サタニスト
そのころ、シュヴェリーンではツヴェーデン軍のサタン派『サタニスト』によるクーデターが起こっていた。
クーデターの首謀者はルキウス・アントニヌス(Lukius Antoninus)将軍だった。
アントニヌス将軍は迅速に官庁街ヴィルヘルム・シュトラーセを占拠した。
ヴァイツゼッカー大統領は事前にクーデターの情報を知っていたようで、どこかに逃げた。
ヴァイツゼッカー大統領は自分に忠実な軍部のもとにいるとも、他国の大使館にいるともささやかれていた。
セリオンたちはこのことをテンペルで知った。
執務室にセリオン、スルト、アンシャル、サラゴン、アリオンが集まる。
五人はこれからのテンペルの対応に関して協議した。
「さて、我々はアルテミドラ以来の危機に直面した。ツヴェーデン軍にはサタンの忠実な配下がいたらしく、彼らがツヴェーデン政府を占領してしまった。今のところ各国は様子見といったところだ。我々は今後の行動について話し合いたいのだ」
スルトが場をリードする。
まずはアンシャルが口を開いた。
「私たちはあくまで正統政府を擁護すべきだ。サタニストとは徹底的に対抗すべきだと思う」
続いてサラゴンが発言する。
「俺も副長と同じ意見です。ただ、ヴァイツゼッカー大統領がどこに潜んでいるか気になりますな」
「大統領は現在行方不明だ。まあ、狐のような方だからな。どこかで息をひそめているのだろう。万が一サタニストにつかまったら、処刑は確実だ」
「俺たちはいったいこれからどうするんだ?」
セリオンが言う。
セリオンからすれば、つまるところどう動くか、それに関心があった。
「逆に問おう。若き狼よ、おまえはどうしたい?」
「敵の本拠地を攻撃するな、俺なら」
「セリオン、それって無茶苦茶危険なんじゃないか?」
アリオンが不安を述べる。
「サタニストは現在、旧王宮に本拠を定めているようだ。若き狼の意見ももっともだ。サタニストの時間を与えれば与えるほど、彼らを強化させる」
「なら、ツバキとハヅキに敵情を探らせてからでいいだろう。俺とサラゴン、アリオンで行けばいい」
セリオンは好戦的な意見を述べた。
セリオンは戦士だ。
そのため、政治的なまどろっこしい手段は苦手だ。
「アントニヌス将軍を倒せば、サタニストは崩壊するだろう。敵の頭を狙えばいい」
「旧王宮に侵入するためには、陽動が必要だな?」
「アンシャル副長の言う通りです。聖導騎士を動員すべきかと」
「ふむ、よくわかった。我々はこれより、ツヴェーデン正統政府支持を表明する。メディアにも公開しよう。これはテンペルとしての方針だ」
「なら、私は聖導騎士を率いて陽動を行おう。セリオンたちはその間にアントニヌス将軍を討て」
「わかった。これで決まりだな」
こうしてセリオンたちの行動が決まった。
テンペルはスルトが記者会見を開いた。
スルトはサタニストの政権を認めず、ツヴェーデン正統政府を支持した。
これはテンペルとサタニストを敵対関係に陥らせた。
サタニストは各国に自分たちの指示を要求していただけに、サタニスト批判が起こるのは避けられないだろう。
「フン! テンペルは正統政府支持、か。忌々しいことよ。たかが、難民政権の分際で我らに逆らうとは」
アントニヌス将軍がはき捨てた。
アントニヌス将軍は今、旧王宮で指揮を執っていた。
アントニヌス将軍は各国がサタニストを支持するよう働きかけてきたが、これはテンペルがサタニスト不支持の流れを作りそうだ。
今まで各国は静観、つまり様子見していたが、これで正統政府よりの国が増えそうだ。
アントニヌス将軍にとっては悪い展開である。
「まあ、いい。テンペルがその気なら、我々はテンペルを地上から消せばいいだけだ。我々に逆らうことがどれほど愚かか思い知らせてくれる! テンペルの成員は皆殺しだ。テンペルには良い見本となってもらおうか」
アントニヌス将軍がほくそ笑む。
アントニヌス将軍にとっては楽しい展開だ。
「アントニヌス将軍よ、テンペルにどう対抗するか、決めたかね?」
「!? ハイル・ザータン! フューラー閣下!」
アントニヌス将軍は突然現れた闇の王フューラーに敬礼した。
アントニヌス将軍はフューラーの意向でツヴェーデン政府にクーデターを起こしたのだ。
アントニヌス将軍の忠誠はフューラーにある。
「はっ! テンペルは土台から消して、男は皆殺し、女は強姦し、子供は奴隷とする方針です」
「ふむ……君がテンペルを破壊することを私は期待しているよ。ヴァイツゼッカー大統領の居場所はわかったかね?」
「いえ、現在調査しているのですが、今だ有力な情報はありません」
「ヴァイツゼッカー大統領は必ず見つけ出すのだ。大統領にはツヴェーデン連邦共和国の代表として死んでもらわねばならん。必ず、見つけ出せ。いかなる手段を使ってもかまわん。私は無能者は嫌いだ」
無能者が嫌い……この発言は万が一アントニヌス将軍がヴァイツゼッカー大統領を発見できなかった場合、無能と診断されるのなら、処分されるということだ。
アントニヌス将軍はこの情報とニュアンスを正確に感じ取った。
任務に失敗することは何が何でも避けなばならない。
アントニヌス将軍も人間である。
いかに軍人といえど、保身と無縁ではない。
というより、フューラーが脅せば脅すほど、部下は保身に走る傾向にあった。
フューラー自身は知っているのか、知らないのか、定かではないが……。
「ご安心を! ヴァイツゼッカーの狐めは必ず、見つけ出します! サタニストの諜報部隊を御信頼ください!」
「うむ、私は君のことを期待しているよ。それにしても、テンペルがどう出るか、それが気がかりだな」
「問題ありません。テンペルには秘密兵器を使用するつもりであります」
「ああ、例の兵器かね? フッフフフフ……それは良いな。おもしろくなりそうだ。セリオン・シベルスクがどう出るか、私はそれが気がかりだよ。よもやセリオン・シベルスクに後れを取るとは思わないが……」
「はっ! セリオン・シベルスクは必ず始末いたします! フューラー様の御心に栄光がありますように! ハイル・ザータン!」
「期待しているよ。ズィーク・ハイル!」
闇の王フューラーの陰謀が渦巻いていた。




