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お母さん、私、恋したよ!  作者: 藤堂慎人
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病状変化 16

 それから1週間後、私の体重はさらに減っていた。見た目は骨と皮、といった状態だ。自分で上半身を起こすこともできず、母や看護師に手伝ってもらうという状況だ。

 そして、姿勢を保つのも辛いので、一定の時間が過ぎればまた横になる。でも、坂本が見舞いに来てくれた時には上半身を起こして話をしている。そんな時、坂本は優しく起こしてくれる。母も優しく起こしてくれるが、私としては坂本から起こされる方が嬉しい。そこには自分の気持ちも関係しているのだ。

 ただ、全身の筋力は低下しているものの、以前感じていた不快感は軽減している。私は知らなかったが、これまでの治療を止め、緩和ケアに移行しているから当然のことだった。

 このことについては私はプラスに捉えていて、両親や坂本との話の中でその様子を伝えている。

「どう? 体調は」

「うん、ここ1週間くらい、以前のような不快感は少なくなっているの。やっと治療の効果が出てきているのかな。だとすると、嬉しい。でも、すっかり体力が無くなって、自分で上半身を起こすことも厳しいの。手伝ってもらってやっと、という感じなの」

「そうか。でも、身体の不快感が減少しているなら気持ちが楽になるだろうし、その勢いで退院まで持っていこうね」

 坂本は口ではそう言っても先日、母から私の病状については聞いている。だからこれは坂本ができる精一杯の善意の言葉なのだ。坂本自身、こういう言葉を発すること自体、心の中で葛藤がある。しかし、この場ではそんな言葉しか出てこない。

 だから表情に曇りがあり、それを私に気付かれないようにと必死に繕う。母はそばで聞いていて心が痛む思いだ。何せ、周り全員で私を騙しているようなことになるので話そのものを重く感じているのだ。

 しかし、暗い表情になってはいけない。さくらの前では努めて明るく振舞わなくてはならない、ということを誰もが理解している。ここは役者に徹し、心で涙を流しながら顔は明るく、と意識しているが、それでは辛い。

 この日はやたら何か理由を付けて病室を出ていくことが多くなっている。トイレとか何か買ってくるという言い訳でだ。

 だが本当は涙をこらえきれず、外で泣いているのだ。病室に戻った時、みんな目が赤くなっている。少し腫れぼったくなっている。

 その様子は私にも分かる。自分の体調は自分が一番分かっている。多分、もう長くないことを感じている。そんな私をみんな気遣って元気をくれようとしている。それが分かるからこそ私も心で泣いている。

 でも、私はベッドから降りることができない。みんながいるから涙を流せない。それが辛い。私が悲しそうにすれば、多分一斉に同じ状況になる。両親や坂本のことを考えると、気丈に振舞い、悲しませないことが私の務めと理解している。

 部屋の空気が少しでも重くならないよう、笑顔で話しをいろいろ違う方に持っていく。

「ミーちゃん、元気?」

 私は母に聞いた。こういう時、動物の話をすることで気が紛れる。ミーちゃんをダシに使っているようで申し訳ないが、私も気になっている。だから、この話は本心でもある。

「元気でやんちゃしているわよ。早くお母さんが帰ってこないと、寂しそうな感じもする」

「そう、だったら私も頑張る。だって私が面倒みるってみんなに宣言したんだし、一緒に遊びたい。可愛くなっただろうな。・・・ねえ、お母さん。一つお願いがあるんだけど」

「何?」

「ミーちゃんの動画、スマホで撮って送ってもらえないかな。私も自撮りしてミーちゃんにメッセージ送る」

「分かった。ミーちゃん、喜ぶわよ。自分のこと忘れていないって」

「でも、覚えているかな。随分会っていないし、私、見た目が随分変わったでしょう。びっくりして逃げたりしないかな」

「大丈夫よ。さくらちゃんはミーちゃんを家族に迎えたお母さんでしょう。きっとミーちゃんも会いたがっていると思うわ。早速帰ったら撮って送るわね」

 ミーちゃんの話をしたら部屋の空気が変わり、みんなの表情の陰も取れた。

 私もそのことで安心し、ちょっと横になると言った。その言葉で全員病室を後にした。

 夕食の時に目が覚め、日記を書いた。

≪日記≫

『最近、体調がすごく悪い。みんなの前では強がったりするけど、もう長くないかもしれない。体調の話をする時の両親や敦君の表情を見るのが辛い。

 私のことをすごく気遣い、涙をこらえていること、知っているよ。

 みんなのこと、悲しませたくない。本当に元気になりたい。

 元気になって敦君と約束したこと、本当にやってみたい。

 多分、敦君への思いが私の最初で最後の恋。

 良い思い出のまま逝きたい。

 そんな私の思い、日記に書くしかできない。

 でも、本当はそんな私の気持ち、思いっ切りぶつけたい。誰かにしっかり受け止めてもらいたい。

 叶わないことだけど、敦君にそんなこと言ったら迷惑だよね。お父さん、お母さんだって私のことで随分苦しんでいることは分かっている。

 私、生まれてきて周りの人に何ができたんだろう。苦しめるだけで終わるかもしれないなんて悔しい。

 だけど、こんな気持ち、誰にぶつければいいのかな?』


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