリオンの血が付いていた。
「フハハハハハハハ! 神の子の血を手に入れたぞ!」
サタンは狂喜する。
「これで私は神を越える存在になる!」
サタンがセリオンの血をなめた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
サタンの姿が変わる。
セリオンにはサタンが異形の存在へと変化しているようにしか見えなかった。
サタンのトランスフォームだ。
「フハハハハハハハハ! アーハハハハハハハハハ! ファーッハッハッハッハッハッハッハ!! すばらしい! これが神の子のDNAか!」
サタンは巨大化し、巨人のようなボディーに、三つの首がついていた。
首には禿頭の顔が三つあった。
ヒュドラ・サタン(Hydra-Satan)である。
「さあ、終わりだ! これで死ねえ! フェアニヒトゥングス・カノーネ!」
サタンの口が三つ、強烈なエネルギー波を撃ちだした。
「くおおおおおおおおお!?」
セリオンは光の大剣で受け止めようとしたが、セリオンの前でサタンのブレスははじけた。
セリオンは倒れた。
(くっ……)
セリオンはまだ意識があった。
だが、体はまったく言うことを効かない。
もはやこれまでか。
セリオンの意識が闇に沈みそうになる。
「フハハハハハハハ! ファーハッハッハッハッハッハッハ! さあ、喰らってやろう! 神の子を私の体に取り込むのだ!」
これで終わりか……。
セリオンにはもはやどうすることもできない。
最後にせめて、エスカローネに会いたかった。
「いいえ、終わりじゃないわ」
「むうう? エスカローネ・シベルスカか。愚かな! 今の私におまえごときが勝てると思っているのか?」
「確かに私ではあなたにかなわない。でも、セリオンは必ず勝つわ」
「何を言っている? セリオン・シベルスクは倒れた」
「セリオン……」
エスカローネが倒れているセリオンのそばに移動した。
エスカローネはセリオンの頭を膝で支える。
「セリオン、あなたは勝つわ。あなたは救世主。私が愛している救世主だから。私はあなたを愛しているわ」
そうしてエスカローネはセリオンにキスをした。
セリオンは大きく息を吸い込んだ。
セリオンは息を吹き返した。
「さあ、立ち上がって」
「エスカローネ……俺はサタンを倒す。見ていてくれ」
「ええ!」
「フン! 無駄なことだ! きさまはこの私には勝てん! 今度こそ終わりだ! フェアニヒトゥングス・カノーネ!」
サタンが三つの首からビームブレスをはいた。
セリオンから青白い気が現れてそれを拡散させる。
「何イイイイ!?」
セリオンの背中から青白い粒子の翼が出ていた。
これは『天使化』だった。
「斬る!」
セリオンは蒼気の斬撃を放った。
セリオンの斬撃はサタンの首を斬りはらった。
サタンの首は再生しようとする。
さすがにこの程度ではサタンは死なないか。
セリオンは舞い上がった。
セリオンの大剣に蒼気の光が集められる。
「蒼波光突!」
セリオンは蒼気の光の大剣で、サタンの胸を貫いた。
「ぐうああああああああああああああああああああ!? がああああああああああああああああああああ!? だああああああああああああああああああああ!?」
サタンがこの世のものとは思えない叫び声を上げる。
「バ、バカナアアアアアアアアアアアアアアアアアア!? 神の子のDNAだぞ!? それを取り込んだにもかかわらず、なぜ私が敗れる!? ありえない!? いったい何をした!?」
「結局最後は愛が勝つ。そういうことだ。そのまま消えろ、サタン!」
「愛だと!? バカな!? そんなものがこの私を越えるというのか!? なぜだ!?」
「おまえには理解できないだろうな。愛が世界を救うんだ」
「愛……そんなものに……この私が……クククク……」
「何がおかしい?」
「私は不滅だ。私は神の陰。神が存在する限り、私もまた存在する。残念だったな。私は死なんよ」
「なら、何度でもおまえを俺は倒すだけだ」
「しばらくは活動はできんだろうが、私は必ずよみがえる! 新たな力を得て何度でも! クククク、ハハハハハ、ファーッハハハハハハハハハハハ!」
サタンはどす黒い粒子と化して消えていった。
「エスカローネ……」
「セリオン……」
「エスカローネ、俺も君を愛している」
セリオンはエスカローネを抱きしめた。
「今回ほど強く想ったことはない」
「? どうしたの?」
「エスカローネ、俺と結婚してくれ」
「!? ええ、喜んで!」
セリオンとエスカローネはその場でキスをした。
サタンが消えたことで、地上のウイルスも活動を停止しただろう。
セリオンによって、世界は救われた。
聖堂にて。
セリオンとエスカローネは結婚式に臨んでいた。
セリオンは白いタキシードを着ていた。
セリオンのそばにはディオドラがいた。
「とうとうこの日が来たのね」
「そうだな。俺たちが本当の家族になる日だ」
「セリオン、エスカローネちゃんを幸せにしてあげてね」
「わかっている」
「フフフッ、こうしてセリオンの晴れ姿が見られて私はうれしいわ」
「そうか?」
「そうよ。あら? 新婦の入場ね」
輝くような白いドレスをまとったエスカローネがアンシャルに付き添われてやってくる。
「エスカローネ……きれいだ……」
「ありがとう、セリオン……」
セリオンはエスカローネに見入ってしまった。
「そんなに見られると恥ずかしいのだけれど……」
「あ、ああ。すまない」
「ふふふ、エスカローネちゃんもすてきよ」
「では、邪魔者は消えるとしようか」
「エスカローネ、俺は君と結婚できてうれしい」
「私もよ、セリオン。私もこんな日を思い描いていたわ」
「これから、俺といっしょに共に歩んでくれるか?」
「ええ、もちろん」
「さあ、行こうか、みんなが待っている」
「ええ」
この日セリオンとエスカローネは結婚した。
スルト、アンシャル、ディオドラ、サラゴン、アリオン、シエル、ノエルが祝ってくれた。




