第9話 塔に集う影たち
リアーナが姿を消してから、一ヶ月。
王国の秩序は、音もなく崩れ始めていた。
魔導士たちの中に「魔の声」を聞く者が現れ、辺境では“魔の力に目覚めた者”による反乱が起きた。
王家はこれを「魔王リアーナによる呪詛の影響」として厳戒令を発した。
だが、その動きすら――すでに遅かった。
王都から遥か東。枯れた谷に、突如として漆黒の塔が出現した。
誰が建てたのか、どうやって建てたのか、何も分からない。
ただ一つ確かなのは、そこにリアーナがいるということ。
そして、塔は呼んでいた。
「お前は自由か」と。
最初にやってきたのは、一人の少年だった。
辺境の村で“魔の力”を暴走させ、家族を失ったという。
「俺は、誰にも必要とされていない。……でも、あの人だけは違った」
少年は塔に入り、リアーナと向き合った。
彼の中にあった怒りと孤独は、リアーナの魔力と共鳴し、
やがて彼は第二の魔王候補――〈破壊の徒〉フィン=クラルとなる。
その後も、続々と人が訪れる。
信仰を裏切られた元神官。
王族に捨てられた娘。
裏切られた騎士。
声を奪われた吟遊詩人。
彼らはそれぞれの絶望を胸に、塔の扉を叩く。
そして問われる。
「お前は、何を捨てて、何を選ぶ?」
魔王リアーナは、選ばない。
ただ、“選びたい者に場所を与える”。
それが彼女の役目だった。
塔の頂で、黒い魔力が咲いていく。
かつて“聖女”と呼ばれた女は、
今、“自由を与える者”として、世界に第二、第三の魔王を生み出し始めていた。
やがて、四人の魔王が揃ったとき――
王政と貴族制は、静かに終焉を迎えることになる。
そして誰もが気づくのだ。
リアーナが、最初に飛び込んだ“あの夜”こそが、
この世界の新しい夜明けだったのだと。