病状変化 13
両親は家に戻った。その表情は暗く、私の残された命のことで頭が一杯なのだ。2人はリビングのソファに座り、母は冷蔵庫からビールを持ってきた。
本来なら帰宅後には夕食の支度をし、夕餉を取ることになるが、両親とも食欲がわかないのだ。
「・・・さくら、可愛そう。まだ高校1年生なのに、何にも楽しいこと知らないのに、このままいなくなってしまうなんて・・・。私、代われるものなら代わってあげたい・・・」
「・・・それは俺も同じだ。男親は娘に対する意識が強いという。交際相手を連れてきた時に怖い顔になるという父親もいるというからな。でも、今、その娘の命に期限が切られたわけだ。誰もいつかはこの世を去る。それなりの時間をこの世で過ごしたならあきらめもつくかもしれない。しかし、お前が言ったように、さくらはまだ16歳だぞ。親より先に逝ってしまうなんて、一番親不孝なことだ」
父はそう言うと、頭を力なく落とした。
そこにミーちゃんがやってきた。2人の足元で鳴きながらまとわりついてくる。その様子は両親の心情を推し量っているかのような感じだ。
父と母はそのミーちゃんを優しく撫でている。
「ミーちゃん、さくらが拾ってきたのよね。今は家族になったけど、さくらがいなくなったら寂しがるわね」
「・・・そうだな。そう言えば、さくら、病院でミーちゃんのこと、気にしていたよな」
「うん。私が見舞いに行った時も、ミーちゃんのこと、自分のこと以上に気にしていた。私、だから早く病気を治して退院してねって言ってたけど、今、そういう話がとても空しくなるわ。今日の先生の話でそれは叶わないって分かったから」
父はただ頷くだけだった。
「さくらね、病院で明るくなる時があるのよ。一つはミーちゃんの話をする時だけど、もう一つは敦君が見舞いに来た時。あの瞬間はさくらの青春そのものって感じがする」
「そうか、俺も敦君は素晴らしい子だと思っている。さっき、娘の交際相手の話をしたけど、敦君だったら反対する理由が見つからない。本当に良い子がさくらのために一生賢明にやってくれていることに、親として感謝しきれない思いだ。今日、先生の話を伺う時、敦君はいなかっただろう。となると、近い内に敦君にも話さないといけないが、辛いな」
「・・・」
母は何も言わないで、父の隣に座った。そしてスマホを取り出し、昔撮った私の画像を画面に表示した。
そこには私がウェルナー症候群を発症する前の普通の女の子だった時のものもある。
「さくら、可愛いな。もちろん今も可愛いけれど、この頃は大きくなって結婚し、俺たちの孫ができて、なんて普通の未来を夢見ていた。改めて今、普通ということがどれだけ大事なことなのかを考えさせられる。もう、この時代が戻らないなんて信じられない。これは悪い夢で、目が覚めたらこの時のように普通の生活を送っているということにならないか、真剣に考えるよ」
「私も・・・。スマホ、病院に持っていくでしょう。病室から離れた時、こっそり写真を見ているけど、現実をなかなか受け入れられない自分がいるの。でも今日、先生から命の期限を切られたようで、張りつめていた糸がぷっつり切れた感じがする。明日病院に行った時、どういう顔をしてさくらと会えばいいの?」
「お前は毎日さくらのところに行っているからな。辛いだろう。俺も明日から毎日顔を出すが、勘の鋭い娘だ。何か感じるかもしれないな。良い言い訳を考えなければいけない」
「そうね、私たちができることは今、必要以上にさくらに心の負担をかけないことぐらいだから、その点はお願いね」
2人はその後、さくらとの思い出を語り合ったが、結局夕食を摂ることもなく、そのまま休むことになった。




