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エピローグ

 穂波のための主人公になる。そう宣言した二日後、俺は自分の無力さに悶えていた。

 かっこいい、穂波の創作意欲を掻き立てるほどの人間になると誓ったはずだったのに、現実はそう甘くない。

 俺の頭の中は歪み、視界は捩れ、体は軋んでいる。伸ばした手は虚空を掴むばかりで、そこから先に進むこともできなかった。

 つまるところ、俺はがっつり風邪をひいていた。

「ゴホッ……貧弱すぎるだろ俺」

 いくら丸二日寝ずに全力疾走してその後二回もお姫様抱っこを敢行したとはいえ、高一の男子高校生がこの程度で風邪をひくのは度し難い……。

 不幸中の幸いは穂波は特になんともなかったことだ。朦朧とした意識でやりとりしたチャットアプリで穂波はピンピンしてると聞いた時、ホッとしたのと同時にちょっと情けなかった。

 なんだか余計なことまで話した気がするけど、あまりよく覚えてない。

 本来昨日は颯斗さんとのトレーニングだったけれど、風邪をひいたことを伝えると安静にするように連絡が来た。あの人めっちゃスパルタな見た目してるのにめっちゃ優しいんだよな……。

 時計を見るともう十六時を回っていて、家の外から下校中の小学生たちが楽しげにはしゃいでいる声が聞こえてくる。

 その時だった。

 ピーンポーン、と家のチャイムが鳴る。桜が帰ってきたのだろうか、あいつ鍵持ってるのにめんどくさがって毎回母さんに開けさせるんだよな。いや時間的には宅急便でも来たか?

 まあどちらにせよ母さんが出るだろう、と俺はグズグズしてる鼻にイライラしながら寝返りを打つ。もうひと眠りしよう。

 けれど五分後、うとうとと眠気がやって来たタイミングでコンコンと部屋のドアが叩かれた。

「なんか用? 母さ……」

 少しイラッとした俺が応答する前に自室の扉が開け放たれる。

 そこにいたのはニヤニヤと気色悪い笑みを浮かべた母さんともう一人。

「こんにちは、悠希くん」

 ポカリスエットが覗くビニール袋を手から下げた穂波だった。

「え?」

「悠希くんは私の両親には会ってるのに、私は悠希くんの両親には会わせてもらってないの、不公平だとは思わない?」

 そう言って微笑む穂波の顔は、いたずらを成功させた少女のように得意げだった。

 俺は全てを諦めて頭を枕に沈める。どうせもうすぐ桜も帰ってくるだろうし、質問攻めは不可避だ。

「……煮るなり焼くな

り好きにしてくれ」

「うん。好きにするね」

 穂波は悪びれもせず、俺の部屋に入ってきた。何か変な物置いてないよな、俺。

「じゃ、ごゆっくり」

 穂波を案内した母さんはなにかを言うこともなく、俺と穂波を残してドアを閉める。

 けれど閉じる扉から覗いた母さんの視線には、明らかにこの後根掘り葉掘り聞かせてもらうという意志が込められていた。

 仕方がない、家族に紹介するしかないか。

 誰にでも優しくて、本が好きで、胸の内に激情を抱えていて、俺にだけ少しわがままな、とびっきり可愛い俺の彼女を。


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