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お母さん、私、恋したよ!  作者: 藤堂慎人
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治療開始 9

 話は少し遡る。

 昨日、病院から母に電話があり、主治医から話があるということだった。いつもの時間の前に診察室に来るようにということだった。CT画像はすぐに診ることができるので、その結果についてお話があるということだった。この時点ではまだ何も分からないけれど、もし何か見つかったらすぐに対応することが必要になるから、事前に話したいということだったのだ。

 指定された時間、母は診察室にいた。

「先生、さくらの容態、どうなんですか」

「今朝、CTを撮りました。病巣に良い意味で変化があるのではと期待していたのですが、今の薬では押さえられていないようです。さくらさん、ウェルナー症候群の関係で年齢以上に見えますが、本来は16歳です。若いです。若い人の癌の進行は早いケースが多いのですが、この部分だけは年齢相応かもしれません。また、副作用のことを考えて作用が弱い薬を使ったのですが、それでは押さえられなかったことも考えられます。幸いなことに他の部位への転移は認められませんでした。もし切らないという形で治療を望まれるのであれば、放射線療法も併用したいと思うのですが・・・」

「その場合、副作用はどうなりますか」

「人によって異なりますが、例えば皮膚炎があります。また、肺そのものへのダメージが現れる場合もあり、その時は咳や息切れなどがあります。このようなことはやってみなければ分かりませんが、今さくらさんが悩んでいらっしゃる咳などはさらにひどく出ることもあるかもしれません」

「そんな、病気を治すためのことが逆に苦しめることになるなんて・・・。私には承知できません」

「それは私も同じです。でも、多少の犠牲はあっても乗り越えなければ、ということがあるのも現実です。私たち医療関係者はいつもこういうところの葛藤と戦っています。病気に打ち勝ち、元気な顔で退院されることになれば、という思いでいるのです。しかし、私たちは当事者ではありません。あくまでも第三者的な立場でこれまでの知見に基づき治癒を試みます。もちろん、良い結果を求めてですが、正直に申しますと結果を出せないこともあります。すると、あの患者さんの苦しみは何だったのか、という思いで苛まれます。治療する限りは病気に勝つつもりで臨みますので、ご主人ともよくご相談ください」

「主人も私もさくらではありません。苦しい思いをするのはさくらです。ウェルナー症候群ということは事前にネットで何となく理解していたようで、表面的には黙って治療を受けているように見えます。でも、私も女ですから分かります。本当は一番輝いている時期を一気に年を取ってしまい、青春を楽しめない、その上で癌だってことを知ったら、いくら強い娘に見えても耐えきれないと思います」

「私もそのことを病気のことを除けば一番心配していました。だから精神的な負担をできるだけかけない方法をと考えていたのですが、亡くなってしまえば全てが無です。だから、さくらさんが再び強い気持ちで癌に立ち向かってもらったらと思うのですが・・・」

 主治医の言葉に母はしばらく黙っていた。どう返事したら良いのか分からなかったのだ。

「先生、この話、主人と相談したいのですが、よろしいですか?」

「もちろんです。でも、遅くなればなるほど治療が厄介になります。焦らせるつもりはありませんが、2・3日内にまたお越しいただけませんか?」

「・・・分かりました」

 母は力なく返事して、診察室を後にした。


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