再度の検査入院 7
一旦病室に戻った母は、また私の身の回りのことをしたり、話をしたりした。5時くらいなら主治医と話ができるということを聞いていたので、この日はいつもより早めに病室を出た。
「ちょっと早いけど、私、今日は帰るわね。また明日、いつもの時間に来るから」
母はいつものような感じで病室を出て、そのまま主治医が待つ診察室のほうに行った。
「高野さん、お待ちしていました。さくらさんのことですね。まだ検査結果の全てが出たわけではありませんが、これまで分かっていることだけから考えると、残念ですがあまり思わしくありません」
その話を聞いて母の心は愕然となった。
「でもお母さん、今すぐこうなるということではありません。結果次第で治療に移ることを考えていました。今回、検査だけで退院ということにはなりません」
「・・・そんな。さくらは早く退院して2学期からの学校を楽しみにしているんです。せっかくこの前クラスのお友達が見舞いに来てくれ、それで力をもらったんです。早く退院してまた勉強したい、青春時代を楽しみたいと・・・」
そう言うと言葉を詰まらせた。
「お母さん、お話とお気持ち、分かります。私も人の親です。同じ立場になったら、医者ということを忘れ、同じ気持ちになるかもしれません。お母さんの場合、同じ女性ということもお考えに加味されていると思いますが、さくらさんに少しでも楽しい高校生活を経験していただくためにも、ここは少しお時間をいただけませんか?」
「・・・では、このまま入院を続け、治療をすれば治って退院できるんですか?」
母は語気を強くして医者の目をしっかり見た上で明確に尋ねた。
その勢いに押されたのか、医者は口ごもりながら返事した。
「・・・申し訳ありませんが、私たちは神様ではありません。冷たく聞こえるかもしれませんが、何とも言えないところがあり、データとこれまでの統計からお話しすることしかできません。良いほうに流れることもあり、そういうことに望みを託し、できることをするしかありません。申し訳ありませんが・・・」
申し訳なさそうに話す医者に母は言った。
「すみません。つい感情が高ぶってしまいました。さくらの場合、肺ガンということだけじゃなく、そのベースにウェルナー症候群という病気ありますからね。私には病気のことは分かりませんが、複数の病気が重なっている場合、余計に見通しが立てにくいだろうということは素人にも分かります。失礼なことを言って申し訳ありませんでした」
「構いません。親の気持ちというのはそういうことだと理解しているつもりですから・・・。ですからやれることは精一杯やらせていただきますので、ご両親もさくらさんのために協力して下さい」
「もちろんです。今日の話、帰ってから主人にも伝えます。・・・先生、私も娘の特殊な状況を理解した上で主人と一緒に支えていこうと思います。また感情的になって失礼なことを申し上げるかもしれませんが、その時はお許しください」
「・・・お母さん。良いんですよ。今はさくらさんの回復のため、頑張りましょう」
「はい、よろしくお願いいたします」
そう言って深々と頭を下げた。
≪日記≫
『昨日見た夢の話、お母さんにも話した。
夢の中では私は健康で自由だ。
今日もまた夢を見ることができるかな。また坂本君と楽しい時間を作れるかな。
夢の中だけど、良い思い出ができたらいいな。
これが私の初恋になるのかな。
私の気持ちがもっとはっきりして、照れくさくなくなったらお母さんにきちんと言おう。
お母さん、私も恋をしたよって。
私も普通の女の子みたいに恋を経験したよって。
夢の中のことだもの。私の思う通りの世界にしたい。
私の夢さん、よろしくね』




