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お母さん、私、恋したよ!  作者: 藤堂慎人
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病状変化 15

 母が坂本と一緒に病室を出たのは昨日、主治医から聞いた話を伝えるためだ。

「敦君、ちょっとだけ時間ある? 大切な話があるんだけど・・・」

 真剣な表情で言った。坂本はその様子によほど重大なことで病室では話せないこととすぐに悟った。

「分かりました」

 坂本はそう答え、待合室の椅子に座った。

「・・・」

 母は自分から話があると言っておきながら、なかなか言い出せないでいた。

 その様子から話の内容を感じ取った様子の坂本。良くないことを想像していた。しかし、このまま黙っていたら変だし、埒が明かない。そう思った時、母が口を開いた。

「・・・昨日、主治医の先生からお話があったの・・・」

「えっ、もしかすると・・・」

 坂本も勘が鋭い。母が言い淀んでいると話の内容を察したのだ。

「具体的な余命を聞かれたのですか?」

「進行の速さや転移の状態から時間の問題と言われたの。2週間程度かもしれないということだった。さっき主人が来ていたでしょう。昨日一緒に先生から話を聞いて、これから毎日顔を出すって言ってたわ。今、私たちができることってそれくらいしかない。まだその覚悟ができているわけじゃないけど、さくらにこれ以上重荷を背負わせたくない。もしかすると、教えて欲しかったって恨まれるかもしれないけど、逝く時、できるだけ穏やかでいて欲しいの。私たちのわがままかもしれないけど、敦君、お願い。今まで通りにさくらに接してもらえないかな?」

 坂本はさくらの命のろうそくが消えようとしている話を聞き、言葉が出なかった。頭の中ではいろいろなことが錯綜していて、考えがまとまらず、言葉が出てこないのだ。

「・・・お母さん、高校に入学して以来、ずっとさくらさんのことを見ていました。病気になったから同情して言っているわけではなく、本心なんですが、僕はさくらさんから優しさや強さを教わりました。そこから好きだという思いに変わっていきました。そのことはすでにご承知だと思いますが、人として尊敬しています。僕が毎日お見舞いに来ているのも、話していること自体、自分にとってとても充実した時間になっているんです。だから元気になってからも変わらないお付き合いをしてほしいと思っていました。僕はまだ高校生ですから責任のある発言はできませんが、このままいけば結婚もあり得たと思います。それがここで絶たれるというのは僕にも辛いことです。でも何もできない。それも辛いです」

 坂本はそう言いながら目には大粒の涙をためていた。母はそんな敦にハンカチをそっと差し出した。

 しばらく、沈黙の時間が過ぎた。

「・・・分かりました、お母さん。僕にできることはいつも通りさくらさんとお話をし、少しでも楽しいと思える時間を共有することですね。僕もこれから帰って自分でもゆっくり考えます。明日から、またいつも通りお邪魔させていただきます。そして少しでもさくらさんの不安や辛さを解消できるように努力します」

「ありがとう。先生も治療というより心身の苦痛を少しでも和らげるよう、緩和ケアに方針を切り替えるとおっしゃっていた。敦君には負担をかけるけど、今はあなただけがさくらの心の拠り所だろうからよろしくお願いします」

「僕にできることなんか限られていますが、余命を宣告されてから生還したケースがあるということを父から聞いています。奇跡を信じます。そのためにも今まで通りさくらさんと接します。明日から少しでも早く来て、ギリギリまでここにいても良いですか?」

「ありがとうございます。でも、無理はしないで。あなたにはあなたの時間や人生がある。一時の感情で大切な時間を浪費しないようにしてね」

「お母さん、僕にとってさくらさんとの時間こそが一番有意義なんです」

 坂本は母の目を見てしっかり答えた。

 母は坂本を見送った後、売店によって買い物をし、また病室に戻った。

「お母さん、遅かったね。敦君と何か話していたの?」

 私はいつもと少し様子が違う両親の様子に、細かなことまで気にした。母は私と坂本が楽しそうに話していたことについて尋ねていたと言ってたが、少し歯切れの悪さを感じていた。その様子を見ていた父がすかさずフォローに入った。

「そうそう昨日、病院から帰った時、2人でさくらが退院した後、敦君を呼んで退院祝いをやろう、という話をしたんだ。これだけお世話になっているんだから、みんなでお祝いしようとなったんだ」

 一生懸命作り笑いとも見える表情で話す父の気持ちを考え、私はその話に対して喜んだ表情をした。

 その後、とりとめのない話が続き、両親は帰宅した。病室にはさくら1人が残された。

≪日記≫

『お父さんとお母さん、今日の様子、変だった。あれは何か隠している。少なくとも私にはそう見えた。

 私に隠し事となると病気のこと以外にない。

 もうダメなのかな。みんながいる時には元気を振り絞り、心配させないようにしているけど、その後がとても疲れる。

 薬が効いている実感がない。咳も出るし、全身の倦怠感が強い。腹部の痛みも強く感じる時がある。

 癌ということは知っている。いよいよ私、みんなとサヨナラしないといけないのかな。

 嫌だよ。大好きなお父さん、お母さん、敦君、それとミーちゃん、中学の時の親友翔子と別れるなんて辛すぎる。

 私1人だよ。誰もいないんだよ。

 もし私がいなくなった時、みんな、私のことを思い出しくれるかな。それとも忘れてしまうのかな。

 今、病室に1人でいる寂しさ、分かってもらえないよね』


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