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お母さん、私、恋したよ!  作者: 藤堂慎人
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病状変化 12

 両親は診察室を出た後、待合室のロビーのソファに座っていた。すぐにさくらの病室に行けなかったのだ。

「さくらにどういう顔で会えば良いんだ」

 父が言った。

「・・・」

 母はその言葉に何も言えない。

「俺たちはさくらにしてやれることはない。さっき先生には緩和ケアをお願いしたが、それはさくらの死を認めたことと同じだ。もうさくらと話すこともできなくなるんだ。親として辛い。これからどういう顔でさくらと会えば良いんだ」

「・・・私も同じ気持ち。毎日さくらの世話で病院に来ていたけれど、1日1日命が削られていく様子を見るだけなんて、辛すぎる。私がお腹を痛めて産んだ子よ。その命が消えていこうとする様子を見ていなくてはならないの? それも親の務め? 子どもが親より先に亡くなるなんて、こんな不条理は無いわ。神様がいるとするなら、私はそれを恨む。私たちやさくらが何をしたというの?」

「・・・」

 またしばらく沈黙が続いた。

「・・・ここでこうやっていても埒が明かない。お前、病室にはさくらと坂本君を残しているんだろう。戻らないと2人が心配する。俺も一緒に行くからせめて笑顔でさくらのところに行こう。余命の話は口が裂けても言えない。たとえさくらに恨まれたとしても、このことだけは甘んじて受け止めよう。先生には緩和ケアをお願いしたから、今の苦しみから少しは解放されるかもしれない。せめてそれを期待しよう。俺もこれから毎日見舞いに来る。変に思われるかもしれないが、何か理由を付けるよ。せめてそういうことくらいはさくらのためにしてあげたい。独りよがりかもしれないがな」

「分かった。ちょっとお手洗いに行ってくるね。変な顔になっていないか確認する。あの子、勘が鋭いから変な顔になっていると気付くかもしれないしね」

「俺も行ってくる。さっき涙が出たから、その跡が残っているかもしれない。顔を洗ってくるよ。ここで待ち合わせよう」

「分かった」

 そういって両親はお手洗いに行った。

 数分後、待合室に戻り、互いの顔を確認し、病室に向かった。

 母と一緒に父がいたことに私は少し驚いた。この日、見舞いに来ると聞いていなかったからだ。

「お父さんもお見舞いに来てくれたんだ。聞いていなかったからちょっと驚いた。でも嬉しい」

 私は精一杯の笑顔で迎えた。

「ありがとう。坂本君も毎日忙しいのに時間を割いてくれて・・・。それからさくら、この近くに取引先の会社があると以前に話しただろう。ちょっと続けてそこに来ないといけなくなったんで、明日から俺も毎日顔を出せると思う。これまでたまにしか来れなかったけれど、これからしばらくは毎日さくらの顔を見れそうだ」

「そうか、嬉しいな。じゃあ、明日から毎日このメンバーが揃うんだ。私も頑張らないと」

 さくらの話に母が少し涙ぐんだ。それを悟られないようにと顔を横に向け、飲み物を買ってくると言い、病室を出た。私はその様子に少し違和感を覚えたが、そのまま何も言わず、坂本や父と話を続けた。

「お父さん、敦君ね、この前の中間テストで全科目、成績が上がったって。すごいね」

「そうだな。優秀なんだね。志望校の医学部、大丈夫そうだね。何だか自分の息子の成績が上がったようで嬉しいよ」

 私は父が坂本のことを息子と呼んだところに反応した。

「お父さん、坂本君はお父さんの子供じゃないよ。でも・・・」

「『でも』、何だい?」

「えっ、何でもない。なんか恥ずかしい」

 そういう会話が笑いを誘い、部屋の空気が明るくなった。そこに母が戻ってきた。

「あら、さっきより楽しそうね。何か良いことでもあった?」

「俺が坂本君のことを息子と言ったら、さくらが反応したんだ」

「・・・そうか、私、分かる」

「お母さん、それ以上言わないで。私恥ずかしい」

 その会話に父と坂本はついていけなかった。どうやら、女性同士で成り立つ会話らしい。

 他愛のない話が続き、父と坂本は病室を後にした。母はいつものようにもう少し残り、私の世話をした。その様子はいつもより丁寧な感じがしたが、その意味を知ることはなかった。


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