後日談1
遅くなって申し訳ありません!
「ねぇソフィ、オセロしよ?」
☆☆☆
私、ソフィア・ノーマンは公爵令嬢でありエアリス王国の王太子、レオンハルト・エアリスの婚約者だ。
「いきなりどうしたんです?殿下。」
「勝った方が負けた方になんでもひとつ命令できるとかどう?」
「お断りします。」
「もちろん婚約破棄だって命令できるよ。」
...婚約破棄?婚約破棄って言った?
これだわ。これしかもう方法がない。外堀を固められた今、私には手段が残されていない。何がなんでも婚約破棄しなければ。そのためにも手段を選んでいられない。
「...いいでしょう、約束は守ってくださいね。」
「もちろん。」
オセロは得意だ。というより、私が負けるなんてことはありえない。しかし、学園では殿下に成績で負けたこともあり油断できない。この王太子、性格こそひん曲がってるが優秀であることは確かだ。もしこいつのペースに飲まれれば負けることは確実だろう。集中しなければ。
「先手と後手どっちがいい?ハンデとして選ばせてあげるよ。」
ハンデとは、余裕ですね殿下。後悔しても知りませんから。
「では、後手で。」
オセロでは後手の方が有利と聞いたことがある。私の座右の銘は【終わりよければすべてよし】。これで華麗に勝って婚約破棄してみせます!
☆☆☆
「そう言えば、あの男爵令嬢はけっきょくどうなったのですか?」
「あれ、聞いてない?毒を飲んで自殺したよ。」
「自殺したんですか?」
自殺とは、あの馬鹿なら最後まで無罪を主張すると思ったが。
「まあ、彼女の罪も確定してたし、死ぬのが少し早くなったぐらいだね。」
「悪いことをしたのは彼女の親ではないのですか?」
「確かに悪いのは彼女の両親。ただ、彼女も知ってて協力してたんだ。」
「協力、と言いますと?」
「彼女が関係を持ってたとされる男は全員で5人。しかも彼女のお腹には父親がわからない子さえいた。彼女、卒業パーティの時に豪華なドレスを着ていただろう、あれも男のうちの一人がプレゼントしたものだ。彼女は、王室の財産を管理する職に就いていた男を籠絡し、横領の証拠を消したんだ。」
なんだ、バッチリ関わってるじゃないか。
「しかし、所詮は馬鹿。自分に監視がついていることも知らずに自らたくさんの証拠を出してくれたよ。面白いくらいにね。たとえソフィがよく出来てても、どれだけ計画を念入りに練っても、彼女の行動は想定できるものでは無いと思うよ。」
「彼女の馬鹿さは想定外でした。というより、殿下が愛して止まないと言うのでもっとよく出来た方だと思っていました。それに、私の悪い噂の流れが異常に早かったので彼女も周囲に認められていると思っていました。」
「まあ噂を流したのは僕だから、早いのもしょうがないよね。」
オセロを裏返す私の手が止まった。
まさか、あの時の噂は全て...?
「...全て殿下が流したのですか?」
「いじめているとか、僕が男爵令嬢にご執心ってのは全て僕が流したよ。男爵令嬢も調子に乗って行動が大きくなるし、ソフィも上手くいってると思ってもっと派手になるし。一石二鳥だよね。」
(_`Д´)_クッソォォォォォ!!
心の中で私は絶叫した。つまり最初から私はこいつの手のひらで転がされていたのか、悔しい。
「悔しそうな顔もいいね。」
「黙ってください。」
またイライラしてきた。ステイクール。落ち着け私。焦ったら負ける。冷静になるんだソフィア。
「話を戻していいかな?」
「是非戻してください。」
「それで、彼女と男爵夫妻は横領なんてしてるから当然極刑なんだけど。3人とも自殺したんだ。」
「一家心中ですか?」
「不思議だよね、ちょっと前まで無罪を主張していたのに、自殺しちゃうなんて。」
「なにか思惑でもあるのでしょうか。」
「さあ?馬鹿の思考は読めるものじゃないからね。」
「それもそうですね。」
話しているあいだにもオセロは続く。
「何命令しようかなぁ。」
「油断してると負けますよ。」
「僕は負けないから。」
これは大した自信だ。しかし、負けるわけにはいかない。
「こればかりは私もまけられません。」
「そんなに婚約破棄したいの?」
「え?それはまあ。」
「歯切れが悪いね。ていうか、なんでそんなに婚約破棄したいの?」
何故だろう、前より言葉が出てこない。
「恋愛結婚をしたかったのです。誰かと本気で恋をしたかった、と、思います。」
「ふぅん。ならソフィが僕のことを好きになればいいのに。」
「はい!?」
「そうすれば恋愛結婚は成立するよね?」
「そうですが...!そうではありません。」
「まあいいけどさ、別に。」
殿下はムスッとしたかと思えばニヤニヤしだした、気持ち悪...もはや引くレベルで怖い。
すると、殿下はカツンとオセロをひっくり返す。
「ほら、最後だよ。」
結果は綺麗な引き分けだった。
「引き分けですか...。」
「今日は引き分けで許してあげる。でも安心して?次は負かしてあげるからさ。」
「言い訳ですか?」
「まさか。」
殿下は立ち上がった。何をする気だ。
「方針を変えようと思ってね。だからこれも仕方の無いことなの。」
「どういう意味ですか...?」
「あれ、何あれ?」
ドアの方を見て殿下はそうつぶやく。気になって私も後ろを見たが何も無い。
「なんです...っ!?」
なんですかと言おうとして振り向いた。
振り向くんじゃなかった。唇に柔らかいものを感じたため咄嗟に目を瞑った。
キスした、こいつ。
キスを
キスをっ!?
目を開けると、机に身を乗り出している殿下が見えた。
「そんなに恋愛したいなら、僕が叶えてあげるよ。」
「はい...?」
「せっかく捕まえたから、逃がさないようにしなきゃね。」
思考が回らない。
「大丈夫、絶対に落としてみせるから。待っててね?」
私はこれから、生きていけるでしょうか。
☆☆☆
○月✕日
俺は、オルダン男爵令嬢のミカ・オルダンの専属執事、アランだ。実は俺、王太子の命令でこの家に入り込んだスパイのようなものだ。目的はこの家の調査であるが、ミカは王太子が自分を守るために送られたと勘違いしている。
はっきり言おう、この令嬢、馬鹿だ。
騙しやすいがめんどくさい、相手にしてるだけで疲れるしイラつく。しかもこいつ、自分が小説の主人公だと思い込んでいて、見ていて痛々しい。
「私はヒロインなのよ!わかる!?没落寸前の男爵令嬢と優しくてカッコイイイケメン王子との身分差恋愛、そう!これこそ!恋愛小説の真髄だわ!」
横領なんてする両親なら子供もまともなわけねーよな、納得したわ。
□月△日
今日もこいつの妄想は止まらない。
「レオンハルト殿下、今日は私の顔を合計で1分18秒も見ていたわ。きっと私に惚れてるのね、あの邪魔な女は1分と見られていなかったもの。ふふふ、卒業パーティが楽しみだわぁ。」
気持ち悪い、王太子殿下がソフィア嬢のことを語っている時より気持ち悪い。愛は人を狂わせるとは真だった。
●月◆日
今日は邸に誰もいないのをいいことにこいつは男を連れきていた。相手はなんと、王宮の財産の管理者の1人、ビルソン伯爵ではないか。男癖悪そうな感じはしていたが、王太子殿下を落とそうとしているやつが堂々と不貞とは、本当にヒロインというものになるつもりがあるのだろうか。
☆月▽日
今日は前とは違う男を連れてきていた。この女と同じぐらいの年だ。今どきの学生というのは既にそういう関係を築けるものなのかと感心してしまった。しかし、ビルソン伯爵なら政治的に納得はできるが、この男、しかも子供にどんな理由があってこんなことをしてるのか皆目見当もつかない。
いや、納得するな俺、そもそもこんなことは理解不能だと分かっているはずだ。
とうとう考え方が馬鹿に汚染されてるような気がした今日この頃。
♡月★日
今日の男はビルソン伯爵なんかよりずっと歳を食った男だった。こいつ、守備範囲広すぎないか?ジジイも行けるとか、娼婦とかお似合いだと思うぞ。このおじさん、どっかで見たことあると思ったら宰相だった。おい宰相しっかりしろ、お前の目の前にいるのは甘い皮を被った気持ち悪い妄想尻軽女だぞ!そいつは誰にだって股を開くぞ!目を覚ませ!
ダメだこの国、早くなんとかしないと。
◆月◎日
今日もこいつの妄想は果てしない。
「最近は学園中のみんなが私を見ているわ、きっとみんな、私とレオン殿下が結婚したら羨ましがる。私と結婚できる王太子殿下をね。ふふふ、楽しみだわぁ!」
気持ち悪い気持ち悪い、昼飯がカムバックするところだった。戻って昼ごはん、早く消化されてくれ。
「ちょっと何よその気持ち悪い顔...あぁ、あなたも私に惚れたの?」
は?ナニイッテンノコイツ?
「ごめんなさいねぇ、使用人には興味ないの。そもそもレオン殿下の指示であなたをここに置いてあげてるの、理解しなさいよね。」
........(怒)
「使用人風情は、私の言うことを聞いて大人しくしていればいいのよ、犬みたいにね。うふふふふ。」
...いつか絶対殺す。
△月☆日
今日の男は近衛兵士、しかも2人だった。見たことあるなーと思ったらこいつら、王城の門番だ。まさかそこまで篭絡されてるとは思わなかった。というより、2人連れ込むってどんな神経だよおかしいだろふざけるなよ死ねよ。はぁ、早くこの仕事終わらないかなー...。
◎月▽日
明日は卒業パーティらしい。そのせいでこいつはいつもより妄想を爆発させている。
「明日はやっと邪魔だったあの女を消せるわ!そしてレオン殿下と結ばれるのよ!あはははは!これまでの努力がやっと実るわ!」
男5人と関係を持つことのどこが努力なんだよ。
「殿下は私に惚れてるみたいだし、ほかの生徒もみーんな私のみ・か・た♡ふふふ。」
おえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!
オロロロロロロロロロロロロロロロロ!
良かった、扉の前で聞いててよかった、トイレに駆け込めてよかった。カムバックした昼飯はトイレ様が全て受け止め流してくれました。ありがとうトイレ。そして素早く扉の前にもどる。
「あの女の罪を明かして、数多くの生徒の前で、殿下との誓いのキス...♡はぁ、考えただけでゾクゾクしちゃう♡」
お前、そろそろ現実みた方がいいぞ。
●月☆日
卒業パーティ当日、俺は王太子の側近としてパーティに参加した。俺は殿下よりも年上だから卒業しているが殿下の命令なので仕方が無い。
「アラン、ソフィアが入ってきたらこれを読め。」
殿下から渡された紙には大きく婚約破棄の文字が書いてあった。
「婚約破棄、するのですか?」
「まさか、これはただの遊びだよ。」
「遊び...?」
「せっかくソフィアが僕のために整えた舞台なんだから、壊してあげないとね。」
やべぇ、殿下は殿下でどうかしている。
ソフィア嬢、健闘を祈る。イカれた令嬢とイカれた王太子を相手にするのは大変だと思うが、頑張れ。
✕月◎日
俺はあの男爵令嬢から解放された。やっとだ。この執事という業務がいかに大変か、知れたような気がした。しかし、俺の仕事は終わらない。
「アラン、あの男爵令嬢、どうした...」
「死刑でいいと思います。」
多少食い気味で答えてやった。
「本当は公衆の面前で打首とかしようと思ったんだけどね。」
え、怖。
「うん、やっぱやめた。アラン、命令だ。この薬を奴らに渡してこい。」
「これはなんです?」
「毒」
は?
「申し訳ございません、もう一度」
「毒だよ。」
「まさか俺に飲ませてこいと?」
「僕は自分の手を汚さない主義なんだよ。」
うわぁ、えげつない。というか部下に自分の代わりに殺してこいって酷くない?ブラック過ぎない?過剰労働じゃない?
「よろしくね、アラン。僕は今からソフィと遊んでくるから。」
「あ、ちょっと」
「あぁ、ソフィの泣いた顔を見たいなぁ。」
この国、あれが王になって大丈夫だろうか。
ソフィア様、頑張れ。俺はもうどうしようも出来ない。
○月✕日
この国は、今日もどこかがおかしい。しかし、それでもしっかり回っているらしい。
fin
なんと毒を盛ったのは王太子でした。怖いね!
アランは知らないですが、ソフィアの感覚も相当ズレています。そして本編には名前を1回しか出せなかったミカさん。
連載としましたが、ソフィアの兄フレディ視点、ミカ視点もあげる予定です。