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お母さん、私、恋したよ!  作者: 藤堂慎人
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病状変化 4

 個室に移って数日経った。病状は変わらない。というより食欲はさらに落ち、体力の低下が気になるようになっている。

 この期間内に2度目の吐血があった。量は多い。その分、心配が大きくなった。先生や看護師さんたちが慌ただしく病室に出入りすることが増えている。こうなると、個室に移ったことで他の人たちに迷惑をかけずに済んでいることがありがたい。

 2度目の吐血後、母は主治医に呼ばれた。おそらく、私の病状のことでの話だったはずだ。何が話されたのか気になる。でも、それを聞くのが怖い。一気に自分の心が壊れてしまいそうだからだ。

 私は時々人の目にどう映っているかを考えているようなことを言っている。両親や坂本だけでなく、大部屋の同室の人たちのことまでも口にするが、そういうことを言って強い自分を作っておかなければ、体力の前に気力が落ちてしまい、希望が見えないということで自ら命を絶つかもしれない、という気持ちが心の片隅にあるのだ。

 最初の頃はそこまで落ち込んでいなかった。本当に周りのことを考えて言っていた時期もあった。

 でも、最近の様子を考えると、そんな良い子でばかりいられない。私だって弱い人間だ。弱った時は誰かに縋りたい。弱音を思いっ切り吐き出したい。そういうところを見せたくないという気持ちが思いとどまらせているが、坂本が来た時だけはその時できる最高の笑顔でいるつもりだ。

 この日も学校帰りに見舞いに来てくれた。

「こんにちは。さくらさん、体調はどう?」

 この前から坂本は私を苗字ではなく、名前で呼んでくれている。その感覚が新鮮で、互いの距離が縮まっている感じだ。

 可能な限りの笑顔にしているつもりだが、ウェルナー症候群による老けた顔に加えて、痩せた身体が見た目の弱りを示している。

「大丈夫よ。先生たちが一生懸命、私のためにいろいろやってくれているの。その期待に応えなくちゃ」

 また強がりを言ってしまうが、半分は本当の気持ちだ。坂本が約束通り足しげく見舞いに来てくれている気持ちに応えたいし、本当に病気を治し、夢で見たように2人で行きたいところがある。学校にも戻りたいし、そのためにはここできちんと踏ん張って、盛り返さなければならない。いつも坂本が見舞いに来てくれるたびに私は心に誓っている。

「そう。言葉に力があるね。それじゃ大丈夫だ」

 坂本が答える。だが、私の様子を考えると、それが希望であることは分かる。少しでも良い方向に行くためにはきちんと食べ、栄養を付けることが大切だ。だからここ2・3日は出された食事を残さないようにしている。食べたくなくても、無理して胃に流し込んでいる感じだ。

 それでも良い、元気になれるのであれば、という意識が私にそうさせるのだが、すぐに効果として現れるわけではない。これまで落ちた体力を取り戻したいが、薬の副作用もあるし、食事も治療と考え、前向きに物事を捉えようと思っている。

「ところで、昨日の授業のノート。どうしても1日遅れになるけど、見ておいてもらったら学校に戻れた時に役立つと思う」

「ありがとう。・・・でも私、戻れるかな?」

 珍しく弱音を吐いた。私らしくない。でも、心を許せると思ったからこそ、少しだけ本音を言った。

「戻れるよ。当たり前だろう。さくらさんはいつも一生懸命だし、先生たちだってそうだ。治らないわけないよ」

 坂本は力強く言った。その目は私の方をしっかり見ており、目力もあった。

 私はその坂本の言葉が嬉しく、顔を見詰めたまま、静かに頷いた。

≪日記≫

『坂本君、私の弱音を叱ってくれた。とても嬉しい。

 ちゃんと食べて、先生の言付けをしっかり守り、1日も早く退院したい。

 最近は私を名前で呼んでくれる坂本君。一緒に歩ける日を待っている。

 その時は坂本君が恥ずかしくないように、少しお化粧しよう。お母さんにメイクの仕方を教えてもらうんだ。

 そう考えると、元気になって退院することが楽しみになる。

 確かに苦しい日が続いているが、気持ちは健康体だ』


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