まじかるココナッツすうぃーと5−2
試作が終わりリストを回収し各意見をまとめていく。
採点の確認をスタッフに任せルーリは最後の結果発表を取りまとめることにした。
リストに出された意見は大変参考になり貴重な情報源だ。
この中に全てが詰まっていると言ってもいい。
八百屋のお兄ちゃんの鋭い意見などは特に最上と言っていいほど価値がある。
その各個人から出された意見を取りまとめ大まかなグループ分けを行なっていく。
そしてほぼ全てをまとめ直してから参加者一同に声をかけた。
「今日は参加いただきありがとうございます。スタッフのみなさん今日は本当にありがとうございます。さてそれでは結果発表です、えーとまずはサラダから、、、」
最後の結果発表、その前にシスターのアルス姉から声が上がった。
彼女は姉のレールナ、その親友のソフィアたちと幼馴染であり教会でシスターとして日々働いている。
ウェーブの掛かったブロンドの髪に青い瞳と白い肌。柔らかく上品で当たり障りのない性格と言動からこの街では『聖女』と呼ばれている。
そんな彼女が不思議そうな顔をしながら声をあげた。
「ちょっと待ってルーリちゃん、ブルーベルくんって今日お休み?彼の料理って一品も食べてないような、、、」
「!?」
「そーいえばあいつ今日見かけてないよな、昨日は遅くまで手伝ってもらったのまずかったか、、、」
「もうピルファナお姉ちゃん、蒼葉お兄ちゃんはそんなやわじゃないよ。いつも通りだったじゃん」
「いやあの野郎怖気付きやがったか、、、縄張り荒らしも大したことねぇなぁ逃げやがったにちげぇねぇ」
「もうお兄ちゃんはまたそんな事言って、、、ピピルくんの言う通りだよ蒼葉お兄ちゃんはそんなことしないもん」
!?
、、、そうだ!?それだ。
ルーリの心に何か引っかかって取れなかったもの。
事あるごとに変な感じで衝突する部下Aであり生意気な従業員であり異国料理とスィーツの大切な下僕の彼を見かけいないのだ。
ルーリが忘れていた部下のことを思いだそうとしていると姉のレールナが声をかけてきた。
「あら蒼葉くんなら試作中止しますって本人から聞いたわよ」
「え?お姉ちゃんどういうこと?」
「急用あるから今回はなしでお願いしますって言ってたかしら、、、」
「ほんと!?」
「あーあルーリちゃんあんなことするから結局振られちゃった」
「せっかくみんな楽しみにしてたのに蒼葉くんの異国料理。ルーリちゃん飴と鞭の使い方が、、、男の扱い方がまだまだなんだから」
ミナとリナの残念そうな発言にゲストたちが注目した。
各自が唖然とした目で二人を見つめている。
それに気づいたレールナは余計なこと(お給金のこと)を省いて簡単に説明する。
「みんな楽しみにしてたかもだけどごめんなさいね。実はこういうことで、、、、」
蒼葉くんなら間違いなく残された道を選んでくれると思っていた。
そうなるように最後に誘導したのだから。
完全に堕としたと思っていたのに。
「いったいどうして、、、」
「臨時収入があったからって蒼葉くん言ってたわよ」
「臨時収入?」
「あーあれか、、、うちのバイト代マシマシで持ってきたんだよ。蒼葉のおかげでだいぶ儲かったからね。確かこれで全ての準備が整うぞーってさっき外で叫んでたな」
思い出したようにピルファナは口にした。
ピルファナ姉のバイト?全ての準備?
ルーリは思い出した。
彼が週末や休日前、もしくは多忙な時など限定でBar黒猫に手伝いに行っていたことを。
それも数ヶ月前からずーっと続けていたことを。
詳しくは知らないが蒼葉くんがお店に入るととても売上がいいらしいということを。
ルーリも一度くらいは顔を出したかったのだが邪魔になるからと姉に外出禁止令をだされていたのだ。
おかげでなぜ売上が上がったのか理由は知らない。
やっぱりやりすぎたのかもしれない。
改めて思い出してもせっかくの異国料理が一つもなかった。
一口も味わえないなど残念すぎる。
その場でがっくりと落ち込むルーリにさらなる追い打ちが掛けられる。
それは幼馴染からの一言だった。
「あーすまんルーリ。忘れてた、、、そーいえば蒼葉兄から伝言預かってるけど」
「ピーター?」
「そのまま伝えるぜ、、、『ルーリさん総合優勝はいただくから、総なめにしてやる。それから地面に這いつくばらせてやる』だってさ。なんか凄い黒い顔してたぜ」
「あちゃー下克上かよ、、、これはこれで面白い」
「もぉピルファナお姉ちゃんダメだよ」
「ごめんごめんピピル」
やっぱり。
はぁー詰めを詰めを誤った、、、
まずい、まずすぎる。
このままでは連続総合優勝が私の計画が、、、
いやその前にまずは目の前の猛獣たちにどう謝るべきか。
楽しみにしていたであろうその猛獣たちの目は鋭く、、、そして怖い。
「さて何をしでかしたのルーリ?」
「詳しく話を聞こうかなルーリ?」
じわじわと前から近づいてくるペッパー、ソルト。
周囲に怒りの魔力が漏れ出している。
「ブーベル先輩の料理が食べれないってルーリは何を隠してる?」
右からリーリがするりと動けば、、、
「先輩のスィーツとっても楽しみだったのに怒らないからシェリに教えなよルーリ」
左からシェリがじわりと迫ってくる。
4人とも付き合いが長い。
ルーリが何か隠していることなどバレバレだった。
もはやこれまでか。
ルーリは風のように振り向き入口から逃げ出そうとして唖然とした。
そこには4人のちびっ子たちが仁王立ちしていた。
全員が手を広げて通せんぼをしているのだ。
「ルーリお姉ちゃんの考えていることはお見通しです」
ローロ!?
「だめだもん、ルーリおねえちゃん」
ココ?
「「めっ!!」」
トミ、アミ!?
「もうルーリちゃん諦めが肝心ですよぉ」
ケモミちゃん!?
「ルーリちゃん正直に打ち明けなさい。神は全てを許してくれますよ」
アルス姉!?
くっ、、、かくなる上は、、、
ルーリは冷や汗を浮かべながら鍵付き戸棚の一番上から一皿のスィーツを取り出した。
昨日蒼葉くんに作ってもらった残りの半ホールのチーズケーキである。
山ふもとの村の酪農家さんから採れたてのミルクを頂いたので試作をしていたのだ。
とっても貴重な牛さんのミルクらしい。
それで1日寝かせたらどのくらい味が変わるのか調べるために蒼葉くんが厳重に保管していた。
、、、というよりルーリが一人でこっそり味わおうと気づかないふりしていたのだが。
「こ、これで何とぞご容赦を、、、」
「「うむかしこまった」」
「「「「わー」」」」
笑顔が戻るペッパーとソルトと子供達。
「「ルーリその奥のは?」」
リーリ、シェリ!?バレていたか。
残り最後の1皿を取り出した。
そのミルクで蒼葉くんに作ってもらったチーズタルトの残り2分の1を頭を下げて差し出す。
「殿下申し訳ございませぬ」
「「うむ大儀である」」
これで誤魔化せたか。
食べ物の恨みは、、、本当に恐ろしい。
あ、やばい。まずいトミアミそこに近づいちゃ、、、
「くんくんローちゃここ」
「アミなんです?」
「くんくんココちゃココちゃ」
「トミ?あーこれみるくきゃらめるのやつのにおいだー」
戸棚の下の隠し棚の方に顔を近づけた二人が、、、まずい。
トミ、アミ!?
隠してたミルクキャラメルのケーキが、、、バレた。
「「「「ルーリ!!」」」」
「お!?こっちも何かあるぞ」
ピーター余計な!?
それ私の秘蔵のミルククレープ!?
「ご、ご、ごごめんなさい。これ全部先日の試作の残りだから、、、その今日の夕飯にみんなで食べようと、、、」
白々しく言葉を並べるのだが、、、
「「「「それで?」」」」(一同激オコ)
誤魔化せないようだ。
「姫、、、お食べくださいませ」
「「「「うむ、苦しゅうない」」」」
ルーリが蒼葉にやったことは明るみになり秘密にしていたスィーツは全て綺麗さっぱりと参加者のお腹の中に消えてしまった。
結局、ルーリの思惑も何もかも全て頓挫したのだった。
そして夕方ごろに慌てて帰宅した蒼葉は床に手を付き愕然とした。
その際、テーブルの上で突っ伏してる次女と目が合うとなんとなく理解した。
戸棚は全て開けられ皿は元の場所に片付けられていた。
試作会に出す予定のない残りの試作品も全て消えていた。
今日の夜のおやつに隠していたスイーツからお菓子にいたるもの試作会に出すつもりがないもの全て。
彼の秘密の品や秘蔵の品も含めて、、、
綺麗さっぱりと。
蒼葉:そんなバカな、、、( T _ T )
ルーリ:( ゜Д ゜)「、、、。」(放心状態)
●登場人物
レールナ:亜麻猫亭の長女。凄腕の料理人であり亜麻猫亭のオーナーでありとびきりの美人さん。本人も料理も街の人たちに大人気。
ルーリ:亜麻猫亭の経営を預かるできる次女。
ミナさん:亜麻猫亭スタッフの一人。綺麗なママさん。
リナさん:亜麻猫亭スタッフの一人。可愛らしいママさん。
涼宮蒼葉:亜麻猫亭の新入り調理スタッフ。異国料理とスウィーツ作りが得意でありルーリ直属の部下。
ココ:亜麻猫亭スタッフの新入りの一人。亜麻猫亭末っ子のローロの親友であり摘み食い仲間の女の子。
ローロ:亜麻猫亭末っ子。ココとは大親友であり摘み食い仲間。最近蒼葉くんに懐きまくり。
トミミ:小さな猫耳の男の子。トミ、トミミと呼ばれたり。可愛らしいお耳としっぽの持ち主。
アミミ:小さな犬耳の女の子。アミ、アミミと呼ばれたり。可愛らしいお耳としっぽの持ち主。
ケモモモ:獣人族の神官でありトミミ、アミミの保護者。素敵な尻尾と可愛らしいお耳の持ち主。




