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お母さん、私、恋したよ!  作者: 藤堂慎人
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治療開始 1

 次の日から告げられた治療が始まった。実際は癌に対するものだが、私はウェルナー症候群の治療と思っていた。よく分からない病気だし、実際の治療となると、スマホで確認できないようなこともあるだろうということで、全てお任せという感じで治療初日を迎えた。

 具体的な治療だが、主治医の考えと両親の希望の話から外科的な方法でなく、投薬の方法が取られることになっている。副作用のことが心配されるが、組み合わせを工夫し、またこれまでの知見を最大限に活用し、負担が少ないように工夫することになっている。

 投薬の場合、告げられた病名に対する治療法としても違和感はない。私に心理的な負担を極力かけないようにしての決定だったが、癌の場合、まずは外科的処置というパターンが多い分、医者としても総合的に考え抜いた決定だった。

 私はそういうことまでは考えが及ばなかった。そして治療初日は何の問題もなかった。そのため、特別な思いはなかったが、それにもう一つ理由があった。

 実はこの日、坂本が見舞いに来てくれることになっていたのだ。治療は午前中に行なわれ、見舞いは午後だったので、私の気持ちはそれが待ち遠しかった。

 そして坂本は、約束の時間にやってきた。

「坂本君、わざわざありがとう」

「高野さん、元気そうだね。良かった。退院の日、決まった?」

「・・・それがね、分からないの」

 私は少し顔を曇らせて言った。

「なぜ?」

「うん、昨日、先生から私の正式な病名を聞いたの。それでその治療を始めるってことなの。様子を見ながらとなるので、はっきり言えないってこと」

「・・・そうか、じゃあ、2学期には間に合わないかもしれないわけか」

「うん、そういうこと。また学校に戻り、みんなと一緒に勉強したかったけど、ちょっと遠のいたかもしれない」

「・・・分かった。それじゃあ高野さん、もしそうなったらなるべくここに顔を出して学校でのことを話す。授業のことも少し遅れ気味になると思うけれど、ノートをコピーして届けるよ。学校に戻った時、後れを感じないようにする。高野さんは頭良いから、そうすることで後れを感じることはないと思う。ノート、分かりやすくとらないといけないな」

「えっ、坂本君、悪いよ。負担かけちゃう。私、参考書を活用して自分で勉強する」

「気にするな。そういう意識でノートをとることは自分の勉強にもなる。高野さんにはその意味、分かるんじゃないのかな」

 坂本はいつもと同じ爽やかな笑顔で言った。

 その心遣いに私の涙腺が緩んだ。

「どうした。ここは泣き顔になるところじゃないだろう」

「・・・ありがとう。私のために坂本君の時間を奪う感じがすることに申し訳ないのと、その気持ちが嬉しいの。ごめんなさい」

 そういう私を坂本は黙ったままじっと見ていた。その目は優しく微笑んでいて、私にはとても安心できた。

≪日記≫

『坂本君が見舞いに来てくれた。昨日、先生から聞いたことを話した。

 心配してくれる様子が伝わった。そして、もし退院が2学期まで間に合わなかったら、ノートのコピーを持ってきてくれるという。この心遣い、何よりも強い支えだ。

 私にできることは治療に頑張り、早く元気になることだ。

 そして早く学校に戻り、高校生活をエンジョイするぞ。

 もしかすると私、坂本君に本当に恋したかな?

 ただ、恋愛は相手があって成立する。片思いかもしれない。

 でも、そんな負の感情は吹き飛ばそう。きちんと見えること、認識できることを信じ、元気になるぞ』


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