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お母さん、私、恋したよ!  作者: 藤堂慎人
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両親の恋バナ 4

 次の日、いつものように母が病室を訪れた。

「さくら、今日の午後、お父さんがまたお見舞いに来ることになった。仕事の関係でまたこの近くのお客様のところに用があるんだって。だからそれが終わってからになるけど、って言っていた」

「そうか、じゃあ、今日はお父さんからも恋バナを聞くぞ。もちろん、お母さんからもね。今までよりも鋭い質問になるかもね。覚悟してね」

「怖いわね、お手柔らかに」

 そういう話に病室は明るい雰囲気になった。

「おっ、また良い話を聞けそうね」

 同室の患者さんが言った。考えてみれば両親の恋の話、病室でしているから全員が聞いている。これまでは遠慮して黙っていたが、明るい話は聞いていても気持ちが良い。入院しているとどうしても心が沈みがちだ。だから、母の恋バナは同室の人の心も明るくする。誰しも経験がある恋の話は、自分のことと重ね合わせるとよりリアリティがある。もっとも、苦い経験がある人もいるだろうが、こういう時にそれを言うのは野暮だ。病室で一番若い女の子が初恋のようなことを話しているところに水を差すようなことはしない。大人の対応なのだ。

 本格的な恋バナは午後、父がやってきてからと思っている私は、それまでは他愛のない話題で時間をつないだ。

「ところで、さくら。あれから夢の中に坂本君、出てきたの?」

「私に聞いてきたか。お父さんとの恋バナの前に1本取っておこうということなのかな? でも、今日は坂本君も午後来るんだよね。だからかな、夢、見なかった。ちょっと寂しいけど、やっぱり現実のほうが良いよね」

「そうだよ、さくらちゃん。その気持ちがあったから、夢の中の坂本君、遠慮したんじゃない?」

 また、同室の別の患者さんから声を掛けられた。

「うふ、そうですね」

 私は笑顔でその言葉に応えた。

 昼食の時間になった。その時間、母も外に食事に出かけた。坂本が見舞いに来るのは前回と同じくらいというから3時ごろのはずだ。父は2時ごろの予定なので、坂本が見舞いに来たタイミングでまた主治医と話せればと思い、ナースステーションのほうにそのくらいの時間で相談の枠が取れるか確認した。大丈夫ということだったので、その流れで予定した。

 午後2時ごろ、父がやってきた。

「さくら、どうだ、気分は?」

 父の言葉に私は満面の笑みで答えた。

「絶好調よ」

「おっ、良いね。元気なさくらを見ていると俺も元気になるよ」

「さくらね、今日はお父さんにも恋バナ、聞きたいって言っていた。そしてこの後、坂本君がまたきてくれるっていうから、二重に嬉しいんじゃない?」

 母が私と父の話の中に入ってきた。

「えっ、そうなのか。俺、心の準備、できていないぞ」

「いいの、いいの。お母さんとお父さんの馴れ初めは聞いているから、今日はお父さんの気持ちを聞きたい」

「照れるな。そんなこと、なかなか男は話さないもんだよ」

「だから聞きたいの。女性の気持ちは女同士ということでお母さんの話で分かるけど、私、人を好きになるってこと、経験が無いから、勉強しておきたいのよ」

「参ったな。お前、今日こんな話になるって知っていたのか?」

 質問が母のほうに向けられた。

「知っていたわ。私も興味があるし、逃げられない状況にしておいたの」

 母はいたずらっぽい目で返事した。こういうところは母娘であっても女同士、気脈が通じているなという感じだった。

「それで最初にお母さんと会った時だけど、友達の紹介だったんでしょう?」

「そうだね。俺の友達の彼女と知り合いだったらしいんだ。俺がその時、付き合っている人がいないって友達に話したら、紹介するよって言ってくれたんだ。その時は何の予備知識もない。たまたま時間があったから会うことにしたんだ」

「じゃあ、ヒマつぶし的な感じであったの?」

「まあ、そんなところかな」

「ひどい、そんなことで会ったの?」

 反応したのは意外にも母のほうだった。

「もっとも、私のほうも事前の情報が何にもなかったので、とりあえずってところで会ったんだけどね」

「何だ、同じようなものじゃないか」

 明るい恋バナのつもりが何か雰囲気が悪くなってきた。だが、こういうところは最初の頃にはよくあることと互いに知っている。そういう大人の駆け引きを知らない私は、自分の聞き方が悪かったのかな、と心配顔になった。

「さくらちゃん、初めて同士の人が出会う時はそんなものなの。今みたいな掛け合いになるのは、話にスパイスをかけるようなものなのよ。心配するようなことじゃないのよ」

 母が言った。それに追随する様に同室の人も言った。

「そうだよ。私の若い頃も旦那に同じようなことを言って話を盛り上げた。さくらちゃん、男っていうのは照れ屋さんなんだ。心では違うことを思っていても、なかなかストレートに言わない。そういうことを少しずつ経験していくよ。よくあることなんで、心配いらないよ」

 側面から両親をサポートしてくれた。

 そんなことを話しているところに、坂本がやってきた。

「坂本君、また来てくれてありがとう。じゃあ、さくら、私たちはこれで帰るわね。また明日来るから」

 両親はそう言うと病室を出ていった。


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